~熱風の果て~

観劇の記録

落下ガール(Flying Trip)@シアターサンモール

【作・演出】春間伸一

【出演】重盛さと美秋山莉奈内田理央フォンチー木本夕貴、栞菜、船岡咲白河優菜梨里杏黒田有彩福田朱子河西里音倉田瑠夏、上林英代、朝川ことみ坂田しおり、椎名りお
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2011年2月に渋谷の伝承ホールで行われた初演以来、2年ぶりの再演となった「落下ガール」。初演に出演していたのが、主演の重盛さん、内田さん、フォンさん、栞菜さん、くろありさんの5人。このうち、初演では清美役を演じていたフォンさんと、静香役を演じていた栞菜さんは、役を替えての出演となった。ほかにも、Flying Tripの作品や春間作品に出演したことがあるメンバーが大半を占め、「落下ガール」、「深愛」、「空色ドロップ」、「月下のオーケストラ」、「ひまわりのソラネ」と、Flying Tripの全ての作品を見ている己にとっても馴染みの顔が揃った。
初演からストーリーの改変はなく、セリフに微調整が入ったくらいだったが、初演で3回見ているにもかかわらず改めて舞台の世界に引き込まれ、瞼が熱くなった。出演者もほぼ全員が演じながら涙を見せていた。実際、演じていても見ていても涙を堪えることは難しい作品だと思う。出演者との握手会を経て、劇場を出ると清々しい気分だった。いいものは何回見てもいい。
初演時にはノドを痛めて声がほとんど出ない状態になってしまっていた重盛さん。サカリのついた猫の声をカットしたり、最後の「みんな大好きだー」もやっと絞りだすなど、痛々しさもあった初演時のリベンジを果たしていた。初期えれ風ツインテールになると、余計に幼く見えるところは2年前と変わっていない。白金ヒロミのキャラクターは、まさに彼女のためにあるような、他の人には務まらないキャラクターのような気もするのだが、ダブルキャストの秋山さんはどう演じるのだろう。
・・・と、翌日には秋山さんの回も見たが、やはり違和感を感じてしまった。演技の技術面や安定感は圧倒的に秋山さん。しかし、人間味あふれる愛すべきキャラクターとして舞台上で輝くのは重盛さんのヒロミ。だから、重盛さんに一票・・・と、まるで愛とヒロミの写真のようなダブルキャストの二人だった。
重盛さんは、前回より声が出ているだけでなく、稽古を経た台詞回しも当然ながら上手くなっていた。途中、セリフが飛んでしまった妹役の倉田さんに咄嗟に助け舟を出すしっかりした一面も見ることができた。終演時には、その件で突っ込みを入れたら倉田さんの土下座と悔し涙を引き出してしまい、おろおろしながら「事務所につぶされる・・・」としっかり笑いをとる場面も可愛らしかった。
初演時は、時間軸を頻繁に前後する脚本に合わせて着替えを行わなければならないということもあってか、幽霊モードでは青いコートだったヒロミ。今回もその少し滑稽にも見える衣装を楽しみにしていたが、前回よりも少しおしゃれないでたちになっていた。
初演とキャスティングが変わった役は、初演時の思い入れも強いので、どうしても比較をしながら、前作のキャストの演技を思い出しながら見ることになる。注目のまみりん役は栞菜さん。前作での、中塚さんの天才的な怪演を間近で見ていたにもかかわらず、そのモノマネとならずに自分なりのまみりんをつくり上げるところはさすが。中塚さんと比べると控えめで出オチ感は薄かったが、変顔でしっかり笑いもとっていた。余談ながら、ヒロミが清美にカンチョーする場面は、春間さんが栞菜さんにカンチョーされながら考え付いたのだろうか。
演歌歌手・石川さゆき役は、前作の本職・吉木さんから、河西さんにバトンタッチ。歌唱力という点ではどうしても吉木さんに軍配が上がるのだが、彼女の演技は堂々としていたし、「とまどい岬」も十分に聴かせる歌唱だった。妹さんとはいまだに一度も握手をしたことがない中で、初めて会ったお姉さんと先に握手をするというのが不思議な感じがした。
愛役の馬場さんは前作の乃下さんに、くるみ役の船岡さんは前作の高橋さんにそれぞれ外見も雰囲気も似ていたので、違和感がないようで違和感も感じてしまった。
このプロジェクトの二枚看板であるくろありさんと内田さんは、2年前の「落下ガール」がほぼ舞台デビューだったということが信じられないくらい、舞台で演じることにかけては自信をつけ、演技を確立している。内田さんが演じたハッピートラベルの青山霊を主役に据えたサイドストーリーができたりしたら面白そうだ。平日夜の客入りは、決して良いとはいえなかったが、2年間にわたって地道に公演を重ね、ファミリーをつくり上げてきたプロジェクトの強みが生かされた舞台だった。「Flying Trip」というこのプロジェクトの由来が、「落下ガール」の渡り鳥のエピソードにあるということにようやく今日、気がついた。
(以下あらすじ)
取材中に落下してきたくす玉の直撃を受けて20年の短い生涯を閉じた新人カメラマンの白金ヒロミ(重盛/秋山)は、黄泉の旅路の案内人であるハッピートラベルの青山霊(内田)から、天国には行けないと宣告される。その理由は、生きている間に集めた「心からのありがとう」が基準に9個足りないというもの。感謝されるような行動はたくさんしてきたヒロミだが、お礼を言われそうになるたびに「いいの、いいの」と謙遜してきたことが仇となったのだ。ヒロミの嘆願に負けた霊は、ヒロミの葬式が行われる日の夜明けまで、猶予を与えることとした。その頃、ヒロミがかつて所属していた高校の写真部の部室には、部長の町子(フォンチー)、静香(木本)、明子(黒田/福田)、まみりん(栞菜)、くるみ(船岡)の当時の部員たちが集まり、ぎすぎすした雰囲気でヒロミの思い出が詰まった撮影旅行のポジを探していた。高校時代、仲がよかった部員たちだが、ある事件をきっかけにばらばらになってしまっていた。それは、大学の推薦入学の権利が手に入る写真コンテストへの出品作品を誰のものにするかということ。ヒロミと愛(梨里杏)の二人の作品が候補となり、部員7人の投票で決めようとしたが、くるみは優柔不断で決められず、ヒロミは自ら身を退こうとして、逆に愛を怒らせてしまう。仲良しだった静香と明子も投票をめぐって犬猿の仲に。こうして、部員たちはヒロミの葬式の日まで再び集まることはなかったのだ。演歌歌手となったさゆき(河西)、ADとなったみひろ(白河)、戦場カメラマンとなった愛も葬式のために顔を揃えるが、やはり皆の心はばらばら。その様子を見て心を痛めるヒロミ。ヒロミの姿が見える教師の高崎(椎名)は何とかしようと、ヒロミからポジの在処を聞き、部員たちにそれを見つけさせる。さらに、ヒロミが生前、みんなでもう一度集まろうと声をかけようとして、未送信のままになっていたメールがヒロミの携帯から見つかる。ポジに映っていたのは、ヒロミが一生懸命撮影の場所を見つけて、皆で撮った渡り鳥の写真。文化祭のために心をひとつにした頃の気持ちを思い出し、素直になれた元部員たちは、ヒロミに感謝の言葉を述べる。こうして、9個の「心からのありがとう」を手に入れたヒロミは、「あなたは最高のラッキーガールなんだよ」という霊の言葉に送られながら、天国への旅をはじめるのだった。