~熱風の果て~

観劇の記録

勇者セイヤンの物語(仮)(爆走おとな小学生)@CBGKシブゲキ!!

【脚本・演出】加藤光大

【出演】佐川大樹、篠田みなみ、川隅美慎藤嵜亜莉沙、高木聡一朗、釣本南、仲谷明香、芹沢尚哉、上田悠介、加藤光大、富田麻帆、市川咲、石原美沙紀、夏目愛海、千歳まち、早乙女ゆう佐藤誠悟、山田裕太、丸山正吾、岡延明、上野健、澤田洋栄、小林諒大、竹崎佳祐、平塚あみ、宇都美月、竹内花
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セイヤンシリーズでは、7月に観た「(真)」の前日譚となる「(仮)」。
RPGの世界を舞台として、人間とモンスターとの関係、善悪とは何かということを考えさせる物語の土台は(仮)で既に出来上がっている。人間であることを捨ててモンスターの守護者となった軍隊長の正義を貫く生き様が美しく、セイヤン以上に主人公らしい人物だった。義に殉じて死んだと思いきや、ラストでは不死身であることが示されたので、もしかしたら彼が(真)のユウシャンになる男なのかとも思ったが、それはさすがに辻褄が合わないか。
人間も全員が悪ということはなく、むしろ国王一人が諸悪の根源で、ほとんどの死の原因は彼に行き着く。この作品では、善人は無残に死に行く運命にあるが、裏切り者を装って仲間に切り殺される道を選んだ丸山正吾さん演じる「兵士1」の最期は胸を打った。しかし、すぐに国王が余韻を打ち砕いていくので、感傷に浸るような暇もない。善人要素の欠片もない国王という登場人物を出したことで、やや構図が単純化されてしまった憾みはある。なぜ彼のようなモンスター国王が生まれたのか、理由があるのであれば見てみたいが、単なる卑劣漢ならば仕方がない。いずれ倒される運命を知りつつも諦めずに正しい道を行こうとする2面のボスや、深く考えないゆえの単純な正義感を貫く1面のボスの生き様もまた美しかったが、モンスター側にも裏切り者のような「悪」の要素が盛り込まれたりしてもよかったのではないかとは感じた。物語の深みとしては、やはり後から書き上げられた(真)の方に軍配が上がる。高木聡一朗さんの演技を見るのは「ノッキンヘブン」以来2回目だったが、こんな破天荒な演技もする人だったのかと、少し驚いた。
ヒロイン役は、本職が声優の二人がダブルキャストで演じていて、観に行った回は、篠田みなみさんの初日となる回だった。アニメはほぼ見ないので、名前を聞いたのも初めてだったが、彼女はこの舞台で最大の発見。声は周りの役者に比べると出ていない感じはあったが、驚かされたのは美しい身体の動かし方。147センチという小柄な身体のあらゆる関節を柔らかく操りながら、時にしなやかに、時に鋭くダンスや殺陣をこなす姿には惚れ惚れした。どこかで舞台に挑戦する姿をまた見たいものだ。
オープニングのダンスは迫力があったが、ネタバレ要素が強すぎたのが難点。篠田さん演じるキャメロンが両親と妹を撃ち殺して、最後は自らの頭を撃ち抜くという衝撃の展開がそのままストーリーで演じらたのは、ある意味では予想外とも言えるが・・・。
キャメロンの妹を演じた市川咲さんは、こういう高飛車で生意気で、なおかつ小悪魔的な魅力を持つお嬢様役は恐ろしいほどはまる。自業自得とはいえ、あの両親の下で育てられた不運を思えば、今わの際に改悛するようなところがあった方が救いはあったと思うが、キャメロンも同じ両親から生まれたのだから、生まれのせいとばかりは擁護できないので仕方がない。
子役を使うのは、この手の舞台では珍しい。ビジネスの潮流を語るおませな妖精少年はショタ趣味云々とかいう以前に存在が可愛らしい。しかしそんな彼ですら凶弾の下に斃すシナリオの容赦のなさよ・・・
(真)ではモンスター役だったあいみんこと夏目愛海さんは、今回は人間役。役のインパクトとしては前作の方が強かったが、脇役ながら、パーティに加わる前の哀れな境遇だった頃の描写もきちんと描かれていた。使えない仲間を足蹴にするようなブラックな一面も見られて満足。8本の舞台に出演して、休む間もなく駆け抜けたあいみんの舞台出演も今年はこれで最後。映画やグラビアにも活躍の場を広げつつあるので、舞台で会える機会は少なくなりそうなのは寂しい気もするが、熱いほどの向上心の持ち主でもある彼女にとって、来年は大切な1年になりそうだ。
なかやんこと仲谷さんのことを見るのは、5年前の劇場公演以来。声優になるという夢を叶えた彼女は、舞台でもスラウィムという純粋無垢なモンスター役を、そのキャラクターにぴったりの可愛らしい声で堂々と演じていて、AKBでは必ずしも陽の当たる道を通ってきたわけではない彼女の立派な姿を見られたのは嬉しかった。
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