~熱風の果て~

観劇の記録

RINGWANDERING(ベニバラ兎団)@シアター711

【演出】IZAM【脚本】川尻恵太

【出演】谷茜子、平岡梨菜、河野奈々、野々宮ミカ、赤峰マリア、小林聖尚、白石大祐、前田恵美、飯田南織、中川ミコ、安田博紀
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ベニバラ兎団による夏の連続公演の前半戦は、女性陣を中心とした戦隊もの。
千秋楽、オーロラタクトが歌うテーマソングに乗せたエンディングのダンスが終わると、本日、誕生日を迎えている野々宮さんがひとり号泣。初めて見た「46憶年ゼミ」のときは、大胆に胸を露わにした厚化粧の母親役だったので、実年齢も役と同じくらいなのかなと思ってしまったが、まだ25歳。4日間しか稽古に参加できないという厳しいスケジュールを乗り切った安心感からの涙。厳しいことは承知の上でののはずなので、そこをすごいと褒めるのは逆に失礼な話かもしれないが、最初の稽古の日にはセリフやダンスもマスターした状態で参加したという彼女のプロ意識に素直に拍手を送った。「マクベス狂走曲」のときも、今回のように前の舞台から1週間ちょっとのインターバルで本番を迎えるというハードスケジュールをこなしていたことを思い出した。
メインチームのレンジャーたちは、前半は制服姿、後半は全身タイツの戦闘服姿にお着替え。戦闘服でも、実際にはロボットに乗り込んで一人ずつ五体を操作するという設定なので、実際の戦闘シーンは見られなかったが、女性が全身タイツを着るだけでセクシーだ。
元は敵の怪人だった一人の仲間をめぐる葛藤や、何のために何を求めて戦うのかというヒーローが背負う命題といった重たいテーマがあったが、登場人物たちが皆、直情的で思ったことをストレートに口に出し、行動として表出する性格なので、深く懊悩するといった心理の機微の部分がやや弱く、特に前者のテーマの方は消化不良気味の感じを抱いた。怪人側についた経緯やレンジャー側に移った経緯、怪人側の正義や、彼が何と戦おうとしているのかといったところが完全には掘り下げられなかったので、主人公との激しい衝突の描写が続いた割に、他の課題と一緒くたに解決されてしまったようなあっけなさも感じてしまった。海野一平くんを主人公として、彼の生きざまをとことん描き切る方が物語としては深まった気がするが、続編があれば全てが明らかになるのだろうか。
衝突の描写が激しすぎて、平岡梨菜さんが主演でありながら自分勝手な怒りに追い立てられるばかりの役になってしまったのも勿体なかっ気がする。せめてもう少し柔らかな笑顔や真っすぐな情熱が見たかった。
ヒーローに憧れる女の子役の中川ミコさんは、本当に空気が読めない役で、見ていると本当にイライラしてきてしまうという完璧な役作り。彼女が演じた本郷南という女の子の空気の読めなさ加減は実際にあの性格で社会で生活している姿が想像できないレベルだったので、キャラの設定として行き過ぎている感じもあったが、あの性格ゆえに社会になじめず、いじめも受けて、ヒーローに憧れてヒーローオタクになった・・・と想像すれば合点がいく。
飯田南織さん演じる事務員のマツキンさんが、かつてのヒーローだったという終盤で明らかになる設定は、至る所で仄めかされていたので、どんでん返しというわけではなかったが、なぜ、彼女が1000回目の必殺技の発動に耐えることができたのか、必殺技が発動できなかったとしてレンジャーたちは果たして無事に敵を倒す可能性があったのかといったところは終演してなお気になる。マツキンさんの力がなければ全員討ち死にしたのでは、生きるために戦うと言っても匹夫の勇と変わるところがなくなってしまうので、谷茜子さん演じた龍子の必殺技「不明」が炸裂して敵を倒すことができていた・・・と考えることにする。
ベニバラ兎団は、1週間空けるだけで、竹内麻美さん主演による次のロングラン公演「ROMEO and JULIET-Reverse-」を控えている。そちらのチケットも既に予約しているので、古典がどうアレンジされ、女性同士でどう描かれるのか興味深い。
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ファントム・チューニング(LIVEDOG)@新宿村LIVE

【演出】高島紀彦【脚本】高島紀彦、松多壱岱

【出演】田中彪仁藤萌乃、瀬戸啓太、Kimeru、倉本夏希、咲良、木村えり、真部小夜、篠宮穣祐、打田マサシ、柴田茉莉、琉河天、甲斐千遥、崎嶋勇人、渋谷将、久保雄司、瀧澤優子、宇賀祐太朗、中嶋尊望、坂内勇気、前中りょう、真僖祐梨、小夜、神代よしき、村田諒人、工藤美輝、いせひなた
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冷静なる情熱家・仁藤萌乃さん出演の舞台を新宿村で観劇。
霊的なものへの信念は全くと言っていいほどないので、オカルトコメディと題打ったこの作品にどこまでシンパシーを感じられるかと、一抹の不安も抱きながら会場に向かったが、2時間半の上演時間で、すっかり「妖」たちに感情移入して、愛おしく感じるように。
800年の伝統を持つ猫又や九尾の狐から花子さんたちまで、妖怪も都市伝説も人間の信じる心が力を与えるという根は同じものとする捉え方はなるほどと思った。そして、これらの「妖」を間断なく生み続け、創作の世界に生かし続けてきた日本人のイマジネーションの豊かさには、今更のように感心させられる。ゲームや創作の中で生きることが多いこれらの「妖」たちの姿もまた、時代と共に変わりゆくもの。和を基調とした「妖」たちの衣装やメイク、小道具といったものが華やかで、舞台に彩りを与えていた。九尾の狐と玉藻前那須殺生石に込められた伝説・・・観劇から帰って調べて、初めて詳しく知ることができた。レイコさんという都市伝説は知らなかったが、演じた工藤さんはパンフレットにレスリングの経験ありと書いてあって、あの不気味な動きの秘密は解き明かされた。
オカルト趣味は持ち合わせてはいないものの、ホラーゲームの実況動画は時々見ていたりしているので、オムニバスの事件ファイルでストーリーが構成されるというところには「怪異症候群」というゲームを思い出し、座敷童さまの手毬には「オシチヤ」というゲームを思い出した。
「妖」と人間との信頼関係や微妙な距離感、自己犠牲などは、先週見た「セイヤン」での人間とモンスターとの関係を思い出す。この作品では、さらに両者の間でアイデンティティに揺らぎを覚え、迷いながらも信じた道を生きる「半妖」という存在が登場し、物語をより深いものにしていた。それぞれの立場はあれど、ここにもまた真の悪は存在しない。八十二が「妖」に敬意を持って敬語で接する関係性が温かかった。
先週、その「セイヤン」に猫耳モンスターのライッチュン役で出演していたいせひなたさんは、特別出演という形ながら、2週連続の本番というハードスケジュールで主人公の少年時代役で出演。和ロックバンドのボーカルも務めているということは、先週の舞台の折り込みチラシで初めて知ったが、この舞台の主題歌や劇中歌も担当。和の世界観によく合う歌声だった。この作品では、猫耳の元祖・猫又さまが登場。猫耳付けて可愛らしくニャーニャ言っていたかと思えば鋭い目つきでの獅子奮迅の大立ち回りと、大活躍をしていた。
今回は座席位置も申し分なく、舞台の上で繰り広げられる全ての空気をダイレクトに感じることができた。殺陣のシーンのスピード感と迫力はすさまじく、まろび、倒れるときの大きな音と震動が響く。さらに、肉を斬られ、心が傷つく痛みまで伝わってくるようだった。萌乃さん演じる涼子の生き様も余すところなく見届けることができた。どちらかと言えば狐顔と言える萌乃さんには、今回の役ははまり役。信念を枉げない芯の強さも彼女に重なるところがある。台詞回しの安定感もさることながら、眼光で演じることができるのは強みだ。鈴木まりやさんなどと共演する来月の出演作品は、今作とは毛色の違う作品のようだが、既にチケットは押さえているので楽しみにしていたい。
衣装の華やかさやセットの扉が開くところなどは、松多さんらしい雰囲気も感じられたが、今回は演出などには関わっていない様子。扉の妖怪を使って舞台上から姿を消したり、衣装の早変わりを行ったりといった工夫は面白い。通路やバルコニーにも役者を動かして、新宿村の全てを使って距離感や空間の奥行きが表現されていた。4本のオムニバス形式でテンポよくストーリーが進み、難しい時間や空間の軸の交差もなく明快でテーマ性もある。役者の演技力も確かで、アドリブや役者の力技に頼らないコメディの要素もしっかり織り込まれているし、乙女心をくすぐるような少し危険な場面まであり。初めて舞台を見るような人でも間違いなく楽しめるような、良い作品だった。
貧乏神改め福の神に憑りつかれた香織・信郎カップルのその後の運命はちょっと気になる・・・
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勇者セイヤンの物語(真)(爆走おとな小学生)@CBGKシブゲキ!!

【脚本・演出】加藤光大

【出演】佐川大樹、大森美優、橋本真一、加藤光大、桝井賢斗、松田裕、花奈澪、片岡沙耶橘花凛、水崎綾、舞川みやこ、柳原聖、星璃、シトミ祐太朗、氏家蓮、いせひなた、柏木しいな、夏目愛海、長橋有沙、樋田優花、西澤翔、斧口智彦、豊田幸樹、福田侑哉、石原美沙紀、小阪崇生、山田裕太
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「46億年ゼミ」、「すてきな三にんぐみ」と、これまで見たおとな小学生の2つの作品には必ずしも満足できたわけではないので、気になる出演者が多い今作は見に行くかどうか、開幕後も迷ったままの状態だったが、せっかく平日に時間が取れたことだしと、当日券でシブゲキに入場。今作は、迷ったままにせずに、見てよかったと思える良作だった。
RPGの中という設定で進む物語の中で、主役となる勇者が抱える孤独と心の闇、倒される宿命を背負った「ラスボス」をはじめとしたモンスター側の想い、人間とモンスターの種別を超えた心の触れ合いなどが濃い密度で描かれ、特に後半は、心を抉られるような場面が次々と現出された。27人の登場人物全員に感情があり、生きる意味があり、守りたいものがある。RPGなので戦闘場面もあるが、基本的にはダイナミックな感情のドラマ。善悪の境界を攪乱し、克服するさまは見事だった。
水崎さんの役名が「街の人2」と聞いたときには、「メトロノウム」でヒロインまで演じた彼女に役名もないような端役をあてがうつもりかと思ってしまったが、街の人にも街の人である理由があり、感情も生きる意味も守るものもある。重要な役どころで、演技の見せ場も多く、見応えがあった。
人間もモンスターたちも個性豊か。特にスラウィムとピッカチュンの弱小モンスターコンビの純粋無垢な魂は痛々しくも美しい。声も見た目も可愛らしく、作品のマスコットキャラ的な役割も担っていた。
あいみんこと夏目愛海さんは、「ジーバニョン」というウサギ型モンスターの役。前作の病弱少女とは打って変わって、よく通るハイトーンボイスを響かせながら、舞台上をぴょんぴょん動き回って戦い、しかも強い。さらにダークサイド面に制服姿と、ひとつの作品の中でもいろいろな表情を見せてくれた。来月の「マチコ先生」ではメインキャストとして男の子役に初挑戦し、再来月には「ルド女」への出演とこの先も舞台の予定が詰まっているので、また違った顔を見せてくれるのが楽しみ。今日はチェキ会が開催されるということだったので、演劇では時々あるチェキ会というものに初めて参加して夏目さんと撮ってきたが、自分が写っているチェキはあまり見たいものではない。
みゆぽんこと大森美優さんの顔を見るのは、最後に行ったチーム4公演以来、2年と少々ぶり。舞台女優としてはまだまだ成長の余地が大きいと感じたが、舞台での立ち姿の貫禄は劇場公演を重ねてきただけのものはある。久しぶりに「ロマンスかくれんぼ」などで馴染みのある声を聞けて嬉しかった。一風変わった役名だが、それがきちんと生かされるというのは、なかなか心憎い展開だった。
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あの夏のうた(路地裏ナキムシ楽団)@キンケロ・シアター

【作・演出】路地裏ナキムシ楽団

【出演】小西良太郎、小島督弘、千年弘高、小森薫、上村剛史、原田里佳子、橋下幸坪、藍沢彩羽、小沢あきこ、押田健史、中島貴月、堀裕子
【歌・演奏】たむらかかし、ハマモトええじゃろ、暮らしべ四畳半、カト・ベック、アンドレ・マサシ、遠藤若大将
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原田里佳子さんが所属する、路地裏ナキムシ楽団の公演を初観劇。演劇と音楽は古今東西を問わず、融合しながら発展してきた歴史があるが、ストーリー性のある楽曲を演奏していたバンド側から、演劇にアプローチしていくというのは、意外と珍しい試み。「フォークと演劇」といえば、及川恒平や小室等を擁した楽団「六文銭」がよく知られている。どのような演劇の場面で使われた曲なのかは分からなくても、「ゲリラの歌」や「街と飛行船」、「私はスパイ」などの楽曲はよく聴いている。ナキムシ楽団でドラムを担当する遠藤さんは、アルバム「Niyago」のジャケットの遠藤賢司に面影が似ていて、親族ではないのかと思ってしまったが、そういうわけではないらしい。今作の楽曲では、蛍をテーマにしたものがいちばん心に残った。
「鍵」を文字通りのキーアイテムとして、戦争末期から21世紀まで、オムニバス的にエピソードが連ねられ、最後には循環する。楽曲やライブタイムを挟みながらなので、それぞれのエピソードは綺麗にまとまってはいるのだが、やや忙しなくもあった。このスタイルには、一つのエピソードを掘り下げる方が向いているのだろうか。
原田さんは戦中パートにはお下げ髪にモンペ姿で登場。素朴でいじらしく、寂しさも背負いながら精いっぱい前向きに生きる少女・・・、年上の男性中心のナキムシ楽団に身を投じた彼女にはぴったりな役柄で、とても自然に演じていた。楽団のアイドルと紹介されていたが、彼女ならどこに行っても可愛がられるだろう。ナキムシ楽団の公演は年1回ペースとのことだが、秋には次の舞台出演が決まっている。演劇人として着実に歩み続けている彼女の活躍は楽しみだ。
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源's egg(LOVE&FAT FACTORY)@下北沢・楽園

【作・演出】ゴブリン串田

【出演】椎名香奈江、斉藤有希、猪股彩佳、松樹侑奈、235、橘あるひ、清水智未、小名木美里、杉山裕紀、新岩正人、木村俊之、藤守祥子、中村ゆうすけ、ゴブリン串田
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男女逆転の「おじゃる系コメディ」と題された今作。
得意気になる様子を「おじゃる」という動詞で表したり、百人一首などから引いてきた古語を、本来の意味に限らずにセリフの中に散りばめて、なおかつそれが何となく意味が通じてしまうのがいとをかし。和歌とロックを融合したり、歌合わせバトルを展開したりと、時代の枠にとらわれない自由な雰囲気が作り上げられていた。
男女逆転は、男性陣が女性に扮する方は、「凄少納言」を筆頭に、艶めかしさと凄まじさが同居する迫力があって成功だったが、主役の椎名さん演じる輝輝は素の女性らしさをかなり残していて、アイドルに男性を演じさせるところでの遠慮が働いていた。結果として、男性陣演じる女性と女性陣演じる男性との対比が弱かった。主演の椎名さんは、歌合わせバトルの実演ではアイドルとしての恥じらいを捨てて全てをさらけ出せる人なので、もう少しビジュアルの面でも冒険があってもよかったのではないかと思った。
家と家ではなく人と人の関係に気づくことで、ディスり合い争うことに終止符を打つ、というストーリーは、現代の様々な場面に照らすことができるメッセージ性があったが、行動の動機付けとか、苦悩とかの掘り下げがもっと描かれてほしいとは思った。
今回は最前に座っていたら、橘さん演じる源頼朝にロックオンされ、扇子で叩かれるという有難い経験ができた。「君が予む物語」で最前の観客が橘さん演じる小学生にスリッパで叩かれるのを見て、哀れんでいたものだが、自分がその役回りを演じることになるとは・・・。源氏・平氏藤原氏が劇中に登場していたので、橘さんの出演で、名門四家がここに揃ったことになる。何とも可愛らしい棟梁ぶりだった。できれば歌合わせバトルの実演も引き受けてほしかったが・・・
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