~熱風の果て~

観劇の記録

時空警察ヴェッカーKAI ノエルサンドレ(サラエンタテインメント)@荻窪・かいホール

【脚本・演出】畑澤和也

【出演】宮崎理奈八坂沙織蒼井ちあき彩月貴央百川晴香、栞菜、渡邊エリー、吉越千帆、相馬絵美、小山由希帆、岡田れえな、杉本莉真、神田東来、榊原美紅、飯田陽子、板倉美穂、金城真央、今野梨奈、山崎怜奈、荘司里穂、小野木里奈、長島実咲、渡部麗奈、木村有希、黒田里々愛、村瀬綾里子田中萌亞名、さいとう光恵、濱島優子、木内江莉、高橋のぞみ、小坂真名美、永井裕子、津留慶子、成田レナ、福井理沙、島村彩也香、仲谷明香栗山夢衣鮎川穂乃果しほの涼
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元々は畑澤監督が講師を務めた旧スパイクの演劇ワークショップから企画化された今回の舞台。ワークショップからは、主席としてメインキャストで出演の蒼井ちあきたんや注目の荘司里穂たんらが参加。オーディションでは適任が見つからなかったという主役には、SUPER☆GiRLSから初舞台となる2人が起用された。
経糸は、落ちこぼれ新人ヴェッカーのリンが、純粋さゆえの過ちを乗り越えて真の強さを手に入れる成長物語。主演のみやりこと宮崎理奈たんは、丸顔ツインテールで、人懐っこくて素直で挙動不審でマスコットキャラクター的でもあるリンのキャラクターに唯一無二の魂を吹き込むことに成功していた。もう一人の主役、さおりーぬこと八坂沙織たん演じるアリサは、気位の高いエリートヴェッカー。こちらは堂々とした、鼻にかかった台詞回しで、リンと比べると見せ場は少なかったものの、キャラクターをしっかりとつくり上げていた。
主演の二人以外も経験のない人たちが多くキャスティングされているので、この舞台はリアルな成長物語でもある。終盤には台詞回しもアクションシーンも安心して見ていられるようになり、演技の間にアドリブ的な遊びの要素を入れる余裕も出ていた。
重要な役回りを演じるサポートドロイド・アル役はちあきんぐこと蒼井ちあきたん。監督から絶賛されるだけあって、人格が入れ替わる難しい役を時に憎らしく、時に可愛らしく演じて、観客へのインパクトは強かったはず。アクションシーンやダンスシーンでも柔らかな身のこなしで目立っていた。ちあきたんは、先週、Clear'sのメンバーという肩書きでMXの「つんつべ」に出演してダンスを披露していた姿が記憶に新しい。ついでに今週分も見てみたら、トレミー役の百川晴香たんもAELL.のサブメンバーの一員として出演していた。
彩月貴央たんの名前を聞くのは、「好夏」の頃以来。最近の彼女は、大手事務所を辞めて再出発し、畑澤監督のワークショップにも参加していたらしい。貴央たん演じるるり香は、以前のシリーズで派遣先の時代に残って、記憶を消してアイドルになった元ヴェッカー。自然に涙を流す姿が印象的だった。
日替わりゲストは、歴代ヴェッカーと時空看護師。時空刑事ディアナのなかやんは、本人の強い希望もあってゲスト出演が実現したとか。年表によると、ディアナたちがフランス革命に派遣されたのは、アリサとリンがノエルサンドレに派遣される4年前。劇中の設定でも、演技でも、経験を積んだ良き先輩だった。ゲストキャラは、出番が少ないながらもそれぞれの見せ場があって、ディアナとリン、アルテミスとアル、レナリーとるり香、とそれぞれの人間模様を見せてくれた。
栞菜たんはメインキャストでありながら体調不良で初日を休演するという、言い訳のできない失態を犯してしまったが、これも経験。引っ込み思案な部長役で、ひと目では彼女と分からなかったのは、いつもと違う演技ができていたということではある。また、体型が「落下ガール」の時並みに戻ってしまったせいでもある。
監督からは、「アニメ顔、アニメ声、アニメ体型」と評されていた里穂たんは、空気の読めない子の役。持ち前の子豚ちゃん的な愛嬌と、舞台向きのラウドボイスで存在感があった。そのほか、愛の狂気に堕ちる刑事ミサキ役の相馬絵美たん、ぶりっ子トナカイ・マス役の今野梨奈たん、ボス役の永井裕子たんといったあたりが個性を発揮していた。
何度か観劇しても、リン風に言うと「わかんない!わかんないよぉ〜!」な、消化できない設定上の謎は残る。謎が謎として頭の中にあると、劇の本質をストレートに受け取ることができなくなってしまうのがもどかしいところ。
オープニングで、ルリカがミサキに射殺されるシーンが演じられるが、実際の劇の流れの中では射殺されない。トレミーラインの出来事でもない。ルリカが射殺される場合、ノエルサンドレはおそらくミサキによって発動される。時空犯罪が介在する前の史実なのだろうか。
時空分断はそもそもどの時点で起きるのか。ノエルサンドレが時空分断を生む装置で発動の瞬間に分かれるはず。ノエルサンドレが発動することで、どうしてノエルサンドレが発動しない時空まで同時に生じることになるのか。トレミーラインではノエルサンドレ事件にはベテランヴェッカーが派遣されたという設定になっている。とすれば舞台上の出来事は既にハイペリオンライン。時空分断が生じると、その時点以後が分かれるのではなく、歴史のはじまりから分断されるのか?キョウイチが自ら命を絶ったときに決まった未来とは何なのか。
エピローグでは2つの未来が描かれる。発動しなかった未来では、ルリカたちがオラクルやリンやアルのことを語るが、アリサの名前は出てこない。トレミーラインにはアリサは存在しないことと関係があるのだろうか。しかし、これがトレミーラインであれば、トレミーとリンは派遣されていないのだから、ルリカとリンが出会っているというのは辻褄が合わないようにも思える。
・・・と、考えたところで解けそうもない疑問がけっこう残っている。内容充実の公演パンフレットには、時空分断や時空同位体の説明やヴェッカー年表があるが、読んで中途半端に情報を得ると、余計に分からなくなる。年表には、未公開のともちゃん主演映画「ヴェッカーDNS」の出来事まで載っている。ロケから公開まで、震災の影響で困難を極めている様子だが、畑澤監督の映画公開の実現に向けての情熱は失われてはいないようなので、公開の日を待ちたい。