~熱風の果て~

観劇の記録

夏に舞う雪のように(Southern'X)@シアターモリエール

【演出】陽田翔大、【脚本】蜂巣和紀

【出演】さいとう雅子、陽田翔大、古野あきほ、蜂巣和紀、今吉めぐみ、御崎かれん、寺崎まどか、石橋寛仁、澤野泰誠、山下哲平、麻生金三、土田卓弥、吉田菜都実、渡壁りさ、有村瞳、髙橋凪沙、中村衣里、高橋喜和子、小山未結、網野ちひろ、渡邉理恵、永瀬葵子
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期待して見に行った4月の旗揚げ公演がいまいち肌に合わなかったので、第2弾があったとしても見に行くことはないかもしれないと思ってしまっていたSouthern'Xの公演。しかし、まぁこさんの久しぶりの主演舞台と聞いてはチケットを買わずにはいられない。作品の紹介文にも興味を惹かれたこともあり、再び期待値を高めて、5年ぶりとなるシアターモリエールへと向かった。
「虫と話ができる少女」と「植物と話ができる少女」というファンタジー要素あふれる設定だが、繰り広げられるのは心理劇。昔ながらの雰囲気のある劇場にシンプルなセットが組まれ、ライトやBGMによる演出も、セミの鳴き声など最低限。だからこそ一つ一つの台詞や表情がより強い意味を持って感じられた。自分にとっては、華やかさのあった旗揚げ公演よりも、こちらの方が性に合っていた。人間と虫と植物。種が全く異なる三人の男たちが、他者との関係に悩み、自分に悩み、時に言葉を重ねながら孤独なモノローグを紡ぐ、これぞ演劇という場面が特に好きだった。
星空ハーモニーでは、例えば麻生金三さん演じる教師なんかは細かく内面まで描かれることはなかったが、今作は、同じ麻生さんが演じた副会長の内面の葛藤と、それを乗り越え、人間として成長する過程がきちんと描かれた。明生にしてもそうだし、こうして様々な糸を絡めながらまとめ上げた結果として、芯のしっかりした物語が紡がれた。
蜂巣さんのアイデアを基に原案となる小説を書いたという「海々うみ」さんという方は、検索しても全くヒットしないので、もしかしたら、普段は他の名前で活動している方の別名なのだろうか、と想像もしている。
実際にはそれぞれの姿のまま存在している虫たちやサボテンが、少女たちのイマジナリーの世界を投影した人間の姿を纏って舞台上に現れるので、中盤でそれが一気に明らかにされるまでは、真実は観客に対して上手に覆い隠される。全てを知ったうえで観た2回目の観劇で一つ一つの台詞や、人物たちの視線に注意を傾けると、自然なコミュニケーションのように見えていた部分が実は擦れ違っていることが分かったり、なるほどと思うことばかりの緻密さだった。
主演のまぁこさんは、役に感情を預けて、全霊をかけて演じるタイプの女優さんだから、役によってその色を変える。台詞が口をつくひとつ前のタイミングで、瞬きや僅かな表情まで使って感情を表す。これまでも彼女の演技の魅力には惹かれてきたが、凄みまで感じられる今作での演技だった。感情をヒステリックに爆発させてしまう場面もあり、叫び声の痛々しい鋭さは劇場の空気を悲しく切り裂いた。
古野あきほさんのことは、ファーストインプレッションだった「ノッキンヘブン」の雪華さまのイメージがいまだに強いが、今作でようやくセーラー服姿がしっくりと来るようになった。まぁこさんとほとんど背丈が変わらないというのは意外。明るい表情と伏し目がちになったときの悲しみの表情、どちらも魅力的だ。雪に詰め寄られた後の場面は舞台上では描かれなかったが、サボテンの樹くんの台詞から雫の姿を想像するだけでも胸が痛む。樹くんはその名前から、植物にしても、セットにある一本の大きな木かと思ったが、実体は可愛いミニサボテン。これは意外だった。
旗揚げ公演では主宰という遠慮もあってか、館長役として一歩引いた位置で舞台に上がっていた蜂巣さんは、アブラゼミ役として、今回は大声を出して大いに暴れて存在感を存分に発揮してくれた。繊細さを悟られないかのようにする豪快さ、そして時折見せる寂しげな目と背中。陽田さんという演技の面でも頼りがいのある柱もいることだし、唯一無二の個性を生かさない法はない。今吉さん演じる「カナ」との「ヒグラシノコイ」は美しく儚い。夏に降る雪のように羽を落として雪に最後の贈り物が届く場面は感動的だった。今吉さんもまた、まぁこさんと同じく、感情で演技をするタイプの女優さんだ。
AKBの「ヒグラシノコイ」は人間の恋をセミになぞらえた歌だが、セミを主題とした歌といえば、次のような曲を思い出す。

たったひと夏で 消える命だと 知って蝉たちは 鳴いているのか
(赤い鳥「せみしぐれ」)

蝉が鳴いてる どこか遠くで 短い命に 夏は長すぎる
(ふきのとう「蝉」)

蝉をはじめとする虫たちの寿命の短さは、この劇でも歌の中でも悲しげであるように描かれる。しかし、短いというのは人間の尺度を当てはめているからで、それぞれの寿命というのは長い、短いでは測れないようにも思う。グリム童話には、ロバや猿が人間にこき使われるくらいなら長い寿命はいらないと神に訴え、結果その分を人間がもらって、動物よりも長生きするようになった・・・という話もある。家畜でなくても、1年~999年の寿命を選べるとして、人間や動物たちはどのくらいの長さを選ぶだろうかと考えると、単純に999年を選択するというものではない・・・はず。それに、種としての寿命を考えると、個体の寿命の長さは決して有利とは言えないということもあるわけだし。とはいえ、セミやカブトムシが生命の終わりを受け入れようとして葛藤する姿は辛い。
まぁこさんのように、ゴキブリを見かけると「クロちゃん」と愛情を持ってしまうのも、それはそれで困ったことかもしれないけど、この劇を見れば、その気持ちはよく分かる。
「星空ハーモニー」のときも印象に残っていた、渡壁りささんのホスピタリティ溢れる物販の接客ぶりは本当に素晴らしい。本当は、接客よりも演技で褒めないと意味はないのかもしれないけど、生徒会長役は彼女の本領ではなかったかな・・・。どちらかと言えば、昆虫役の方で見たかった。
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