~熱風の果て~

観劇の記録

はい、チーズ(順風女子)@下北沢OFF・OFFシアター

【演出】足立信彦と順風女子 【作】足立信彦ほか

【出演】伊藤摩美、今井英里、池田葵、長峰みのり、岸波紗世子、原田里佳子、菅野睦、神谷はつき
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昨年末の順風男女による「キネマとコント」に続き、原田里佳子さんが今度は順風女子の公演にも出演。前作では、まだお客様扱いで主張しきれていないような印象だった原田さん。また、前作は映画のパロディが中心で、笑いのツボがいまいちピンと来なかったこともあって、多少の不安も抱きつつ向かった2度目のOFF・OFFシアター。
結論から言えば、今回はコメディも原田さんの演技も堪能し、DVDも予約。出演の女優さんたちは皆、高い演技力に裏打ちされた安定感と瞬発力で、良質なコメディを作り上げていた。順風女子には、何といっても伊藤摩美さんという強力な個性を持つコメディエンヌがいるわけで、彼女の存在感を活かしつつ、伍していくことが共演者に求められるのだが、そこが上手く回せたことが大きいと感じた。気品あるルックスながら大げさな表情でしっかり笑いをとれる長峰さんの存在感も大きかった。
13の演題がとっかえひっかえ演じられ、出演者たちはそのたびに忙しく着替え、髪型も変わったりする。その上、場の転換時の小道具のセッティングも演者の役割で、息つく暇なしの110分。「キネマとコント」と比べても、テンポがよかった印象を持った。
原田さんは、すっかり馴染んで存在感も格段に大きく発揮できるようになっていて、見ていて嬉しくなった。こういう姿を見たかった。出番も前作よりかなり多く、不倫OL役から魔法少女役、末っ子子豚役、警官役など、幅広いキャラクターを表情豊かに熱演し、声もよく出ていた。彼女の潔く短くした前髪が表情を引き立てるし、よく似合うのだ。パンフレットによると、今年は更に3つの舞台作品への出演が決まっているということなので、楽しみが増えそう。彼女が2年前に卒業したチアチアは、この3月で解散。原田さんに会うためにDVD発売イベントに1度行っただけだったので、あまり語る資格はないが、「来世もアイドルやりたいかと聞かれたら "No" だけど私の青春を捧げてきて本当に良かったしチアチアに入った事は後悔してません。」と、その場にいた人だけが言える重い言葉を残した須永さんはじめ、事務所の閉鎖など大きな波にもまれながら最後まで残った6人のメンバーには敬意を表したい。
シンガーソングライター役に扮した順風女子の池田葵さんのおどろおどろしい歌唱の表現力はなかなかのもの。喋るときの可愛らしい声とのギャップがすごい。劇中の暗転で、ヨッチンこと松崎さんの粘っこい歌唱が印象的なザ・テンプターズの「忘れ得ぬ君」が流れていたが、池田さんには、松崎さんの名作「宮殿に通ずる長い橋」を歌わせてみたいと思ってしまった。
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優しい電子回路(ベニバラ兎団)@サンモールスタジオ

【演出】IZAM 【作】川尻恵太

【出演】秋山ゆずき、北村悠水月桃子、川竹達也、林由莉恵、北原知奈、竹内麻美、外山将平、碧風歌、青山由美子、黒木綾、三浦タマ、飯田南織
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「踊りが丘学園」で好演を見せたベニバラ兎団所属の秋山ゆずきさんの初主演となる舞台。「踊りが丘学園」からは顔芸で多くの観客に強い印象を残した水月桃子さんも参戦。
これまで、シアターサンモールには、「ロボット」「落下ガール」の観劇で何度か訪れていたが、同じ敷地の建物の地下にあるサンモールスタジオには初入場。100席強の小ぶりな劇場の客席は、横幅が狭く斜度がしっかりとついており、見やすさで言えば隣のシアターよりも勝る。
物語は主にネットゲームの中のたまり場を舞台に進行し、登場人物たちは、ゲームのキャラクターの姿に扮する。ゲーム的なセリフや都合のよい設定などで笑いもとりつつ、次第に現実世界が重たくオーバーラップし、キャラクターを操る生身の人間たちの姿が見えてくる。AIという設定を持ち込んだことによって、現実世界に過剰に引っ張られずに、ゲーム世界と緊張感を持ちながら進んでいった。また、最後にはAI自体が物語の鍵を握ることにもなり、設定が上手く使われていた。ラストもゲーム世界を否定するわけではなく、ほどよく付き合いながら、現実世界を楽しむというスタンスに落ち着いたところも、バランスがよかったと思う。
主演の秋山さんの張りのある美声は本当に舞台向きで、小声になってもしっかりと聞き取れる。「踊りが丘学園」の参子のような屈折した感情や、今作のテンカのような弱さといったマイナスな部分の表現もでき、幅広い演技ができるオールマイティな女優さんだと思う。主役タイプではないような印象も持っていたが、そんな印象を打ち消すだけの存在感を見せていた。
主人公の相手役の北村悠さんの演技を見るのは5年ぶり。翳のあるクールなアクションスターのイメージだったが、最近の写真はソフトな印象になっていて、この舞台でどういう演技を見せてくれるのか楽しみだった。文字通りの優しい電子回路として、テンカやゲームの世界を優しく見守るモーリーの立ち位置。ときにセリフの早回しでお茶目な部分も見せつつ、ほぼ出ずっぱり、喋りどおしでこの舞台を支えていた。最後のダンスシーンの切れ味はさすが。
水月桃子さんは、胸元が開いたセクシーな衣装だけで十分目立つ上に、セリフのないところでの顔芸や動きがいちいち細かい。ここまでは「踊りが丘学園」再びという感じだが、今作では何と悪役として後半に豹変。新たな一面を見せてくれた。悪役としての迫力という点では一歩足りない気はしたが、こういう新たな挑戦は女優としての成長につながるはず。現実世界の大石は・・・やっぱり"death by hanging"でしょうね。来月も、4か月連続で彼女の演技を見る機会がありそうなので楽しみだ。
ネットゲームらしい現実離れしたキャラクターとして登場した、語尾がおかしいキンパチ、ジャモンコンビ。レアアイテムのタマタマを嬉しそうに運んでくる登場シーンから可愛らしい。キンパチ役の北原知奈さんは、普段は声優として活動しているらしく、アニメチックな声ながらしっかりと抑揚のある安定したセリフの回しぶりとモコモコ髪のマスコット的ないでたちで華を添えていた。カーテンコールでは、出演していたっけ・・・と初めて見るような美人の顔があって、消去法でようやくジャモンと分かって驚いてしまった。
終演後は出演者5人が上がってのトークショー。いじられ役の佐藤役の川竹さんを中心に、役者たちが良い雰囲気でこの劇を作り上げてきたことがよく分かる。ホワイトボードに登場人物たちの似顔絵をせっせと描いていったという三浦さんの画力はさすが。ホワイトボードの二頭身キャラたちは、そのままTシャツにでもできるのではないかというくらいの完成度だった。
1週間前くらいに見に行くことを決めた舞台だったが、実際に見てみれば、もう1回くらいは見たかったと思わせる良作だった。
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僕らの初体験奮闘記89'(LOVE&FAT FACTORY)@小劇場楽園

【作・演出】ゴブリン串田

【出演】中村ゆうすけ、高橋茉琴、鎌倉太郎、大橋繭子、稲葉麻由子、成瀬麻紗美、川西進太郎、熊谷藍、保土田充、三熊こうすけ、関口ふで、馬渡直子、うじすけ、ゴブリン串田
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創作の泉滾々として止め敢えずといった猛烈な勢いで活動を続けるゴブさん。勢いそのままに、自らの初体験を主題に禁断の作品を世に送り出すに至った。
下北沢駅前、本多劇場の一角の地下に、小劇場「楽園」がある。太い柱を境に、90度の角度で分かれた客席が並ぶ、100席にも満たない箱だ。地下の薄暗い雰囲気が、これから演じられる劇の妖しさを予感させる。
公開されていたフライヤーでは、バスタオルを纏った馬渡さんが迫力いっぱいに紙面を占めているので、さてはAV女優役かと、怖いもの見たさの期待も抱いていたが、生徒想いの教師役として、彼女にしては珍しい一般的な女性役だった。
パンフレットのゴブさんのコメントにあるとおり、「テレビでは出来ない面白さ」が満載。舞台を見る中で、せっかくの舞台なのにテレビの影響を強く受けたような笑いや表現をどうしてしてしまうんだろうという疑問を抱くこともあったので、こういうコメントはうれしい。言葉は高校生そのままにストレートな性的表現で、これだけでもテレビでの放映は絶対に不可能だ。演じている人の年齢は様々でも、そこに当時の高校生たちのリアルがある。
行為の表現はあからさまではなく、舞台的。派手なダンスであったり、再現ドラマ風であったりで、熱気と笑いの中で上手く表現されていた。男性陣も女性陣もかなり際どい、あられもない姿まで晒す、体当たりの熱演。あまり直視するのも悪いような、対角の客席から見られているようで恥ずかしいような、でもせっかくここまでやって演じてくれているのだから、しっかり見ないと失礼なようなと、妙にドキドキしてしまった。カナイ様役の成瀬さんの腹筋は美しかった。
中村ゆうすけさん演じるケンちゃんは、本当にゴブさんを若返らせたような感じで、雰囲気が出ていた。お調子者で仲間思いでエロい健一は等身大で、自然と応援したくなる。その恋のお相手のマーちゃんを演じるのは、高橋茉琴さん。あのクールでスマートなミス・サンサーラと同じ人が演じているのかと俄かに信じがたいほどの可愛らしさと恥じらいを表情と声で表現。女優とは凄いものだと思った。
エンディングでは登場人物たちのその後が明かされるが、劇中での高校生時代の展開のまま進むとは限らないところがまたリアル。それでも最後は男5人が同窓会的に集まって、爽やかな幕切れだった。

イマジカル・マテリアル(アリスインプロジェクト)@新宿村LIVE

【演出】吉久直志【脚本】麻草郁【原案】畑澤和也

【出演】山本亜依、小磯陽香、藍菜、岩田陽葵、笠本玲名、大友波瑠水月桃子、山本真夢、青柳伽奈、新木美優、こいずみさき、結城ひめり、新倉希彩、渡辺菜友、清水凛、小見川千明、真野未華、横尾莉緒、星川優夢、丸中咲花、兵藤美帆、稲葉楓、林田鈴菜、井戸美月、小間百華、天音利椰
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2014年のこけら落とし以来、興味のある作品はいくつか演じられていたものの、実際に入るのは初めての新宿村LIVE。地下2階まで長い階段を下りたところがホールへの入口となっている。S席として販売されていた前方3列は平場であるものの、4列目からは各列20センチほどの段差が付けられており、2~3列目を避ければ、視線は問題なく確保できる。劇場の規模としても、200席余りと、大きすぎず小さすぎずで、舞台全体を見渡すにもちょうどよい塩梅。中央に通路がないため、入場が進んでから列の真ん中の席まで入るのは少々苦労することとなる。
チケットは出演者一人一人の挨拶を聞くことができる大千秋楽の1公演のみ確保。「真まふ」で初めて巻き起こったという千秋楽のスタンディングオベーションは、前作の「踊りが丘学園」でも発生したと聞き、少し不安だった。これをアリスインの新たな観劇文化と受け取るか、はたまた陳腐化した単なる儀礼的な行為と受け取ればよいのか整理できないまま、立ち上がりやすいようにと、足元の荷物はとりあえず奥に押し込んで備えた。結果として今作でも起き、その価値があったかどうかというのはそれぞれの判断に任されるが、迸る感動の余りという面だけでなく、応援するアイドルが喜ぶ行為をする本能を持つ観客が中心ということは考慮に置くべきだろう。
トーリーは事前に恐れていたとおり、畑澤・麻草ラインで演じられたヴェッカーシリーズの舞台と同様、結局よく分からないまま。3つの時代に加え、時空の分岐が起きたり、それぞれの時代の登場人物が21世紀に集まり、異なる時空や流れから切り離された無限ループの時空、時空の牢獄のようなところまで出てくる上に、舞台上には常に多くの演者たちがそれぞれの動きを演じており、どこを掴んでよいのか迷っているうちにストーリーが展開していってしまった。特異点という単語だけで絶望感のトラウマが惹き起こされるし、特定の個人が特異点になっていて、何かの属性を持つ2人が出会うことでどうのこうのとなるともうさっぱり。麻草脚本を全部理解しようと思って見るのがそもそもの間違いなのだが、自分の理解力のなさを棚に上げて言えば、設定にしても登場人物にしても切り落とすところは思い切って捨てた方がよかったのではないかと感じた。注意深く、何度か見れば分かるというよりは、こういう設定がスーっと入ってくるかどうかというのは、センスの部分が大きいと思う。パンフレットを読めればヒントも得られそうだが、残念ながら千秋楽では既に売り切れで手に入れられなかった。
パフォーマーを使った演出、どこかで見た覚えがあると思ったら、今作の演出・脚本・原案の3人が組んで上演された「ヴェッカー1983」だった。魔法使いの3人自体、まさにそこで登場していたというわけか。このときもストーリーが消化できずにもやもやして、中途半端な感想を書いていたんだな。今回もまた畑澤監督言うところの「観劇スキル」のなさを曝す結果になってしまった。
今作で一方の主役と言えるハナビ役を演じた岩田陽葵さんの演技は素晴らしかった。邪悪なバラの蔓に取り込まれそうになりながら痛々しく溢れ出す負の感情と、それを隠した日常での表情の対比。「真まふ」の際も、文ちゃん役を好演していたが、今作では更に一段上のレベルに達していて、技術と役への感情移入がバランスよく演技に表れていた。ステージのライトに照らされながら輝いて落ちる涙の粒は美しかった。更にアリスインの舞台に出演する機会があるならば主演で見たいと思ったし、アリスインに限らずいろいろな舞台で活躍できる人だと感じた。
今作が初舞台という人も多かったということで、もう一度アリスインの舞台に出ることを目標にするのもいいし、本格的な劇団の舞台に打って出たいと思うのもいい。アリスインプロジェクト自体が6年も続き、数百人の規模でアイドルたちを舞台に送り出してきた功績というのは相当なものだ。
アクションも随所にちりばめられる中、オープニングから華麗な身のこなしを見せていたのが、ネブラ役の新木美優さん。17歳とは思えない堂々としたアクションで舞台に華を添えていた。ロボットという役柄上、感動のシーンでも涙を流してオイル漏れするわけにはいかないと、感情を殺しながらの演技。カーテンコールでの解放されたような笑顔も印象的だった。
「真まふ」にも出ていた結城ひめりさんの声は、一声聞いただけであの時の彼女かと、すぐに分かる。これだけでも大きな強みだ。その粗削りで強力な個性を活かす方向で伸びていければ楽しみ。来月見に行く予定の、「PIRATES OF THE DESERT 3」にも出演を予定しているとのこと。どういう風に彼女の声を活かすのかというところにも注目して見てみたい。

Battle Butler(yoppy project)@六行会ホール

【演出・脚本】中島大地

【出演】天野七瑠、今出舞、山沖勇輝、中塚智実長谷川美子深澤大河、中島大地、鵜飼主水、赤間直哉、香乃さき、七海とろろ、冴月里実、大曽根敬大、ヒロヤ、阿佐美貴士、レノ聡、吉野哲平、春見しんや、綾部りさ、嶋田真、倉田果歩、白石れい、神崎洸太、一条龍之介
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一時期離れていた芸能界に復帰した長谷川美子さんを中心として立ち上がった演劇プロジェクトによる第1作。
執事、バトルということで、イケメン俳優たちによるアクションが中心になることは予想できたこの舞台。あとは、そこにどれだけ物語、演劇としての深みを加えてこれるか、少々の不安も抱えながらの観劇だった。
アクションの面では、殺しは厳禁で一定のルールも設定された中の戦いなので、純粋にアクロバティックな動きや駆け引きを堪能するとともに、戦いの中での主人を含む人物たちの心情の変化や、隠された真実を探りながら見ることができた。重厚に、電撃的に、アクロバティックに、執事たちによる殺陣は迫力十分だった。閉じられた空間の中、人間関係の広がり、世界観の広がりという点では限界はあったが、単なるライバルと思われた執事同士、単なる主従と思われた執事と主人との関係が戦いを通して少しずつ変わっていく様子は見ごたえがあった。
冷徹に見える登場人物たちも最後には血の通った暖かい部分を見せ、基本的には性善説で貫かれている。バトルそのものにも、非道な戦い方もなく、真剣勝負で演じられたところもよかった。茶色チームの田舎のお百姓は、どう見てもただの嚙ませ犬で真っ先に退場するかと思いきや、最後まで普通にいい人。演出・脚本も手掛ける中島大地さん演じる金剛大輔の戦いざま、生き様は格好良いの一言。
中塚さんは高飛車で憎々しいお嬢様役で、バトルの真の黒幕であるおっきー演じる執事と組んでの出場。この2人のコンビと言って思い出すのは、「ヴェッカーDNS」。おっきーはあの頃から比べれば、多少ふっくらした感じで、貫禄も出てきていて、その演技や殺陣での存在感も増していた。最後の挨拶も安心して聞いていられる。3.11という日に言及しつつ、しっかりと締めていた。中塚さんはAKBにいた頃よりも、だいぶ自分を解放して、やりたいことを楽しみながらやれているという印象がある。この舞台でも、不器用で素直になれない自分へのもどかしさを内に秘めたキャラクターの変化を、終盤では感極まって涙ぐみながら熱演していた。四童子さんのキャラクターは、彼女と重なる部分もあったのではないだろうか。
昨年12月に見た「〈わたし〉に続く果てしない物語」に出演していた綾部りささんは、その声を活かしてボクっ娘役で出演。外界や人間に興味を示さないボクっ娘が、とろろさん演じるアイドルや他の参加者たちとの交流で、ほんの少しずつでも変わっていく。カーテンコールではずっと涙を見せながら。そこには帽子と俯いた仕草で隠れていたボクっ娘の秘めた思いが存分に表出されていた。アンサンブルのバトルスタッフの中に、何となく親しみを感じる顔の人がいて、「〈わたし〉に続く果てしない物語」に綾部さんと共にセミアンドロイド役で出演していた山田貴之さんと知って納得だった。