~熱風の果て~

観劇の記録

時空警察ヴェッカーKAI 彷徨のエトランゼ(サラスパイクアカデミー)@六行会ホール

【脚本・演出】畑澤和也、麻草郁

【出演】フォンチー伊藤梨沙子、斎藤亜美、小見川千明畠山智妃百川晴香西条美咲蒼井ちあき高田あゆみ下垣真香志田光、遠藤瑠香、安藤玲奈、斉藤桃子重本未紗、尾島江利子松上祐子青木ゆり亜、宮森セーラ、川元捺未、北山亜莉沙、片岡ミカ、権藤葵、小泉ここ、日野ありす、小花、倉持由香山崎怜奈、荘司里穂、澤村佳奈。、河合有理、高橋里菜、川口莉奈、金田瀬奈、佐藤加奈、森田涼花高嶋香帆井之上史織
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舞台版としては3作品目、KAIシリーズとしては2作品目となるヴェッカーの舞台新作。中国に拠点を移した畑澤監督にとっては、まさに渾身の作品となった。
登場人物は前作を引き継ぐものの、キャストは、アル、トレミー、砂姫を除いて一新。再演はキャストを一新するものと、畑澤監督に言った人がいたらしいのだが、寂しい思いもある。ただし、ヴェッカーだけは別の役者は絶対に使わないという信念があるということで、焦点となったのが、前作でSUPER☆GiRLSの八坂さんが演じ、今作の主役と目されていたアリサの扱い。エイベックス側との出演交渉が行われたかどうかは定かではないが、チケット発売後も主演女優が未定の状態が長く続いた末に発表されたキャストはフォンチーさん。キャスティングとシナリオのどちらが先かということも定かではないが、時空刑事アリサではなく、麻宮亜里沙としての登場となった。
前作の謎の解明が少しは行われるかとも思ったが、前作ありきの完全な続編というわけでもないので、その点での謎解きは一切なかった。しかし、今回の作品もやはり難解。畑澤監督は、「ノエルサンドレ」のときにも難解であることを認めつつ、「ヴェッカーの舞台を選んで見にくるような人には分かるはず」とか、別の舞台を評して「観劇スキルが求められる」などという言葉を使うので、言いにくくはあるのだが、正直言って、今作は1回見ただけではほとんど何が起きたのか分からなかった・・・と、「観劇スキル」のなさを告白してみる。
時空の分岐と統合が複雑になり、そこに「特異点」という概念が持ち込まれたり、キャストの異なるアリサを如何に別にかつ同一に描くかという命題も同時に処理しなければならない中で、「時空パズル」の様相を呈してしまったことは、2時間の舞台作品ということを考えれば、必ずしも望ましかったとは思わない。背景が複雑でありすぎたために、「心」を伝える力が弱くなってしまったことは否めない。
2回目で、時間と空間の位置関係をようやく把握できた。1回目で混乱した理由は、そこがエトランゼなのかハイペリオンラインなのかが分からなかったからであり、舞台背景で時空の違いを表現することが難しいのであれば、せめて「タイムホール」を舞台上に具現化した方がよかった。
それでもやはり謎は残る。時空怪盗オラクルは、時空刑事レピスが作り出したことになっているが、その動機が判然としない。オラクルに指令を出し始めたのは、「遊び」なのか、時空消滅を阻止するという目的が見えてからなのか。オラクルに指令を出したのであれば、なぜ彼女たちをアレストする任務を遂行する必要があるのか。プロメテウスに再会するため、と考えれば心情的には綺麗だが、それでは彼女と戦う理由が見つからなくなってしまう。
もうひとつは、サンジェルマン女学院を創立した8人がエトランゼからやって来た生徒たちであるならば、同じ人物が異なる人物として、ハイペリオンラインの19世紀と20世紀の両方で生を全うするということがあり得てよいのかということ。創作なのでいくらでも自由にあり得てよいのだが、すっきりできない点だ。また、エトランゼでもハイペリオンラインでも8人の肖像画が盗まれそうになるというのは、この物語の帰結と何かしら関係はあるのだろうか。
エトランゼが時空刑事アリサの潜在的な願望により作り出された・・・という設定は、「パラダイスロスト」で斎藤亜美さん演じた小野塚シホが無節操に無数の世界を創作した姿とも重なる。最後の責任の取り方も、結末は違えど意味合いとしては近い。今回、レピス役に斎藤さんが抜擢されたのは、「パラダイスロスト」での出色の演技が監督の目に留まったこともきっかけになったようだ。
今回は、ゲストキャラも3人の別々のキャラクターが日替わりで登場した。己が見たのは、時空刑事アルシオーネと、プロメテウスの2人だが、ゲストキャラによって、舞台の主役も入れ替わる。アルシオーネ編では時空刑事プレアードが、プロメテウス編では時空刑事レピスが主役に躍り出る。
前作の手狭な劇場から飛び出して、今回は広々とした舞台でアクションも思う存分に展開された。「SOUL FLOWER」で女性らしからぬパワフルで重厚な戦闘ぶりが記憶に新しい押田さんの指導によるアクションシーンは迫力十分。運動神経のよい人たちということを考えても、アイドル舞台としては驚きに値する水準だった。
千秋楽恒例のキャスト挨拶は、涙も多く流された。中でも、初舞台で涼子役を演じたの倉持さんの号泣ぶりが客席を温かい雰囲気に包んでいた。こういう過呼吸は美しい。百川さんも本番中に体調を崩して過呼吸になって大変だったらしい。ちゃきさんや斎藤さんはアクションに相当苦労したようで、稽古中の悩みとそれを乗り越えたことを涙声で語っていた。斎藤さんは泣くまいと大きな目を更に見開いて、一生懸命眼球をあおぐ仕草が「パラダイスロスト」のときと全く一緒。今回もまた、その甲斐なく顔をくしゃくしゃにしてしまっていた。
前作と同じくサポートドロイド・アル役を演じたちあきんぐ。今回は素直なサポート役で作品中の豹変がなく、前作ほどのインパクトはなかったが、肩を肉離れするほどの激しいアクションを交えて熱演していた。アクションも長台詞も完璧にこなすワークショップの優等生。まだ中学生でありながらアドリブ担当を任されてしまうあたりには早くも風格が漂ってきている。バズーカ砲に変身という設定は、舞台としてはちょっとどうかと思ってしまったが。
そのアルのバズーカ砲一撃で撃破された敵のボスであるコルネ様は、西条さんによるとコミカル路線でもあったらしいのだが、どうせなら究極に可愛らしいメイクや衣装にしていたが残酷さも生きたような気もする。最後まで生き残り、ベビーフェイスであるオラクルの3人やレピスに慰められてしまうというヒールのボスにあるまじき情けなさが、一種の救いの要素も加えていた。
挨拶の最後には、畑澤監督が登場。ヴェッカーKAIの次回作がありそうだということと、震災の影響をもろに受けて撮影・公開が困難を極めた映画「ヴェッカーDNS」の劇場公開決定のお知らせ。主演の一翼を担った松橋ほなみさんも舞台に上がって宣伝していた。もう一人の主演で、畑澤監督から「天才」とまで賞賛された中塚ともちゃんの演技もお蔵入りを免れてよかった。