~熱風の果て~

観劇の記録

Alice in Deadly School Alternative(アリスインプロジェクト)@六行会ホール

【脚本】麻草郁、【演出】松本陽一

【出演】前田希美那奈斉藤雅子加藤沙耶香金澤有希、斎藤亜美、綾乃彩、山川ひろみ、高橋明日香、遠藤瑠香、中村まい、重本愛瑠、秋山ゆずき、橋本ゆりあ、渡久山美月、宮島小百合、荻野耀子、稲森美優船岡咲
2010年10月に「Alice in Deadly School」を引っ提げて、ここ六行会ホールで産声を上げたアリスインプロジェクト。当時は、1作品のためだけのプロジェクトかと思っていたが、2年以上もコンスタントに作品を送り出し続けているのには頭が下がる。「落下ガール」を再演したFlying Tripとは異なり、キャストも作家も激しく入れ替えながらなので、役者の成長を継続的に見守るという楽しみ方はあまりない。今回のキャストは、初演で巣宮さんを演じていたあすぴーを除き、初演から総入れ替えとなった。
初演では看板を背負っているということもあってか、中塚さんの和磨会長が主役といった体裁で宣伝されていたが、今回は順当にのびゅーんコンビが主役。名前がいかにもボケた感じで、見た目のイメージからしてもボケ役の優がなあ坊さんかと終演後まで思いこんでいたら、逆だった。名前とルックスが合っていないような・・・。この劇の弱点といえば、のびゅーんコンビの漫才が絶望的に面白くないところ。タクシーネタがなくなっていたのは初演からの改善点だが、それでもアイドルキャストに演じさせるには酷な内容であることに変わりはなく、もう少し上手く笑いが取れるようなネタを与えてあげてほしかった。
和磨会長役は凛としたイメージがぴったりのまぁこさん。可愛らしい声質でありながらしっかりと感情をこめた台詞回しも含め、彼女の演技は好き。オープニングの段階から、早くも彼女が投身する場面を思い浮かべてしまい、涙が出かかった。中塚さんの和磨が生まれながらの生徒会長であるならば、まぁこさんの和磨は生まれながらのアイドル。タイプは違っても、二人とも一人の和磨会長として劇の中で生きていた。「落下ガール」やこの舞台の初演を思い出すにつけても、「天才」と称された中塚さんの演技はもっと見てみたいのだが、AKBにいる限りは、この規模の舞台で経験を積むということはもう難しいのだろう。
水貴役は斎藤亜美さん。初演の彩夢さんと比べるとミステリアスな部分は影をひそめて、気が強い一面が表に出てきていた。演技面はともかくとして、見た目では役のイメージとギャップがあった。彼女にやらせるのであれば、無理にゴスロリ風衣装にする必要はなかったと思う。絵を得意とする斎藤さんは、公式キャラブックでは6ページにわたって4コマ漫画の作画も担当。アリスインプロジェクトのグッズといえば、パンフレットよりも同人誌風のキャラブックの方が楽しみなのだ。
10期生として活動していたゆうきりんこと金澤さんは霧子役で舞台デビュー。2011年2月22日の彼女の最後のモバメは、今でも保存してある。最後だというのに脈絡なくぶっ飛んだ内容だが、その前に、彼女が卒業に当たっての心情を吐露したはずの長文モバメが検閲に引っかかったらしく結局届かなかったのは苦い記憶だ。今では別のアイドルグループで活躍する金澤さんなので、その姿が遠くにあるような、眩しいような感じに見えた。演技は無難にこなしていたという印象で、演技に個性が出てくるのはもう少し先になりそうだ。
イナリ役は山川さん。最近、高田馬場方面から足が遠のいていたので彼女の演技を見るのも久しぶりだが、今回のチケットは山川さんの名前で購入している。記憶を封印して心に傷を負ったまま世の中を冷めた目で見つめるイナリ役は、彼女にとっても新たな挑戦。ステージで演じきった後、カーテンコールで挨拶を求められると、か弱い声で「えーと・・・」「あのー・・・」を繰り返すというギャップには、彼女のことを知らない人は驚いたに違いない。「冬椿」のDVDもほしいのだが、女神座の公演もないので、なかなか機会がない。最近はチアチアもグループとしての活動が多いので、原田さんの演技を見る機会も当面はやって来ないかな。アイドルグループの一員であることに正と負の両面があることは、何もAKBに限った話でもない。
Alternativeで登場した新キャラクターが、あすぴー演じる氷鏡。初演のときは、「みんな死にます」とブログに書いて、希望をあっさり否定してしまった彼女が、その希望を映し出す氷鏡を演じるというのも不思議なもの。「彷徨のエトランゼ」のような設定が垣間見え、科学的な難解な設定で取り散らかすパターンかとも思ったが、やはり新キャラである、ASSHの中村さん演じる柏村が彼女の弱さを衝いてくれたおかげで、氷鏡の設定がより可能性を感じさせるものになった。
ストーリーでは、キャラブックの表紙にある「笑ってはいけない」が新たな設定になるはずだったが、ゾンビが笑いに反応するという設定は結局ボツになった模様。己は見ていないが、アリスインには既に「ラフィン」という笑いをテーマにした作品も既にあるようなので、ここで無理に笑いに重要な意味を持たせる設定にしなかったのは無難だと思う。
前半の、ゾンビに囲まれた中でも屋上で繰り広げられる「日常」から一転して、後半は一気に衝撃的な展開が次々と起こり、クライマックスに向けて加速していく。以後のアリスイン作品では、これほど「死」が描かれることはないので、この作品はそこでも異色。軽々しく扱ってはならないとはいえ、舞台上で描かれる「死」にはやはり強烈な印象が残る。初演のときなんて和磨会長と高森さんの死に方がトラウマになりかかった。今回はそういう心配はないが、特に高森さんの最期の場面は見ていて辛いことに変わりはない。
(以下あらすじ)
中学校の屋上で文化祭に向けて練習をする優(前田)と信子(那奈)の漫才部コンビ。そこに、映画研究会、他校の新聞部員、ソフト部員、保健委員、生徒会役員などが集まってくる。騒ぎに気づいた彼女たちが下を見ると、凄惨な光景が広がっていた。ゾンビと化した生徒が生徒を喰らっているのだ。体育館から逃げてきたソフト部の高森(遠藤)は、足を負傷した上に、逃げるために人間もゾンビもろともに体育館に閉じ込めたことで心にも傷を負っていた。生徒会長の和磨(斉藤雅)は、全校生徒に向かって落ち着くようにアナウンスを始めるが、ゾンビに襲われて腕を負傷する。ゾンビは階段を登ることができないので屋上にいれば襲われる心配はない。しかし、ゾンビに噛まれた人間が発病することで、ゾンビの活動範囲は次第に広がっていく。放送室で腕を噛まれていた和磨は、自ら焼却炉に火を付け、その中に身を躍らせ自決する。化学部は強力な爆弾を作ったところで全滅、吹奏楽部は最期の演奏を行った。屋上の生徒たちは化学部の爆弾を屋上まで運び込むが、その過程で何人かの生徒が犠牲になってしまう。信子も背中を噛まれ重傷を負ってしまった。ついに脱出を決断する生徒たち。爆発の隙に駅前のショッピングモールまで移動する計画だが、優は、信子を置いていくわけにいかないと、二人で屋上に残ることを決断する。足を噛まれていた高森は、爆発に身を曝して自決し、その間に皆を逃がす。屋上では、信子が最後の力を振り絞って、優を食べてしまわないうちにと、自ら階下へと下りていった。ひとり残された優の前に、さっきまで屋上にいた生徒たちが楽しそうに笑う声が聞こえてくる。和磨は以前からの夢であったというアイドルの衣装で登場。そして、生徒たちは優に励ましと別れを告げて去っていく。そして、信子もまた優の前に現れ、去っていった。いくつかの夜が過ぎた屋上には、ザックとロープを背負い、すっかりたくましくなった優の姿があった。そして彼女は今日も外の世界へと出かけていくのだった。