~熱風の果て~

観劇の記録

イバラヒメ(私立ルドビコ女学院)@ウッディシアター中目黒

【作・演出】桜木さやか

【出演】今吉めぐみ、長橋有沙、さいとう雅子、星守紗凪、広沢麻衣、あわつまい、藤堂美結、木村若菜、荒木未歩、夏目愛海、かとうみゆ、中村衣里、鹿糠葵、平塚あみ、眞賀里知乃
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アサルトリリィとのコラボ作品である、前作の「シュベスターの誓い」で初観劇となったルドビコ女学院の作品。通常の学園モードの作品を見るのは今作が初めて。基本的に演者は、異なる作品で役の設定が違っても、同じ役名で出演するというのがルド女ならではの仕組み。そして、「泉莉奈」が、今吉めぐみさんが何作品にもわたって演じ続けてきた役名ということになる。
演劇の中に演劇部が存在して、演劇の中の世界での実世界を基にした演劇が演じられ、と少々複雑な構造を持つ設定で、さらに様々な要素が茨の蔓のように絡んでいて、最後はかなり力技で断ち切るようなところもある。少し間違えれば、観客を白けさせかねないところだと思うのだが、そこを乗り越えるのに十分な説得力が今吉さんの渾身の熱演と、熱い涙から受け取れる。心をこめて演じる演技の力をまざまざと見せつけられた。
「シュベスターの誓い」に出演後、膝に大怪我を負い、それでもなお次の「PLAYROOM」を演じ切り、その後に手術に踏み切ったまぁこさんは、この舞台が復帰戦。鳴海・クララ・優子も魅力的なキャラクターだったが、この作品の鳴海優子もまた魅力的。コミカルな表情から鬼気迫る表情まで、振れ幅の広い表現はまぁこさんならでは。特に印象に残ったのが、今回の役柄にもふさわしい、慈愛に満ちた微笑み。声での表現もあわせて、改めて彼女の演技が好きだと思った。そして、「まなつの銀河」で初めて知ってから5年余りで、ようやく直接お話しをすることができた。これまでは、純粋に作品を楽しみ評価したいというスタンスがあったりして、舞台に付随するアイドル的なイベントへの参加や写真の購入などは避けていたが、最近は、応援を形にすることも大事と、少し考え方が変わった。
共演を重ね、交流も深いまぁこさんと長橋さんとのコンビは安定している。今作も含めて、パワーのある役をものにする長橋さんの勢いは止まらない。前説パフォーマンスで見せたダンスと殺陣も1回限りで終わるのはもったいないくらいの迫力。構えには一瞬「セイヤン」で演じたカバコが蘇って見えた。つぐみのお嬢様設定はあまり劇中では見られなかったが、彼女の母親はあの女性議員がモデルなのか・・・
長橋さんと殺陣を披露した平塚あみごんは、あらゆる面で舞台上での存在感が圧倒的。第1部での木村若菜さんとの対決は、舞台と客席との距離を縮め、空気を温める上でもこれ以上ない出来。第2部の飲んだくれ親父役もコミカルで貫禄もある。こういう、平塚さんのような、何でもできる人が一人いると、いろいろやりやすいと思う。それが木村さんと二人もいれば怖いものなしだ。
「マチコ先生」から中1週での出演となった夏目愛海さんは、ハードスケジュールの稽古中に体調を崩してしまい、ダンスパートには出演できなくなってしまった。悔しさも当然あるはずだが、羽田芽衣としての演技にはそんな影は一切見せずに、変わらずのよく通る声と安定のセリフ回しで演じきっていて、彼女の精一杯の表現を感じることができた。小学生姿でのあの演技は彼女にしかできないだろう。10代の最後を5か月連続の舞台出演で締めくくろうとしている彼女の20代での更なる飛躍も楽しみで、主役を張るような機会も遠くないかもしれない。
広沢麻衣さんは、「シュベスターの誓い」とは役名を変えての出演。園児服での演技がいちばん印象的で、彼女のキラキラと輝く瞳が無垢な子供の目だからだろう。ダンスパートでのアイドル的な輝きはやはりぴか一だ。星守紗凪さんも、「シュベスターの誓い」とは違う役名。前作の情熱に溢れ、強さに憧れるショートカットの俺っ娘から大きくイメージが変わり、ツインテールでその場の流れについつい乗ってしまうような下級生役。流れに乗ってしまった自分に疑問を抱くように眉根に皺を寄せるような表情が可愛らしい。彼女の素材をそのまま生かしたような今回のような役も魅力的だった。
今回の「泉莉奈卒業公演」という公演が打てるのも、キャラクターを育て、女優を育て、送り出すという、長年続けてきたプロジェクトであればこその理想的な形。演劇作品としてしっかりと仕上げられた良質のものを届けるだけでなく、お出迎えから前説、日替わりパフォーマンスに特別授業、お見送りに写メ会と、楽しみが豊富に詰まった2時間のエンターテイメントパッケージとしてもハイレベルなルド女。その名前は前から知っていたので、観劇し始めるのがもう少し早ければという思いはあるが、遅すぎるということはないので、この先の歴史はしっかりと現場で見届けていきたい。
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