~熱風の果て~

観劇の記録

The IMMORTAL OPERATION(K.B.S.Project)@高田馬場ラビネスト

【脚本・演出】山口喬司

【出演】川崎優作、山川ひろみ、森田猛虎、成島有騎、中野将樹、尾形卓哉、鴎佐和志孝、富田千尋出野泉花、見上瑠那、長澤純平、ジョセフ一樹、山口喬司

f:id:JoanUBARA:20170312213426j:plain
第10作の「てんいちっ」以来、8作品ぶり2回目のK.B.S.Project観劇。中野さんや森田さんなど、「てんいちっ」で名演を見せていた人たちも出演する今作、舞台の質に関しては行く前から安心していられた。
舞台となる「捜査I課」の訳あり刑事3人組の渋味と凄味とバカらしさが混ざり合ったあくの強い個性が収まり知らず。こんな職場は嫌だと思いつつ、少し動くだけでどこか可笑しいところがあって、目が離せなかった。そして、その強烈な個性に、初舞台の川崎優作さん演じる新米刑事・観島が、役柄としても役者としても汗だくになりながら、気持ちよく正面からぶつかっていくものだから、そこに不思議な火花が散って煌めきが生まれる。若手俳優だけの舞台では見られない光景だ。
それをクールに無表情に見つめる化学班刑事の山川さんがその光景をより引き立てる。低い冷静な声で笑顔は決して見せず、素の彼女とは違うであろう雰囲気の役を見ることができてよかった。カーテンコール後の挨拶は、細い声で少しおたおたと、いつもの感じで安心した。女神座ATHENAの「アレスレベリオン・タウ」にも出ていた見上さんは、中学3年生ながら、ランドセルを背負わせれば小学生以上に小学生に見えるし、喋ればなおさら。今後の舞台での成長が楽しみなような、変わってほしくないような。
刑事もので、最初の殺人事件の解決はプロローグ的なものかと思いきや、伏線は敷かれていた。場面場面で見せ場や笑いどころがあり、後半は迫力のあるアクションもあり、謎解き要素も。そこに200年以上の時代を翔けるスケールの大きさも加わりつつ、破綻はない。尾形さん演じる殺人鬼は、着物をまとっただけで一瞬で源内になる。源内は、もし、おなじみのあの肖像画が残っていなければ、こんな感じの破天荒なキャラクターとして描かれることが多かったのではないだろうか。終幕ではさらに20年の時が流れ、事件の真の黒幕は明かされず、想像する楽しみも、続編の可能性も残る。観島が事件解決後、なぜ不老不死の薬を欲しなかったのかといった辺りにも興味が残る。
K.B.S.は「喬司の舞台は素敵だな」の頭文字。そのとおりの作品だった。千秋楽でも余裕のある客入りではあったが、舞台の質と比例するものではない。予定外のカーテンコールも必然だった。全通特典の代償なのかそれでも寝る人は寝てるわけだけれども。来年5月頃の次回作は、新劇場で行われるとの予告があった。高田馬場の雰囲気の良さを残しつつのバージョンアップに期待したい。

Singularity Crash~〈わたし〉に続く果てしない物語~(Favorite Banana Indians)@ワーサルシアター

【作・演出】息吹肇

【出演】松原夏海、椎名恭子、水沢レイン、綾部りさ、山田貴之、川島千明、長紀榮、長谷川彩子、ありすちゃん、前田優、加藤美帆、坂元瑛美、小原慎之介、相神一美、近藤眞弘、森崎真帆、埴生雅人、田島隆行、小谷陽子、大越陽

f:id:JoanUBARA:20170312212051j:plain
会場のワーサルシアターには、岩佐さん主演の「らめらめ」以来、6年半ぶりの訪問。つい最近のように思い出されるが、当時の出演者の近況が気になって少し調べてみれば、やはり長い時間が経過していることが知れる。いじめっ子3人衆のうち、ミニスカポリスだったえーちゃん役の吉川さんは栗東でジョッキーの妻となり母。おーちゃん役のわかにゃんこと名取さんはこの舞台をきっかけにAKBに加入、卒業した現在は一般人として競馬のネット番組に出演したりIWAに出勤したり。かーちゃん役の倉咲さんは乃木坂のオーディションに参加後、ミニスカポリスに就任して活動中。因果は巡るではないが、興味深い。また、あーちゃん役だった八木橋さんは、田中さん役のダブルキャストで本日までノッキンヘブンに出演中だ。
主演の「お芝居大好き26歳」、なっつみぃこと松原夏海さんを見るのは、演劇では「幸福レコード」以来5年ぶり、それ以外でも「ギンガムチェック」の握手会以来4年ぶりで、AKB卒業後は初めて。卒業後は、尾木プロを離れて舞台に強い現所属事務所に移り、精力的に舞台出演を重ねている。彼女に初めて会ってから10年余り。今作では制服姿の場面が多く、K1で「青空のそばにいて」を歌っていた15歳の頃とシンクロするような感覚になったが、劇場公演で培った歌とダンスもしっかりと生かしつつ、やはり演者としては大きく成長。余り大きな声で話すのを聞いたことはなかったが、お腹からの太い声で安定したセリフ回しを披露していた。また、これをきっかけとして、彼女の芸能活動をもっと気にかけていこうと思った。
息吹肇さん主宰のFavorite Banana Indiansとしては、4年半ぶりの本公演という今作。息吹さん自身も病で苦しんだり、愛する人との別れを経験したりと、相当な苦労を経て、執念の末にたどり着いた上演ということが分かる。余命いくばくもない命と知りつつ地球の未来のために身の危険を顧みずに身骨を砕く「真田謙信」は、彼自身の分身のようなものでもあるだろう。
ストーリーは、理系の頭が全くない自分としてはやや苦手なSFもの。背景や用語を理解しようとするのに労力が費やされて、登場人物への感情移入が弱くなってしまった挙句、ストーリーにも謎が残って、モヤモヤした感じで劇場を後にするのが常だ。今作にもややそういったところがあったのと、理解できない箇所がいくつか残り、モヤモヤ感を抱いたまま駅に向かうことになった。
まず、椎名恭子さん演じる月渚(ルナ)の行動。未来が見えることに苦しむ彼女が、記録に残すことを拒絶しながら、いつかやって来る歓迎せざる未来を演劇として描こうとした理由が分からなかった。将来、世界を救う鍵となる記憶を残す必要があったため・・・という推理も成り立たないわけではないが、しっくりは来ない。
また、猛の父親が行っているアンドロイド研究への「献脳」。高校2年での失恋をきっかけとして自暴自棄的に決断したというのなら余りにも早計だし、彼女の「献脳」があってもなくても、いずれアンドロイドが支配する将来は変わらないことを知っていたと仮定しても、理解し難い行動なのだ。
そして、松原さん演じるヨーコを取り巻く仲間のセミアンドロイドたちが、月渚の記憶がヨーコに移植されていることを案外簡単に受け入れた(ように見えた)こと。受け入れたにしても、月渚がヨーコの身体もろとも自決するという行動に対しては、もっと葛藤がなければならない。身近に過ごしてきたヨーコの肉体と、過去の存在である月渚の記憶。事に直面すれば、正しい選択が頭で分かっていたとしても、感情は整理できるものではないはずだし、前者を優先すべきと考えるのがむしろ自然な選択ではないのだろうか。仲間の4人ともがそこまで懊悩する場面がなく、ましてやメイなどは事後に至ってから、ハイパーインテリジェンスの消滅は世界を良い方向に導くために正しい選択だったのか自問するほどなのだ。ヨーコの身体をすぐに元に戻せると分かっていた場合を想定しても、もっと悩まなければならないはずだし、ましてや、ヨーコの復活の可能性は、飛び散った記憶の欠片がいつか集まって・・・という輪廻転生のレベルなのだから、行動としては理解し難かった。
それは、月渚にしても同様で、ヨーコの身体を巻き添えにすることにどれほどの抵抗感を感じていたのか、劇中の描写からは十分に分からなかったし、そこを二人の意識が重なった上の必然の行為とするのであれば、より丁寧な魂の交感の描写が必要だったのではないだろうか。
終幕時、アンドロイドのサイバー特別警察の3人の方により感情移入できたのは、葛藤がきちんと描かれたからに他ならない。それがアンドロイドの方だったというのは、狙っていない皮肉・・・と言ってしまっては意地が悪いだろうか。

ノッキンオンヘブンズドア(BOBJACK THEATER)@シアターKASSAI

【演出】扇田賢、【脚本】守山カオリ

【出演】丸山正吾、さいとう雅子、高木聡一朗、小林加奈、寺田真珠、古野あきほ、山口範峰、山下真琴、長橋有沙、榊原雄、蜂巣和紀、片岡由帆、渡辺宏明

f:id:JoanUBARA:20170312225656j:plain
過去に見た作品の中で、「幸福レコード」「ラストホリデイ」「ラズベリーガール」と、いずれも日常と非日常が交差する中での人情を描いた良作を送り出す姿勢に好感を抱いていた扇田・守山コンビが中心となった演劇集団「BOBJACK THEATER」。
そして、同じく過去に見た作品の中で、「まなつの銀河~」「戦国降臨GIRL」「ADS Alternative」「戦国降臨ガールズ」のアリスイン作品で、いずれも主役または主役級を演じ、その演じっぷりには好感を抱いていた、さいとう雅子さん。この2つの流れが重なった今作が、自分にとってのBOBJACK THEATERの本公演初観劇となった。
この秋まで、しばらく演劇から足が遠のいてしまっていたため、池袋のシアターKASSAIは3年半ぶり。舞台と客席が近く、見やすい配置。舞台が狭いのが玉に瑕だが、段差と扉、そして梯子で組まれたセットで、奥行きと高さ、場面の転換が上手く表現されていた。
今作も、これまで見た扇田・守山作品同様、予知やイマジナリーフレンドといった非現実的な要素が大きく関わってきながら、人情の機微が細やかに描かれる。非現実がメインになるのではなく、日常に溶け込み、日常を浮き立たせる。このあたりのバランスはさすがとしか言いようがない。そして、バランス感覚の絶妙はシリアスとコメディの間でも発揮される。登場する13人の人物(うち1名は人外)はいずれも個性的。クマオの出オチっぷりとラストでの泣かせどころの落差はずるい。それぞれが複雑な背景であったり、過去の傷であったり、悩みを抱えている。ともすれば重たくなってしまいがちなところだが、流れを止めず、悪ノリせずの笑いの要素もふんだんにちりばめられているのが小気味よい。探偵事務所が受ける2つの依頼が同時進行で進み、直接干渉し合うことはないのだが、分断されたり散漫になることもなく、緊張感を持ちながら謎が解かれる終盤に向かって動いていった。様々な人間関係が重なり、中には乱れるものもあるが、結局はどれも暖かい。社長だけは舞台上では救われなかったが、はっきりと解決されなかったところも含めて、きっと良い方向に向かっていくはずという希望が持てた。
さいとう雅子さんの演技を見るのは3年半ぶり。この間に事務所から離れてフリーになり、苗字もひらがなに改めながら、地道な活動を続けている。表情は豊かでコミカルな演技もできるし、透き通った声質で淀みなくセリフを回せる。小さな身体を武器にして舞台上を颯爽と動き、何より演技することを楽しんでいる。改めて、演者としての魅力にあふれる人だと感じた。これからも応援したい女優だ。ベレー帽にロングスカートの衣装もよく似合っていた。
初舞台という寺田真珠さんは、ほどよい拙さが逆に今後の伸びしろの大きさを感じさせ、役柄にもはまっていた。彼女にはまたBOBJACKに出演する機会がきっと訪れる・・・そんな予感がした。令嬢役の古野あきほさんは、気品あふれる佇まい。感情表現が難しい役どころながら、役に没入して、激しく揺れ動く心を表情や発声で上品さを失わずに演じていた。
しっかり笑わせ、しっかり泣かせる良作。しかもこれが男女逆転のダブルキャストで上演されているというのだから野心的だ。観劇前から期待値は高かったが、実際は期待以上で、観劇は良いものだと改めて感じることができた。たこ焼きを買って帰宅。

キネマとコント(順風男女)@OFF・OFFシアター

【脚本】足立信彦ほか

【出演】足立信彦、匁山剛志、平野賢佑、伊芸勇馬、伊藤摩美、今井英里、井口千穂、庄田侑右、原田里佳子

f:id:JoanUBARA:20170312211736j:plain

2014年7月の「風のバッキャロー」以来、2年半ぶりに原田里佳子さんが出演する舞台を観劇。2015年3月にTCPを卒業後、動静不明の期間が長く、やきもきさせられたが、1年の空白を経て、演劇の世界で復帰。今作の告知では、今年の夏に出演した「路地裏ナキムシ楽団」の所属と紹介されているので、正式に劇団員となったのだろうか。いずれにしても、5年前の名作「冬椿」での演技に惚れ込んだがための縁なので、女優としての活動はこれからも楽しみだ。

「キネマとコント」は100分の上演時間に映画のパロディのコント15本が凝縮された濃い舞台。9人の役者が衣装を次々と替えながら舞台の世界が移り変わっていく。笑わせてもらったが、コントとしては最後の一押しが足りなかった感じがある。笑いの連鎖が起きにくかった要因としては、一つのネタを引き延ばしすぎたり、テンポを重視する余りにセリフ頼みになりすぎてしまったことなどが思い浮かぶ。一部には、ブラックというよりは単に質の悪い、笑えないネタも混じってしまっていた。コントで圧倒的な存在感を放つ伊藤摩美さんはじめ、役者の質の高さを実感すればするほど、可能性への思いからの勿体ない感も抱いた。

原田さんは客演かつ最年少で、この中にあってはアイドル的位置づけ。演技はまだまだ大人しい印象で、もっとかき回すようなところがあってもよかったと思うし、せっかくのコントなので、泥をかぶるような役を与えてほしくもあった。ともあれ、力強く光る彼女の純粋な瞳は綺麗だった。次回「順風女子」の公演にも出演が決定しているとのことなので、また見に行ってみようと思う。

ドールズハウス(u-you.company)@Geki地下Liberty

【演出】中山浩、【脚本】すぎやまゆう

【出演】いいだゆか、望月海羽、小泉理恵、嶋田あさひ、小田切瑠衣、加茂井彩音、谷茜子、本田愛美、宝月ねね、木部佳菜絵、月乃彩花、木庭美咲、中西里菜、伊藤みのり、河野奈々、竹井沙紀、馬場望、徳永優羽、林由莉恵、民本しょうこ、杉山夕
f:id:JoanUBARA:20170312235842j:plain
2012年5月5日、新宿。つくばテレビ主催の演劇ともバラエティともつかない舞台企画「私立グリグリ学園」で、初めて見る飯田ゆかさんの演技力とルックスのレベルの高さに驚かされた。彼女の次の舞台出演の機会があれば見に行こうと待つこと数か月、行き当たったのは出演告知ではなく、当時所属していたアイドルグループ「スマイル学園」の福岡校への謎の転籍、更に無味乾燥な「退学」の告知。それ以上の情報は何もないままに芸能界からも消えるという事態に、アイドル業界の闇を改めて感じた。
2015年になり、再び事務所に所属して、「いいだゆか」の名前で舞台を中心に芸能活動を再開したことを知れたが、闇に埋もれた真相が明らかにされない状況にどこかもやもやしたものが残り、出演舞台に足を運ぶ最後のところの決心がつかずにいた。彼女を退学に追い込んだ原因がようやく取り除かれた2016年7月になって、想像を絶する真相と苦悶の日々、そして復帰に至る気持ちがブログで実直に綴られた。その彼女がヒロインを演じるという晴れの舞台を見に行かない理由はもはやなく、8日昼と10日夜の2回を観劇。
ストーリーは、母親の葬儀に集まった種違いの性悪四姉妹が、幼少時に遊んだ人形たちが住むドールハウスに迷い込み、人形たちと関わることによって価値観がゆらぎ、忘れてしまっていた自らの本質を思い出して現実世界に戻るまで。
ヒロインのお姫様人形・マリー役のいいだゆかさんが登場したのは、開演して20分ほど過ぎた頃。それまでに登場していた人形たちの華やかな衣装と沸騰する個性と比較すると、やや地味なマリーの上品で落ち着いたいでたちと性格。純度の高いクリスタルボイスが14歳当時から大きく変わらずにいたことに安心しつつも、ヒロインという割には役としての個性が弱いように感じた。そんなマリーが豹変する後半。実質的な一人二役。眠っていた「Sの性質」を前面に出して、尊大な身の振り方に時折ドスの利いた大声まで交えて豪放磊落なもう一人のマリーを演じ切ったいいだゆかさん。立派にヒロイン役を務め上げ、表情を含めた演技の幅広さも手に入れていた。彼女の上品モードの美声、誰かに似ているようで気になっていたら思い出した、堀江美都子さん演じるポリアンナだ。DVDも予約したし、今後も彼女が出演する舞台は追いかけたい。
身長148センチのいいだゆかさんを超える低身長キャストが、貧乏籤を引きっぱなしの海賊人形役で出演していた、141センチの嶋田あさひさん20歳。一人称は「あちゃ」。児童劇団で鍛えた演技力に加え、愛嬌のある丸顔と猫声が印象的。女海賊ビアンカは、憎めない性格も、いろいろなところがガシャガシャした衣装も可愛らしかった。終演後のトークショーでは、役柄そのままに自由に楽しんでいた。美声という点では、さすが本業が声優という本田愛美さんは文句なし。華奢な立ち姿と優雅な振る舞い、そしてトークショーでの少しおどおどした感じが強い印象を残した。
21人のキャストが配されたガールズ演劇。出演交渉やキャスティングも担当した座長の望月さんが自賛するとおり、誰一人ミスキャストなく、しかも個性がそれぞれ発揮されており、演技の質も上々。久しぶりの舞台観劇だったが、良い作品に出会えた。