~熱風の果て~

観劇の記録

ノッキンオンヘブンズドア(BOBJACK THEATER)@シアターKASSAI

【演出】扇田賢、【脚本】守山カオリ

【出演】丸山正吾、さいとう雅子、高木聡一朗、小林加奈、寺田真珠、古野あきほ、山口範峰、山下真琴、長橋有沙、榊原雄、蜂巣和紀、片岡由帆、渡辺宏明

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過去に見た作品の中で、「幸福レコード」「ラストホリデイ」「ラズベリーガール」と、いずれも日常と非日常が交差する中での人情を描いた良作を送り出す姿勢に好感を抱いていた扇田・守山コンビが中心となった演劇集団「BOBJACK THEATER」。
そして、同じく過去に見た作品の中で、「まなつの銀河~」「戦国降臨GIRL」「ADS Alternative」「戦国降臨ガールズ」のアリスイン作品で、いずれも主役または主役級を演じ、その演じっぷりには好感を抱いていた、さいとう雅子さん。この2つの流れが重なった今作が、自分にとってのBOBJACK THEATERの本公演初観劇となった。
この秋まで、しばらく演劇から足が遠のいてしまっていたため、池袋のシアターKASSAIは3年半ぶり。舞台と客席が近く、見やすい配置。舞台が狭いのが玉に瑕だが、段差と扉、そして梯子で組まれたセットで、奥行きと高さ、場面の転換が上手く表現されていた。
今作も、これまで見た扇田・守山作品同様、予知やイマジナリーフレンドといった非現実的な要素が大きく関わってきながら、人情の機微が細やかに描かれる。非現実がメインになるのではなく、日常に溶け込み、日常を浮き立たせる。このあたりのバランスはさすがとしか言いようがない。そして、バランス感覚の絶妙はシリアスとコメディの間でも発揮される。登場する13人の人物(うち1名は人外)はいずれも個性的。クマオの出オチっぷりとラストでの泣かせどころの落差はずるい。それぞれが複雑な背景であったり、過去の傷であったり、悩みを抱えている。ともすれば重たくなってしまいがちなところだが、流れを止めず、悪ノリせずの笑いの要素もふんだんにちりばめられているのが小気味よい。探偵事務所が受ける2つの依頼が同時進行で進み、直接干渉し合うことはないのだが、分断されたり散漫になることもなく、緊張感を持ちながら謎が解かれる終盤に向かって動いていった。様々な人間関係が重なり、中には乱れるものもあるが、結局はどれも暖かい。社長だけは舞台上では救われなかったが、はっきりと解決されなかったところも含めて、きっと良い方向に向かっていくはずという希望が持てた。
さいとう雅子さんの演技を見るのは3年半ぶり。この間に事務所から離れてフリーになり、苗字もひらがなに改めながら、地道な活動を続けている。表情は豊かでコミカルな演技もできるし、透き通った声質で淀みなくセリフを回せる。小さな身体を武器にして舞台上を颯爽と動き、何より演技することを楽しんでいる。改めて、演者としての魅力にあふれる人だと感じた。これからも応援したい女優だ。ベレー帽にロングスカートの衣装もよく似合っていた。
初舞台という寺田真珠さんは、ほどよい拙さが逆に今後の伸びしろの大きさを感じさせ、役柄にもはまっていた。彼女にはまたBOBJACKに出演する機会がきっと訪れる・・・そんな予感がした。令嬢役の古野あきほさんは、気品あふれる佇まい。感情表現が難しい役どころながら、役に没入して、激しく揺れ動く心を表情や発声で上品さを失わずに演じていた。
しっかり笑わせ、しっかり泣かせる良作。しかもこれが男女逆転のダブルキャストで上演されているというのだから野心的だ。観劇前から期待値は高かったが、実際は期待以上で、観劇は良いものだと改めて感じることができた。たこ焼きを買って帰宅。