~熱風の果て~

観劇の記録

明日の君とシャララララ(劇団ハーベスト)@下北沢 小劇場B1

【演出】中村公平【脚本】小林佐千絵

【出演】葛岡有、篠崎新菜、久保田紗友、布施日花梨、加藤梨里香、高橋紗良、山本萌花、弓木菜生、前澤航也、濱田龍司、冨田裕美子、長峰みのり
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劇団ハーベストの第13回公演は、キャストを大きく入れ替えての再演という「君シャラ」。3年前の第7回公演は見ていないので、鉄家を覗くのは今回がお初。春らしい暖かさを存分に感じられる良い作品で、また見たくなって追加でチケットを買って複数回見ることになった。
二面舞台である小劇場B1のつくりを最大限に生かして、舞台となる鉄家の居間を再現していて、縁側は客席の目の前。本当に鉄家の生活を覗いているような気になるような近さだった。出演していないメンバーも含めて全員がスタッフにもなって作り上げるハーベストのやり方は今回も健在で、グッズ担当と前説担当を代わる代わる務めていた。くしゃみとかトイレの話題で、全く場を持て余すことなく親近感あふれるトークを繰り出し続ける川畑さんはさすがだ。
亡くなった叔父さんが娘の結婚式の日に現れるという、現実離れした設定を用いつつも、繰り広げられるのは特別な日ではあっても何気ない日常。桜というありきたりな小道具も、暖かさと華やかさ、寂しさと切なさを舞台に映し出していた。登場人物たちには大人にも子供にも幽霊にも何かしら抱えているものがあって、それが一つづつ解けていくという、ハーベストらしい作品だった。役としての個性と、演じている人のパーソナリティとしての個性が溶け合って、登場人物一人一人が生き生きと描かれていた。布施さんのヤンキーキャラなんかは、もはや様式美の領域だ。たかさらさんが演じた、霊感の強い群馬人・泉ちゃんのキャラも強烈で何回も笑わせてもらった。
主役と言える「のあ」を演じるのは、昨年12月の特別公演では「あー様」を演じていた葛岡有さん。あー様とはまた違った種類の無邪気さがある役だが、彼女の瞳や表情には本当に邪気が感じられない。素直で思いやりがあって、人間関係のごたごたに対しても本質を見失わずに静かに見守るのあの微笑みには、ものすごい癒しパワーがあった。こうなると、次は違ったタイプの役も見たくなってくる。
生ものの舞台らしく、様々なハプニングも起こったが、それを逆手にとってリカバーしつつ盛り上げることすらできるのが、今のハーベストの実力とチームワーク。引き戸が外れれば父親を呼ぶというのはなるほど普通の家庭の反応だろうし、お客を案内するのは予定の人でなくてもそこにいる人がすればよい。見ていた中でいちばんのハプニングは、篠崎さん演じる里香が感情を爆発させる場面で鼻から出血してしまったところ。出端での出血で、台詞も多く言わなければならない中でハラハラさせられたが、ボックスティッシュを差し出したり、血が垂れてしまった床を演じながら拭いたりと、問題なく乗り越えていた。篠崎さんの、感情を乗り移らせての熱演ぶりが分かるシーンでもあった。
異色の登場人物が、加藤梨里香さんが演じた、黄泉の国の国営企業「輪転」の社員という設定の石田くん。コートと帽子の中原中也スタイルで、少し斜に構えた立ち姿が決まっていた。彼の「明日の君とシャララララ」は、切なく、強く、心に訴えかける力があった。スピンオフとして1公演だけ演じられた「最後は君とシャララララ」は見ることができなかったが、そこで石田くんが生きていた頃のことや、鉄家との関わりも語られたのだろうか。
本公演にしては、メンバーの出演が8人と少なめではあったが、本公演といって、劇団員全員が揃うということはないのが劇団では普通のこと。本番中の広瀬さんをはじめ、メンバーたちの外部の舞台への出演の機会は着実に増えているのは、喜ぶべきことだ。
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