~熱風の果て~

観劇の記録

名探偵はじめました!!2017(アリスインプロジェクト)@シアターブラッツ

【演出】舞生ゆう 【脚本】麻草郁

【出演】長谷川愛里、山川ひろみ、大塚愛菜、橘さり、夏目愛海、水月桃子、渡辺菜友、青柳伽奈、梶谷桃子、清水凛、民本しょうこ、花梨、佐藤ゆうき、栗野春香、岩崎千明、本山久恵、池澤汐音、蒼みこ、秋元なつこ、鳥井響、鈴野まみ、武田真歩、中村伶奈、梅原サエリ、手塚朱莉、山中愛莉彩、結城アイ
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2013年に上演された演題の再演となる本舞台。初演は、「ヴェッカー1983」で自分の観劇スキルの低さに絶望するなどして、3年半ほどアリスインプロジェクトの演劇から離れていた時期だったため、今回が初見となった。とはいえ、この間に麻草作品との正しい付き合い方を身に付けることができた自信もないので、化学部員がSF要素を持ち込んでくるようだと厳しくなるかも・・・などと不安半分で幕開けを待っていた。
前半は、笑いの要素も盛り込みながら、2つの「事件」を解決する過程が描かれる。ほっこりとしつつ、それでいったん物語が収束したように見えたので、果たして残った時間でのクライマックスへの持って行き方をどうするのだろうと思っていたら、終盤は物語が一気に急展開。時空要素も絡んできてスケールも俄然大きくなった。こうなると今度は、それをどう収拾するのかと思っていたら、前半の「事件」の解決の過程を鍵にして、きちんと納まるべきところに納まった。
残された謎が2つ。なぜ、選ばれたのが生徒会長で、なぜ、あのタイミングで見えるようになって会話が可能となったのかということ。もう一つは、第3の1年生である辰野恵の正体と目的。昼夜観劇したので、夜は何かしらの手掛かりが得られないか注意して見ていたつもりだったが、はっきりとしたところは分からなかった。辰野恵は観察者としての振る舞いと、1年生としての振る舞いを割と自由に行き来していたように見え、また、こことは異なる時空の存在を知った上で、何かを守ろうとしているのは間違いはないのだが、その辺りの推理は、観客の名探偵ぶりに任されることになる。辰野恵役の二人は、おそらく設定を知った上での演技で、ヒントを残していったとは思うのだが、簡単には解決できそうにない。演じ方としては、鳥井さんが観察者寄り、秋元さんは1年生寄りだった。
見ていて面白かったのが、テストの場面や校舎の探索の場面を踊りで表現していたところ。特に、学力テストをあれほどアクティブに表現するというのは、普通では考えられないが、コミカルに頭の中の様子まで表現されていた。シアターブラッツは、客席の環境は恵まれてはいないのだが、舞台は奥行きを豊かに取れるので、こういうダイナミックな表現が可能になる。
キャスティングは、初舞台となる主演の長谷川さんの周りを、水月桃子さん、渡辺菜友さん、青柳伽奈さんなど、アリスインなどでの演技経験が豊富な女優陣が固めていて、安心して見ていられた。声も本当によく通って聞こえたし、キャラクターの個性をしっかりと確立させた上でのアドリブや遊びも見られ、アリスインがここまで積み上げてきたものの確かさが感じられる舞台だった。
山川ひろみさんは、初演ではまぁこさんが演じていたという湖春役で出演。気弱で流されがちなところもありつつ、まっすぐな心を持つ湖春は、山川さんとも重なるところがある役。長谷川さんとの10年近い年の差を感じさせない、珠理との名コンビぶりだった。持ち前の大きな目や下がり眉も、繊細な気持ちを細かく表現できる彼女の大きな武器。大声で気持ちを爆発させてしまう場面には、こんなに声が出るのかと驚かされた。終演後は、「クロパラ」で初めて演技に触れて6年にして、初めて山川さんとお話しをしてきた。舞台とアイドルイベントは違うものとして捉えたいという思いもあって、イベントには積極的には参加してこなかったが、今回は、チケットを買った段階で参加することを決めていた。来月は、ラビネストに続く新劇場のこけら落としとなる「狼魔冥遊奇譚」でまた彼女が演じる姿を見られる予定だ。
本作には、昨秋来気になっている女優さんである、夏目愛海さんもシングルキャストで出演。彼女の演技を見るのは3作品目となった。のんびりとしていて猫のような珠子は、彼女の雰囲気にぴったり。寝ているだけのように見えて寝るための労を惜しまず、要所では膠着した事態を好転へと導く切れ者でもある珠子を、高い声をいちだんと高くして、幸せオーラたっぷりに演じていた。終演後は夏目さんともお話し。今年はこの先も舞台の予定が既に目白押しという彼女の女優としてのいろいろな面が見られると思うと楽しみ。山川さんも夏目さんも、底知れない透明感、ピュアさを持ちながら、演じることに対しては強い向上心を持っていてとても貪欲ということを感じた。心洗われるとともに、いい演技ができるわけだと納得できた。
ボブジャックシアターに正式に所属となった民本さんは、10数年若返って現役高校生役。制服を着れば出オチ感もなく、自然と馴染んでしまっていた。表情や声、全身をフルに使って怖がったりうろたえたりして見せて確実に笑いがとれるだけでもすごいが、花梨さん演じる望の望みを伝える場面や、会長として締めるところなど、メリハリのついたさすがの演じっぷりだった。花梨さんは、「踊りが丘学園」と違ってセリフではなく表情だけで演技をする場面が大半という難しい役をこなしていた。独特の声も、望の謎めいた存在とよくマッチしていた。登場によって場に緊張感を運んでくる風紀委員の山吹三姉妹は、「踊りが丘学園」の科学部と近い立ち位置か。3人の個性的なキャラクターは憎いようで憎めなかった。
夜の月組公演では、辰野恵の謎を解くため、自然と鳥井さんに注目する時間が長くなった。彼女が出てきた瞬間、何かの作品で観たことがあるのは間違いないような気がしていたが、調べてみたら初見。既視感があったのは、彼女の容貌が、野呂佳代さんと似ていたからだろうか・・・。謎めいたキャラクターの謎をより一層深めた彼女の微笑は強い印象を残した。
見る前に心配していた、ストーリーの難解さは、部分的には現実になったが、ストーリーの核心までは、ぎりぎり浸食してこなかったので、何とか助かった。帰りには、劇中の小道具に触発され、コンビニでカレーうどんを買ってから帰宅。
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ブラックダイス(Flying Trip)@あうるすぽっと

【演出・脚本】春間伸一

【出演】仁藤萌乃橋本楓、反橋宗一郎、武子直輝、榎木智一、藤本結衣、古橋舞悠、戸田悠太、今村裕次郎、小森敬仁、十河宏明、田中克宏、與座亘、滝口はるな、甲斐千遥、横井伸明、高原知秀
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第1作の「落下ガール」から第6作の「落下ガール」までは全ての作品を観劇してきた春間さん手掛けるFlying Tripの演劇だったが、男性キャストの比重を高め、アダルト路線になり、あうるすぽっとに場を移してからというもの、すっかり疎遠になってしまっていた。今回の第12作で、萌乃たんこと仁藤萌乃さんが主演するということで、久しぶりに渡り鳥の旅路を辿る。先に昨日の「星空ハーモニー」の千秋楽のチケットを買っていたため、萌乃さんが演じる回を見るには平日しか選択肢がなく、月曜夜の千秋楽を観劇することにした。
萌乃さんの出演舞台を見るのは、脚の骨を折った状態で装具を纏ったまま根性で主役を演じ切った「心は孤独なアトム」以来。確たる目的意識もなくスタートしたという芸能活動が10年目を迎えようという中で、演技の面でも貪欲に向上心を持ち続ける彼女の姿は、劇場公演で一切の妥協を排除して一心不乱に踊っていた頃と変わらない。演じていることを感じさせない力の抜けた熱演とでもいうべき自然体の演技は、萌乃さん独特の世界。余計なものがそぎ落とされていればこそ観客に伝わる感情というものもある。
キャバクラとか違法カジノとか詐欺師とか、シンパシーを感じる要素のない舞台設定のはずなのだが、そこで繰り広げられる謀略や勝負事に手に汗握らせるほどの男性役者陣の迫力が凄まじい。問題があったとすれば、根っからの悪者はいないはず、ハッピーエンドで終わるはずということを信じられる程度には自分が春間作品に馴染んでしまっていたことか。それにしても登場時にはどんな悪玉かと思われた社長が、金を失っても部下たちから慕われ、強い家族愛の持ち主という、ある意味非の打ちどころのないほどの格好よさとは。裸一貫からまた立ち上がるその姿は、日本のドナルド・トランプか。もっとも、勝負ごとに負け知らずならば、闇カジノではなく、海外の合法カジノで外貨を稼ぐだけ稼いで、日本経済に貢献してくれた方が・・・なんて思ってしまうが。それに胴元が賭け事に参加するのは、違法カジノの正義では違法なのでは・・・
そんな彼が萌乃ママと別れた理由が劇中でははっきり明かされなかった点は、エンディングで感動の一部を留保する要素になってしまったが、事業の成功のためにそうせざるを得ない場面に打ち当たった時に一瞬の迷いを見せた彼に対して、萌乃ママが自ら潔く身を退いて関係を断った・・・と想像するのがいちばん自然か。その後、自らの治療費を彼に出させず、結果として娘に借金を背負わせてしまったのは、彼女なりの意地でもあり、娘の強さを確信していたから・・・と思うのが綺麗か。そして、その当時の父親では、お金以外の持ち手に気付くことができなかったのだろう。それでも萌乃さんにしてみれば自殺寸前まで追い込まれてしまったのだからたまったものではないが、そんな運命を自らの力で乗り越えて、桜吹雪を美しいと思えるようになった萌乃さんの門出には、目頭が熱くなるのを感じた。
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星空ハーモニー(Southern' X)@CBGKシブゲキ!!

【演出】蜂巣和紀 【脚本】陽田翔大

【出演】栗生みな、図師光博、陽田翔大、藤本かえで、緒方有里沙、七海とろろ、古野あきほ栗原みさ、蜂巣和紀、鈴木聖奈、相澤香純、諸星あずな佐野実紀、平井杏奈花原あんり、今安琴奈、大河原生純、有村瞳、中村みら、永瀬葵子、麻生金三、今吉めぐみ
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アイドルライブで2回訪れたことがあるマウントレーニアホールと同じフロアにあるシブゲキには初入場。昨年末の「ノッキンヘブン」や今春の「シュベスターの誓い」などの舞台で馴染みのある役者さんが多く揃った本作だが、いちばん初めに情報に接したのは、かつて舞台「ヴェッカーSIGHT」に主演した花原あんりさんのブログでだった。#チームにも気になる面々が多いので後ろ髪引かれる思いはあったが、花原さん出演の♭チームの千秋楽を予約して観劇。
一等地にあって設備面も恵まれたシブゲキという会場。生演奏、生歌唱を多用するこの舞台では、音響が生命線と言えるので、そこで妥協をしなかったというところに、旗揚げ公演として最高のものを送り出そうという制作側の覚悟を感じた。その分、観劇料金は高めの設定に。
ストーリーは、合唱部を中心とした高校生の青春群像劇ということになるのだろうが、メインとなるのが、MOSH図師さん演じる合唱部を指導することを捨てたレジェンド教師と、陽田さん演じる音楽と夢を捨てた合唱部OBの若者の親子の立ち直り。そこに合唱部の面々が真っ直ぐな情熱がぶつかることによって、乱れ果てて打ち捨てられた夢に向かって、再び時が動き出すというもの。
合唱部員たちの個性の強さ。14人の部員たちそれぞれに、役としての生命を吹き込むためには間違いではないにせよ、強すぎる個性は、それ自体がキャラクターに枠を嵌めることにもなり、与えられた個性を踏み越えられなくなるという諸刃の剣にもなる。現実性の強い学園ものということも考え合わせると、アクの強いキャラとしては、自然を意のままに操るという現実離れした超常能力の持ち主と、ゲストの今吉さん演じる謎のコーチの2人がいれば、そのくらいまででもうお腹いっぱい。栗生さんは声だけで十分個性を発揮できる女優さんなので、そこに過度のキャラ付けを加える必要があったのか疑問だった。オープニングでのバラバラな合唱部、見ていても聞いていても楽しく、あのくらいの個性の描き方がいちばんしっくりと来た。
顧問の先生を引っ張り出すために、部員たちがアイデアを凝らしてあの手この手で頑張るシーンは、図師さんたちの演技と身体を張った頑張りを堪能できたのはよかったが、舞台のバランス的には、笑いに偏った時間が長すぎた。あそこは、生徒たちが悲しいほどの純真な情熱で訴えかけるくらいがいい。蜂巣さん演じる館長が、莫大な設備投資が必要で、なおかつ集客が望めないプラネタリウムをつくった理由なんかもストーリーに絡めてほしかった。また、地区大会金賞というコンクールの結果発表までされたのは正直蛇足。全国大会金賞という最悪の結末にしなかったのは救いだが、顧問復帰からコンクールまでの苦労がほとんど描かれなかったわけだから、みんなの合唱に対して、観客それぞれが評価を下して拍手をして、そのまま幕が下りればそれでよかった。同じ意味で、冠菜さんのCDデビューも先を描き過ぎと感じた。
「シュベスターの誓い」ではひっつめお下げで眼鏡のブリちゃん役で暴れ回っていた緒方さん。眼鏡を外した素顔は透明感があって美しい。性格的にはやや気弱で真面目な役だったが、ゲストの今吉さんとの絡みでは舞台上に激しく体を打ち付けること4度。女優魂を見た。3年生では、冷静な部長も誰が演じているのか分からないまま気になって、後で名前をチェックしようと思っていたら、カーテンコールで、あの雪華さまを演じていた古野さんと初めて分かって、役柄でこうも変われるものかと、良い意味でびっくりした。
「幸せだから歌うのじゃなく、歌っていれば幸せなんだ」(By山崎ハコ「歩いて」)は元はアメリカの哲学者であるウィリアム・ジェームズの言葉だったとは知らなかった・・・
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食卓の愛(LOVE&FAT FACTORY)@シアター711

【作・演出】ゴブリン串田

【出演】斎藤未来、ぜん、三宅ひとみ、鳥居きらら、森山幸央、平井麗奈、長野諒子、だんしんぐ由衣、三熊こうすけ、熊野隆宏、鈴木彩乃、熊谷藍、ゴブリン串田
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3月の「初体験奮闘記」からひと月、再び下北沢の地で演じられたゴブさんプロデュース公演。
パンフレットの登場人物紹介を読むだけで既に個性的なキャラクターたちに会える楽しみにわくわくするのはいつものこと。それが舞台上で具体化されれば、役者さんたちの確かな演技にも支えられて、より個性が際立ってくる。今回は、笑いだけでなく、謎解きの要素、ストーリーを追う楽しみ、さらにはゴブさん演劇で初めて泣かされるという感動のラストシーンまで加われば、お腹いっぱい大満足。ゴブさん演劇の新たな引き出しを見た気がした。
主演を務めた斎藤未来さんの無邪気な笑顔と時折見せる寂しげな表情と、ラスト直前の悲しみとも恨みともつかないどす黒い闇を感じる視線の対比はさすが役者さん。それらの理由が明かされ、解決へと導かれる過程は、感情を大きく揺り動かされる時間だった。笑顔で手を振りながら成仏する彼女の先には家族の姿があったのでしょうね。
個性的な面々の中でもひとしおの異彩を放つ占い師。いかにも馬渡さんが演じそうな役を今回演じるのは、三年物語の作品に茨姫役や早乙女ラン役で出演し、馬渡さんとも共演していた三宅ひとみさん。上品だったり、無邪気だったりしたそれらの役柄とはガラッと変わって、全てを見透かしているかのようなミステリアスな役。無表情で平板なセリフ回しの中にも感情を表現していればこそ、少し口角を上げるだけでも客席から笑いが出るほどのインパクトが生まれる。カーテンコールでも簡単には素には戻れない感じが見られて、魂を籠めることが求められる役ということが理解できた。
初体験奮闘記から続けて出演となったのが三熊さんと熊谷さん。この二人も前作とは違う表情を見せてくれた。何かと酷い扱いを受ける役を演じることが多い三熊さんは、今作はやはり時々壊れつつも、ドスの利いた声と容貌を活かして、威厳と情深さも前面に出ていた。熊谷さんは部下の刑事役。だんしんぐ由衣さん演じるキャバ嬢とのイライラしっぱなしの掛け合いが微笑ましかった。
熊野さん演じる若頭役へ。サングラスとかけると精悍になって、いかにも下っ端のチンピラといった役がよく似合っていた。
爽やかな気持ちで劇場を出て、都内とは思えない井の頭線沿いの菜の花咲く長閑な道を次の観劇地の渋谷まで歩いて向かう途中、駒場でカレーやを見つけたので、さっそくカレーを食して、また先ほどまでの舞台を思い出すのだった。
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PIRATES OF THE DESERT 3 ~偽りの羅針盤と真実の操舵輪~(Ann&Mary)@池袋シアターグリーン BIG TREE THEATER

【演出】上田郁代 【脚本】川手ふきの

【出演】日比美思、中江友梨、齊藤夢愛熊谷知花犬童美乃梨軽辺るか、池山智瑛、黒木麗奈、河東杏樹、佐伯香織、佐藤秀樹、小浜光洋、五十嵐山人、佐々木修二、秦瑞穂尻無浜冴美、稲見綾乃、空美夕日、林田鈴菜、社ことの、落合莉菜、荘司里穂、結城ひめり、水野淳之、木田健太、竹本茉莉、黒木ひかり、佐藤琴乃、新里菜摘、上田郁代、川手ふきの、木村葉月
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2013年7月の第1作は千秋楽を観て、演劇から離れていた2014年の第2作は見ず、そして第3作は再び千秋楽で観ることになったPirates of the Desert。第1作の時点では、浮沈の激しい芸能界で、4年もの期間をかけて完結するシリーズにつながるとは想像していなかった。第1作で演じている姿を見たキャストは、わずかにジャミレフ役の齊藤夢愛さんとジャバード役の佐藤秀樹さん、アザリー・ワルド役で演出家の上田郁代さんの3人のみ。主演の日比美思さんは、3作通しての主演を務めているが、第1作はダブルキャストで芸能界を既に引退されている田中絵里花さんが演じる回を観劇していたので、今回が初顔だった。
千秋楽ということで、前半はジャバードを中心に無茶ぶり、アドリブの嵐。第1作の千秋楽もこんな感じだったなあと、懐かしく思いながらも、千秋楽で初めて見る身としては、なかなか世界観に浸らせてもらえないもどかしさもあった。中盤からのストーリーの転換に加え、舞台の空気を大きく変えたのは、主人公のラナーと義姉のカーラとの別れを描いた回想の場面。1日だけのゲスト出演ながらも、感情のこもった声を振り絞りながら演じる木村葉月さんの演技は印象的で、できることなら、もっと長い時間見てみたかった。
第1作では誰も斃れることなく大団円を迎えたが、今作では不実が復讐と悲劇を呼び、代償として血が求められずには済まなかった。愛情が生んだ悲劇であり、血を流す側にも劇中で過去のいきさつや将来の希望が語られていたので、それらが絶たれることも重なり、辛い場面だった。
第1作でアザリー・ワルドに抱かれて逃れるようにウターリドにたどり着いたラナーの素性が明かされ、最後はカナロア国の女王として、僅かに残された海(ハバル)を守り、7つの海を甦らせるという使命に向かっていく覚悟を決める。終盤での日比美思さん演じるラナーの大いなる成長と覚醒。それはラナーと日比さんの双方に第1作からの4年間で積み重ねられてきたものがあればこそ見られたもの。最後はラナーと完全に一体になったかのような、何かが降りてきたような、もの凄い迫力だった。そこからの大団円は観ていて爽快。座長としての最後の挨拶も、それぞれのハバルを目指していこうと呼びかける立派なもの。芸能の世界を生きていくだけの覚悟と強さを見せられた気がした。
シリーズものということもあって世界観は確立されており、ストーリーの組み立てもしっかりとしている。そして力強く人生に響くメッセージ性。笑いの要素やアドリブが入ってもすぐに戻ってこれる骨太の芯があり、経験豊富や役者さんもいるので、安心して見ていられるし、それは初舞台となる女優さんたちにとっても同じだったのではないだろうか。さすがアザリンとアザトイのワルド姉妹・・・。クリーガーメヌエットなどバロック時代の曲を多用した舞台音楽や、日比さんとTGSの中江有梨さんの二人の歌声が奏でる美しいハーモニーも、感動に一役買っていた。
衣装は無国籍といった風で、色鮮やかでそれぞれ特徴も華もある。結城ひめりさんは頭がお花畑状態。千秋楽までにどんどん派手になっていったらしいが、ユニークな声も含めてそういういじられ方をされるというのも才能のうちだし、舞台経験を短期間に重ねることで、演技の面でも着実に成長を見せている。実際にこれだけ大人数の舞台でも観客の印象には強く残る。同じくカナロア国住民役で出ていた荘司里穂さんの演技を見るのは実に5年ぶり。もうすぐ21歳を迎えるという彼女、当然ながらずいぶんと大人っぽく、綺麗になっていた。「石川幸子」での演技を見て以来、注目していた女優さんでもあるので、舞台で息の長い活躍をしてほしい。
演出が第1作の小川信太郎さんから上田さんに変わっていることには気づいていたが、小川さんが昨年39歳で病死されていたことは、終演後に購入したパンフレットを読んではじめて知った。上田さんはじめ制作陣の小川さんへの思いも詰まったこの舞台、そうと知れれば「限りある生命」というキーワードが余計に重く響く。
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