~熱風の果て~

観劇の記録

シュベスターの誓い(私立ルドビコ女学院)@中野ザ・ポケット

【演出・脚本】桜木さやか【原案】尾花沢軒栄

【出演】前田美里、石井陽菜、星守紗凪、栞菜、黒原優梨白河優菜安藤遥、緒方有里沙、広沢麻衣、夏目愛海、藤堂光結、さいとう雅子、長橋有沙、小野瀬みらい、小菅怜衣、朝比奈南伊藤みのり、藤井彩加、荒井杏子、石川純、今吉めぐみ、木村若菜
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フィギュアを中心にメディアミックス展開を行っているアサルトリリィと、ガールズ演劇をプロデュースしている私立ルドビコ女学園のコラボによるシュベスターシリーズの第3作。3作目は、1、2作目の総集編にして完結編。1、2作目は見ていなくても十分に楽しめた。
敵である昆虫型生物「ヒュージ」は、映像で表現され、戦いは、チャームという武器を空間に向けて振り回す形で行われる。そのチャームがそれぞれ独特な形をしており、見た目の重量感もあり、演者の動きでも重さが表現されていた。日本刀ではここまでの迫力は出ないと思うので、チャームの形状そのものが舞台向きだった。黒原優梨さん演じる未来を相手にした戦闘シーンは、アイドル中心だからとか、そういった妥協を一切感じさせない迫力。虚ろな目で髪を振り乱し、鬼気迫る形相で襲い掛かる黒原さんと、それを受け止める石井陽菜さん演じる幸恵以下、学園の生徒たちが交える一閃ごとに息を飲むほどだった。女性アイドルに殺陣をやらせるというのは、一歩間違えれば作品そのものを壊すことになりかねない危険性も持つが、この舞台ではそんな心配は無用なレベルに達していた。
非現実的な設定が多くある割にはストーリー自体は分かりやすく、登場人物の人間関係と名前が整理できさえすれば、すんなりと入っていける。開演前の世界観のレクチャーも有用だった。物語中では、戦闘だけでなく、嫉妬、恋心、友情、逃避といった、女学生たちの青春の様々な葛藤、心の動きも演じられ、人間関係に深みがあった。上演時間に余裕があれば、何気ない日常の風景を盛り込んで更に戦闘シーンとの対比、不条理な運命との対比を深められそうな気もしたが、限られた時間の中でも、多くの登場人物に課題解決の見せ場が与えられていたし、キャラクターの個性、演者の個性が生かされていた。戦闘になると別人に変わる、リリィオタクの佳世お姉さまの狂気を帯びたキャラがいちばん面白かったかな。
第3作で完結と謳われてはいるが、リリィたちの人間的な成長はあっても、根本的な問題は何も解消されてはいない。リリィたちの養成所とされているガーデン自体が一種の実験装置であるとするならば、その目的はいったい何なのか、また、ヒュージが人類の敵と単純に捉えてよいのか、真の敵はいったい何なのか、未来・来夢姉妹の血の秘密とは誰かに仕組まれたものなのか・・・まだまだ続編の余地はありそうだ。
3作とも座長を務めたという主演の前田美里さんは、この舞台が芸能界での最後の大仕事。彼女の人生にとっても大きな財産となる、これ以上ない有終の舞台だったのではないだろうか。千秋楽でも過度に感傷的になることはなく、来夢を演じきった、この世界でやることをやり切ったという充実感が強く感じられる涙だった。この舞台が彼女の演技を見る最初で最後の機会となってしまったが、その姿はしっかりと焼き付いた。
同じく3作連続の出演となったさいとう雅子さん。今、いちばん好きな女優と言ってよく、彼女の名前でチケットを購入。か弱さと凛々しさの振れ幅の広さを表現でき、そしてアクの強いキャラクターや大げさな表現もくどさを感じさせずに自然と演じきってしまうところは彼女の大きな魅力だ。ツインテールで制服を着て・・・という役どころを演じることはもうないかもしれないが、ぶりっ子でありながら学年一の実力を持つ、鳴海・クララ・優子役はまさに彼女に適役だった。クララが背負っているクママは実はクマオみたいなイマジナリーフレンドで・・・なんていう想像もしてしまったが。長橋有沙さんと共に出演予定という5月のピウス企画の舞台(PLAY ROOM)も見に行きたい。
「46億年ゼミ」では、地味な腐女子を演じていた夏目愛海さんは、今作の新キャラの忍者に憧れる1年生役で出演。「ござる」を付けて喋り、印を結びながら登場するキャラクターは存在感十分で、観客に間違いなく覚えてもらえる、いい役をもらっていた。よく通る特徴的な声はやはり武器になる。前説パフォーマンスやインターバルでは、彼女の素顔も窺うことができた。失敗したり突っ込まれたりすると、ばたついたり隠れたり涙ぐんだり、一方でお辞儀は誰よりも深く長く礼儀正しさも見せる。なるほど、みんなの妹キャラとして愛されるわけだ。高いアイドル性を持ちながら、グループアイドル全盛の時代にあって、ソロで役者としての道を進む彼女の演技はこれからも楽しみにしたい。
バクステ1期生の広沢麻衣さん。バクステの立ち上げの頃は、毎週「つんつべ」を見ていたので、彼女の名前は当時から知っていたが、実際に顔を見るのは初めて。まぁこさん演じるクララへの想いが通じずに意地悪な言動をしてしまう不器用な1年生役で、口をとがらせたり、行動が裏目に出たときの寂しげな表情が可愛らしかった。歌のシーンではウインクを交えたりと、アイドル性という点では抜きんでたものを見せていた。
ショートカットのオレキャラを演じた星守紗凪さんは、独特の透明感、空気感を持ち、舞台上での存在感は強力。普段はロングヘアーで、声優としても活動しているとのことで、明治座で上演されている「SAKURA」でのメイクと衣装での写真を見ると、シュベスターでのボーイッシュな感じとは真逆な感じの艶やかさ。近いうちに大きく羽ばたく可能性を秘めた彼女を、小劇場で見ることができるというのは、場合によっては貴重な機会になるのかもしれない。
栞菜さんの演技を見るのは、3年半ぶり14作目。彼女は何といっても凛とした立ち姿が美しく、舞台上に存在するだけでも絵になるし、演技の安定感も抜群。やはり役者としての魅力にあふれた人だ。髪型やスキップでいじられたり、お茶目な一面も見せていた。
「アサルトリリィ」は、これまで見た舞台の中では、さいとう雅子さんや栞菜さんが出演していた「戦国降臨Girl」と似ている部分がある。若い女性だけが特殊な能力を扱えるという点や、その能力を養成する学園での共同生活など。気持ちが乱れると能力が十分に発揮できず、そこを乗り越えていくという展開にも共通点はある。「アサルトリリィ」は「戦国降臨ガールズ」のように登場人物が次々と斃れていくような展開にはならなかったが、未来が正気に戻って息絶えるシーンは、「戦国降臨ガールズ」で船岡咲さん演じた三ツ子の最期が重なった。
今作のチケットは、見やすい席から順に発券という事前情報だったので、発売開始日に申し込んでいたが、土曜日は平場の3列目。見やすい席を求めて早く申し込みすぎると結果的に見にくい席をあてがわれるという、前から4列が平場という構造の中野ザ・ポケットで発生するゼノンパラドックスのことを忘れていた。以前、別の作品でこの現象が起きた際には後列に余裕があったため席を替えてもらったのだが、今作は満席なので、やむを得ず3列目で観劇した結果、ラストの来夢と幸恵のいちばんの感動シーンが全く見えないという最悪の状況に陥ってしまった。申込者が多かったと思われる千秋楽は、無事にひな壇まで格下げという名の格上げで、舞台上をくまなく見渡すことができた。
千秋楽はトリプルカーテンコールまであったが、時間的な制約でメインキャストの挨拶しか聞けなかったのは少し残念。千秋楽くらいは「特別講義」という名のインターバルのミニイベントを省いてくれるかと期待していたのだけど。内容的にも、駄目出しやチクリ大会よりは、そこで1年生組による歌の披露でもよかったのではないだろうかと思ってもしまうが、そこは教導官の思惑があってのこと。
エンディングでキャスト全員で歌われる「リリィデイズ」は名曲。YouTubeには前作の様子がアップロードされているが、もし、今作のCDに「リリィデイズ」が収録されるようならば購入したい。
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【下は今作の映像】
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