~熱風の果て~

観劇の記録

闘争・オブ・ザ・リング(カラスカ)@上野ストアハウス

【演出・脚本】江戸川崇

【出演】佐藤弘樹、小日向茜、久高将史、水野奈月、大仲マリ、南衣舞、今井玲男、大森宏太郎、ぴんきゅ、さいとうよしえ、星村優、前田真弥、堀友美、西山駿太、大橋タクヤ、天音、わたなべみつお
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同じく江戸川崇さんが手がけた「バック島」以来となる上野ストアハウス。そのときと同じく、今回もチケット発売と同時に申し込んだので、チビ椅子最前での観劇。目の前で熱演が繰り広げられる光景を見られるかわりに、姿勢はなかなか辛く、2日経ってもまだ背中が痛い・・・
茶番全開という予告どおり、全編とにかく笑いを取りに行く構成。確実に笑いは取れるとはいえ、さすがに身体や顔をびったんべったん叩きすぎという気はしたが、それも本気。ケンタの胸に鮮やかに浮かぶ、季節外れの綺麗な手形モミジの紅葉が眩しい。真剣な茶番の中には、ラブリーロバーが銃を取り出すたびに流れる謎の音楽に合わせたダンスや、騎馬戦からのアクションシーン、忠太の無駄なボディーランゲージに石松の転び芸、シンプソンの猛獣感あふれる動き、天草の決め顔などなど、稽古でしっかりと積み重ねてきた工夫や芸の数々もあって、見応えがあった。西山さん演じた忠太は今回かなりお気に入りのキャラクターだ。
主演の佐藤弘樹さんと、ヒロイン役の小日向さん。最初に二人が並んだ時には約40センチ差という身長差に驚かされる。真紅のケープを纏った小日向さんは、久しぶりに魔法少女に戻ったかのようなビジュアル。ヒロインということで、茶番のただ中にはそれほど入り込まない役だったが、精一杯のお色気シーンやふくれっ面でのケンカのシーンなど、いろいろな表情を見ることができた。同じくらいの身長の大仲さん演じるめだかさんと張り合う姿が可愛らしい。次にカラスカの舞台に出る機会があれば、目いっぱいコメディに挑戦する姿も見てみたい。大仲マリさんとは言わないまでも、ぴんきゅさんが演じたゴブリンくらいまでなら事務所的にもOKでは?
小日向さん演じる若葉のライバル役として登場した水野奈月。力が入り過ぎていて少しコミカルな恋のライバル・・・といえば思い出すのが、水野さんが演じていた「アルキミコ」の小松姫。今回の美玲は、狂気を迸らせながら、手段を選ばずに恋に向かって走るという、さらに強烈な役だったが、華麗な謎ステップで自己紹介を決めたり、持ち前の表情の豊かさを生かして、存分に暴れまわっていた。
天音さんは、今回も安定のツインテールで、猫の「チビ」役。さすがあまにゃんと呼ばれるだけあって、にゃんにゃん言いながら猫パンチを繰り出す姿は猫そのものの愛らしさ。アニマルガールなのにしっぽがないのは、フレンズではないので仕方がないか。猫役と分かったときには、猫まで若葉のライバルとなって洋人と結ばれようとするのかと思ったが、二人の愛を純粋に応援する心優しい猫だった。
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ばにら、明日をありがとう(A企画)@テアトルBONBON

【演出】永岡ゆきお【脚本】ハネイサユ

【出演】小川真琴、さいとう雅子、高橋ふみや、大図愛、腕トラ、にちょうぎロングビーチ、瀬戸貴文、上村英里子、竹田充希、外崎玲奈、小澤慶祐
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昨年の早い段階に告知があった、さいとう雅子さん出演のこの舞台。はるか先のように思えた2018年の2月も、季節は確かにめぐり、やって来た。
都会の無機質の海に放り出されたかのような姉妹のビジュアル、「普通ってなんですか?」という根源的な問い、イジメの傷という重い設定。
決してストーリーの明快さや爽やかな観後感があるわけではなく、観劇前の予想を上回るほどに、見る側の心を抉りこみ、人生を考えさせる重厚な作品。エンタメ性を求める舞台作品が多い今の時代、あえてこういった作品を送り出した制作スタッフと、作品の重さに真摯に向き合って舞台上で表現した出演者には敬意を表したい。
舞台の題名を聞いたときには、犬か猫の名前かと思った「ばにら」は、妹の佳奈のイマジナリーフレンドのような存在で、なぐさめたり叱咤激励したりするわけでもなく、自由気ままに寄り添う。佳奈が自分自身と向き合い、人生や社会と向き合い、姉の夕月と二人、自立した一歩を踏み出す瞬間を少し寂しげに見届けると、微笑みを浮かべて立ち去っていく。同じように、実在すら不確かな、謎めいた存在として劇中に登場する「雨」は、通り雨のように現れ、優しく、厳しく、乾涸びた人の記憶や本音を呼び覚まして湿り気を与え、気づきを促して立ち去っていく。雨音を呼ぶように最後に舞台に散らした楽譜は、姉の夕月が奏でてきたピアノの音色や、父親との記憶といったものを象徴していたのだろうか。
人間の醜さ、嫌な部分を凝縮したような登場人物たちは、思い上がり、人を虐げ、欲にまみれ、その危うい土台で自分を保つ。道化のようで滑稽でもあり哀れでもあるような彼らの存在を鏡に映せば、そこに自分自身の影を見出すことになる。天狗の鼻が折れて、物語が明るく収束する予感を抱いたとき、一つの忘れ物を思い出し、愕然とさせられる。佳奈と同じような思いを抱いていた弘樹には、なぜ「ばにら」や「雨」が現れなかったのだろう。ヘッドホンと自己暗示で、内なる声にすら耳を塞いでしまったのだろうか。己は、彼の中にもまた、佳奈と同じように自分を見出す。そのシーンを見たときに思い出したのが、三上寛の「ピストル魔の少年」という歌。犯罪者に対して「僕の友達よ」と同情を寄せるかのように歌いかけることに嫌悪も感じていたが、彼もまた彼の中に自分を見たのだろう。
妹の佳奈を演じたまぁこさんは、「未来への十字架」から僅か1週間余りで迎えた本番。彼女を舞台で見ると、いつも「さいとう雅子」としてよりも、まずは演じている役として入ってくる。それだけ役に全霊をぶつけて入り込んでいくタイプの役者である彼女にとって、期間の短さもさることながら、マイナスに振り切れた感情まで受け入れて演じることへの切替えは難しかったはずだが、舞台上には佳奈というキャラクターがはっきりと立っていた。まっすぐさや素直さ、純粋さといったところは、佳奈とまぁこさんに重なる部分もある。綺麗な心を持つ佳奈が、イジメの記憶に苛まれたり、大人を相手に精一杯の抵抗を試みたり、包丁を振り回したり、見ていて辛い場面も多く、「水をかける」という抵抗手段自体が、イジメの記憶とリンクしていると考えると、余計に辛いものがあったが、そんな不安定さや、消えてしまいそうな危うさを演じられるのもまた、彼女の魅力だと感じた。雨さんを演じた腕トラさんのラジオ番組に出演していたときも、演じるということへの強い意志が感じられたし、そのときの腕トラさんの、ゲストの良い部分をリスナーに少しでも多く伝えようというパーソナリティとしての姿勢も嬉しかった。腕トラさんから直接、劇中歌となっている「雨とバニラ」のCDも購入してきたが、イメージどおりの優しい方だった。
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未来への十字架(私立ルドビコ女学院)@新宿村LIVE

【総合演出】林修司【脚本・演出】桜木さやか

【出演】あわつまい、石井陽菜、大條瑞希、木下美優、小菅怜衣、さいとう雅子、竹本茉莉、手島沙樹、藤堂美結、夏目愛海、七海とろろ、はぎのりな、星守紗凪、安藤遥、楠世蓮、長橋有沙、白河優菜、広沢麻衣、横島亜衿、横山可奈子、木村若菜
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昨年3月のアサルトリリィとのコラボ企画「シュベスターの誓い」が初見だったルドビコ女学院。今回は、さらに「人狼TLPT」も加わったトリプルコラボ企画が打たれた。「TLPT」の名前だけは聞いたことはあっても、人狼ゲームの知識は全くない状態でこの企画の話を知ったときには取り付きにくさを感じ、また、人狼TLPTの動画を見てみても、何が起こっているのかほとんど分からなかったので、楽しむことができるか不安だった。さらに、学園の生徒になりすました人狼を見つけ出して殺さなければならない、生徒たちが犠牲にならなければならない、陰惨な展開が待っているかもしれないという恐怖もあった。
これは演劇なのかイベントなのかという疑問も挟みたくなったところで、TLPT経験者の長橋さんが稽古場ブログで綴った「魅せます。しっかり稽古をしてお届けします!」という、人狼ゲーム並みの強烈な説得力を持った、ブレイブのレアスキルを発動しているかのような言葉は心強かった。人狼ゲームの基本的なルールや用語、セオリーについても、ネットでの解説をかじって、どうにか付け焼刃の知識は備えて、開演の時を待った。
毎回違うゲーム展開になるという上に、20人のプレイヤーキャストのうち、1回のステージに上がるのは13人なので、同じキャストで演じられることすら二度ないという再現率の低さ。今回は、観に行ける日程の中から、さいとう雅子さんと夏目愛海さんが同時に舞台に立つ3つの回を選択したが、それでもブリちゃん役の緒方さんには一度も会えないというのは残念。
劇中の時間軸としては、「シュベスターの誓い」の後で、敵が学園に紛れ込むことを想定した訓練として、人狼ゲームが行われるという設定だった。オープニングの劇は時間は長くはないとはいえ、毎回異なるキャストで、誰が出るかによって台詞を言う人も変わるし、オープニングやエンディングでもそれは同じ。それにもかかわらず、オープニングのラストで「これより始まるは~」の全員そろっての長台詞がピタリと決まったのを聞いたとき、これから良質のものを見られるという確信が湧いた。
訓練としての人狼ゲームで、追放されても身に何か起きるわけではないので、設定としては緩い感じかなとも思ったが、そんな軽い考えは、最初に見た第6ステージの初日の議論を聞いただけで、木端微塵に砕かれた。追放のバラをその手に集めていく杏(竹本茉莉)の頭はどんどん地に向かって垂れていき、すすり泣く声が聞こえてくる。追放が決まった後のひと言も、涙に顔を濡らしながらで、この舞台が決して気楽に見られるものではないことを察した。前作での登場人物同士の関係性が引き継がれていて、学年の絆、選ばれざる者同士の思いなども交錯した人間ドラマも演じられる。時には敵味方に分かれたり、追放のバラを手向けなければならない場面もあって、見ているだけでも辛さが伝わってくる。真剣勝負でシナリオがないからこそ出てくる感動の場面に、すっかりこの企画のファンになっていた。
第5ステージまではずっと人狼陣営の勝利が続いていて、第6ステージでも最初に真の霊媒師が追放になって、2日目も人間が追放。人狼陣営勝利で勝負あったかと思ったが、やはりTLPT経験者の瑠衣(はぎのりな)と永遠(手島沙樹)のコンビは強力だった。論理的すぎて、人狼初心者としては何を言っているのか、理解がついていかなかったが、正しいことを言っているという確信を持たせる力があった。3日目に人狼同士の投票に持ち込んでからは、一気に流れが変わった。どんどん状況が苦しくなる中で、騙り予言者のカタリナ・芽衣(夏目愛海)が、お師匠と慕うこころ(藤堂美結)に追放のバラを手向けることになってしまった場面は、そのシチュエーションもさることながら、リアルな涙や二人のやり取りの言葉が辛かった。追放対象となって騙りの苦しさから解放されて、むしろすっきりとした表情になったのは、人狼ゲームのセオリーからは外れるのかもしれないが、あいみんらしかった。3人が残っての最終日までもつれ込んでの決戦では、花蓮(小菅怜衣)が、自分のことを信じて人間陣営の初勝利を決める最後の一票を人狼に投じた来夢(あわつまい)と泣きながら抱き合うという、感動的なラストが待っていた。
第8ステージは、人狼陣営の百合亜(安藤遥)がいきなり能力者を騙るという積極的な攻めの姿勢が裏目に出て、3日連続で人狼が追放され、人間陣営のストレート勝ち。騙りを含めての役職者5人を中心とした短期決戦だったので、人間がほとんど発言できる場面がなかったのは仕方がないが、人間キャストのファンからすれば、食い足りない回だったかもしれない。狩人も早々に襲撃されて客席に正体が明らかにされたので、自分も含めて観客の過半数がパーフェクトで役職を正解して特典を手にすることができるというボーナス回でもあった。能力者勝負に持ち込んで手掛かりを豊富に得た上で冷徹に正しい推理を進めていく永遠はやはり強い。手島さんに似ても似つかない恥ずかしいキャラクターを演じてもらうくらいのハンデがないと、特訓を積んだリリィたちでも太刀打ちは難しかった。そんな強力な永遠に対して、論理ではなくパッションで真っ向から1対1の勝負を挑んでいった理紬(七海とろろ)の姿勢が清々しかった。とろろさんは、オープニングのダンスも、ゲーム中も誰よりも豊かな表情を繰り出していて、理紬という新しいキャラクターに確実に息を吹き込み、爪痕を残していた。彼女が芸能界でアイドルとして、役者としてここまで生き残ることができている理由が分かった。
第10ステージは、最終日決戦再び。人狼のつぐみ(長橋有沙)が周到に用意したノインベルト戦術がはまって、後から振り返れば序盤は人狼有利に運んでおかしくないはずだったが、対抗の予言者が現れないという珍しい展開に。人狼候補を3人中2人というところまで絞り込んだ永遠が提案したローラー作戦が発動して、人間陣営勝利のレールが確実に敷かれたと、客席の誰もが思ったはず。しかし、その通りには進まないのが生のステージの面白さ。情報量は客席とステージで非対称だし、時に笑いも起きる客席とは違って、ステージ上の緊張感と重圧の中で、1回思考回路が絡まると、限られた時間でリカバーしていくことは難しい。演じるキャラクターを投げ捨てるほどに悩みに悩みぬいた末に投票行動を貫けなかった朝妃(広沢麻衣)と、筋が通っているがゆえに朝妃を説得することができなかった佳子(横島亜衿)にとっては悔いが残る最終ステージになってしまったが、朝妃を責めるようなことは誰もすることはないし、この企画ならではの、印象に残る熱戦だった。永遠にすら「状況をよく理解できていない人間」の可能性が高いと思わせ、絶体絶命の状況になりながらも諦めなかった来夢は見事で、最後まで生き残って舞台にただ一人立つ姿は、未来に対してその強さを示すかのようだった。
まぁこさん演じるクララは、第6ステージでは2日目、第10ステージでは初日に追放されてしまった。大した理由もなく投票対象に挙げられて、疑われてしまいがちだったのは、クララの華のある強烈な個性をしっかり演じ切って、目立っていればこそ。追放のバラを受け取るときのリアクションでも、クララの魅力を引き出していて、この役はこの人にしかできないだろうという当たり役なのは間違いない。第8ステージでは狂陣を引いて、残った中で一人だけ敗者になるという憂き目も見てしまったが、あそこは最後まで悪あがきでもあがいてほしかったかな。昨年手術した足の状態も良くなって、ダンスが踊れるほどに回復していることも確かめられて安心した。早くも1週間後には、大役を担う次の舞台「ばにら、明日をありがとう」が控えるという大変なスケジュールだが、彼女のこれまでの演技に対する姿勢や、舞台で示してきた結果を見ていれば、気遣いはしても心配はしていない。
第10ステージの前説では、木村若菜さんから、「再演熱望!」のコールが発動されたが、再演希望かと言われると、今回の企画には満足しつつも、すぐにということではない。今回の企画で、魅力的な新たなリリィたちが登場したことでもあるし、やはり本編のシュベスターシリーズのストーリーが展開された上で、という留保がつく。音響のよい新宿村での戦闘シーンは迫力があったので、ストーリー編の続きが演じられるのであれば、この会場で観たい。
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時空警察シグレイダー(MAGES.)@ラゾーナ川崎プラザソル

【作・演出】吉久直志【原作・脚本】畑澤和也

【出演】岩田華怜、高橋紗妃、カオリ、仲谷明香、ユカフィン、花原あんり、宇咲美まどか、橘莉衣、羽村英、志田良太、天月ミク、沖田幸平、辻畑利紀、カナ、モモコ、田畑寧々、渡辺菜友、桜井理衣、由楠、岡田千優季、越智かりん、春名珠妃、内田琴音、今井あき、政野谷遊太、杉浦勇一、赤松英信、浦濱里奈、山岸みか、五十嵐愛
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これまで、時空の分断や統合、特異点や時空同位体といった設定や用語の高い壁に、見るたびごとに跳ね返され、打ちのめされてきたヴェッカーの舞台シリーズ。見に行くか迷った末に行かず、後にDVDを購入して見ることになった2011年上演の「ヴェッカーサイト」から、花原あんりさん演じる時空刑事セレネなどが再登場するということへの期待や、麻草氏の脚本でなければ或いは流れを理解できる望みもあるかもしれないという思いもあって、今作のチケットを購入した。
今回は、アリスイン系ではなく、畑澤監督が社員として加入した、志倉千代丸氏率いるMAGES.が主催で、その傘下のアイドルや元アイドル、声優などが多くキャスティングされていた。オープニングの現代編での女子高生4人組の掛け合いの演技は初々しく、以前のアリスインの舞台もこんな感じだったと、妙な懐かしさも覚えた。
設定年代としては、これまでのヴェッカーシリーズの舞台よりも後らしく、用語や出来事が台詞の中で語られていた。さらに、「ノエルサンドレ」の主役である、時空刑事アリサとリンのコンビも登場。キャストは変わったが、二人の性格や言葉遣いが懐かしい。劇中ではあれから数年が経過しているらしく、リンも向こう見ずなところを残しつつも、成長をアピールしていた。
人間らしさとは何か、正しさとは何かということを問いかける、ヴェッカーシリーズを特徴づける骨の太さは今作でも遺憾なく発揮され、登場人物たち、そして観客に容赦なく揺らぎを与えてくる。悪役として設定されたドロイド軍団の「黒の騎士団」にしても、彼らの信じる正義に向かって、ただ一直線に進んでいき、人間とぶつかる。揺らぎの波が激しくぶつかるところに、バイオロイドであるクオンや、一度は自ら闇に堕ちる決断をするトワがいる。彼らに限らず、登場人物たちの葛藤や感情は、熱いほど伝わってきた。人間とAIとの関係というテーマも、ヴェッカーの世界では古くから語られてきたこと。そのテーマがホットになった今だからこそ、改めて考えさせられるものがあった。
カオリさんは、体当たりそのものの演技で、演じることの悩みも含めて、全てをキャラクターにストレートにぶつけた結果として、等身大の人間らしいトワ像が出来上がっていた。スケールの大きな才能に演技が追いついていくのはまだ先になるかもしれないが、今だからこそ見られる、気持ちのいい熱演だった。
過去、劇場公演でただ1度見ただけだった主演の岩田華怜さん。19歳ながら、座長かくあるべしといった風の、華のある堂々とした演じぶりだった。AKBからの卒業後、主演も含めて数々の舞台に立ち続けることができているのも頷ける。
戦闘シーンは、男性陣の奮闘や稽古の成果もあって、なかなかの迫力。パフォーマーの声と動きで、映像の代わりに舞台上で起こっている効果を伝える吉久さんの演出手法がふんだんに使われていた。さらに、女性キャストを人力で持ち上げて、瞬間移動やアクロバティックな攻撃を舞台で実現するという、舞台の限界に挑戦するような、斬新な演出も見られた。
苦戦の連続だけでなく、圧倒的な実力差に敵せず、女の子たちが虐殺されるようなシーンが演じられるのは、舞台上とはいえ辛いものがある。悪役も含めて、きちんと救いの要素も残してくれるのもヴェッカーらしさではあるのだけれども。ハルカとクオンの二人が、しっかりと生き切るという儚さを残すラストシーンも、単純に転生をするというよりも深みが感じられた。ジェネシス・コアが破壊され、時空警察も舞台上からはその姿を一旦は消してしまったが、歴史は繰り返すのか、違う歴史が築かれるのか。畑澤監督からは、騎士団を中心に描く作品の構想も語られたが、いずれにしてもヴェッカーシリーズが何かの形で続くことは間違いなさそうだ。
終演後は特撮舞台を語るというトークショー。吉久さんのSFと特撮の違いの解説には納得で、特撮ではみんなの思いが集まって伝説のヴェッカーが生み出されるようなことが起きてしまうという言葉に、無理に理屈で理解しようとする必要なないんだと、特撮演劇へのハードルが少し下がった気がした。
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天使の図書室~新春!ほっこり・おとぎ茶屋~(女神座ATHENA)@コフレリオ新宿シアター

【脚本・演出】山口喬司

【出演】山川ひろみ、大矢真那竹内舞、山口喬司
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昨年2月以来の開催となるリーディングシアターの第3弾を観劇。今作の売りは、お正月らしく出演者たちが振袖に身を包んでステージに立つこと。ビジュアル的な華やかさが織りなす非日常的な雰囲気の中で、3作のお伽噺や童話が三者三様で演じられた。ガンダムネタは竹内さん並みに馴染みがないので、そっちの面での笑いどころはよく分からなかったけど。
まずは、竹内舞さんによる「猿蟹合戦」。せっかくの舞台デビューにもかかわらず、喉の調子を崩してしまってガラガラ声になってしまっていた竹内さん。初舞台らしく、何回か台詞を言いなおすような場面もあったが、余裕がないながらに、トラブルにも物怖じせずに堂々と舞台に立つ姿がいい。猿の台詞を抑揚を大げさに付けて話すときがいちばん活き活きとしていて、本調子ではない声も、意地悪な猿には、むしろ合っていた。舞台度胸があって、コミカルな演技をしているときにはキラリと光るものがあるので、これから今出舞さんのように舞台で活躍の場を広げていくかもしれない。山川さんから写真にサインをもらって帰ろうとしたら「気を付けて帰ってくださいね」と竹内さんから声がかかって、そういう心遣いもできるところも感心した。
竹内さんのことはチームEのAKB劇場への出張公演で見たことがあったが、「おおきなカブ2018」を演じた大矢真那さんはテレビ以外では武道館でのライブで見たことがあるかもしれないというくらいで、実質的には初見。昨年秋にSKEを卒業していて、この舞台が卒業後の初仕事らしかった。DVDでは繰り返し見ていたチームSの「手をつなぎながら」公演の頃の姿からは、27歳となった今もイメージがほとんど変わらない。登場人物の台詞に個性を出していた竹内さんに対して、大矢さんは落ち着いた声を活かしたナレーションに強みを発揮していた。カブを抜くときに客席にも掛け声を求めるシーンがあって、そこで自然と声が揃うのはさすがアイドルヲタといった感じだった。大矢さんには、これまでは選挙でのコメントなどからしっかり者のイメージを抱いていたが、舞台から落ちたり、竹内さんから突っ込まれたりする姿を見ると、意外と抜けているところもあるキャラクターなのかな。
トリを飾るのは山川ひろみさんによる「瓜子姫」。ゆっくりと、間を活かして聞かせるリーディングは山川さん独特の世界で、すぐに物語に引き込む説得力がある。ナレーションに加えておじいさん、おばあさん、瓜子姫、殿様、天邪鬼、天邪鬼版瓜子姫、カラスと、7つの役を声色を使い分けて演じる変幻自在の読みっぷり。加えて、瞳の光らせ具合だけでもキャラクターの違いが感じ取れるところに、彼女の凄さを改めて感じた。竹内さんからリクエストが出るほどの悲鳴は、まさに劇場の空気を鋭く切り裂くものだった。「狼魔冥遊奇譚」でも披露された、海老沢栄さんによる糸繰り人形の瓜子姫が不気味な雰囲気を醸していた。「瓜子姫」のストーリーは覚えていなかったので、天邪鬼に襲われた後の展開はどうなることかと思ってしまった。猿が臼に押しつぶされたり、最後にあっさりと天邪鬼が蕎麦の赤味の由来とされるあたり、怖さや残酷さがあるのもお伽噺らしい。お城に嫁いでハッピーエンドとなるのが定番の西洋の童話との違いも興味深い。
女神座やK.B.Sの舞台では、寝ている人が近くにいることが多いのが気になっていて、その原因は全通特典にあると推測している。今作も全通特典でサイン付き羽子板が出るという情報に、また隣で寝られると面倒だなと思っていたら、案の定、隣は上演時間の半分はこっくりぐーすかとしていた。そういう人の方がグッズも含めて売上には貢献している上客で、そういう人たちの貢献がなければ、こうした舞台を見続けることもできないのかもしれないという現実に、釈然としない思いも抱きながら、劇場を後にした。
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