~熱風の果て~

観劇の記録

Alice in Deadly School nocturne(アリスインプロジェクト)@新宿村LIVE

【脚本】麻草郁、【演出】松本陽一

【出演】若林倫香船岡咲中塚智実八坂沙織、舞川みやこ、栗生みな、永吉明日香、秋元美咲、大塚愛菜、民本しょうこ、持田千妃来、花梨、天音、渡辺菜友、栗野春香、佐藤琴乃、雛形羽衣、月岡鈴、遠藤瑠香
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2010年の初演(無印)、2013年のAlternativeに続き、デッドリーとしては3作品目の観劇となった「ノクターン」。
今作のキャストは、今月末に公開される映画と一緒であり、まさに「同じ釜の飯を食った」間柄。映画のロケを経て役作りも熟成し、作品としても7年の間に再演を繰り返しつつ熟成してと、これ以上ない食べごろの旬を味わえる贅沢さ。ストーリーを凝縮したような高密度なオープニングのダンスの時点で既に舞台上から受ける引力の凄まじさに、これから演じられる舞台の完成度の高さを確信できた。
7年前の初演で舞台デビューを果たした中塚智実さんが再び和磨会長を演じるのは、驚きでもあり、楽しみでもあった。初演では、頼りがいのあるしっかり者の面が前に出ていたと思うが、今作では、真面目さゆえの可笑しさも強調されていて、セリフのない部分での表情を大きく使ってのボケと、静香副会長との小声での掛け合いが見ていて微笑ましかった。しかし、屋上から焼却炉への自決シーンは何回見ても辛い。しかも、今作では、断末魔の叫びが響き渡るという、思わず耳を覆いたくなる演出が加わっていて、よりトラウマ度が高かった。7年前の中塚さんの残像が思ったほどオーバーラップしてこなかったのは見ていて意外だったが、それだけ彼女が成長し、演技が進化しているということだと思う。初演があってこその7年間のアリスインプロジェクトやアイドル舞台の隆盛があり、中塚さんたち当時のドレスコード組を始めとするパイオニアの存在があってこそ、AKB在籍者や卒業生たちの舞台での活躍がある。
和磨部長の自決と並んで印象深いシーンといえば、高森部長の自決シーン。くりゅさん演じる今作の高森さんは、体育館でのトラウマに加え、紅島さんに罪を負わせたという更なるトラウマをも背負っているという重たい設定で、実際に受けた傷も重く、トラウマに苛まれて怯えるようなシーンが多かった。だからこそ、のびゅーんコンビが生み出した束の間の和みの中で、彼女が微笑みを取り戻す一瞬の平和が嬉しくもあり、その儚さが辛くもあった。カーテンコールで、また一緒にソフトをやろうという共演者の部員たちへの呼びかけは、紅島さんだけでなく、挨拶の出番が回ってくるまで冷静な氷鏡のままでいようとしていた八坂さんまで泣かせてしまうという憎いばかりのリーダーぶりだった。ソフト部員の塔蘭を演じていた佐藤琴乃さん、ビジュアル的に初代高森部長の、のしたんこと乃下未帆さんに似ていたので、最初は彼女が高森部長役かと思ってしまった。
のびゅーんの優役は、名古屋公演で相方の信子役を演じたことがあるという若林さん。アドリブを含めて、完璧に吹っ切れてボケ役を迷いなく演じ、ネタそのものよりも、やり切る舞台度胸で観客までも巻き込んでいた。重苦しい状況の中でできることを精一杯やろうとする痛々しさと底抜け感の両方が伝わってくる快演で、彼女がどういう風に信子役を演じたのか、想像することが難しいくらい、優役がはまっていた。
相方の信子役は、Alternativeではゲストとして珠子役で出演していた船岡咲さん。彼女の演技を見るのは10作品目ながら4年ぶりになってしまった。最後の優との別れの場面では、残った僅かな生命力を絞りながら、客席に伝わる最低限の声量で台詞を発していた。その場面の数分間、観客席は水を打ったように静まり、全員が固唾を飲みながら信子の台詞に耳を澄ませるという、アイドル舞台とは思えないような、緊張感溢れる時間が過ぎた。
黄市恵美役の天音さんは、か弱そうなビジュアルにアニメチックな声色で、守ってあげたい下級生感がものすごく、爆弾運搬作戦で犠牲になって、ゲロタンだけが帰還したときの悲しさは半端なかった。花梨さん演じる夏樹との学年を超えた信頼関係には暖かみを感じた。
唯一、他校の生徒として登場する、堂本千十合さん。初めて訪れる場所で想像を絶する事態に遭遇しつつも冷静に情報収集を行い、母校や自宅の惨状を目の当たりにしても、最後まで依鳴や水貴たちを鼓舞して生き抜くことにこだわった彼女の芯は見た目以上に強固なものがある。堂本さんを演じた秋元さんの冷静さと熱さを同居させた演じぶりと透明感あふれるビジュアルは印象に残った。初演で堂本さんを演じた鈴木まりやさんも観劇に訪れたという知らせは嬉しかった。
デッドリースクールが毎年のように舞台で繰り返し演じられ、映画やアニメへのメディアミックス展開まで図られるというのは、単にアリスインの最初の作品だからというわけではなくて、ストーリーの分かりやすさ、登場人物たちの個性、屋上で過ごす短い時間の中での成長、印象的なシーンの多さなど、魅力に溢れる作品だからだということが再認識できた。ストーリーの流れは見る前から把握していて、次にどういうシーンやセリフがあって、誰がどういう運命にあるかも分かって見ていたはずだが、感動はむしろ高まり、これまででいちばん涙を絞られた気がする。映画の中や上映イベント、さらには来年以降、デッドリースクールの世界で、再び彼女たちに会えることを楽しみにしたい。

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