~熱風の果て~

観劇の記録

時分自間旅行(TAIYO MAJIC FILM)@赤坂RED/THEATER

【作・演出】西条みつとし

【出演】畠山U輔、仁藤萌乃、由地慶伍、篠原あさみ、町田慎吾広澤草、小築舞衣、鈴木まりやエハラマサヒロ、ヨネックス千晴、濱崎大輝、西田薫子、ナカノアツシ、蔭山ひろみ、中村涼子、三森淳子、南好洋、里久嶋祐果、東松史子、佐伯祐佳、田中勇誠
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仁藤萌乃さん出演の舞台を赤坂で観劇。前に赤坂を訪れたのが4年前、その前に訪れたのはそれから更に10年前。夜の赤坂の盛り場の居心地の悪さから逃れるように地下の劇場に入れば、恭しく黒服の男性に迎えられて、やはりここは赤坂なのだと思い知る。開演直前の入場だったため、既に佐伯祐佳さんによるオープニングステージの最中だった。
結婚を控えた小説家が、婚約者の両親と自分たちのことを書いた、6本の短編恋愛小説が演じられた。それらが、喫茶店という共通の空間を使いながら、時間軸順番を入れ替えながら並行して語られていく。登場人物の同一性は敢えて仄めかす程度にぼやかされていて、頭の中でパズルを解くような感覚だった。
何気ないところから恋が始まり、謳歌する季節を迎え、すきま風や嵐が吹き、収穫の季節を迎えるものもあれば、落果するものもある。父親が胸が張り裂けそうな思いをしつつ、涙と微笑みで下した最後の選択は尊いものだった。もう一つの選択肢も十分に考えられる展開だったが、そちらが選ばれていたとすれば、感動することはなかっただろう。
舞台上に雑然とぶちまけられた、余命いくばくもないと告げられて自ら恋人と別れた男の遣る瀬無い思いが、震災によって崩れ落ちた日常を現すことにつなげたり、気持ちに素直や言葉やうらはらな言葉を観客に向けて白日に曝け出させる「心男」と「心女」を登場させたりといった、舞台らしい工夫された演出の力が効果的だった。寄せ返す波のようにかき乱される感情を表現したナカノアツシさんのギター演奏や、袋小路に自ら迷い込んだ男女に問いかけるように迫る東松史子さんの迫力のある歌唱。舞台や観客に与える音楽の力も存分に発揮されていた。
仁藤萌乃さんは、前半はストーリーを外から眺める役回りとして穏やかさの中にいたが、自らが小説の登場人物となり、婚約に至るまでの波乱を演じることになった。際どい設定もある役を任され、それを自然体で演じ切る姿に、25歳という年齢、10年という時間の積み重ねと、女優としての着実な歩みを感じることができた。姉の恋人に横恋慕する女を演じた鈴木まりやさんも、演技の経験を重ねて、すっかり良い女優さんになっていた。
西田薫子さんは、同じ女子高生でも「バック島」からは性格もビジュアルも正反対と言ってもよいくらいの変わりぶりで、「バック島」での破壊的な演技を見た後だったので驚いたが、これもまた舞台の醍醐味だ。

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