~熱風の果て~

観劇の記録

花嫁は雨の旋律(ILLUMINUS)@中野ザ・ポケット

【脚本・演出】吉田武寛

【出演】中谷智昭、北澤早紀内田眞由美、絲木建汰、奥野正明、菊池千花、赤沼正一、樹宮直稀、中島一博、千歳ゆう、品川ともみ、山﨑まゆ子、権藤宏昂、丸山えん、河田真実
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ミュージカル女優が夢と語っていた、さっきーこと北澤早紀さんがヒロインとして舞台女優デビュー。長い間この時を待ち望んでいたはずだったのに、AKB関係の情報をキャッチする習慣をなくしていたため、危うく見逃してしまうところだったが、当日券などで2公演を観劇。
さっきーは、5歳以降の記憶を失ったピアニスト役で、限りなくピュアな魂を持つ彼女には適役だと思いながら見ていたら、それだけの単純な役ではなくて、自我が芽吹き、社会的欲求が生まれ、思春期を迎え、運命を受け入れ、人生を選択する。成長段階に応じた演じ分けをした上で、感情の揺らぎを微妙に表現しなければならないという、初舞台のアイドルが演じるには、普通に考えれば過酷とも言える役。それを初舞台ということを感じさせず、自然に、確かに演じ切り、客席に伝える。彼女だからこそそれができるんだと思わせる説得力。「花嫁は雨の旋律」という美しい作品と、北澤早紀さんという女優の一期一会が幸せな形で花開いた奇跡。そのときに立ち会うことができて本当によかった。
初演は朗読劇として演じられた作品で、さっきーもそれに出演をしていたとのこと。舞台化に当たっても朗読劇の手法が取り入れられ、主人公の日記は、様々な役者によって読み進められていった。ピアノの響きと光彩、傘を使ったダンス。音と光(ILLUMINUS)によって彩られ、2時間の舞台が淀みなく演じられた。ストーリーも舞台空間もとにかく美しい作品だった。人間関係が夫婦の間だけで完結するのではなくて、友人や母親をはじめとする様々な人と人とのつながり、関係性の変化なども表現されていて、深みがあった。終演後のダブルコール、トリプルコールで客席と舞台が通じ合ったのも当然の結果だった。
雨という役を分け合ったうっちーこと内田眞由美さんの演技を見たのは、2012年3月の主演舞台「まなつの銀河」以来。卒業後は焼肉店の経営に専念しているのかと思っていたが、この4月からは事務所に所属するなど、芸能活動も並行して行っているようだ。落ち着いた演技ができる、綺麗な大人の女性になっている23歳の彼女の姿を見るのも感慨深い。
カフェのマスター役の奥野正明さんは、声も見た目も格好いいのに三枚目の演技もできる役者さん。「狼魔冥遊奇譚」のお侍さま役でも見せていた抜群の存在感をここでも発揮していた。もう一人、馴染みのある顔は絲木建汰さん。理系男子を爽やかに演じてくれたので、ようやく6年前のBL朗読劇「ロミオ×ロミオ」のトラウマから逃れることができた。理系女子との恋とも友情ともつかない関係性がむず痒くもおもしろかった。
AKBの劇場公演や握手会から離れて2年余り、止まっていた時計が再び動いた今回の舞台。この舞台が、少しでも多くの人に北澤早紀さんのことを知ってもらえる機会になって、次につながっていけばと願う。最後の挨拶で中谷さんからセンターを譲られたときの慌てぶりが、普段は脇に控える彼女らしくもあり。終演後にはお見送りの機会も設けていただけたので、軽くさっきーに挨拶をすることもできた。顔パスは期限切れかと思っていたが、覚えていてくれたのが嬉しかった。
【⇒これまでの観劇作品一覧
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