~熱風の果て~

観劇の記録

君よ叫べ、其ノサガノ在ルガ儘ニ(ASSH Annex)@サンモールスタジオ

【演出・脚本】松多壱岱

【出演】小栗諒、瀬戸啓太、夏目愛海、門野翔、持田千妃来、紅葉美緒、花岡芽佳、新木美優、一条龍之介、丸山雷電、南千紗登、ヒロヤ、高橋茉琴、菅本いくみ、小倉江梨花、田中宏輝、梅原サエリ、石原麗、渡井瑠耶、大田早紀、廣野凌大、梅田祥平、相原美月、熊谷里音、駒江由香、増田悠那
f:id:JoanUBARA:20180401203032j:plain
小劇場でのオーディション開催型の企画として立ち上げられたASSH Annexの第1弾は、ASSHの定番となっている白狐丸シリーズ。
このシリーズは、唯一、2011年に演じられた「白キ肌ノケモノ」を見ていて、DVDも持っている。自らの出自と運命に悩む白狐丸の生き様が胸を打つ良作だった。今回の「君サガ」は、物語世界の時系列では、「白キ肌ノケモノ」の次に当たる作品で、土蜘蛛との戦いや親兄弟との因縁とその結末も、粗筋として語られていた。親から捨てられた白狐丸が寺から出ることになった経緯は、設定が反倫理的すぎるということなのか、変更が加えられていた。
白狐丸の苦悩への共感は、自ら悩んだ結果として、もう一人の自分の悪魔の囁きとの葛藤が描かれた「白キ肌ノケモノ」の方が深かった。今作の白狐丸は、過去に受けた仕打ちや運命への悩みに付け込まれた部分はあったにしても、催眠術という外からの力によって我を失う設定だったので、自分との闘い、相克という部分は弱かった。復讐の連鎖、敵役が敵となるべき理由といった深みの点からも、作品自体への共感、衝撃は「白キ肌ノケモノ」には及ばなかった。敵役も、土御門や逸見、永山は権力欲にまみれたただの野心家たちなので、復讐の怨念を背負っていた土蜘蛛のような、共感できる部分は少なかった。逸見が玉依にあれほど依存しながらも自分をコントロールできない原因というのは、これまでの人生の中に必ずあるはずなので、そこを仄めかしてもらえれば、より深みは増したように思う。
自分は登場人物が葛藤するシーンが好きなので、今作では紅葉美緒さん演じる烏摩勒伽が毘陀羅を射るシーンの悲しみを湛えた表情とか、尸鬼が最後の自我を振り絞って自決したときの微笑みが特に印象に残った。
今回のお目当ては、初めてヒロインを務めることとなった夏目愛海さん。夫である逸見から理不尽な暴力を受け続け、耐え忍ぶ玉依は、見ているのも辛い役だった。7発殴られて、1発足蹴にされて。耐える中でも芯の強さは折れることはなく、子を思う母の強さは、序盤のか弱い声音との対比で十分に表現できていた。ヒロインとしては、出番が限られていて、暗い場面が多かったので、見ている方としては不完全燃焼だったが、後のタマキ役での笑顔に救われた。しかし、現代的な感覚で言えば、いくら子供がいても妊娠していても、DV夫からは何を措いてもすぐに離れるべきで、子供のために耐えて一緒にいることは、強さとは言えないんだけど。
玉依の17年後を演じた高橋茉琴さんは、昨年、3つのゴブさん作品でお目にかかっていたが、三味線を弾く姿を見たのは初めて。三味線の音色は、この舞台の世界観にぴったりで、オープニングで物語の世界に観客を引き込む魅力があった。表現される物語の中心で座って、撥を叩く姿は美しかった。玉依が仇討ちを果たしたいという思いは痛いほど分かるが、タマキが生きていたことで気持ちを収められるのであれば、彩葉を仇討ちの理由に持ち出したことや、一時は親子3人で穏やかに過ごしていたこととは整合が取れない気はした。
「白キ肌ノケモノ」では、磯貝龍虎さんが演じていた外道丸役は、瀬戸啓太さん。昨年、「ファントム・チューニング」で観たときは、表情をほとんど変えないクールな敵役だったが、今作では様々な表情が見られた。吠丸の気絶棒で殴られて舌を出して倒れるシーンや、お約束のゲドちゃん心の叫びなど、お茶目な面と、強さと格好良さの両方を存分に舞台で発揮していて、演技の幅の広さに感心させられた。
踊り子役の新木美優さんは、アンドロイドとして迫力のあるアクションを見せていた1年前の「イマジカル・マテリアル」以来。今回は踊りに片手をついての宙返りなど、軽やかに舞うアクション。華やかな衣装に身を包んで、表情も大げさに、大きな口を開けたりと、楽しそうに演じていて、新たな魅力に気づくことができた。
「白キ肌ノケモノ」にも登場した女剣士・和泉は、ちーちゃんこと持田さん。芸能活動が長いとはいっても、まだ20歳であどけなさも残る。それでいて、一人で3人、4人を相手に二刀流まで使っての鮮やかな太刀捌きはお見事。微妙な女心の揺れを表現する表情には、大人の顔を見た。
荼毘役のASSH所属の花岡さんは、とにかくパワフルで、大先輩の紅葉さんを振り回すほどの怪演。万人に受け入れられるタイプの演技ではないかもしれないが、恐ろしい天才を感じた。どこかで見つかれば、5年後くらいにはテレビで活躍している姿が見られても不思議ではない。これで3月まで高校生だったというのだから驚きだった。
【⇒これまでの観劇作品一覧

旋律テロル(LIPS*S)@新宿村LIVE

【演出・脚本】吉田武寛

【出演】北澤早紀、中谷智昭、槙田紗子、増山祥太、梶礼美菜、風間庸平、河合国広、高木裕希、恵畑ゆう、河津未来、後藤菊之介、木内海美、こうのゆうか、迫田萌美、植村夏葵、高野美幸、山﨑里紗、土田若菜、木村弥素子、波崎彩音、中田美優、三栗千鶴、石井仁美、藍羽舞、ko-suke、伊藤征哉、星野日菜、吉村萌、keita、大竹真由子、綿貫安由美
f:id:JoanUBARA:20180325202749j:plain
昨年8月の「花嫁は雨の旋律」以来となる、さっきーこと北澤早紀さんの出演舞台を5回観劇。初舞台で示した舞台女優としてのポテンシャルからすれば、再び舞台に上がる姿を見られる時は遠くないことを確信していたが、彼女が夢と公言していた、ミュージカルへの出演の機会が、座長という大役を伴ってこれほど早くやってくるというのは、嬉しい驚きだった。それも、待つのではなくて、自らオーディションに挑んで勝ち取った成果と聞けばなおさらだった。
初挑戦のことが重なっての重圧に悩んで弱音を吐いたり、立ち直っては「昨日の自分を殺したい」という、およそさっきーらしくない鬼気迫る発言が飛び出したりといった中で初日の幕は開いた。彼女が演じるエイミは、家族を奪われた復讐の念に駆られ、旋律の奴隷となって笑顔と感情を封印し、テロを重ねるという役。声を低く抑えながらの演技で、普段の彼女が見せることのない感情や表情が見られるのも舞台ならではだが、なかなか大変だったはず。第1幕の幼少時代に見せる無垢な笑顔との対比が、魔女として生きる道を選んだ後の痛々しさを強くする。「殺してやろうか」というセリフも飛び出すエイミ。前出の過激なつぶやきをしたときには、既に役が乗り移っていたのだろう。
ミュージカルの主役なので、全編にわたって、様々な感情が、ソロ、掛け合い、ハーモニーと、様々な歌に乗せて伝えられる。「ウインブルドン」などで歌唱力の片鱗を見せたことはあったが、さっきーの歌声を、これほど多く、しかも生で聞く機会というのは初めてだった。初日こそ音程の乱れや、高音の伸びが今一つという印象を受けたが、中谷さんが短期間での成長に眼を瞠るほど、舞台上でのパフォーマンスに関しては成長期にある彼女なので、本番期間中にも、感情を乗せる、声量を出す、音程を安定させて声を伸ばすといったあらゆる面で、歌がどんどん良くなっていった。「花嫁は雨の旋律」からの縁をつなぎ、新たな出会いを得て、きっとまた次につながっていくだろう。ラクウェル風に言うならば「あなたは演じるべき人だ」。AKBの肩書きが外れたとしても・・・
設定や展開、登場人物たちの行動には、多少の粗さや練り込み不足を感じる点もあった。神、人、国家のいずれも信じず、いずれにも屈服することを拒み、平和のために悪を引き受けるというラストのエイミの選択は、確かに「面白い」のだが、2時間見てきての結末としては、狐につままれたような感覚に陥ってしまった。その後のエイミの生き方がどういうものになるのか、しばらく考えさせられそうだ。
若手の出演者が中心の中で、ミュージカルとしてどこまでのレベルになるのか、見る前は多少の疑いも持っていたが、華やかに、重厚に、コミカルに、しっかりとしたプロのパフォーマンスが繰り広げられた。CDにはやはり所属の問題でさっきーの歌声が収録されないというのは残念だが、テーマソングに兵士たちの歌に、謎の男の歌に闇クラブの歌にラクウェルの歌・・・。どれもメロディラインだけでなく、舞台上で演じた役者の動きや表情も思い出せるような、心に残る楽曲たちだ。この作品を見て、歌が持つパワーや楽しさを久しぶりに思い出させられた。
登場人物の中では、悪役の位置に立つ高杉が印象に残っている。手段を誤るところはあっても、陰湿さはなく、信念と人情、弱さも併せ持った人物で、敵役ではあっても、悪役と呼ぶのは憚られる。innocentとguiltyのダブルキャストたちは、シングルキャストも巻き込んでそれぞれの個性を見せてくれたし、兵士から市井の人まで様々な役を入れ替わり立ち替わりでこなしたアンサンブルの役者たちの活躍ぶりも、この作品には欠かせないものだった。
【⇒これまでの観劇作品一覧

闘争・オブ・ザ・リング(カラスカ)@上野ストアハウス

【演出・脚本】江戸川崇

【出演】佐藤弘樹、小日向茜、久高将史、水野奈月、大仲マリ、南衣舞、今井玲男、大森宏太郎、ぴんきゅ、さいとうよしえ、星村優、前田真弥、堀友美、西山駿太、大橋タクヤ、天音、わたなべみつお
f:id:JoanUBARA:20180312225956j:plain
同じく江戸川崇さんが手がけた「バック島」以来となる上野ストアハウス。そのときと同じく、今回もチケット発売と同時に申し込んだので、チビ椅子最前での観劇。目の前で熱演が繰り広げられる光景を見られるかわりに、姿勢はなかなか辛く、2日経ってもまだ背中が痛い・・・
茶番全開という予告どおり、全編とにかく笑いを取りに行く構成。確実に笑いは取れるとはいえ、さすがに身体や顔をびったんべったん叩きすぎという気はしたが、それも本気。ケンタの胸に鮮やかに浮かぶ、季節外れの綺麗な手形モミジの紅葉が眩しい。真剣な茶番の中には、ラブリーロバーが銃を取り出すたびに流れる謎の音楽に合わせたダンスや、騎馬戦からのアクションシーン、忠太の無駄なボディーランゲージに石松の転び芸、シンプソンの猛獣感あふれる動き、天草の決め顔などなど、稽古でしっかりと積み重ねてきた工夫や芸の数々もあって、見応えがあった。西山さん演じた忠太は今回かなりお気に入りのキャラクターだ。
主演の佐藤弘樹さんと、ヒロイン役の小日向さん。最初に二人が並んだ時には約40センチ差という身長差に驚かされる。真紅のケープを纏った小日向さんは、久しぶりに魔法少女に戻ったかのようなビジュアル。ヒロインということで、茶番のただ中にはそれほど入り込まない役だったが、精一杯のお色気シーンやふくれっ面でのケンカのシーンなど、いろいろな表情を見ることができた。同じくらいの身長の大仲さん演じるめだかさんと張り合う姿が可愛らしい。次にカラスカの舞台に出る機会があれば、目いっぱいコメディに挑戦する姿も見てみたい。大仲マリさんとは言わないまでも、ぴんきゅさんが演じたゴブリンくらいまでなら事務所的にもOKでは?
小日向さん演じる若葉のライバル役として登場した水野奈月。力が入り過ぎていて少しコミカルな恋のライバル・・・といえば思い出すのが、水野さんが演じていた「アルキミコ」の小松姫。今回の美玲は、狂気を迸らせながら、手段を選ばずに恋に向かって走るという、さらに強烈な役だったが、華麗な謎ステップで自己紹介を決めたり、持ち前の表情の豊かさを生かして、存分に暴れまわっていた。
天音さんは、今回も安定のツインテールで、猫の「チビ」役。さすがあまにゃんと呼ばれるだけあって、にゃんにゃん言いながら猫パンチを繰り出す姿は猫そのものの愛らしさ。アニマルガールなのにしっぽがないのは、フレンズではないので仕方がないか。猫役と分かったときには、猫まで若葉のライバルとなって洋人と結ばれようとするのかと思ったが、二人の愛を純粋に応援する心優しい猫だった。
【⇒これまでの観劇作品一覧

ばにら、明日をありがとう(A企画)@テアトルBONBON

【演出】永岡ゆきお【脚本】ハネイサユ

【出演】小川真琴、さいとう雅子、高橋ふみや、大図愛、腕トラ、にちょうぎロングビーチ、瀬戸貴文、上村英里子、竹田充希、外崎玲奈、小澤慶祐
f:id:JoanUBARA:20180225193632j:plain
昨年の早い段階に告知があった、さいとう雅子さん出演のこの舞台。はるか先のように思えた2018年の2月も、季節は確かにめぐり、やって来た。
都会の無機質の海に放り出されたかのような姉妹のビジュアル、「普通ってなんですか?」という根源的な問い、イジメの傷という重い設定。
決してストーリーの明快さや爽やかな観後感があるわけではなく、観劇前の予想を上回るほどに、見る側の心を抉りこみ、人生を考えさせる重厚な作品。エンタメ性を求める舞台作品が多い今の時代、あえてこういった作品を送り出した制作スタッフと、作品の重さに真摯に向き合って舞台上で表現した出演者には敬意を表したい。
舞台の題名を聞いたときには、犬か猫の名前かと思った「ばにら」は、妹の佳奈のイマジナリーフレンドのような存在で、なぐさめたり叱咤激励したりするわけでもなく、自由気ままに寄り添う。佳奈が自分自身と向き合い、人生や社会と向き合い、姉の夕月と二人、自立した一歩を踏み出す瞬間を少し寂しげに見届けると、微笑みを浮かべて立ち去っていく。同じように、実在すら不確かな、謎めいた存在として劇中に登場する「雨」は、通り雨のように現れ、優しく、厳しく、乾涸びた人の記憶や本音を呼び覚まして湿り気を与え、気づきを促して立ち去っていく。雨音を呼ぶように最後に舞台に散らした楽譜は、姉の夕月が奏でてきたピアノの音色や、父親との記憶といったものを象徴していたのだろうか。
人間の醜さ、嫌な部分を凝縮したような登場人物たちは、思い上がり、人を虐げ、欲にまみれ、その危うい土台で自分を保つ。道化のようで滑稽でもあり哀れでもあるような彼らの存在を鏡に映せば、そこに自分自身の影を見出すことになる。天狗の鼻が折れて、物語が明るく収束する予感を抱いたとき、一つの忘れ物を思い出し、愕然とさせられる。佳奈と同じような思いを抱いていた弘樹には、なぜ「ばにら」や「雨」が現れなかったのだろう。ヘッドホンと自己暗示で、内なる声にすら耳を塞いでしまったのだろうか。己は、彼の中にもまた、佳奈と同じように自分を見出す。そのシーンを見たときに思い出したのが、三上寛の「ピストル魔の少年」という歌。犯罪者に対して「僕の友達よ」と同情を寄せるかのように歌いかけることに嫌悪も感じていたが、彼もまた彼の中に自分を見たのだろう。
妹の佳奈を演じたまぁこさんは、「未来への十字架」から僅か1週間余りで迎えた本番。彼女を舞台で見ると、いつも「さいとう雅子」としてよりも、まずは演じている役として入ってくる。それだけ役に全霊をぶつけて入り込んでいくタイプの役者である彼女にとって、期間の短さもさることながら、マイナスに振り切れた感情まで受け入れて演じることへの切替えは難しかったはずだが、舞台上には佳奈というキャラクターがはっきりと立っていた。まっすぐさや素直さ、純粋さといったところは、佳奈とまぁこさんに重なる部分もある。綺麗な心を持つ佳奈が、イジメの記憶に苛まれたり、大人を相手に精一杯の抵抗を試みたり、包丁を振り回したり、見ていて辛い場面も多く、「水をかける」という抵抗手段自体が、イジメの記憶とリンクしていると考えると、余計に辛いものがあったが、そんな不安定さや、消えてしまいそうな危うさを演じられるのもまた、彼女の魅力だと感じた。雨さんを演じた腕トラさんのラジオ番組に出演していたときも、演じるということへの強い意志が感じられたし、そのときの腕トラさんの、ゲストの良い部分をリスナーに少しでも多く伝えようというパーソナリティとしての姿勢も嬉しかった。腕トラさんから直接、劇中歌となっている「雨とバニラ」のCDも購入してきたが、イメージどおりの優しい方だった。
f:id:JoanUBARA:20180225193926j:plain:w250
【⇒これまでの観劇作品一覧

未来への十字架(私立ルドビコ女学院)@新宿村LIVE

【総合演出】林修司【脚本・演出】桜木さやか

【出演】あわつまい、石井陽菜、大條瑞希、木下美優、小菅怜衣、さいとう雅子、竹本茉莉、手島沙樹、藤堂美結、夏目愛海、七海とろろ、はぎのりな、星守紗凪、安藤遥、楠世蓮、長橋有沙、白河優菜、広沢麻衣、横島亜衿、横山可奈子、木村若菜
f:id:JoanUBARA:20180212161403j:plain
昨年3月のアサルトリリィとのコラボ企画「シュベスターの誓い」が初見だったルドビコ女学院。今回は、さらに「人狼TLPT」も加わったトリプルコラボ企画が打たれた。「TLPT」の名前だけは聞いたことはあっても、人狼ゲームの知識は全くない状態でこの企画の話を知ったときには取り付きにくさを感じ、また、人狼TLPTの動画を見てみても、何が起こっているのかほとんど分からなかったので、楽しむことができるか不安だった。さらに、学園の生徒になりすました人狼を見つけ出して殺さなければならない、生徒たちが犠牲にならなければならない、陰惨な展開が待っているかもしれないという恐怖もあった。
これは演劇なのかイベントなのかという疑問も挟みたくなったところで、TLPT経験者の長橋さんが稽古場ブログで綴った「魅せます。しっかり稽古をしてお届けします!」という、人狼ゲーム並みの強烈な説得力を持った、ブレイブのレアスキルを発動しているかのような言葉は心強かった。人狼ゲームの基本的なルールや用語、セオリーについても、ネットでの解説をかじって、どうにか付け焼刃の知識は備えて、開演の時を待った。
毎回違うゲーム展開になるという上に、20人のプレイヤーキャストのうち、1回のステージに上がるのは13人なので、同じキャストで演じられることすら二度ないという再現率の低さ。今回は、観に行ける日程の中から、さいとう雅子さんと夏目愛海さんが同時に舞台に立つ3つの回を選択したが、それでもブリちゃん役の緒方さんには一度も会えないというのは残念。
劇中の時間軸としては、「シュベスターの誓い」の後で、敵が学園に紛れ込むことを想定した訓練として、人狼ゲームが行われるという設定だった。オープニングの劇は時間は長くはないとはいえ、毎回異なるキャストで、誰が出るかによって台詞を言う人も変わるし、オープニングやエンディングでもそれは同じ。それにもかかわらず、オープニングのラストで「これより始まるは~」の全員そろっての長台詞がピタリと決まったのを聞いたとき、これから良質のものを見られるという確信が湧いた。
訓練としての人狼ゲームで、追放されても身に何か起きるわけではないので、設定としては緩い感じかなとも思ったが、そんな軽い考えは、最初に見た第6ステージの初日の議論を聞いただけで、木端微塵に砕かれた。追放のバラをその手に集めていく杏(竹本茉莉)の頭はどんどん地に向かって垂れていき、すすり泣く声が聞こえてくる。追放が決まった後のひと言も、涙に顔を濡らしながらで、この舞台が決して気楽に見られるものではないことを察した。前作での登場人物同士の関係性が引き継がれていて、学年の絆、選ばれざる者同士の思いなども交錯した人間ドラマも演じられる。時には敵味方に分かれたり、追放のバラを手向けなければならない場面もあって、見ているだけでも辛さが伝わってくる。真剣勝負でシナリオがないからこそ出てくる感動の場面に、すっかりこの企画のファンになっていた。
第5ステージまではずっと人狼陣営の勝利が続いていて、第6ステージでも最初に真の霊媒師が追放になって、2日目も人間が追放。人狼陣営勝利で勝負あったかと思ったが、やはりTLPT経験者の瑠衣(はぎのりな)と永遠(手島沙樹)のコンビは強力だった。論理的すぎて、人狼初心者としては何を言っているのか、理解がついていかなかったが、正しいことを言っているという確信を持たせる力があった。3日目に人狼同士の投票に持ち込んでからは、一気に流れが変わった。どんどん状況が苦しくなる中で、騙り予言者のカタリナ・芽衣(夏目愛海)が、お師匠と慕うこころ(藤堂美結)に追放のバラを手向けることになってしまった場面は、そのシチュエーションもさることながら、リアルな涙や二人のやり取りの言葉が辛かった。追放対象となって騙りの苦しさから解放されて、むしろすっきりとした表情になったのは、人狼ゲームのセオリーからは外れるのかもしれないが、あいみんらしかった。3人が残っての最終日までもつれ込んでの決戦では、花蓮(小菅怜衣)が、自分のことを信じて人間陣営の初勝利を決める最後の一票を人狼に投じた来夢(あわつまい)と泣きながら抱き合うという、感動的なラストが待っていた。
第8ステージは、人狼陣営の百合亜(安藤遥)がいきなり能力者を騙るという積極的な攻めの姿勢が裏目に出て、3日連続で人狼が追放され、人間陣営のストレート勝ち。騙りを含めての役職者5人を中心とした短期決戦だったので、人間がほとんど発言できる場面がなかったのは仕方がないが、人間キャストのファンからすれば、食い足りない回だったかもしれない。狩人も早々に襲撃されて客席に正体が明らかにされたので、自分も含めて観客の過半数がパーフェクトで役職を正解して特典を手にすることができるというボーナス回でもあった。能力者勝負に持ち込んで手掛かりを豊富に得た上で冷徹に正しい推理を進めていく永遠はやはり強い。手島さんに似ても似つかない恥ずかしいキャラクターを演じてもらうくらいのハンデがないと、特訓を積んだリリィたちでも太刀打ちは難しかった。そんな強力な永遠に対して、論理ではなくパッションで真っ向から1対1の勝負を挑んでいった理紬(七海とろろ)の姿勢が清々しかった。とろろさんは、オープニングのダンスも、ゲーム中も誰よりも豊かな表情を繰り出していて、理紬という新しいキャラクターに確実に息を吹き込み、爪痕を残していた。彼女が芸能界でアイドルとして、役者としてここまで生き残ることができている理由が分かった。
第10ステージは、最終日決戦再び。人狼のつぐみ(長橋有沙)が周到に用意したノインベルト戦術がはまって、後から振り返れば序盤は人狼有利に運んでおかしくないはずだったが、対抗の予言者が現れないという珍しい展開に。人狼候補を3人中2人というところまで絞り込んだ永遠が提案したローラー作戦が発動して、人間陣営勝利のレールが確実に敷かれたと、客席の誰もが思ったはず。しかし、その通りには進まないのが生のステージの面白さ。情報量は客席とステージで非対称だし、時に笑いも起きる客席とは違って、ステージ上の緊張感と重圧の中で、1回思考回路が絡まると、限られた時間でリカバーしていくことは難しい。演じるキャラクターを投げ捨てるほどに悩みに悩みぬいた末に投票行動を貫けなかった朝妃(広沢麻衣)と、筋が通っているがゆえに朝妃を説得することができなかった佳子(横島亜衿)にとっては悔いが残る最終ステージになってしまったが、朝妃を責めるようなことは誰もすることはないし、この企画ならではの、印象に残る熱戦だった。永遠にすら「状況をよく理解できていない人間」の可能性が高いと思わせ、絶体絶命の状況になりながらも諦めなかった来夢は見事で、最後まで生き残って舞台にただ一人立つ姿は、未来に対してその強さを示すかのようだった。
まぁこさん演じるクララは、第6ステージでは2日目、第10ステージでは初日に追放されてしまった。大した理由もなく投票対象に挙げられて、疑われてしまいがちだったのは、クララの華のある強烈な個性をしっかり演じ切って、目立っていればこそ。追放のバラを受け取るときのリアクションでも、クララの魅力を引き出していて、この役はこの人にしかできないだろうという当たり役なのは間違いない。第8ステージでは狂陣を引いて、残った中で一人だけ敗者になるという憂き目も見てしまったが、あそこは最後まで悪あがきでもあがいてほしかったかな。昨年手術した足の状態も良くなって、ダンスが踊れるほどに回復していることも確かめられて安心した。早くも1週間後には、大役を担う次の舞台「ばにら、明日をありがとう」が控えるという大変なスケジュールだが、彼女のこれまでの演技に対する姿勢や、舞台で示してきた結果を見ていれば、気遣いはしても心配はしていない。
第10ステージの前説では、木村若菜さんから、「再演熱望!」のコールが発動されたが、再演希望かと言われると、今回の企画には満足しつつも、すぐにということではない。今回の企画で、魅力的な新たなリリィたちが登場したことでもあるし、やはり本編のシュベスターシリーズのストーリーが展開された上で、という留保がつく。音響のよい新宿村での戦闘シーンは迫力があったので、ストーリー編の続きが演じられるのであれば、この会場で観たい。
【⇒これまでの観劇作品一覧