~熱風の果て~

観劇の記録

ヱビスの王女様(劇団くりびつてんぎょう)@恵比寿エコー劇場

【脚本・演出】水野宏太

【出演】安藤清美、小日向茜、愛花ちさき、森川凛子、柿の葉なら、樹理、合志風彦、勝又悠里、坂口邦弘、琴音きなこ、松岡ゆさ、菊池聡子、奈綱郁美、川南郁也、小池主真、スカンキー中浦、藤井優果、松本淳、舟川純司、馬渡直子、西岡洋憲、松谷なみ、航灯涼、高山恵子、綾野アリス
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昨年に続き、小日向さんが客演するくりびつてんぎょうの舞台を観劇。
様々な食材と調味料が混ぜ合わされたような、味付けの濃いシーンが連続するフルコースのような作品。シナリオだけに頼らない、バラエティに富んだ華やかな演出が盛り込まれた舞台で満足感が高かった。
馴染みがあった「泣いた赤おに」がベースになっていた昨年とは違って、今年は「テニスの王子様」という全く縁のない作品が連想されるタイトルだったので、少し心配もしていたが、テニス的な要素は、卵の黄身を中華鍋で打ち合うシーンで使うというまさかの意外さ。人間と動物の境界すら曖昧になるような、何でもありの世界観がしっかりと一つの作品にまとまるのだからすごい。一般にはセンシティブな響きがある「もらわれっ子」が、最後まで邪険に扱われるような、表面的な綺麗さを排したアングラ感も、この劇団の魅力だと思う。
小日向さんは、なかなか舞台上に出てこなかったので、あまり重要な役ではないのかと思っていたら、いきなりランドセルを背負った小学生スタイルで登場し、憎々しい表情でライバル役として人を見下し、憎まれ口を叩いていく。ヒロイン役よりも、まさにこういう癖の強い役を見てみたいと思っていたので、それが存分に実現された、嬉しい配役だった。見た目と声の特徴と魅力が十分に生かされ、悩みや成長といった内面もきちんと描かれ、今までで最も彼女の魅力が生かされた舞台だったと、個人的には思う。終演後、周囲から小日向さんが演じたテンテンが可愛かったといった感想も聞こえてくるのも嬉しかった。
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シャンパンタワーが立てられない(劇団シアターザロケッツ)@中野ザ・ポケット

【脚本・演出】荒木太朗

【出演】井上貴々、北澤早紀、赤沼正一、加藤真由美、森岡宏治、飯野雅、根魏山リョージ、南名弥、林里容、渋木美沙、大橋篤、だんしんぐ由衣、網代将梧、十二月一日絵梨、すずきつかさ、松田佳子、天野きょうじ、渡辺啓太
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北澤早紀さんがメインキャストとして出演する本作。
さっきーは、キャバ嬢役だったらどうしようかと思っていたが、最初は素朴スタイルで登場。彼女の素材をそのまま生かせる役だと、安心していたら、ホストたちと同様にすっかり騙された。後半は真紅のドレス姿となって、大富豪に変身。影が薄いと自虐することしばしばのさっきーだが、決して素朴なだけではない。ステージで磨いてきた輝きを発露させる気品あふれる姿。彼女が持つ2つ魅力が引き出された、良い役で、変身に合わせて、立ち振る舞いや喋り方も変えて、役者としても難しさのある役をこなしていた。座席が前方上手寄りで、ステージ全体は観にくかったが、さっきーをずっと正面で観ることができたのは運がよかった。
舞台がホストクラブということで派手な作品になる、予感も持っていたが、人を思い遣る暖かさと前向きな明るさが底を貫く、しっかりとした哲学を持った作品だった。多くの登場人物が一回舞台に上がると終演まで退場しないので、演じる方も大変だったと思われるが、それぞれの座席で、それぞれの時間がしっかりと演じ続けられていた。虚実が激しく入れ替わり、何が真実か、最後まで明かされない部分も残されたが、そこは観客がそれぞれ想いを馳せればよいところ。普通は噛ませ犬ポジションで終始することになりがちな、だんすさん演じるキャラクターにも、しっとりとした見せ場があったのもよかった。「雨のち晴れ」では、格闘家役を演じていた天野きょうじさんは、そのルックスを生かして、フランケンになり切って笑いをもっていってしまうのがすごい。
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白きレジスタンス(私立ルドビコ女学院)@シアターグリーンBIG TREE THEATER

【脚本・演出】桜木さやか

【出演】あわつまい、西本りみ、中村裕香里、星守紗凪、安藤遥、白河優菜、緒方ありさ、さいとう雅子、広沢麻衣、藤堂美結、七海とろろ、遠野ひかる、長橋有沙、手島沙樹、小菅怜衣、仲野りおん、河合柚花、沖あすか、木村若菜、内多優、酒井栞、嘉陽愛子
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昨年3月の「シュベスターの誓い」以来、シュベスターシリーズに新たな展開を見せることとなった本舞台。学園を舞台とした陰謀は、よりはっきりとその姿を見せるようになるが、どこまで深く、大きいのか。混迷の度を増していく。
テンプルレギオンとして華麗に活躍するおなじみのメンバーから、落ちこぼれ組の1年生まで、それぞれが悩み、落ち込み、乗り越えようとする姿を余すところなく描き出す。シリーズものだからこそ可能な、群像劇としての完成度の高さ。もっとも、聖恋と来夢との強い絆を考えると、そこに揺らぎを与えるのであれば、そのきっかけとなるような伏線を敷いておくべきところ。その辺りは、2時間の中に要素を詰め込みすぎたがために、個々のエピソードが十分に描き切れていない憾みもあった。個人的には、落ちこぼれ組への共感が高くなる。少しでも役に立てるように、足を引っ張らないようにと取った行動が裏目に出たり、それでも必死に一歩でも進もうと努力したり。覚醒と慢心、そして挫折から和解の一連のエピソードは見応えがあった。
次の展開が非常に気になるところだが、見られるのは早くても1年後。まぁこさんのクララを見ることができるのは今作が最後となったように、完結する頃には、メインキャストの多くが入れ替わっているのかもしれない。それでも演者やキャラクターの魂や思いを受け継ぎながら、リリィたちの戦いは続いていく。
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最果ての星(アリスインプロジェクト)@シアターKASSAI

【脚本・演出】松本陽一

【出演】酒井萌衣、八坂沙織、新藤まなみ、針谷早織、ゆうの、渡辺菜友、千歳ゆう、山本柚月、安達優菜、栗生みな、がーな、松本奈々、梅原サエリ、黒木美紗子、田中奈月、天音、南條あかね、舞川みやこ
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デッドリースクールから、2週間ほど経過した世界の別の屋上で展開される、もう一つのサバイバル劇。デッドリーからは、バット女こと紅島さんと、ビデオカメラ女こと霧子が登場。修羅場をくぐり抜けてきた二人らしく、サバイバルの先輩格として、もはやこの世界で生きることを楽しんでいるような風格があった。
人間不信や疑心暗鬼、現実逃避といった、極限の状況の中で自然に芽生えてくる負の感情もはっきりと描き出し、考え方が異なるグループの合流もあって、緊張感の強い作品となった。美術部コンビの美しい関係性と、それを切り裂く襲撃を経ての展開には胸が痛んだ。
こちらでも世界の終わりがいつ終わるのか、光明は見えなかったが、それでもデッドリーと同様に、一筋の明るさを感じさせるラストだった。
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DOLL(劇団ハーベスト)@小劇場B1

【演出】中村公平、劇団ハーベスト【作】如月小春

【出演】加藤梨里香、高橋紗良、川畑光瑠、弓木菜生、山本萌花、広瀬咲楽、望月瑠菜、篠崎新菜、宮武佳央、葛岡有
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久保田さん、布施さんが退団し、10人体制で迎えた劇団ハーベストの第14回公演。既存作品に対して、劇団員たちが話し合いを重ねて、人間関係や人物の内面を深く掘り下げながら作り上げたステージで、演出として、劇団ハーベストがクレジットされた。
どこにでもいるような高校生たちの青春とその最期が繊細に、描かれる。こういった青春に共鳴できないのは己が年をとったせいかとも思うが、高校生の頃に見ていたとしても、やはり共感はできないだろうとも思う。青春とは美しく痛々しいもの、というのは創作の上で形作られたイメージによるところも大きいのではないだろうか。4人の少女たちの1人ずつにスポットを当てながら展開していく4部作的なストーリーには、やや冗長な感も受け、その合間に演じられる抽象的なシーンも、やや鼻につく感じは否めなかった。
この公演を最後に、弓木さん、山本さんの2名が退団。8名まで人数を減らしたハーベストは、それでも次の公演に向けて、前へ、進む。
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