~熱風の果て~

観劇の記録

紛れもなく、私が真ん中の日(月刊「根本宗子」)@浅草九劇

【作・演出】根本宗子

【出演】山中志歩、藤松祥子、城川もね、尾崎桃子、高橋紗良、小林寛佳、岡美佑、中山春香、福井夏、大竹沙知、川村瑞樹、近藤笑菜、伊藤香菜、チカナガチサト、森桃子、比嘉ニッコ、安川まり、李そじん、椙山さと美、優美早紀、増澤璃凛子
f:id:JoanUBARA:20180506213132j:plain
最近、やや演劇を観ることへの情熱が薄れていることを感じつつもあったので、劇団ハーベストのメンバーの出演などを縁として、いろいろなジャンルの作品を見てみようと観劇を決めたこの舞台。根本宗子さんの名前は知らなかったが、自らをモデルとしたインパクトのあるフライヤーのビジュアルや自らの名を冠したプロジェクト名に加え、オールナイトニッポンのパーソナリティも務めているという情報からは、その筋ではかなり知られる気鋭の劇作家なのだろうと想像できた。400人を超える応募者から選ばれた21人の女性俳優たちが繰り広げる物語を見るために、池袋から浅草行きのバスに乗ること50分余り、花やしきそばの九劇に初めて足を踏み入れた。
かなりのスピードでチケットが売れていて、行ける日は指定席は完売となっていたので、辛うじて確保できた最前ベンチシートからの観劇。入場して、舞台上に既に出演者と思しき、思い思いの衣装に身を包んだ11人の女性たちが姿を現している。観客に頓着する風もなく、ゲームや会話に興じる人たちを眺めながら開演を待つこと30分、開演時間になるや、そのまま本編になだれ込むという、初めて見る斬新なスタイルには驚かされた。
ある中学生の女の子の誕生日パーティを舞台として、クラスメイトたちの残酷な優しさ、友達思いの身勝手さ、うわべの関心という無関心、真実から逃げる無責任さなどが、同時進行的に容赦なく抉り出されていく。謎めいた存在として舞台に存在した「チャイナばばあ」は、こうした無関心や異端排除の部分を象徴しているかのようだった。
よくありがちなように、感情の爆発で場を収めるようなことはなく、何も解決されないまま、爆発は心を傷つけながら次の爆発を呼び、ついに舞台装置の物理的な破壊に至るまで止むことはない。劇中から10年の時を経たラストシーンでも、一筋縄の解決には導かれなかったが、変わるものと変わらないもの、人間の本質的な思考や行動の複雑さを現した、余韻のある終わり方だった。
多くの登場人物たちが入り乱れ、実際に取っ組み合いもあり、精神力も体力も絞り出して演じられる、熱量の高い舞台はゴールデンウィークを挟んで2週間のロングラン。主演の山ちゃん役の山中さんが一時体調不良で休演して根本さんが代役出演するといった出来事もあったようだが、5月4日には無事に復帰していた。主演の見た目の個性もシナリオに乗せた、オリジナルらしい作品だった。
ハーベストから出演のたかさらさんは、友達思いの言葉と行動が逆にナイフのように相手の心を傷つけてしまうこともある直情的な役。目をいっぱいに見開いて表情も感情も豊かに、恥を捨てて、役として舞台上に生きていた。
【⇒これまでの観劇作品一覧

ザ・エレベーターホール(K.B.S.Project)@コフレリオ新宿シアター

【演出・脚本】山口喬司

【出演】山川ひろみ、木本夕貴、栁川瑠衣、山口喬司、森田猛虎、久保早里奈、中野将樹、森大成、白石恭平、工藤優希、近藤麗音、ジョセフ運生、菅ノ又北都、鈴木咲稀、西川諒多、西田有里、メクダシ・カリル
f:id:JoanUBARA:20180422215104j:plain
山口喬司さん主宰のK.B.S.Projectの記念すべき20作目。10年以上にわたってジャンルを問わない作品をつくり続け、劇場で上演し続けるということは並大抵のことではない。作品の質や笑いの要素に関しても心地よく、安心して見ることができる。これまでは20分の4しか見ることができていないが、これからも続いていくという山口さんの挨拶を聞いて安心した。
主演の山川さんも、K.B.S.の第6作から積み重ねたキャリアはちょうど10年。謙虚な姿勢やフレッシュさを失うことなく、確かな演技力を見せる彼女は、もはやK.B.S.の申し子のような存在だ。これまでヒロイン的な準主演ポジションの役を見ることが多かったが、今回は主役で、とにかくよく動き、喋り、感情も表情も変わる。ひとつの作品の中でこれほど様々な面が見られるのは珍しいが、引き出しの多さに感服させられもした。
小劇場のセットとは思えないような精巧なエレベーターの造形の前で、場の転換を一度も行わずに、扉が開いては閉じ、人が乗り込んでは降りと、息つく暇ないスピード感で劇が進行していく。扉が開くタイミングをずらしたり、死角をつくって人物同士をすれ違わせたりと、2台のエレベーターが効果的に使われていた。
森田猛虎さん演じる警備員は、台詞はほとんどないにもかかわらず、動きや表情に味があって、何もないときでも、つい警備員室の方を見たくなってしまう。耄碌しているかのような警備員が、最後にしゃっきりとして大仕事をやってのけるという展開は、意外性と暖かみがあった。ひと世代違う役者と共演するようになったことに感慨深そうな森田さんだったが、中野さんや森田さんのようなベテランの安定感と、二役を演じ分けて貫禄も出てきたジョセフ運生さんのような中堅、さらには若手の役者たちのパワーの融合が、K.B.S.の魅力になっている。今回はそこにメクダシ・カリルさんのような飛び道具も加わり、登場人物一人一人のはっきりとした個性と、役者の個性が融合して、バラエティあふれる舞台空間となっていた。
【⇒これまでの観劇作品一覧

FINAL JUDGEMENT(東出有貴プロデュース)@座・高円寺2

【演出・脚本】東出有貴

【出演】宮元英光、熊谷知花、西村信彰、東出有貴、四條真悟、夏目愛海、室井一馬、白石みずほ、國友久志、阿佐美貴士、小田あさ美、藍菜、菅野勇城、齊藤和史、波瀬章悟、小松詩乃、青柳伽奈、福田直也、大見魁冴
f:id:JoanUBARA:20180422214122j:plain
初入場となる座・高円寺でテロリストと警察・犯罪者連合との闘いを描くアクション活劇を観劇。
プロデューサーの東出さんを中心に、射程の短い武器や徒手での、スピード感あふれるアクションが随所で繰り広げられた。派手な武器や効果音を使っての殺陣のような分かりやすい華やかさがあるというわけではない上に、難易度は高いと思われるが、きめ細かな動きは見応え十分だった。女性キャストの中では、非情な犯罪者を演じた白石みずほさんの、棒を使っての戦闘シーンの切れ味鋭い動きに目を奪われる。戦闘シーン以外でも、歩き方や喋り方にも独特の個性を付け加えて、雰囲気のある役作りが見事だった。
3週間前の「君サガ」ではこれでもかというくらいに折檻される役だった夏目愛海さんは、テロリスト役として、今回は逆に殴って蹴って斬ってと、初めて本格的なアクションに挑戦。運動神経は良い方とは言えない彼女だが、なかなか良い蹴りを繰り出していて、表情にも充実感があふれていた。
救いが全くないラストは、予定調和のハッピーエンドに安易に持っていくよりは好感が持てる。ただ、記憶を失ったテロリストを殺すために、3年間、親友として、恋人として付き合ってきた兄妹との関係性は、もう少し描きようはあったのではないかと思う。復讐という目的を秘めていたとはいえ、純粋でお調子者の好青年となっていた相手と親しく時間を過ごした3年間は、互いの心に何らかの変化を呼ばずにはおかないはず。あえて非情なシナリオに徹したのかもしれないが、そこの部分の心の揺れや迷いといったものが少しでも描かれていれば、意外性も十分だった結末の悲劇性、もっと言えば作品としての完成度はより高まったようにも思う。
東出さんが大阪出身ということもあってか、重たいストーリーにもかかわらず、吉本的なノリのお笑いシーンが多く挟まる。スパイスとしてこういう要素を入れるのはありだとは思うが、さすがに多すぎて、客席へのサービス過剰のようにも感じてしまった。
【⇒これまでの観劇作品一覧

関連記事

kittens.hateblo.jp

LINK(funfair)@シアターモリエール

【演出】宮元多聞【脚本】江頭美智留

【出演】木根尚登、山本萌花、大友恵理、阿部みさと、清水ひとみ、坂本七秋、蝶羽、山口芙未子、AMI、川副はるか、青木隆敏、望月瑠菜、裕太、矢原加奈子、吉村京太、柿原裕人、小松さら、五十里直子
f:id:JoanUBARA:20180422203825j:plain
いつもとは少し毛色の違う作品も見てみようと、3週間前のハーベスト公演をきっかけに観劇したfunfairの旗揚げ公演。
3つのショートストーリーによって、殺人のリンク、循環を描き出すという作品。ラストが冒頭のシーンに循環したときに見える3つの事件がつながった全体像は、意外性は決して大きくなく、一つの大きな絵が眼前に現れるということはなかった。エピソード1の「殺意」での、松本教授を演じた青木さんの狂気の演技は、劇場の空気を凍らせる迫力があったが、その空気がエピソード2や3に上手くつながらなかったのは惜しまれる。純粋さゆえに犯される罪は、美しくも哀しかった。エピソード3の桐野明日香は、男性の役者が演じているものとばかり思って見ていたが、演じていたのは蝶羽さんという女優さん。独特の存在感を発揮していた。
要領が悪く気は弱いが人間味にあふれる刑事を演じた主演の木根さんのことは、TMネットワークの一員として、また、TBSラジオでやっていた「ウツと木根君」のパーソナリティや、NHK-FMでラジオドラマとしても放送された「夢の木」の原作者として記憶していた。約25年前のビジュアルしか知らなかったが、舞台に登場するとやはり一目で木根くんと分かる。劇中でサングラスをかけて、「懐かしいなぁ」とつぶやくというファンサービスもあった。
ハーベストの主宰である山本さんは、エリート刑事役。スーツ姿が絵になる。アメリカ留学の成果をさっそく発揮して、英語で部下の木根くんを叱り飛ばすシーンをスマートに演じていた。
【⇒これまでの観劇作品一覧

明日の君とシャララララ(劇団ハーベスト)@下北沢 小劇場B1

【演出】中村公平【脚本】小林佐千絵

【出演】葛岡有、篠崎新菜、久保田紗友、布施日花梨、加藤梨里香、高橋紗良、山本萌花、弓木菜生、前澤航也、濱田龍司、冨田裕美子、長峰みのり
f:id:JoanUBARA:20180401215009j:plain
劇団ハーベストの第13回公演は、キャストを大きく入れ替えての再演という「君シャラ」。3年前の第7回公演は見ていないので、鉄家を覗くのは今回がお初。春らしい暖かさを存分に感じられる良い作品で、また見たくなって追加でチケットを買って複数回見ることになった。
二面舞台である小劇場B1のつくりを最大限に生かして、舞台となる鉄家の居間を再現していて、縁側は客席の目の前。本当に鉄家の生活を覗いているような気になるような近さだった。出演していないメンバーも含めて全員がスタッフにもなって作り上げるハーベストのやり方は今回も健在で、グッズ担当と前説担当を代わる代わる務めていた。くしゃみとかトイレの話題で、全く場を持て余すことなく親近感あふれるトークを繰り出し続ける川畑さんはさすがだ。
亡くなった叔父さんが娘の結婚式の日に現れるという、現実離れした設定を用いつつも、繰り広げられるのは特別な日ではあっても何気ない日常。桜というありきたりな小道具も、暖かさと華やかさ、寂しさと切なさを舞台に映し出していた。登場人物たちには大人にも子供にも幽霊にも何かしら抱えているものがあって、それが一つづつ解けていくという、ハーベストらしい作品だった。役としての個性と、演じている人のパーソナリティとしての個性が溶け合って、登場人物一人一人が生き生きと描かれていた。布施さんのヤンキーキャラなんかは、もはや様式美の領域だ。たかさらさんが演じた、霊感の強い群馬人・泉ちゃんのキャラも強烈で何回も笑わせてもらった。
主役と言える「のあ」を演じるのは、昨年12月の特別公演では「あー様」を演じていた葛岡有さん。あー様とはまた違った種類の無邪気さがある役だが、彼女の瞳や表情には本当に邪気が感じられない。素直で思いやりがあって、人間関係のごたごたに対しても本質を見失わずに静かに見守るのあの微笑みには、ものすごい癒しパワーがあった。こうなると、次は違ったタイプの役も見たくなってくる。
生ものの舞台らしく、様々なハプニングも起こったが、それを逆手にとってリカバーしつつ盛り上げることすらできるのが、今のハーベストの実力とチームワーク。引き戸が外れれば父親を呼ぶというのはなるほど普通の家庭の反応だろうし、お客を案内するのは予定の人でなくてもそこにいる人がすればよい。見ていた中でいちばんのハプニングは、篠崎さん演じる里香が感情を爆発させる場面で鼻から出血してしまったところ。出端での出血で、台詞も多く言わなければならない中でハラハラさせられたが、ボックスティッシュを差し出したり、血が垂れてしまった床を演じながら拭いたりと、問題なく乗り越えていた。篠崎さんの、感情を乗り移らせての熱演ぶりが分かるシーンでもあった。
異色の登場人物が、加藤梨里香さんが演じた、黄泉の国の国営企業「輪転」の社員という設定の石田くん。コートと帽子の中原中也スタイルで、少し斜に構えた立ち姿が決まっていた。彼の「明日の君とシャララララ」は、切なく、強く、心に訴えかける力があった。スピンオフとして1公演だけ演じられた「最後は君とシャララララ」は見ることができなかったが、そこで石田くんが生きていた頃のことや、鉄家との関わりも語られたのだろうか。
本公演にしては、メンバーの出演が8人と少なめではあったが、本公演といって、劇団員全員が揃うということはないのが劇団では普通のこと。本番中の広瀬さんをはじめ、メンバーたちの外部の舞台への出演の機会は着実に増えているのは、喜ぶべきことだ。
【⇒これまでの観劇作品一覧