~熱風の果て~

観劇の記録

エーテルコード(Favorite Banana Indians)@劇場MOMO

【作・演出】息吹肇

【出演】松原夏海、中澤隆範、西園みすず、椎名恭子、中西みなみ、横井結衣、後藤瑠美、天月ミク、田原寛也、谷奈実子、春摘らむ、宗像将史、松坂南、齋木亨子
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松原夏海さんが3回連続で座長を務めるFBIの本公演を観劇。スピリチュアルなものや宗教的なもの、それらを商売にしたり囚われたりする人たちに対して冷淡な気持ちを持ってしまう自分にとっては、不安なテーマでもあったが、演劇では、現実にはあり得ない奇跡や偶然が重なって物語が進むことは普通のこと。信じることが前提というわけではないので、観劇を楽しむ上では問題にはならなかった。
物語の前半は、大きな波乱の要素もなく全てが順調に進んでいくので、やや冗長さも感じながら、いつ、どんな形で揺るがされるのかと待っていたら、後半は一気に負の要素がなだれ込んできて、ハルマゲドンのような、アクション要素のある光と闇の戦いまで描かれた。人の心に憑いた闇を溶かし、人と人とをつなげる歌の力が一つのテーマになっていて、最後は何かに縋るのではなくて、自分の力で新しい一歩を踏み出していくという明るさの中で幕を閉じた。その大事な歌唱シーンを演じたさんみゅ~の西園さんは、かなりの歌唱力の持ち主で、十分に大役を果たしていた。ただ、劇場MOMOの小さな空間を考えると、ヘッドマイクを使う必要があったのかは疑問だった。ステージで歌っている設定の場面以外では、ビジュアル的にも不自然な感じになってしまうし、ラストシーン前のいちばん大事なところで音声が不安定になってしまっていたので、マイクを通さない方がより客席に伝わるものは大きかったのではないかと考えると惜しかった。
歌手を志していたこともあったという設定の役だった松原さんにも歌唱シーンがあって、劇場では自身が作詞した劇中歌が収録されたCDが販売されていたので購入してきた。まさに、そのCDを書きながら文章を打っているが、彼女らしい優しさと強さが伝わってくるような詞と歌唱だ。これが歌手としてのソロデビューということになるのだろうか。大きな感情の波に流されることのない、落ち着いた普通の女性を普通に演じきる。その難しさを感じさせない自然体のしっかりとした演じぶりは、座長にふさわしいものだったし、今もなお「売れたい」という欲を持ち続けていることも分かって心強かった。前作でも共演した中澤さんとの息もぴったり合っていた。2006年に初めて会って以来、干支がひと廻りしてもこうして舞台に立つ彼女を見ているというだけでも、それは十分「エーテルコード」なのかもしれない。
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みくぽむこと天月さんは、やはりレディースのヘッドを演じるよりも、可愛らしさを前面に出した役の方が容姿からも声質からも似合うし、彼女の強みでもある。フライヤーの名前の順番からすると、出番や見せ場は少ないかと予想していたが、実際には、物語を転換させるカギを握る役で、独白シーンもあった。千秋楽のダブルコールでコメントを振られたときに「大丈夫です」と遠慮してしまったのは、初期の松原さんを見るようでもあり、彼女の芸能界への思いの一部を知っていただけに残念だったが、今月末からの次の舞台ではどんな姿を見せてくれるのか楽しみ。
天月さんが演じた菅野と大きな関わりを持つ洋介を演じるはずだった役者が「一身上の都合」で初日まで1週間を切るというタイミングで降板という大きなハプニングもあったこの公演。当日パンフレットによると、ほとんど喋らない役だったということだが、大きな影響があっただろうことは容易に想像できる。「教団」という余計とも思える設定が唐突に聞こえてしまったのはその影響もあったのかもしれないが、作者や出演者も言い訳や恨み言はしていなかったので、劇場で観たものを完成形として受け取りたい。
椎名恭子さんが演じたアゲハの本名は、劇中で答えが明かされることがなかったが、やはり姉と同じ「ノゾミ」なのだろうか。少なくとも、「カナエ」や「タマエ」ではないと思う。
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