~熱風の果て~

観劇の記録

イマジカル・マテリアル(アリスインプロジェクト)@新宿村LIVE

【演出】吉久直志【脚本】麻草郁【原案】畑澤和也

【出演】山本亜依、小磯陽香、藍菜、岩田陽葵、笠本玲名、大友波瑠水月桃子、山本真夢、青柳伽奈、新木美優、こいずみさき、結城ひめり、新倉希彩、渡辺菜友、清水凛、小見川千明、真野未華、横尾莉緒、星川優夢、丸中咲花、兵藤美帆、稲葉楓、林田鈴菜、井戸美月、小間百華、天音利椰
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2014年のこけら落とし以来、興味のある作品はいくつか演じられていたものの、実際に入るのは初めての新宿村LIVE。地下2階まで長い階段を下りたところがホールへの入口となっている。S席として販売されていた前方3列は平場であるものの、4列目からは各列20センチほどの段差が付けられており、2~3列目を避ければ、視線は問題なく確保できる。劇場の規模としても、200席余りと、大きすぎず小さすぎずで、舞台全体を見渡すにもちょうどよい塩梅。中央に通路がないため、入場が進んでから列の真ん中の席まで入るのは少々苦労することとなる。
チケットは出演者一人一人の挨拶を聞くことができる大千秋楽の1公演のみ確保。「真まふ」で初めて巻き起こったという千秋楽のスタンディングオベーションは、前作の「踊りが丘学園」でも発生したと聞き、少し不安だった。これをアリスインの新たな観劇文化と受け取るか、はたまた陳腐化した単なる儀礼的な行為と受け取ればよいのか整理できないまま、立ち上がりやすいようにと、足元の荷物はとりあえず奥に押し込んで備えた。結果として今作でも起き、その価値があったかどうかというのはそれぞれの判断に任されるが、迸る感動の余りという面だけでなく、応援するアイドルが喜ぶ行為をする本能を持つ観客が中心ということは考慮に置くべきだろう。
トーリーは事前に恐れていたとおり、畑澤・麻草ラインで演じられたヴェッカーシリーズの舞台と同様、結局よく分からないまま。3つの時代に加え、時空の分岐が起きたり、それぞれの時代の登場人物が21世紀に集まり、異なる時空や流れから切り離された無限ループの時空、時空の牢獄のようなところまで出てくる上に、舞台上には常に多くの演者たちがそれぞれの動きを演じており、どこを掴んでよいのか迷っているうちにストーリーが展開していってしまった。特異点という単語だけで絶望感のトラウマが惹き起こされるし、特定の個人が特異点になっていて、何かの属性を持つ2人が出会うことでどうのこうのとなるともうさっぱり。麻草脚本を全部理解しようと思って見るのがそもそもの間違いなのだが、自分の理解力のなさを棚に上げて言えば、設定にしても登場人物にしても切り落とすところは思い切って捨てた方がよかったのではないかと感じた。注意深く、何度か見れば分かるというよりは、こういう設定がスーっと入ってくるかどうかというのは、センスの部分が大きいと思う。パンフレットを読めればヒントも得られそうだが、残念ながら千秋楽では既に売り切れで手に入れられなかった。
パフォーマーを使った演出、どこかで見た覚えがあると思ったら、今作の演出・脚本・原案の3人が組んで上演された「ヴェッカー1983」だった。魔法使いの3人自体、まさにそこで登場していたというわけか。このときもストーリーが消化できずにもやもやして、中途半端な感想を書いていたんだな。今回もまた畑澤監督言うところの「観劇スキル」のなさを曝す結果になってしまった。
今作で一方の主役と言えるハナビ役を演じた岩田陽葵さんの演技は素晴らしかった。邪悪なバラの蔓に取り込まれそうになりながら痛々しく溢れ出す負の感情と、それを隠した日常での表情の対比。「真まふ」の際も、文ちゃん役を好演していたが、今作では更に一段上のレベルに達していて、技術と役への感情移入がバランスよく演技に表れていた。ステージのライトに照らされながら輝いて落ちる涙の粒は美しかった。更にアリスインの舞台に出演する機会があるならば主演で見たいと思ったし、アリスインに限らずいろいろな舞台で活躍できる人だと感じた。
今作が初舞台という人も多かったということで、もう一度アリスインの舞台に出ることを目標にするのもいいし、本格的な劇団の舞台に打って出たいと思うのもいい。アリスインプロジェクト自体が6年も続き、数百人の規模でアイドルたちを舞台に送り出してきた功績というのは相当なものだ。
アクションも随所にちりばめられる中、オープニングから華麗な身のこなしを見せていたのが、ネブラ役の新木美優さん。17歳とは思えない堂々としたアクションで舞台に華を添えていた。ロボットという役柄上、感動のシーンでも涙を流してオイル漏れするわけにはいかないと、感情を殺しながらの演技。カーテンコールでの解放されたような笑顔も印象的だった。
「真まふ」にも出ていた結城ひめりさんの声は、一声聞いただけであの時の彼女かと、すぐに分かる。これだけでも大きな強みだ。その粗削りで強力な個性を活かす方向で伸びていければ楽しみ。来月見に行く予定の、「PIRATES OF THE DESERT 3」にも出演を予定しているとのこと。どういう風に彼女の声を活かすのかというところにも注目して見てみたい。