~熱風の果て~

観劇の記録

未来への十字架(私立ルドビコ女学院)@新宿村LIVE

【総合演出】林修司【脚本・演出】桜木さやか

【出演】あわつまい、石井陽菜、大條瑞希、木下美優、小菅怜衣、さいとう雅子、竹本茉莉、手島沙樹、藤堂美結、夏目愛海、七海とろろ、はぎのりな、星守紗凪、安藤遥、楠世蓮、長橋有沙、白河優菜、広沢麻衣、横島亜衿、横山可奈子、木村若菜
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昨年3月のアサルトリリィとのコラボ企画「シュベスターの誓い」が初見だったルドビコ女学院。今回は、さらに「人狼TLPT」も加わったトリプルコラボ企画が打たれた。「TLPT」の名前だけは聞いたことはあっても、人狼ゲームの知識は全くない状態でこの企画の話を知ったときには取り付きにくさを感じ、また、人狼TLPTの動画を見てみても、何が起こっているのかほとんど分からなかったので、楽しむことができるか不安だった。さらに、学園の生徒になりすました人狼を見つけ出して殺さなければならない、生徒たちが犠牲にならなければならない、陰惨な展開が待っているかもしれないという恐怖もあった。
これは演劇なのかイベントなのかという疑問も挟みたくなったところで、TLPT経験者の長橋さんが稽古場ブログで綴った「魅せます。しっかり稽古をしてお届けします!」という、人狼ゲーム並みの強烈な説得力を持った、ブレイブのレアスキルを発動しているかのような言葉は心強かった。人狼ゲームの基本的なルールや用語、セオリーについても、ネットでの解説をかじって、どうにか付け焼刃の知識は備えて、開演の時を待った。
毎回違うゲーム展開になるという上に、20人のプレイヤーキャストのうち、1回のステージに上がるのは13人なので、同じキャストで演じられることすら二度ないという再現率の低さ。今回は、観に行ける日程の中から、さいとう雅子さんと夏目愛海さんが同時に舞台に立つ3つの回を選択したが、それでもブリちゃん役の緒方さんには一度も会えないというのは残念。
劇中の時間軸としては、「シュベスターの誓い」の後で、敵が学園に紛れ込むことを想定した訓練として、人狼ゲームが行われるという設定だった。オープニングの劇は時間は長くはないとはいえ、毎回異なるキャストで、誰が出るかによって台詞を言う人も変わるし、オープニングやエンディングでもそれは同じ。それにもかかわらず、オープニングのラストで「これより始まるは~」の全員そろっての長台詞がピタリと決まったのを聞いたとき、これから良質のものを見られるという確信が湧いた。
訓練としての人狼ゲームで、追放されても身に何か起きるわけではないので、設定としては緩い感じかなとも思ったが、そんな軽い考えは、最初に見た第6ステージの初日の議論を聞いただけで、木端微塵に砕かれた。追放のバラをその手に集めていく杏(竹本茉莉)の頭はどんどん地に向かって垂れていき、すすり泣く声が聞こえてくる。追放が決まった後のひと言も、涙に顔を濡らしながらで、この舞台が決して気楽に見られるものではないことを察した。前作での登場人物同士の関係性が引き継がれていて、学年の絆、選ばれざる者同士の思いなども交錯した人間ドラマも演じられる。時には敵味方に分かれたり、追放のバラを手向けなければならない場面もあって、見ているだけでも辛さが伝わってくる。真剣勝負でシナリオがないからこそ出てくる感動の場面に、すっかりこの企画のファンになっていた。
第5ステージまではずっと人狼陣営の勝利が続いていて、第6ステージでも最初に真の霊媒師が追放になって、2日目も人間が追放。人狼陣営勝利で勝負あったかと思ったが、やはりTLPT経験者の瑠衣(はぎのりな)と永遠(手島沙樹)のコンビは強力だった。論理的すぎて、人狼初心者としては何を言っているのか、理解がついていかなかったが、正しいことを言っているという確信を持たせる力があった。3日目に人狼同士の投票に持ち込んでからは、一気に流れが変わった。どんどん状況が苦しくなる中で、騙り予言者のカタリナ・芽衣(夏目愛海)が、お師匠と慕うこころ(藤堂美結)に追放のバラを手向けることになってしまった場面は、そのシチュエーションもさることながら、リアルな涙や二人のやり取りの言葉が辛かった。追放対象となって騙りの苦しさから解放されて、むしろすっきりとした表情になったのは、人狼ゲームのセオリーからは外れるのかもしれないが、あいみんらしかった。3人が残っての最終日までもつれ込んでの決戦では、花蓮(小菅怜衣)が、自分のことを信じて人間陣営の初勝利を決める最後の一票を人狼に投じた来夢(あわつまい)と泣きながら抱き合うという、感動的なラストが待っていた。
第8ステージは、人狼陣営の百合亜(安藤遥)がいきなり能力者を騙るという積極的な攻めの姿勢が裏目に出て、3日連続で人狼が追放され、人間陣営のストレート勝ち。騙りを含めての役職者5人を中心とした短期決戦だったので、人間がほとんど発言できる場面がなかったのは仕方がないが、人間キャストのファンからすれば、食い足りない回だったかもしれない。狩人も早々に襲撃されて客席に正体が明らかにされたので、自分も含めて観客の過半数がパーフェクトで役職を正解して特典を手にすることができるというボーナス回でもあった。能力者勝負に持ち込んで手掛かりを豊富に得た上で冷徹に正しい推理を進めていく永遠はやはり強い。手島さんに似ても似つかない恥ずかしいキャラクターを演じてもらうくらいのハンデがないと、特訓を積んだリリィたちでも太刀打ちは難しかった。そんな強力な永遠に対して、論理ではなくパッションで真っ向から1対1の勝負を挑んでいった理紬(七海とろろ)の姿勢が清々しかった。とろろさんは、オープニングのダンスも、ゲーム中も誰よりも豊かな表情を繰り出していて、理紬という新しいキャラクターに確実に息を吹き込み、爪痕を残していた。彼女が芸能界でアイドルとして、役者としてここまで生き残ることができている理由が分かった。
第10ステージは、最終日決戦再び。人狼のつぐみ(長橋有沙)が周到に用意したノインベルト戦術がはまって、後から振り返れば序盤は人狼有利に運んでおかしくないはずだったが、対抗の予言者が現れないという珍しい展開に。人狼候補を3人中2人というところまで絞り込んだ永遠が提案したローラー作戦が発動して、人間陣営勝利のレールが確実に敷かれたと、客席の誰もが思ったはず。しかし、その通りには進まないのが生のステージの面白さ。情報量は客席とステージで非対称だし、時に笑いも起きる客席とは違って、ステージ上の緊張感と重圧の中で、1回思考回路が絡まると、限られた時間でリカバーしていくことは難しい。演じるキャラクターを投げ捨てるほどに悩みに悩みぬいた末に投票行動を貫けなかった朝妃(広沢麻衣)と、筋が通っているがゆえに朝妃を説得することができなかった佳子(横島亜衿)にとっては悔いが残る最終ステージになってしまったが、朝妃を責めるようなことは誰もすることはないし、この企画ならではの、印象に残る熱戦だった。永遠にすら「状況をよく理解できていない人間」の可能性が高いと思わせ、絶体絶命の状況になりながらも諦めなかった来夢は見事で、最後まで生き残って舞台にただ一人立つ姿は、未来に対してその強さを示すかのようだった。
まぁこさん演じるクララは、第6ステージでは2日目、第10ステージでは初日に追放されてしまった。大した理由もなく投票対象に挙げられて、疑われてしまいがちだったのは、クララの華のある強烈な個性をしっかり演じ切って、目立っていればこそ。追放のバラを受け取るときのリアクションでも、クララの魅力を引き出していて、この役はこの人にしかできないだろうという当たり役なのは間違いない。第8ステージでは狂陣を引いて、残った中で一人だけ敗者になるという憂き目も見てしまったが、あそこは最後まで悪あがきでもあがいてほしかったかな。昨年手術した足の状態も良くなって、ダンスが踊れるほどに回復していることも確かめられて安心した。早くも1週間後には、大役を担う次の舞台「ばにら、明日をありがとう」が控えるという大変なスケジュールだが、彼女のこれまでの演技に対する姿勢や、舞台で示してきた結果を見ていれば、気遣いはしても心配はしていない。
第10ステージの前説では、木村若菜さんから、「再演熱望!」のコールが発動されたが、再演希望かと言われると、今回の企画には満足しつつも、すぐにということではない。今回の企画で、魅力的な新たなリリィたちが登場したことでもあるし、やはり本編のシュベスターシリーズのストーリーが展開された上で、という留保がつく。音響のよい新宿村での戦闘シーンは迫力があったので、ストーリー編の続きが演じられるのであれば、この会場で観たい。
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