~熱風の果て~

観劇の記録

リングのリア王!?(T-ZONE)@築地ブディストホール

【演出】私オム【作】矢澤和重

【出演】小日向茜、石井陽菜、荒木未歩、加藤里保菜、マホ、熊谷知花橘花凛芦原優愛白川未奈、モモコ、ユミ、安里南、芦田美歩、石川あんな、園部実卯、林さくら
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演劇作品としては過大な期待をせずに見に行ったつもりだったが、それでも見るべきものがほとんどなかったというのが正直な感想になってしまう。上演時間は僅か75分ほどで、場面の転換を繰り返しながらテンポよくと言えば聞こえはよいが、シェイクスピアの作品を翻案することへのこだわりやそうすべき理由は感じられず、人間関係や欲望が抉り出されるような台詞や場面も見られなかった。リピーター特典や特典会の料金設定を見れば、アイドルイベントとしての色彩も濃いとはいえ、厳しい出来栄えだった。初舞台の出演者も多かったようなので、これを足掛かりにして活躍の場が広がっていく人が現れていくのならば、この舞台の意味もある。
唯一の見せ場と言えるのが、アイスリボンの指導を受けたバトルロイヤルのシーン。場外乱闘のサービスまであったが、せっかく教わった技術を十分に見せる間もなく、雑然としたまま同時多発的にあっさりと終わってしまった印象だった。リングアナ役を置いた方が臨場感が出た気もする。戦いながら台詞を挟んで人間模様を浮き彫りにするとか、相手への愛憎入り混じった感情をバトルにぶつけるとか、バトルの中で描くべきものがあったのではないかと思う。
演技の面で目立っていたのが、よく通る舞台向きの美声を響かせていた荒木未歩さん。髪を上げたデコ出しスタイルだったので、「イバラヒメ」に出演していた荒木さんということは、カーテンコールでの自己紹介を聞くまで気づけなかった。コーディリア役の石井陽菜さんも、ショートカットになったこともあって、どこかで見た覚えがある人ということは分かったが、やはり自己紹介まで思い出せなかった。元チアチアの芦原さんも自己紹介で名前を聞いて驚いた一人だった。悪役を演じた熊谷知花さんは、企みを秘めた表情と従順さを装う表情で、二面性を巧みに演じていて、スラっとした舞台での立ち姿も映えていた。
アフィリアからは、3名が初舞台を踏んだ。グループを率いるマホさんは、甘ったるいながらもはっきりと通る声で、初舞台ということを感じさせない演技。舞台上の態度も堂々としていて、もしこの企画が次もあるのなら主役を任せられることもありそうだが、できれば違う企画にも進出して、舞台女優としても今後につなげていってほしいと思った。モモコさんはプロレスコスチュームでもとにかく可憐でアイドル。ユミさんは覆面姿のときの暴れぶりが清々しかった。
小日向さんは、「シンデビ」への出演もあって、なかなか稽古に参加できない中で苦労と焦りも感じながら迎えた初座長の本番。派手な場面はなかったが、演じぶりは安定感十分。王家に生まれることで王となる西洋の王朝とは異なり、魅力と実力でトップに上り詰めたプロレス界のクイーンなので、もう少し人を引き付ける魅力が伝わるようなエピソードが盛り込まれれば、クイーンの肩書きがより生きただろうと思うと、少し惜しい役だった。

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