~熱風の果て~

観劇の記録

旋律テロル(LIPS*S)@新宿村LIVE

【演出・脚本】吉田武寛

【出演】北澤早紀、中谷智昭、槙田紗子、増山祥太、梶礼美菜、風間庸平、河合国広、高木裕希、恵畑ゆう、河津未来、後藤菊之介、木内海美、こうのゆうか、迫田萌美、植村夏葵、高野美幸、山﨑里紗、土田若菜、木村弥素子、波崎彩音、中田美優、三栗千鶴、石井仁美、藍羽舞、ko-suke、伊藤征哉、星野日菜、吉村萌、keita、大竹真由子、綿貫安由美
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昨年8月の「花嫁は雨の旋律」以来となる、さっきーこと北澤早紀さんの出演舞台を5回観劇。初舞台で示した舞台女優としてのポテンシャルからすれば、再び舞台に上がる姿を見られる時は遠くないことを確信していたが、彼女が夢と公言していた、ミュージカルへの出演の機会が、座長という大役を伴ってこれほど早くやってくるというのは、嬉しい驚きだった。それも、待つのではなくて、自らオーディションに挑んで勝ち取った成果と聞けばなおさらだった。
初挑戦のことが重なっての重圧に悩んで弱音を吐いたり、立ち直っては「昨日の自分を殺したい」という、およそさっきーらしくない鬼気迫る発言が飛び出したりといった中で初日の幕は開いた。彼女が演じるエイミは、家族を奪われた復讐の念に駆られ、旋律の奴隷となって笑顔と感情を封印し、テロを重ねるという役。声を低く抑えながらの演技で、普段の彼女が見せることのない感情や表情が見られるのも舞台ならではだが、なかなか大変だったはず。第1幕の幼少時代に見せる無垢な笑顔との対比が、魔女として生きる道を選んだ後の痛々しさを強くする。「殺してやろうか」というセリフも飛び出すエイミ。前出の過激なつぶやきをしたときには、既に役が乗り移っていたのだろう。
ミュージカルの主役なので、全編にわたって、様々な感情が、ソロ、掛け合い、ハーモニーと、様々な歌に乗せて伝えられる。「ウインブルドン」などで歌唱力の片鱗を見せたことはあったが、さっきーの歌声を、これほど多く、しかも生で聞く機会というのは初めてだった。初日こそ音程の乱れや、高音の伸びが今一つという印象を受けたが、中谷さんが短期間での成長に眼を瞠るほど、舞台上でのパフォーマンスに関しては成長期にある彼女なので、本番期間中にも、感情を乗せる、声量を出す、音程を安定させて声を伸ばすといったあらゆる面で、歌がどんどん良くなっていった。「花嫁は雨の旋律」からの縁をつなぎ、新たな出会いを得て、きっとまた次につながっていくだろう。ラクウェル風に言うならば「あなたは演じるべき人だ」。AKBの肩書きが外れたとしても・・・
設定や展開、登場人物たちの行動には、多少の粗さや練り込み不足を感じる点もあった。神、人、国家のいずれも信じず、いずれにも屈服することを拒み、平和のために悪を引き受けるというラストのエイミの選択は、確かに「面白い」のだが、2時間見てきての結末としては、狐につままれたような感覚に陥ってしまった。その後のエイミの生き方がどういうものになるのか、しばらく考えさせられそうだ。
若手の出演者が中心の中で、ミュージカルとしてどこまでのレベルになるのか、見る前は多少の疑いも持っていたが、華やかに、重厚に、コミカルに、しっかりとしたプロのパフォーマンスが繰り広げられた。CDにはやはり所属の問題でさっきーの歌声が収録されないというのは残念だが、テーマソングに兵士たちの歌に、謎の男の歌に闇クラブの歌にラクウェルの歌・・・。どれもメロディラインだけでなく、舞台上で演じた役者の動きや表情も思い出せるような、心に残る楽曲たちだ。この作品を見て、歌が持つパワーや楽しさを久しぶりに思い出させられた。
登場人物の中では、悪役の位置に立つ高杉が印象に残っている。手段を誤るところはあっても、陰湿さはなく、信念と人情、弱さも併せ持った人物で、敵役ではあっても、悪役と呼ぶのは憚られる。innocentとguiltyのダブルキャストたちは、シングルキャストも巻き込んでそれぞれの個性を見せてくれたし、兵士から市井の人まで様々な役を入れ替わり立ち替わりでこなしたアンサンブルの役者たちの活躍ぶりも、この作品には欠かせないものだった。
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