~熱風の果て~

観劇の記録

狼魔冥遊奇譚(K.B.S.Project)@コフレリオ新宿シアター

【脚本・演出】山口喬司

【出演】米山雄太、山川ひろみ、森田猛虎、奥野正明、臼井章悟、中野将樹、祖父江桂子、松崎カンナ、仲地陽和、椎山なつみ、ジョセフ運生、竹内優、蓮沼裕之、森大成、山口喬司、海老沢栄
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山口さんがプロデュースする第2の劇場として新宿は歌舞伎町にオープンした新しいシアターの杮落し公演。ラビネストの臨場感を損なうことなく、舞台と客席の近さはそのままに、観劇環境は大幅にアップ。100席に満たない小劇場としては他に類を見ないほどのゆったりフカフカの座席。そのまま眠りたくなってしまいそうだが、この作品にはそんな心配は必要なかった。
間に5分の休憩を挟んでの2時間ほどの公演は、前半が村編、後半が冥界編に分かれる。いきなり迫力のある殺陣で幕を開け、悲しい掟によって僅かに消極的な形で守られてきた村人の日常の幸福は次々とこぼれ落ちる。コメディ的な要素も織り込まれながらも、前半から重たい空気を基調に物語が進んでいった。
次々と繰り広げられるプロの技。海老沢栄さんによる糸操りで滑らかに動き舞台上に花を咲かせる桜の樹の精、息を揃えるも外すも自在の二人羽織ケンタウロス、中野さんのスローモーションムーンウォークパントマイム、逢魔時に冥界へと誘う森田さんの冥王ハデスによるグロテスクなラップショータイム・・・瞬きをする回数も自然に減るというものだ。
村に繰り返される惨劇を防ぐか、冥王の野望を打ち砕くためのいくつかの選択肢。粛々と掟に従う、用心棒に守ってもらう、陰陽師に封じてもらう、冥王を滅ぼす。特に最後の選択肢は、冥王を倒すためのキーとなる刀が舞台上に現れ、貴種流離譚の成就を思わせたが、物語は憎しみが復讐を生む刃による解決を拒否し、人の優しさ、暖かさが何よりも強く尊いという真実によって、最も困難かつ根本的な解決へと導かれた。
山川ひろみさんは、前半は村娘「小夜」、後半は変化して「サヨチャーン」と衣装をガラリと変えて登場。後半の和+ゴスロリ+けもの+悪魔のいでたちは傑作としか言いようがない。時代劇の世界観を残した衣装・・・といっても、冥王はマントを纏って洋の東西を問わない僕を従えて出てくるのだから、冥界の設定は世界観も何もあったものではないのだ。冥王ハデスが優しさに苦しむと分かっていても彼女から世話されることを拒めなかったのは、ハデス自身も優しさに飢えていたのもあるだろうが、そのキュートさにメロメロにされたというのが大きいだろう。山川さんは、可愛らしさだけでなく、か弱さの中の確とした強さを今作でもしっかりと披露していた。自らが狼魔に憑りつかれたことを知ったときに微笑みを浮かべながら自決の覚悟を話すシーンは、神々しくさえ見えた。
主演の米山さんをはじめとする若い俳優たちの熱演とプロフェッショナルさを融合した上質の舞台を見せてくれたK.B.S.Project。コフレリオという新しい劇場の準備と並行して駆け抜けた苦労と情熱が、千秋楽の舞台挨拶での山口さんの表情から見えた。K.B.S.の次回作、そして女神座ATHENAの新作がコフレリオで演じられることを楽しみにしたい。
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