読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

~熱風の果て~

観劇の記録

46億年ゼミ(爆走おとな小学生)@キンケロ・シアター

演劇 演劇-2017年
【脚本】畑雅文、【脚本】加藤光大

【出演】橘花凛愛川こずえ、宮下奏、石原美沙紀、寺田安裕香、嶋田あさひ、夏目愛海、樹智子、松田実里、伊藤みのり、朝比奈南、葛城あさみ、佐倉百音、相澤香純、永田祥子、冬陽田奏心、山城玲奈、荒井杏子、野々宮ミカ、遥奈瞳、加藤智子
f:id:JoanUBARA:20170312235702j:plain
千本桜ホールからキンケロ・シアターまでは電車なら2駅。ゆっくりと時間をつぶしながら徒歩で移動。「キンケロ」とはキンキン・ケロンパ夫婦のことであり、愛川さんが生前に建てた劇場とのことである。劇場ロビーには愛川さんの写真が掲げられていた。初めて座った客席は、広々としてフカフカ、傾斜も取られており、とても見やすい構造だった。
タイトルの「ゼミ」は「ゼミナール」なのか「蝉」なのかが気になっていたが、正解は「蝉」。それならば、その壮大なタイムスケールをどのように生かすのかというのが次の興味。実際の時間移動は2095年から2017年、それから16世紀と、5世紀ほどの間に限られたが、そこを埋めるように登場するのが「神」の存在。この舞台を見て改めて感じたのは、日本人の手による創作作品における「神」の扱い方の難しさ。この作品では「マリア」という名前やベツレヘムといったワードによって特定の神が連想されてしまうような部分もあったが、それは日本人には馴染まない。神が46億年の間、17年ゼミのように孤独に耐え、心を通じ合える人間が生まれることを願っていたという気持ちは、神性を持つ登場人物としての「カミ」であれば分かるのだが、それが「神」とズバリ定義されてしまうと違和感を感じてしまう。
ラストシーンで、登場人物の人間たちが神に対して責任を取れと迫るような感じで、いやいや、そこは人間が自らの未来に責任を背負うことにして、マリアが重く背負ってきた神性を失わせ、楽にしてあげるくらいの展開にすべきではないかと思った。最後は「がんばれ、人間!」と人間に責任を負わせるような形になってよかったが、生きている一人ひとりが等しく歴史に責任を負っているのだ、というところをもっと強調しても良かったのではないかと、そこは多少価値観のズレを感じるエンディングだった。
昨年10月に「ドールズハウス」を見て以来、観劇の楽しさを再発見し、また頻繁に劇場に足を運ぶようになった。この作品には、「ドールズハウス」組から、嶋田あさひさんと伊藤みのりさんの二人が出演している。事前に見ていたビジュアルからは、嶋田さんは戦国の侍で切腹でもしてしまう役かと思っていたのだが、彼女が演じた智代は、推定年齢10歳くらいの末っ子お姫様。舞台上を飛び回り、木刀を振り回し、甲高いお子様声を振りまき。まさに他の人では容易に演じられない、彼女のためのはまり役と言える。ビアンカ役のときは片鱗しか見せていなかったこの声色は大きな武器だ。伊藤さんは色香を振りまく女教師役。確かにウィッチは衣装は網タイツでセクシーなところはあったが、こんなアダルトな役もできてしまうのかと驚き。まだ2回目の舞台ということも意識させない、堂々とした演じっぷりだった。
おとな小学生の前作「初等教育ロイヤル」も見に行こうか悩んで、チケット代があと500円でも安ければ見に行っていたと思う。どの程度の質の作品か分からない中で、手数料合わせて6千円は心理的にハードルが高い。今作は、その「初等教育」組も多く出演していて、中でも注目していたのが、あいみんと呼ばれる少女こと夏目愛海さん19歳。見た目の可愛らしさもさることながら、Twitterから垣間見えるいい子オーラの強さがとにかく稀有。共演者やファンから愛されるのも道理だ。彼女が演じたのは極端にパロディ化された「腐女子」で、ラストはまさかの「腐老婆」。かなり異端な役だったので、彼女の素材が生かされていたかどうかは分からないが、よく通る発声は舞台向き。3月の次回出演作でまた演技を見たいと思う。
腐女子といえば、遥奈瞳さん。多分に人間らしい神様である黒マリアの心の闇を貫禄を持って演じていた。白マリア役の加藤さんからは、白い衣装も似合うと言われていたが、白狐さまを思い出せばまさにそのとおり。
3つの時代を移っていく和希の意識。時代ごとに演者が異なる中で、一人の意識を演じるということは一人二役よりもある意味難しいことだろうと思うが、この作品で演じたトリプル主役の3人は、それぞれの時代の個性を持ちつつ、意識や性格を合わせるという作業を見事にこなしていた。和希役で座長を務めた橘花さんが、名残り惜しそうに、カーテンコールを締めれば終わってしまうと、涙を流しながら次々と発言を振っていく様子がいじらしい。ストーリーを全て受けいれられたわけではないにせよ、ステージ上の演者の熱量の高さを感じたのは紛れもない事実。彼女たちの頑張りに自然と拍手が大きくなった。
最後にパンフレットのつくりには苦言を呈しておきたい。プロフィールと簡単なアンケートという基本パッケージすらなく、単に役者の写真が並ぶだけで、有料パンフレットでありながら、これほど手を抜いた代物にお目にかかるのは初めてだ。売り物とするのであれば、最低限の作りこみはもちろんのこと、買った人に対して何かを伝えようという姿勢は見せてほしいものだ。