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~熱風の果て~

観劇の記録

桃太郎外伝〜ライズアップヒーロー〜(A☆ct Stage)@武蔵野芸術劇場

演劇 演劇-2012年
【脚本】麻草郁、【演出】松田信行

【出演】宮本晃行、北村悠、栞菜、村上耕平、井深克彦、平山佳延、高橋明日香、遥奈瞳、新田夏鈴持田千妃来、川原浩史、ハマック柳田、丹羽俊輔、永門、富永敬太、池内亮太、高橋伸輔、浅田育輝、上原梨加、南雲星菜、森田このみ、成実美香、りょうか、玉木麻衣、五十嵐啓輔、杉山祐希、加藤光大、石崎慎也
麻草・松田コンビといえば、荒唐無稽かつ深みのない設定、唐突な急展開、小劇場を更に小さく見せるチープなセットと演出・・・これまで見た演劇の中でも最低評価の部類に入る「ハルモニアガーデン」が思い出される。また、桃太郎というからには、単純な勧善懲悪でイケメンパラダイスで激しい殺陣で押し通すだけかもしれない、と余り期待もせずに向かった本日の会場。
その期待値と比べれば、十分満足の出来だった。善悪二元論に拠らずに、殺陣で派手に見せるよりも、人物の心理に重きを置かれていた。主人公と敵対する者が単なる悪役として殺されて終わりとなり、その背景や心理が深く描かれない演劇ほど詰まらないものはないが、この演劇はまさにその対極。複数の軸を交えて、行動に説得力のある登場人物たちの人間関係には緊張感があった。
主人公も単純な善玉、完全無欠の正義を振りかざすだけでは物足りない。その点でも、この劇の主役である宮本くん演じる桃太郎は、挫折をし、悩み、自ら答えを出すという深みがあった。親友でありライバルでもある北村悠くん演じる浦島次郎もまた悩み、自らの選択によって運命が定まる。敵に操られて誤った道に踏み込むというのではありふれた展開だが、そうではなかったところには好感が持てた。「VAMPIRE HUNTER」のルキスオルトス、「ロボット」の早乙女トム、そして浦島次郎・・・悠くんには悩める青年がよく似合う。
「VAMPIRE HUNTER」では、ルキスオルトスの少年時代を演じていた中村美香さん、ブログの更新がぷっつりと途絶えたので引退したのかと思っていたら、いつの間にか名前を「成実美香」に変えて活動していた。式神軍団では、独特の声でりょうかさんの式神かおりがいちばん目だっていた。
同じく「VAMPIRE HUNTER」組である栞菜さん、鬼の一族・茨木童子という設定ではあったが、お姫様でもあり、身体も絞れて素直な可憐さを醸していた。もし己が脚本家であれば、ラストシーン前で彼女は白狐さまに斬られてしまうのだが、さすがに麻草氏はそういう外道なことはしない。それに、もし白狐さまが茨木童子を斬ってしまっては、白狐さまもまた斬られなければ収まらない。そのような方向に持っていかなかったことで、白狐さまが最後まで格好よい敵役のまま高笑いできたのだから、やはり栞菜さんは斬られなくて正解だろう。
オープニングの全員による歌唱とダンスで、ひとり明らかにレベルの違う人が混ざっているのが分かったが、それが九尾の狐であり安倍晴明の母でもある白狐さま役の遥奈瞳さん。劇中には白狐さまのテーマソングのようなものを彼女がソロで歌う場面があって、オープニングの図抜けた歌唱力の持ち主の正体が明らかにされた。経歴を調べたら元宝塚歌劇団。その看板にたがわぬ実力と存在感だった。
この劇には、もう一人、元宝塚歌劇団という経歴の人物が出演していて、それが、宝塚の演出部にいたことがあるという丹羽さん。この人の名前で検索したら、炊き出しに並び、ビッグイシューを売りながら演劇界への復帰を諦めなかったという不屈の魂が照らし出された。
今年に入ってからその演技を見るのが早くも4作品目となるKNUの新田さんだが、衣装を含めてKNUらしい色っぽさではこの作品がいちばん。年齢以上の落ち着きと、品のある色気が出せるという点では重宝されるべき女優だ。
晴明といえばイケメンが演じるものと相場が決まっているかと思いきや、この作品では本業がラーメン屋という川原さんが晴明で、イケメンは晴明の弟子。劇中では、ラーメン屋が白狐さまによって、晴明の「器」として利用されてしまったという設定だった。器ならもっとイケメンを・・・と思ってしまうが、白狐さまの審美眼に口を出すのはやめておこう。