~熱風の果て~

観劇の記録

時空警察ヴェッカーDNSデッドリーナイトシェード@渋谷アップリンク

【監督・脚本】畑澤和也

【出演】松橋ほなみ、中塚智実小坂真郷、山沖勇輝、河合龍之介、葉山レイコ、齊藤夢愛乃下未帆西条美咲亜矢乃、栞菜、坂口佳澄、渡久地梨以、真子、時乃真央、天水朝子、増田結花藤波心伴大介、かとうみゆき、渡洋史村野武範
昨年2月のクランクインの後、撮影中の震災、映画界を取り巻く環境の悪化などにより、当初の公開予定から1年遅れで陽の目を見ることになったこの作品。ここまで漕ぎつけるだけでも、並大抵の情熱ではできなかったことだろう。
会場の渋谷アップリンクは、映画館というよりは小劇場の雰囲気で、80人で満員になるような、想像以上に小さな会場だった。初日舞台挨拶には、主演のともちゃん、おっきー、藤波さん、伴さん、主題歌を歌った西内さんが登場。中国に滞在する畑澤監督不在の舞台挨拶は、ヲタ中心の観客相手にもアウェイ感ゼロのおっきーが司会者のような役回りも務め、伴さんのとりとめのない話も交えながら、あっという間の30分間。今日という機会でもなければ、生で見ることは絶対にないであろう村野さんが仕事の都合で欠席となってしまったのは残念。伴さんは、ともちゃんに対し、特撮アクション女優という、AKBでは他にいないポジションを盛んに薦めていた。
本編は、序盤からアクションシーン満載で、「ドール」たちが可憐に現れては儚く散ってゆく。のしたんもともちゃんと拳を交える役だったのか。家族愛を主題に据えながら、友情や愛情、それらと対立し統合される任務とアイデンティティヴェッカーが守るべきものは、舞台作品を含めて一貫している。時空同位体などの難解な要素もなかったので、最初から最後までスクリーンを食い入るように見ながら、その世界に没入できた。「ヴェッカー」シリーズは、昨年からの舞台版しか見たことがなかったが、アクションシーンでは映像ならではの迫力がある。特撮に分類される作品ながら特殊効果はほとんど使われていないので、生身のリアルなアクションとなっていた。
「作られた記憶」という要素は、何かの舞台で見たような感じがして、スクリーンを見ながらモヤモヤしていたところだったが、この映画にも仲間思いのドール役で出演していた栞菜さんの吉本舞台「キミハ・シラナイ」の主要要素だったことを思い出した。どちらも悲しい話だ。
畑澤監督から、「天才」と賞賛されたともちゃんは、撮影時はまだ黒髪ストレート。持ち前の甘ったるい美声で、感情的でお調子者でもある蓮役を演じていた。アクションシーンも劇場で培った体力で、華麗にこなしていた。再びその天才ぶりを発揮する機会はやってくるだろうか。
もう一人のヴェッカーであり、真の主役であるシオンは松橋さん。「パラダイスロスト」で生の演技を見たとき以上に、独特の存在感、個性が際立っていた。なるほど、彼女以上のはまり役は見つからないだろう。女性が主役の特撮ものということで、市井に生きる相手役も男性になる。サポートドロイドも男性というところを含めて、新鮮な感じがした。
ラストは、一般的に言えばハッピーエンドとは言えないかもしれないが、この作品では必然の帰結であり、テーマを貫き通す一本の矢のようなもの。「ノエルサンドレ」のパンフレットに掲載されていたヴェッカー年表には、レンとシオンの事績も掲載されていたので、この映画の核心が明かされてしまっていたのではないかと思っていたが、シオンの運命は映画で初めて明らかになるものだったので、年表を見ていても、ほとんど作品を楽しむ上での影響はなかった。その後のシオンの生き方にも興味がつながるところなので、何かの形でこの作品の続編が作られる可能性にも、少しは期待をしていたい。
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