~熱風の果て~

観劇の記録

一筆啓上〜girls look up!〜(劇団ハーベスト)@中野ザ・ポケット

【脚本】小林佐千絵、【演出】中村公平

【出演】高橋紗良山本萌花青山美郷若菜葵宮武佳央広瀬咲楽篠崎ニイナ久保田紗友加藤梨里香松永ミチル西園瑠花川畑光瑠布施日花梨望月瑠菜長谷川真弓、オカドミキ、一條俊、冠仁
f:id:JoanUBARA:20170312221719j:plain
SMAによるオーディション型少女劇団・ハーベストの第2回公演。義務教育の地方在住組も多いので、長期休みの時期にしか公演を組めないが、年3回ペースで打ち続けられれば、成長を見守るためのペースとしては程よい。
小劇場での上演でチケットが早々と売り切れた旗揚げ公演と比べると、今回は売れ行きは余り伸びず、平日はほぼ半分程度の埋まり方だった。千秋楽はさすがに満員御礼。チケット販売握手会イベントを秋葉原で開催したり、「開演します」のDVD購入者向けの握手会イベントを予定していたりと、アイドル的な売り方もしているハーベスト。それがやむを得ずなのか、既定の路線なのかは不明だが、女優を目指して集まってきた素質輝く女の子たち。中途半端な売り方はしてほしくない。イベントでの人の集まり方を見ると余計に。
同じ場所で現代と過去の物語が並行して、舞台上での時代の境界線も曖昧に進んでいく。この手法は、金曜日に見た「CABARET〜」とも多少似ている。終盤のクライマックスで、それまで拒まれてきた現代と過去の干渉が発生するところは効果的だった。
これだけ可愛い子が集まっていると余計なことをいろいろやらせてみたくなりそうなものだが、第1作同様、ストーリーに起伏を持たせるためだけに事件を起こすようなことはない。あくまで日常の範囲内で展開される身近なストーリーなので、安心して舞台の演技を楽しむことができた。また、時代を2つに分けたことで、前作よりも登場人物の差別化ができていた。
4か月ぶりに会う、新たな役を得た少女たち。この世代の4か月は大きな可能性を秘めている。今回の舞台で、彼女たちの名前と顔がようやくはっきりと一致するようにもなった。
1967年編で主役を演じた高橋さんは、澄んでいてなおかつよく通る声の持ち主。はっきり明るく大役を務めていた。舞台の時代設定は、ザ・タイガースでいえば「シーサイド・バウンド」のリリース後、「モナリザの微笑」前夜というタイミング。ここでサリー推しというのは当時としては確かにマニアックだっただろう。
ボーイッシュ少女の山本さんはフォークソング好きの酒屋の娘。劇中で「Our Town」の弾き語りを披露。大空を思い起こさせるような歌声が劇場に響いた。千秋楽で歌いながら涙を流す姿が印象的だった。
ハーベストのリーダー・青山さんは、前作では一人だけ高校生で、大きな個性のない役だったが、今回は現代編の主役。デートに明け暮れる現代的な女子大生で、前作のイメージからの脱皮に成功していた。
前作同様、準主演のような位置を占めた若菜さんは、とにかくスタイルがいい。まだ16歳だが、既に一線で活躍している女優と紹介されたとしても全く違和感を感じない。千秋楽では、彼女がいちばん多くの涙を流していた。
Eテレの「ビットワールド」でも活躍中の宮武さんは、前作では特徴のある眉毛全開で幼さばかりが目立ったが、今作では眉毛を前髪で覆って、すっかりきりきり舞いの美少女に変身。常に上目遣いをしているように見える視線が一層あどけなさを引き立てる。
仙台在住の広瀬さんも美声の持ち主。理由なき引きこもりに入り、静かなる思考の海に漂うという難しい役だった。台詞はそれほど多くはないが、その分、表情と視線で多くを語っていた。
篠崎さんは病弱少女から一転、声を大きく響かせて生意気な三女を演じていた。一度見れば顔と名前が一致する、やや下ぶくれの個性的な顔立ちは大きな武器だ。
北海道在住の最年少メンバー・久保田さんは末っ子の四女役。小さいながらも女優としての完成が約束されたような容貌を備え、将来間違いなく化けそうな彼女の、少女から女優への過程を見守れるというのも幸せなことだ。
豊富な舞台経験を持つ前作の主演女優・加藤さんは、天真爛漫なお嬢様。彼女独特の抑揚のある台詞回しとコミカルな動きを存分に発揮し、観客の耳目を大いに集めていた。その表現は、経験によるものよりも、才能と努力によるところが大きい。
松永さんはハーベストでいちばんの個性派。それを見込まれてか、今回もアクの強い役だった。この人しかできないと思わせるような役を任されるのも女優としては武器になる。
大阪在住の西園さんは「あんたそれでも中学生?」と言いたくなる艶めかしさ。髪を上げればうなじが眩しい。生粋のお嬢様のような上品な雰囲気を持ち、宮廷衣装が似合いそうな気品を振りまく彼女の将来は恐ろしいほどに楽しみ。
鹿児島っ子の川畑さんは、右頬の笑窪が眩しい。本人自慢の大きな声は健在。世話好きな友達役は、彼女の瞳の輝きにぴったりだった。メンバーからは、いちばんの小悪魔に認定されてしまっていた。
独特の雰囲気の持ち主である布施さん。「ともーみに似ている」というファーストインプレッションは書き換えられない。ただ、ともーみと違って小悪魔のしっぽでツンツクツンしてくるようなタイプではないが、本人が望むまいと色気はとても隠せるものではない。
望月さんはハーベストのムードメーカー。秋葉原での握手会では、いきなり「ダジャレを聞いてください!」と2連発。千秋楽のカゲアナでも撃沈を厭わずに披露。可愛ければ何でも許せる。
今回も、事務所の先輩やレトロノートの役者さんたち大人組がメンバーをサポート。オカドさんは豪快な外見と演技ぶりに似合わず、普段は声も小さくておしとやか、という仕事人タイプの役者さんなのね。
土曜日夜のトークショーは、21時のシンデレラタイムまであと10分というタイミングでスタート。21時で中学生組は強制退場になるのは予想してはいたが、メンバーが3人しか残らないとは想像を絶していた。もっと長い時間、素顔も見てみたかった。
千秋楽では、カーテンコール後も鳴り止まない拍手に応じて、メンバーが再登場。そして、メンバーからのサプライズ的に、山本さんの伴奏に合わせ、「Our Town」が合唱された。手をつなぎ、肩を組み、涙を流し、洟をすすり、鼻を赤くし、充実の笑顔を見せながら歌う少女たち。何という青春!その場に居られることが幸せに思える時間だった。