~熱風の果て~

観劇の記録

天使の図書室~チョコレート・ダイアリー~(女神座ATHENA)@高田馬場ラビネスト

【構成・演出】山口喬司

【出演】山川ひろみ、酒井瞳今出舞
女神座ATHENAのリーディングシアターとしては第2弾となる今作。バレンタインに因む3本のショートストーリーが演じられた。
朗読劇というものを見るのは、女性アイドルによる童話と、イケメン俳優によるBLものという、今になっても意味不明な2本の取り合わせだった、「グリムの森」以来。そのときは、声優によるアフレコのように、台本を片手にした出演者が舞台の中央に集まって、ほとんど動かずに本を読んでいくというスタイルだった。今作の1番手で登場した今出さんは、動き回り、客席に向かって表情もつくりながらのアクティブな朗読からスタートしたので、こういうスタイルもあるのかと感心して見ていた。終演後のコメントによると、朗読劇がどういうものかよく分からないまま自分なりのスタイルをつくっていたとのこと。酒井さんも、演出家から何も言われないのをいいことに自由にやっていたと言っていたので、そういった自由さ、演者ごとの解釈や個性も含めて、この舞台の魅力、面白さになっているということだろう。
偶然にも、加藤智子さん、今出舞さんという元SKEメンバーが出演する2作品をハシゴする形となったが、チケット発売日時点では、今出さんではなく、ぴっかりんこと橋本耀さんがキャスティングされていた。楽しみにしていたのだが、都合により発売から数日で降板し、今出さんが代役としてキャスティングされたのだった。今出さんは、名前を知っていただけで、顔を見るのは今日が初めて。身長以上に大きく見え、顔もはっきりと整っていて、舞台上で存在感を発揮できるタイプ。AKBで言えば前田亜美さんに近いイメージ。来月の彼女の主演舞台も仕事次第で行けるか流動的ではあるものの、チケットは買っているので、どんな演技を見せてくれるのか楽しみ。
酒井瞳さんを見るのは4年ぶり。アドリブでの客を巻き込んで、そして客をいじめる嗜虐教師ぶり。指されなくてよかった・・・。27歳になっていて、すっかり色気のある女教師役が板に付いていた。出演者が持っている台本は、舞台用に綺麗に装丁されるわけでもなく、単にコピー用紙を製本テープで止めたシンプルなもの。ちらっと見えた酒井さんの台本には書き込みもしてあって、こういうところにも朗読劇の面白さを感じた。そして、天使の図書室の前作も経験している山川さんは、あまり動き回らずに、正統派の朗読スタイル。普通のセリフ回しとは違い、単なる本読みとも違う、静かに気持ちを込めた読み方。背負っている重たい運命の設定もあって、舞台の世界へと引き込まれた。いつもの女神座ATHENAや山口さんの作品とは少し違う、穏やかな暖かさが前面に出た作品だった。

DANCE! DANCE! DANCE! 踊りが丘学園~これが私の舞活動~(アリスインプロジェクト)@シアターKASSAI

【演出】扇田賢、【脚本】三井秀樹

【出演】加藤智子山田澪花、秋山ゆずき、水月桃子、田沢涼夏、花梨、矢野冬子星優姫、青柳伽奈、黒木ひかり、仲野りおん、原田真帆、渡辺菜友、渡壁りさ、民本しょうこ、ROSE、永山杏佳、陽向海真珠、幸野ゆりあ、元谷百合奈、中神明日香、最上みゆう、相馬ふうな、勝田麗美、山田香織、未来みき
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扇田さん率いるBobjack Theaterの本公演以来となるシアターKASSAI。その「ノッキンヘブン」と同様、2回の週末を迎える長い上演期間が設定された「踊りが丘学園」。チケットの売れ行きはなかなか好調で、発売初日には既に千秋楽は売り切れとなっていたので、最初の週末で見に行くことにした。客の入りは上々で、開場後間もなくでほぼ座席が埋まる出足の良さ。まだ完成度としては温まり切っていない段階かもと心配もしつつだったが、前半戦にして、早くもセリフのないところでの演技などに工夫と遊びが出てきているという踊りが丘学園。1週間後の千秋楽に向けて、ダンス力が更に上がっていくという期待が持てる、パワーあふれる舞台だった。
ダンスで雌雄を決する学園という設定なので、ダンスの場面が上演時間の半分ほどを占める。バスケ、テニス、アニメ、メイド、鉄道と、それぞれの部活の個性を活かしたビジュアルとダンスを見るだけでも十分楽しめる。そのぶん展開や人間関係は通常の舞台作品と比べれば圧縮されたものになるが、しっかりと起承転結できれいにまとまっていた。
脚本の三井秀樹さんの名前は、元ラッシーフリークな自分としては、やはり何と言っても1996年に放映のアニメ「名犬ラッシー」で数話分の脚本を書いていた人として認識している。数字が全く取れずに半年で打ち切りとなり、後半のロードムービー構想は水泡に帰し、最終回はテレビ放映すらされなかったという不遇の作品ではあるが、日常描写の妙は名作劇場の最後の意地を示したもの。それを監督として手掛けた片渕監督が今、映画作品で注目されているというのも嬉しいことだ。
主演の加藤さんとは、「46億年ゼミ」から2作連続での顔合わせ。気品ある白マリアとガラリと変わって、高校の制服姿にお下げ髪と瓶眼鏡。SKEでも確か年上の方だったはずと生年月日を調べると、今年の4月で30歳を迎えるとのことだが、女子高生役もなかなか似合っていた。AKBで言えば、片山陽加さんに近いイメージ。カーテンコールではさすがに年上の余裕を見せて、周りの出演者の話を司会者のように引き出していた。
ダンスで目立っていたのが、ダンスバスケ部員の巧美役のROSEさん。丸顔で幼さも残るルックスに似合わず、ソロダンスの場面ではアクロバティックなキレキレダンスを見せていた。劇場前には重盛さんからのスタンド花が飾られており、どういう人なんだろうと調べてみたら、重盛さんに憧れて同じ事務所に入って、同じユニットで活動中とのこと。その重盛さんと事務所の後輩との間での争いでは、未成年ながら敢然と重盛さん側に立って大立ち回りを演じたということで、そういう熱さや気の強さも含めて気に入った。後日、もう一度この舞台を見に行ったときに、劇中、ふと入口近くを見ると、ものすごい笑顔で舞台に見入っている女性が目に留まり、さらにカーテンコールでは茶々を入れたりしていたので気になっていたら、その人こそが重盛さんだったらしい。
ダンスバトルが巻き起こる場に忽然と現れ、消えていく謎の「ダンス愛好会」。全てがダンスの学園にあってダンスとはこれいかにと思ったが、ダンス部が様々な事情があって愛好会に格下げになり、ダンスの実況と解説をする役回りに落ちてしまったという設定。舞台最前の両側にお立ち台が設けられていて、ダンス愛好会の二人はそこで喋る場面が多かったのだが、十和子役の花梨さんによるダンス実況がお見事。よく通る声でスラスラとダンスバトルの状況を伝える名実況に聞きほれてしまった。表情やお立ち台で踊っている姿も、部室でやさぐれている姿もまた可愛らしかった。屈折した思いから暗黒面に堕ち、学園の支配を目論むダンスサイエンス部。その思いをさらけ出し、カタルシスへと至るラストシーンは見どころ。サイエンス部部長役の秋山さんは、目に涙を浮かべながらその思いを表現していた。悪役の場面では高笑いが憎らしく、オープニングなどでは笑顔で可憐に。その振れ幅の大きさが魅力的だった。扇田作品にはしばしば登場して怪演には定評があるという民本さん。今作ではアクの強さが全開で、その本領を遺憾なく発揮。途中からは出てくるだけで笑いが起きるほどにしてしまっていた。
今回は扇田さんの演出というのがいちばんの観劇動機で、誰の名前でチケットを買えばよいか迷っていたところ、出演者の顔写真を見る中で目に留まったのが、星組の鉄道部員こだま役の山田香織さん。実際に舞台で見ると、思いのほか小柄で童顔。演技では名前を言い間違えてしまうという失敗もあって、そこで笑いが起きたのは本意ではなかったと思うが、鉄道部の下級生役として、踊りに鉄ヲタ的掛け合いにと頑張っていた。

46億年ゼミ(爆走おとな小学生)@キンケロ・シアター

【演出】加藤光大【脚本】畑雅文

【出演】橘花凛愛川こずえ、宮下奏、石原美沙紀、寺田安裕香、嶋田あさひ、夏目愛海、樹智子、松田実里、伊藤みのり朝比奈南、葛城あさみ、佐倉百音、相澤香純、永田祥子、冬陽田奏心、山城玲奈、荒井杏子、野々宮ミカ、遥奈瞳、加藤智子
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千本桜ホールからキンケロ・シアターまでは電車なら2駅。ゆっくりと時間をつぶしながら徒歩で移動。「キンケロ」とはキンキン・ケロンパ夫婦のことであり、愛川さんが生前に建てた劇場とのことである。劇場ロビーには愛川さんの写真が掲げられていた。初めて座った客席は、広々としてフカフカ、傾斜も取られており、とても見やすい構造だった。
タイトルの「ゼミ」は「ゼミナール」なのか「蝉」なのかが気になっていたが、正解は「蝉」。それならば、その壮大なタイムスケールをどのように生かすのかというのが次の興味。実際の時間移動は2095年から2017年、それから16世紀と、5世紀ほどの間に限られたが、そこを埋めるように登場するのが「神」の存在。この舞台を見て改めて感じたのは、日本人の手による創作作品における「神」の扱い方の難しさ。この作品では「マリア」という名前やベツレヘムといったワードによって特定の神が連想されてしまうような部分もあったが、それは日本人には馴染まない。神が46億年の間、17年ゼミのように孤独に耐え、心を通じ合える人間が生まれることを願っていたという気持ちは、神性を持つ登場人物としての「カミ」であれば分かるのだが、それが「神」とズバリ定義されてしまうと違和感を感じてしまう。
ラストシーンで、登場人物の人間たちが神に対して責任を取れと迫るような感じで、いやいや、そこは人間が自らの未来に責任を背負うことにして、マリアが重く背負ってきた神性を失わせ、楽にしてあげるくらいの展開にすべきではないかと思った。最後は「がんばれ、人間!」と人間に責任を負わせるような形になってよかったが、生きている一人ひとりが等しく歴史に責任を負っているのだ、というところをもっと強調しても良かったのではないかと、そこは多少価値観のズレを感じるエンディングだった。
昨年10月に「ドールズハウス」を見て以来、観劇の楽しさを再発見し、また頻繁に劇場に足を運ぶようになった。この作品には、「ドールズハウス」組から、嶋田あさひさんと伊藤みのりさんの二人が出演している。事前に見ていたビジュアルからは、嶋田さんは戦国の侍で切腹でもしてしまう役かと思っていたのだが、彼女が演じた智代は、推定年齢10歳くらいの末っ子お姫様。舞台上を飛び回り、木刀を振り回し、甲高いお子様声を振りまき。まさに他の人では容易に演じられない、彼女のためのはまり役と言える。ビアンカ役のときは片鱗しか見せていなかったこの声色は大きな武器だ。伊藤さんは色香を振りまく女教師役。確かにウィッチは衣装は網タイツでセクシーなところはあったが、こんなアダルトな役もできてしまうのかと驚き。まだ2回目の舞台ということも意識させない、堂々とした演じっぷりだった。
おとな小学生の前作「初等教育ロイヤル」も見に行こうか悩んで、チケット代があと500円でも安ければ見に行っていたと思う。どの程度の質の作品か分からない中で、手数料合わせて6千円は心理的にハードルが高い。今作は、その「初等教育」組も多く出演していて、中でも注目していたのが、あいみんと呼ばれる少女こと夏目愛海さん19歳。見た目の可愛らしさもさることながら、Twitterから垣間見えるいい子オーラの強さがとにかく稀有。共演者やファンから愛されるのも道理だ。彼女が演じたのは極端にパロディ化された「腐女子」で、ラストはまさかの「腐老婆」。かなり異端な役だったので、彼女の素材が生かされていたかどうかは分からないが、よく通る発声は舞台向き。3月の次回出演作でまた演技を見たいと思う。
腐女子といえば、遥奈瞳さん。多分に人間らしい神様である黒マリアの心の闇を貫禄を持って演じていた。白マリア役の加藤さんからは、白い衣装も似合うと言われていたが、白狐さまを思い出せばまさにそのとおり。
3つの時代を移っていく和希の意識。時代ごとに演者が異なる中で、一人の意識を演じるということは一人二役よりもある意味難しいことだろうと思うが、この作品で演じたトリプル主役の3人は、それぞれの時代の個性を持ちつつ、意識や性格を合わせるという作業を見事にこなしていた。和希役で座長を務めた橘花さんが、名残り惜しそうに、カーテンコールを締めれば終わってしまうと、涙を流しながら次々と発言を振っていく様子がいじらしい。ストーリーを全て受けいれられたわけではないにせよ、ステージ上の演者の熱量の高さを感じたのは紛れもない事実。彼女たちの頑張りに自然と拍手が大きくなった。
最後にパンフレットのつくりには苦言を呈しておきたい。プロフィールと簡単なアンケートという基本パッケージすらなく、単に役者の写真が並ぶだけで、有料パンフレットでありながら、これほど手を抜いた代物にお目にかかるのは初めてだ。売り物とするのであれば、最低限の作りこみはもちろんのこと、買った人に対して何かを伝えようという姿勢は見せてほしいものだ。

君が予む物語(劇団SPACE☆TRIP)@千本桜ホール

【脚本・演出】ゴブリン串田

【出演】椎名香奈江、高橋茉琴、斎藤未来、坂本実紅、橘あるひ、山下真実、木畑梨佳子、水野以津美、小阪貴恵、三上真依、関口ふで、馬渡直子、江里奈
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「愛。ちょい」の旗揚げ公演の方向性に戸惑い、しばし離れてしまっていたゴブリンさんの演劇。周辺の情報にも疎くなってしまっていたが、気が付けば「愛原慎一」は再び「ゴブリン串田」となって帰ってきていた。
舞台は学芸大学駅前の千本桜ホール。パンフレットのキャラクター紹介を見ただけで、これからの楽しい時間が約束されたことを確信できた。
道具類が一切なく、カーペットが敷かれただけのステージとも言えない平面が真ん中に置かれ、客席が前後両面に配されて正面が明確にない形。演者が頼れるのは自分の声と身体だけ、というある意味過酷なシチュエーションでもあるが、セリフだけでなく全身を使って笑いを取りにくる。最初の主演の椎名さんの長く激しいモノローグからして、舞台に引き込む迫力は十分だった。キャラクターが十分濃いところに特殊能力のおまけ付きという設定も助けになり、海千山千のベテランも若手も、経験の差も感じさせずにおしなべて高いレベルで演じ、質の高いコメディ作品を作り上げていた。最前列の観客が巻き込まれるのもおなじみの光景だ。
馬渡さん、関口さん、江里奈さんの3人が揃うサイキック社側は特に濃い。馬渡さんはお茶目な部分を見せつつも凄味のある悪役で、彼女なら本当に世界征服できてしまうのではないかという迫力があった。この人たちを小劇場でレギュラーのように呼んでこれるというだけでも、ゴブリン演劇は強い。
間が抜けた超能力が生み出す笑いの中にも、「9人の戦士」の設定があることによって、誰が味方で誰が敵なのか分からないというところで、緊張感が最後まで途切れなかった。そしてエンディングは主人公の思うがままに変化するというマルチエンディング方式。大千秋楽が真エンドと言われてしまうと、どうしても見たいような、何だか損をしたような気にもなってしまうが、千秋楽前だけでも十分満足できるエンディングだった。
初見の演者では、キリッとした個性的な目元を持つ引きこもり役の坂本さんや、可愛らしい機械的な声でサイボーグ役を演じていた三上さんが可愛らしかった。あと、橘さん演じる小学生の可愛さと退化したときの狂暴さの落差も反則的だ。
愛原氏と「愛。ちょい」の1年間が必要だった事情は知る由もないが、やはりゴブリンさんには、こういった路線で作品を送り出していってほしいと思いつつ、満足のうちに次の観劇会場へと向かった。

真説・まなつの銀河に雪のふるほし(アリスインプロジェクト)@六行会ホール

【脚本】麻草郁、【演出】松本陽一

【出演】山本亜依さいとう雅子、神原れおな、彩川ひなの、岩田陽葵、堀越せな、鶴田葵、山本真夢、三浦菜々子、思春ももせ、樫村みなみ、結城ひめり、岡田花梨、嶋村杏樹、相楽朱音、山中愛莉彩、西田果倫、横尾莉緒、音華花、豊川久仁、遠藤瑠香
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2012年の初演から5年の時を経て、再び六行会ホールの舞台で上演となった「真説」。さいとう雅子さんが前作でも演じた水無光役で出演することが昨年末に決定したのを受けて、4年ぶりに六行会ホールに足を運ぶことになった。
オリジナル版では多く残った設定上の謎。むしろそれを持ち味とする麻草流は承知の上だし、今作は、ある程度分かりやすく整理されたとはいえ、ストーリーの根本、何故に奏は宇宙に送り出されなければならないのかというところは腑にストンと落ちず、ロケットの打ち上げの成功を舞台上のキャラクターと一緒に願う気持ちにまでなるためには、何かがまだ足りない気がする。奏と姉との絆、約束という個人的な事情までは理解できるが、人類愛・地球愛というか、10万年もの時を経てミッションを実行する奏や学園側の理由が弱い。実際に奏を送り出すことに反対の意見もあるくらいだから、ミッションが絶対というわけでもなさそうだし。そして、人類が銀河の中心で生き残っており、奏からのメッセージを受け取ったとして、彼らがどう感じ、行動するのか。その後を想像すると、ハイブリッドが狩られるかというレベルに納まらず、明るい未来だけではない気がしてしまう。
フライヤーに書かれた設定のうち多くは劇中では明確に語られなかったが、「水没の危機」、「地球外からの交信」といったあたりが使われていれば、ミッションの必然性は増していたかもしれず、「デブリ」、「重力の井戸の底」といったあたりが使われていれば、打ち上げの成功をより強く願えたかもしれない。しかし、地球からの脱出をミッションにしてしまうと、地球を甦らせるという方向に簡単に持っていけないのが悩ましいところか。
また、前作では何故存在しているのか分からなかった、何もしないことが身上のネコのハイブリッド。今作では、新たにオオカミ、ウサギ、鳥、犬のハイブリッドが登場。地球を浄化するという、クローンにはない能力があるという設定によって存在意義は明確になった。ただ、オオカミのハイブリッドがニホンオオカミの絶滅を根に持って奏を殺そうとする、という展開はやり過ぎではないだろうか。そんな感情が同居していたのならば、そもそも自らの存在に耐えることが不可能なはず。オオカミがウサギを食べるのは自然の摂理で、言葉が通じる通じないの問題ではなく、人間的な倫理観を当てはめるべきでもなく、善でも悪でもないということははっきりとハイブリッドに教えてあげてほしかった。
5年前に2回見たストーリーでも、意外と設定までは覚えていない。奏のミッションが地球への帰還まで含まれていたか、奏が冷凍保存に耐えられずに分解され再生されていたか、遥のみならず光まで老化していったか、光がボクキャラだったかといった辺りは、前作にもあったかどうか記憶が定かではないところだが、いずれも設定としてはよかった。アンナが憎まれ口をたたくだけでなく、寂しがり屋で可愛らしい面が強調されていたのもよかったと思う。アンナが学園側と対立しなければならない理由というのはないはずだし。
追加された登場人物が、ハイブリッドの4人とクローンの2人。興行上の理由もあるのかもしれないが、前作ですら完全にキャラクターを掘り下げるには多すぎるくらいだったところなので、さすがに増やしすぎ。前作のキャラクターですら個性が弱まってしまった気がする。音楽が好きとか花が好きとかの個性の描き分けだけで精いっぱいで、全員の出番を確保しながらストーリーに生かすというところまで求めるのは2時間の中では厳しすぎる注文だ。
六行会というそこそこ広いホールで、声を客席に通すだけでもかなり大変なことだと思う。声を張る余りにセリフの中身が聞き取りづらい場面もあって、もう少し力を抜いていいんじゃないかと、奏が光に対して言ったようなことも感じたが、見ているうちに、アリスインのガールズ演劇としてはこれでいいんだと思えてきた。セットの段差が大きく、飛び降りたりよじ登ったり、若い女の子たちがとにかく全力でこの舞台に取り組んでいる姿は見ていて清々しい。千秋楽でもないのに、カーテンコールで感極まっている出演者が多く、それぞれが本番にたどり着くまでに乗り越えてきたものがあってこその感情なのだろうと思った。
急きょの出演で準備期間も短かかったさいとう雅子さん。終盤の演技が出色で、病み衰えてもなお奏を思う場面には、神々しさすら感じた。エンディングを迎えても興奮冷めやらぬ態で光の魂が宿ったままといった表情。それが緩んできても、見せるのは笑顔ではなく涙で、この舞台にいかに気持ちを入れて臨んでいるか、その一端を見た。今のところ、次の出演舞台も見に行く予定。