~熱風の果て~

観劇の記録

君よ叫べ、其ノサガノ在ルガ儘ニ(ASSH Annex)@サンモールスタジオ

【演出・脚本】松多壱岱

【出演】小栗諒、瀬戸啓太、夏目愛海、門野翔、持田千妃来、紅葉美緒、花岡芽佳、新木美優、一条龍之介、丸山雷電、南千紗登、ヒロヤ、高橋茉琴、菅本いくみ、小倉江梨花、田中宏輝、梅原サエリ、石原麗、渡井瑠耶、大田早紀、廣野凌大、梅田祥平、相原美月、熊谷里音、駒江由香、増田悠那
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小劇場でのオーディション開催型の企画として立ち上げられたASSH Annexの第1弾は、ASSHの定番となっている白狐丸シリーズ。
このシリーズは、唯一、2011年に演じられた「白キ肌ノケモノ」を見ていて、DVDも持っている。自らの出自と運命に悩む白狐丸の生き様が胸を打つ良作だった。今回の「君サガ」は、物語世界の時系列では、「白キ肌ノケモノ」の次に当たる作品で、土蜘蛛との戦いや親兄弟との因縁とその結末も、粗筋として語られていた。親から捨てられた白狐丸が寺から出ることになった経緯は、設定が反倫理的すぎるということなのか、変更が加えられていた。
白狐丸の苦悩への共感は、自ら悩んだ結果として、もう一人の自分の悪魔の囁きとの葛藤が描かれた「白キ肌ノケモノ」の方が深かった。今作の白狐丸は、過去に受けた仕打ちや運命への悩みに付け込まれた部分はあったにしても、催眠術という外からの力によって我を失う設定だったので、自分との闘い、相克という部分は弱かった。復讐の連鎖、敵役が敵となるべき理由といった深みの点からも、作品自体への共感、衝撃は「白キ肌ノケモノ」には及ばなかった。敵役も、土御門や逸見、永山は権力欲にまみれたただの野心家たちなので、復讐の怨念を背負っていた土蜘蛛のような、共感できる部分は少なかった。逸見が玉依にあれほど依存しながらも自分をコントロールできない原因というのは、これまでの人生の中に必ずあるはずなので、そこを仄めかしてもらえれば、より深みは増したように思う。
自分は登場人物が葛藤するシーンが好きなので、今作では紅葉美緒さん演じる烏摩勒伽が毘陀羅を射るシーンの悲しみを湛えた表情とか、尸鬼が最後の自我を振り絞って自決したときの微笑みが特に印象に残った。
今回のお目当ては、初めてヒロインを務めることとなった夏目愛海さん。夫である逸見から理不尽な暴力を受け続け、耐え忍ぶ玉依は、見ているのも辛い役だった。7発殴られて、1発足蹴にされて。耐える中でも芯の強さは折れることはなく、子を思う母の強さは、序盤のか弱い声音との対比で十分に表現できていた。ヒロインとしては、出番が限られていて、暗い場面が多かったので、見ている方としては不完全燃焼だったが、後のタマキ役での笑顔に救われた。しかし、現代的な感覚で言えば、いくら子供がいても妊娠していても、DV夫からは何を措いてもすぐに離れるべきで、子供のために耐えて一緒にいることは、強さとは言えないんだけど。
玉依の17年後を演じた高橋茉琴さんは、昨年、3つのゴブさん作品でお目にかかっていたが、三味線を弾く姿を見たのは初めて。三味線の音色は、この舞台の世界観にぴったりで、オープニングで物語の世界に観客を引き込む魅力があった。表現される物語の中心で座って、撥を叩く姿は美しかった。玉依が仇討ちを果たしたいという思いは痛いほど分かるが、タマキが生きていたことで気持ちを収められるのであれば、彩葉を仇討ちの理由に持ち出したことや、一時は親子3人で穏やかに過ごしていたこととは整合が取れない気はした。
「白キ肌ノケモノ」では、磯貝龍虎さんが演じていた外道丸役は、瀬戸啓太さん。昨年、「ファントム・チューニング」で観たときは、表情をほとんど変えないクールな敵役だったが、今作では様々な表情が見られた。吠丸の気絶棒で殴られて舌を出して倒れるシーンや、お約束のゲドちゃん心の叫びなど、お茶目な面と、強さと格好良さの両方を存分に舞台で発揮していて、演技の幅の広さに感心させられた。
踊り子役の新木美優さんは、アンドロイドとして迫力のあるアクションを見せていた1年前の「イマジカル・マテリアル」以来。今回は踊りに片手をついての宙返りなど、軽やかに舞うアクション。華やかな衣装に身を包んで、表情も大げさに、大きな口を開けたりと、楽しそうに演じていて、新たな魅力に気づくことができた。
「白キ肌ノケモノ」にも登場した女剣士・和泉は、ちーちゃんこと持田さん。芸能活動が長いとはいっても、まだ20歳であどけなさも残る。それでいて、一人で3人、4人を相手に二刀流まで使っての鮮やかな太刀捌きはお見事。微妙な女心の揺れを表現する表情には、大人の顔を見た。
荼毘役のASSH所属の花岡さんは、とにかくパワフルで、大先輩の紅葉さんを振り回すほどの怪演。万人に受け入れられるタイプの演技ではないかもしれないが、恐ろしい天才を感じた。どこかで見つかれば、5年後くらいにはテレビで活躍している姿が見られても不思議ではない。これで3月まで高校生だったというのだから驚きだった。
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