~熱風の果て~

観劇の記録

ファントム・チューニング(LIVEDOG)@新宿村LIVE

【演出】高島紀彦【脚本】高島紀彦、松多壱岱

【出演】田中彪仁藤萌乃、瀬戸啓太、Kimeru、倉本夏希、咲良、木村えり、真部小夜、篠宮穣祐、打田マサシ、柴田茉莉、琉河天、甲斐千遥、崎嶋勇人、渋谷将、久保雄司、瀧澤優子、宇賀祐太朗、中嶋尊望、坂内勇気、前中りょう、真僖祐梨、小夜、神代よしき、村田諒人、工藤美輝、いせひなた
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冷静なる情熱家・仁藤萌乃さん出演の舞台を新宿村で観劇。
霊的なものへの信念は全くと言っていいほどないので、オカルトコメディと題打ったこの作品にどこまでシンパシーを感じられるかと、一抹の不安も抱きながら会場に向かったが、2時間半の上演時間で、すっかり「妖」たちに感情移入して、愛おしく感じるように。
800年の伝統を持つ猫又や九尾の狐から花子さんたちまで、妖怪も都市伝説も人間の信じる心が力を与えるという根は同じものとする捉え方はなるほどと思った。そして、これらの「妖」を間断なく生み続け、創作の世界に生かし続けてきた日本人のイマジネーションの豊かさには、今更のように感心させられる。ゲームや創作の中で生きることが多いこれらの「妖」たちの姿もまた、時代と共に変わりゆくもの。和を基調とした「妖」たちの衣装やメイク、小道具といったものが華やかで、舞台に彩りを与えていた。九尾の狐と玉藻前那須殺生石に込められた伝説・・・観劇から帰って調べて、初めて詳しく知ることができた。レイコさんという都市伝説は知らなかったが、演じた工藤さんはパンフレットにレスリングの経験ありと書いてあって、あの不気味な動きの秘密は解き明かされた。
オカルト趣味は持ち合わせてはいないものの、ホラーゲームの実況動画は時々見ていたりしているので、オムニバスの事件ファイルでストーリーが構成されるというところには「怪異症候群」というゲームを思い出し、座敷童さまの手毬には「オシチヤ」というゲームを思い出した。
「妖」と人間との信頼関係や微妙な距離感、自己犠牲などは、先週見た「セイヤン」での人間とモンスターとの関係を思い出す。この作品では、さらに両者の間でアイデンティティに揺らぎを覚え、迷いながらも信じた道を生きる「半妖」という存在が登場し、物語をより深いものにしていた。それぞれの立場はあれど、ここにもまた真の悪は存在しない。八十二が「妖」に敬意を持って敬語で接する関係性が温かかった。
先週、その「セイヤン」に猫耳モンスターのライッチュン役で出演していたいせひなたさんは、特別出演という形ながら、2週連続の本番というハードスケジュールで主人公の少年時代役で出演。和ロックバンドのボーカルも務めているということは、先週の舞台の折り込みチラシで初めて知ったが、この舞台の主題歌や劇中歌も担当。和の世界観によく合う歌声だった。この作品では、猫耳の元祖・猫又さまが登場。猫耳付けて可愛らしくニャーニャ言っていたかと思えば鋭い目つきでの獅子奮迅の大立ち回りと、大活躍をしていた。
今回は座席位置も申し分なく、舞台の上で繰り広げられる全ての空気をダイレクトに感じることができた。殺陣のシーンのスピード感と迫力はすさまじく、まろび、倒れるときの大きな音と震動が響く。さらに、肉を斬られ、心が傷つく痛みまで伝わってくるようだった。萌乃さん演じる涼子の生き様も余すところなく見届けることができた。どちらかと言えば狐顔と言える萌乃さんには、今回の役ははまり役。信念を枉げない芯の強さも彼女に重なるところがある。台詞回しの安定感もさることながら、眼光で演じることができるのは強みだ。鈴木まりやさんなどと共演する来月の出演作品は、今作とは毛色の違う作品のようだが、既にチケットは押さえているので楽しみにしていたい。
衣装の華やかさやセットの扉が開くところなどは、松多さんらしい雰囲気も感じられたが、今回は演出などには関わっていない様子。扉の妖怪を使って舞台上から姿を消したり、衣装の早変わりを行ったりといった工夫は面白い。通路やバルコニーにも役者を動かして、新宿村の全てを使って距離感や空間の奥行きが表現されていた。4本のオムニバス形式でテンポよくストーリーが進み、難しい時間や空間の軸の交差もなく明快でテーマ性もある。役者の演技力も確かで、アドリブや役者の力技に頼らないコメディの要素もしっかり織り込まれているし、乙女心をくすぐるような少し危険な場面まであり。初めて舞台を見るような人でも間違いなく楽しめるような、良い作品だった。
貧乏神改め福の神に憑りつかれた香織・信郎カップルのその後の運命はちょっと気になる・・・
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