~熱風の果て~

観劇の記録

この泥棒ネコッ!(劇団ハーベスト)@アトリエファンファーレ高円寺

【演出】中村公平【作】益永あずみ

【出演】高橋紗良、弓木菜生、篠崎新菜山本萌花望月瑠菜、井上結愛、川畑光瑠、葛岡有
f:id:JoanUBARA:20171223223721j:plain
2014年3月の第5回本公演以来、かなり久しぶりに劇団ハーベストの公演を観劇。この間、リーダーの青山さん、松永さん、途中加入の鈴木さんの3人が退団し、井上さん、葛岡さんの2人が新たに加入と、時は流れていた。
なかなか全員揃っての公演がなかったり、音楽が主題になった作品の割合が高かったりと、ややマンネリ感を感じてしまっていたのが、遠ざかってしまっていた主な理由だが、今回は、落語に挑戦という目新しさや、5年もの時間を経て、ニイナ改め篠崎新菜さんが復帰するという楽しみもあって、年末のスケジュールの制約もある中で、23日の2公演を観劇。
観劇のために高円寺を訪れるのは初めて。前説だけではなく、モギリ、呼び込み、グッズ販売、トイレチェックまでメンバーが務める手作り感と、距離感の近さにホッとする。今回は特別公演ということで、川畑さん、葛岡さんの2人が固定キャストで、残りの3つの役は、プロデューサーの宮武さんなど9人がトリプルキャストで演じるという、一風変わったキャスティングだった。
旗揚げ公演から僅か半年余りで脱退の道を選んだ、当時中学1年生だった篠崎さんも高校3年生。彼女の脱退宣言を赤坂で聞いた身として、今回の復帰第1回目の公演は特別な思いがあった。顔の輪郭はだいぶシュッとした感じになっていたが、当時の面影を濃く残しつつ、美少女へと成長していた。前説では緊張のせいか声が出ていなかったので心配だったが、幕が開くと女優の血が目覚めたのか、インテリタイプの社員を落ち着いて演じていた。個性あふれるハーベスト軍団の中にはいないキャラクターなので、彼女の復帰は大きい。仲居さんのジェスチャーに合わせた噺かたも上手かったので、今日は見られなかったが彼女が落語をやれば、かなりできるのではないだろうか。
橋詰遼さんの「お手柄ドロボー」の唄に乗せたコントからスタートするストーリーは、トリプルキャストの3人の方が中心。たかさらこと高橋紗良さん演じる幸子は、旗揚げ当時であればオカドミキさんが演じるような、噛ませ犬キャラ。こういう役を劇団員がしっかりとこなせるようになっているというところに積み重ねた時間の確かさを感じる。タイトルにある「泥棒ネコ」キャラの究極の狡賢く可愛らしい美久を演じた弓木さんは、加入当初は目立った印象はなかったが、今作では嫌な女を猫なで声とあざとい仕草で魅力たっぷりに演じていて、インパクトとしては強烈だった。篠崎さん、高橋さん、弓木さんの3人の普段の関係性も、劇中で演じた役に近いということで、それぞれがはまり役だった。川畑さんは、ひっつめ髪に瓶眼鏡の仲居さん役で、なかなか誰が演じているのか分からなかったが、彼女と分かれば、実にらしい。無邪気なおバカキャラの「あー様」を演じた葛岡有(ある)さんのことは、今回は初見だったが、愛嬌たっぷりの演じっぷりと表情の豊かさは、何だか初めてとは思えないような親しみを感じた。彼女のことは、あー様ともども印象に強く残った。
ラストの落語シーンは、日替わりでトリプルキャストの中から演じられる模様で、昼は、高橋紗良さんが「初天神」を演じた。なるほど、落語は究極の一人芝居でもあるわけだ。「初天神」の落語のオチがいまいちはっきりしなかったのと、その後の舞台作品としてのオチも今一つで、締めはややあっさりした感じにはなってしまった。終演後のトークショーは、5年ぶりに復帰の篠崎さんと、1年間のアメリカ留学から帰ってきた山本さんの「おかえりトーク」。様々なものを受け入れられるようになった二人の変化と成長を感じられるアフタートークだった。
夜公演は、トリプルキャストが総入れ替え。前説から相方の望月さんや客席に退かれるのも厭わずにマイペースでトークを繰り広げる山本さんの人懐こい笑顔が懐かしい。望月さんは期待どおり美久役だった。昼の3人と比べると、より現実にいそうな3人のキャラクター。こちらも3人ともはまり役だった。落語パートも望月さん。夜公演は彼女を目当てにしていたので、着物で落語を演じる姿を見られたのはラッキー。演目は「猫の皿」。劇中の仲居さんのアドバイスどおり、茶店の主人をお婆さんにして演じられた。道具屋との声色の違いはもう少しはっきりさせた方がよかったかなとは思ったが、癒しボイスを活かして、ゆったりと噺が進み、オチは「初天神」よりも綺麗だった。
アフタートークでは、劇中歌の「お手柄ドロボー」を作曲した橋詰さんが登場し、ボーカルの広瀬咲楽さんと組んで、3曲が披露された。この公演には出演しない布施さんもステージに上がって、トークメンバーと一緒に、壇上の畳に正座しながら聞くという少しシュールな絵柄だった。
人気が沸騰するというわけではなく、小劇場での公演を続けるハーベストだが、経験は彼女たちを確実に成長させていることが確かめられた今回の公演。これからの活動には、改めて注目したい。
【⇒これまでの観劇作品一覧