~熱風の果て~

観劇の記録

映画「アリスインデッドリースクール・アジタート」上映イベント@コフレリオ新宿シアター

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【出演】若林倫香船岡咲中塚智実八坂沙織大塚愛菜、民本しょうこ、天音、渡辺菜友、佐藤琴乃、山岸謙太郎
舞台版の「ノクターン」に出演したメンバーが夏にロケを敢行した映画版、そして同じメンバーが声をアテたアニメ版の上映会が新宿で開催。映画上映にも対応するとはさすがコフレリオ。いずれはここでアリスインの演劇が演じられることもあるだろうか。
映画版とアニメ版を同時上映する回を選んだところ、それが唯一の民本さんのMC回。水貴のフリフリ制服で登場して強烈な出オチには成功した民本さんだったが、舞台上での瞬間風速の強さとはまた違った危うさ満点のMCぶり。それはそれで面白かったが、民本さんが生きる場所はやはり演劇の舞台の上だと思ったり。助けを求めているうちに、いつの間にか中塚さんがメインMCとしてトークを仕切る形に・・・。ボケの民本さんとツッコミの中塚さんのともしょうコンビは、リアル「のびゅーん」な感じだった。AKB時代はどちらかと言うと控え目だった中塚さんは、すっかり舞台度胸がついて、頼もしい仕切りぶり。自分を解放して、演者としても人間としても成長した姿があった。

映画版「アジタート」(【監督】山岸謙太郎、【脚本】麻草郁

山岸監督は、アニメ版のフィルムが完成した後で撮影に入ったということで、最後発ゆえの挑戦的な映画に仕上がった「アジタート」。生きることにこだわりが感じられる作品で、真剣に生きることから逃げようとしている水貴への優の怒りも見られた。尺は40分ほどなので、のびゅーんコンビ以外の背景やエピソードは思い切って削られていた。和磨会長ですら気が付いたら退場しているというほどの急展開で、蚊に刺されるようにその他大勢的に食べられ、ゾンビ化もしていく登場人物たち。うっ血したような皮膚と白コンタクトで施されたゾンビメイクはかなり強烈だ。
舞台版とは違ったキャラクターの一面も見られた。大きなコンパスを得物に必死に戦う氷鏡や、必死に生き抜こうとする水貴の姿は新鮮で、彼女たちが短い劇中の中で成長し、変わった証として印象に残るシーンだった。
紅島さんの金属バットの前にゾンビたちは死屍累々で、映画版ならではの流血シーンも数多。彼女の相手に相応しい大ボスも用意されるという優遇ぶり。ブラジャーに包まれた大ボスの最期はきっと幸せだったでしょう。映画版、アニメ版の両方で改変なく再現されたエピソードが、紅島さんと高森部長へのライターの受け渡しと、高森部長の爆死。映画版は、これまでで最もトラウマ度が高い描写で、感動を通り越して呆然と見守るしかなかった。
信子が噛まれた後の展開も斬新。あのまま屋上でのサバイバル生活を長く続けた優は、いずれゾンビマスターとなって、救出に訪れた人間たちと戦うことになる可能性すらあるのではないだろうか。フォーエバー菌に感染したビジュアルはショッキングだったが、船岡さんの整った顔貌は、フィルム映え、スクリーン映えをする。花火に照らされる顔は美しかった。
ロケ地は常陸大宮市にある、杉林の裏山が迫る廃校。舞台版では、もっと都会にある学校のイメージだったが、常陸大宮にもショッピングモールはあるようなので、何も問題はない。蜂に襲われた天音さんをスタッフたちがゴキジェットで救出したり、虫愛ずる姫となって大きなバッタを手づかみで逃がしてあげる持田さんなど、自然の中でのロケならではの裏話も聞くことができた。

アニメ版「コンチェルト」(【監督】山内重保、【脚本】影山由美

公開までに紆余曲折もあったと想像されるアニメ版デッドリー。キャラデザインは2015年に上演された「ビヨンド」の出演者がベースになっているとのことで、唯一同一キャストが演じた信子は船岡さんにそっくりだった。「コンチェルト」という副題が表すとおり、美しい音楽を背景に、終末の訪れが音もなく散る花のアニメーションを交えながら、美しく描かれる。下着がちらちらするシーンが散見されたのは少し気になったが、あの状況であれば、見える方がむしろ自然か。
持田さんが声をアテるピアノに殉じる新キャラや、食べないことを選択するゾンビといった新たなエピソードも挿入され、短編ながら趣の深い作品となっていた。一方で激しさも描かれ、戦場カメラマンのような依鳴と霧子の壮絶なジャーナリスト魂は、舞台版にもない鮮烈な印象を遺すエピソードだった。
映画版では活躍の場があまりなかった和磨会長は、可憐なビジュアルで、敬語を崩さないという完全無欠の美少女キャラ。その絵柄に合わせて、舞台版とは全く違った声で演じ分ける中塚さんはさすがだ。アイドルの夢の実現のしかたとしては、舞台版以上に感動を残す描き方で、これは舞台で再現しようとしても難しい、アニメならではのものだった。
信子の感染と変化も、舞台版や映画版とは異なり、静かに描かれる。言葉ではっきりと言わなくても伝わり合う信子と優の気持ち。コンビ結成に至るエピソードで、信子が背負っていた寂しさとそれを救った優。お互いを救った二人の関係がブランコを介して描かれたのもよかった。

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