~熱風の果て~

観劇の記録

ドールズハウス(u-you.company)@Geki地下Liberty

【演出】中山浩、【脚本】すぎやまゆう

【出演】いいだゆか、望月海羽、小泉理恵、嶋田あさひ、小田切瑠衣、加茂井彩音、谷茜子、本田愛美、宝月ねね、木部佳菜絵、月乃彩花、木庭美咲、中西里菜、伊藤みのり、河野奈々、竹井沙紀、馬場望、徳永優羽、林由莉恵、民本しょうこ、杉山夕
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2012年5月5日、新宿。つくばテレビ主催の演劇ともバラエティともつかない舞台企画「私立グリグリ学園」で、初めて見る飯田ゆかさんの演技力とルックスのレベルの高さに驚かされた。彼女の次の舞台出演の機会があれば見に行こうと待つこと数か月、行き当たったのは出演告知ではなく、当時所属していたアイドルグループ「スマイル学園」の福岡校への謎の転籍、更に無味乾燥な「退学」の告知。それ以上の情報は何もないままに芸能界からも消えるという事態に、アイドル業界の闇を改めて感じた。
2015年になり、再び事務所に所属して、「いいだゆか」の名前で舞台を中心に芸能活動を再開したことを知れたが、闇に埋もれた真相が明らかにされない状況にどこかもやもやしたものが残り、出演舞台に足を運ぶ最後のところの決心がつかずにいた。彼女を退学に追い込んだ原因がようやく取り除かれた2016年7月になって、想像を絶する真相と苦悶の日々、そして復帰に至る気持ちがブログで実直に綴られた。その彼女がヒロインを演じるという晴れの舞台を見に行かない理由はもはやなく、8日昼と10日夜の2回を観劇。
ストーリーは、母親の葬儀に集まった種違いの性悪四姉妹が、幼少時に遊んだ人形たちが住むドールハウスに迷い込み、人形たちと関わることによって価値観がゆらぎ、忘れてしまっていた自らの本質を思い出して現実世界に戻るまで。
ヒロインのお姫様人形・マリー役のいいだゆかさんが登場したのは、開演して20分ほど過ぎた頃。それまでに登場していた人形たちの華やかな衣装と沸騰する個性と比較すると、やや地味なマリーの上品で落ち着いたいでたちと性格。純度の高いクリスタルボイスが14歳当時から大きく変わらずにいたことに安心しつつも、ヒロインという割には役としての個性が弱いように感じた。そんなマリーが豹変する後半。実質的な一人二役。眠っていた「Sの性質」を前面に出して、尊大な身の振り方に時折ドスの利いた大声まで交えて豪放磊落なもう一人のマリーを演じ切ったいいだゆかさん。立派にヒロイン役を務め上げ、表情を含めた演技の幅広さも手に入れていた。彼女の上品モードの美声、誰かに似ているようで気になっていたら思い出した、堀江美都子さん演じるポリアンナだ。DVDも予約したし、今後も彼女が出演する舞台は追いかけたい。
身長148センチのいいだゆかさんを超える低身長キャストが、貧乏籤を引きっぱなしの海賊人形役で出演していた、141センチの嶋田あさひさん20歳。一人称は「あちゃ」。児童劇団で鍛えた演技力に加え、愛嬌のある丸顔と猫声が印象的。女海賊ビアンカは、憎めない性格も、いろいろなところがガシャガシャした衣装も可愛らしかった。終演後のトークショーでは、役柄そのままに自由に楽しんでいた。美声という点では、さすが本業が声優という本田愛美さんは文句なし。華奢な立ち姿と優雅な振る舞い、そしてトークショーでの少しおどおどした感じが強い印象を残した。
21人のキャストが配されたガールズ演劇。出演交渉やキャスティングも担当した座長の望月さんが自賛するとおり、誰一人ミスキャストなく、しかも個性がそれぞれ発揮されており、演技の質も上々。久しぶりの舞台観劇だったが、良い作品に出会えた。