~熱風の果て~

観劇の記録

三國志(アフリカ座)@シアターサンモール

【脚本・演出】中山浩

【出演】石原慎一、有田一章、小木宏誌、真京孝行、玉永賢吾、望月海羽、杉山夕、篠宮穰祐、工藤竜太、福津健創、石上卓也、中村友、井上賢吏、平野建、千葉太陽、豊嶋厚佐、細井和也、牧之内宏征、神㘴慶、烏森まど、木部遥可、アベシゲオ、雨宮ひとみ、有坂奈恵、イシズカもんじゃリュウタ、稲村幸助、稲村祐介、岩田真人、梅田祥平、木房明音、白井啓二、杉窪宏哉、鈴木秀朝、仙田祥大、髙岡宏行、田口臣、武田香利、中村優月、奈良宙生、成瀨史也、新熊柾貴、新野邉直人、西岡仁、西薗貴之、ふくち笑也、本多俊太郎、牧野誠智、武蔵響、養老航、吉岡翔悟、川口空汰、宍戸准之助
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中学生の頃には横山三国志、吉川三国志、光栄三国志人形劇三国志とひと通り三国志を楽しみ尽くし、高校入試の面接で尊敬する人物を問われて諸葛亮孔明と答えたほど好きだった三国志の舞台化作品ということで、アフリカ座本公演に初参戦。シアターサンモールには4年ぶりの入場だった。
三国志を舞台化しようとすれば、どこか一つのテーマに絞るのが常道だと思われるが、今作では董卓の暴政から英雄退場までの30年間を2時間半で描くという挑戦的な試み。登場人物たちもとにかく多く、劇中で名前を呼ばれることがなかった武将たちまで、当日パンフレットを見ると細かく設定されていたことが分かる。
これだけのダイジェスト版の中で、呂伯奢殺害から幕を開けて、陳宮曹操との因縁が丁寧に描かれたあたりにはこだわりが感じられた。曹操陳宮曹操関羽・・・たとえ同じ道を歩まず、敵味方となったとしても通じ合う心がある。関羽赤壁で敗れて落ち行く曹操を見逃す場面はストーリーを知っていても胸が熱くなった。小説としてもよくできた伏線だ。関羽が首になってなお曹操を呪い殺す・・・という荒唐無稽な展開ではなくて、曹操が丁重に関羽に別れを告げて葬るシーンが丁寧に描かれたのもよかった。
最初に皇帝の冠をかぶった人物が現れたときには、こんな献帝は嫌だ、こんな劉備は嫌だ、と思ってしまったが、劉禅だったのでひと安心。譲位後の献帝の入水は少々やり過ぎな気はしたが、この舞台オリジナルか。生まれ変わっても帝室には生まれたくない、というのはどこかで聞いたようなと思ったが、劉宋の最後の皇帝で譲位後に殺害された順帝の言葉らしい。この作品では、曹丕の簒奪は父親に認められなかった悔しさからの行動のようにも見えた。
孔明劉禅に歴史を語るというスタイルで、劉備の死まで語りつくして時代が追いつき、五丈原へと出陣していくという綺麗な構成だった。蜀の滅亡まで見通して劉禅に策を授ける孔明恐るべし。石原慎一さん演じる孔明は老獪で泥臭く、創作ではあまり描かれないスタイルだが、鬼神ではなくて人間らしさに溢れていた。こういう孔明像も面白い。
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メトロノウム(ENG)@日暮里d-倉庫

【演出】福地慎太郎【総合演出】佐藤修幸【脚本】宮城陽

【出演】竹内尚文、水崎綾、図師光博、中野裕理、門野翔、内山智絵、星璃、遠藤沙季、宮森セーラ、齋藤伸明、太田達也、松木わかは、澤田圭佑、斉藤有希、CR岡本物語、井上賢嗣、鶴愛佳、谷川華子、福岡みなみ、朝比奈叶羽、結城美優、出井景梧、岡谷未来、こはる、石部雄一、夢麻呂
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荒涼としたメルヘンチックなビジュアルと不思議で複雑そうな世界観に惹かれ、水崎綾さんがヒロインを演じるENGの公演を観劇。2回目の入場となるd-倉庫はどこからでも見やすい、いい劇場だ。
前半は「おもちゃ箱をひっくり返したような」という表現がぴたりと当てはまる、音と光とセリフが高速回転一糸乱れぬ雑然さ。場の転換が暗転ではなくて、出演者が駆けながら舞台裏と総入れ替えしたりするので、スピード感と躍動感が強く感じられた。そのスピード感と明るさの中に静かに入り込んでくる違和感と黒い霧。人間とアンドロイドとフィギュア。完全に通じ合うことはできない、埋めることができない断絶と、その中でも通じ合う心のようなもの、どちらも切ない。メトロノウムの外の世界の整合性には疑問があったり、全体としては殺陣に割く時間が長すぎたような感じは受けたが、人間にとっての真の幸福とは何か、人生の意味、価値といったものまで問いかけてくる、骨太のテーマがあった。メトロノウムは物語の中のように実体化されたような姿だけではなく、現実世界でもありふれたものになってきていて、知らぬ間に取り込まれているのかもしれない・・・。設定や人間関係が観客に隠されたまま演じられる時間が長かったので、2回見るべき作品なのだが、チケットは1公演しか買っていなかったので、公演DVDを予約した。
キャラクターたちの衣装は個性的で華やか。時間を操るウサギコンビのちょこまかした動きやセリフが可愛らしい。メトロノウムの振り子の動きはコミカルではあるのだが、その意味が分かると悲しくもある。4人のハンプティダンプディを一人で演じ分けたCR岡本さんの演じっぷりは見ものだった。
ヒロインを演じた水崎さんの演技を見るのは「冬椿」、「PLAYROOM」に続き3作品目だが、過去に見た作品で演じた役柄とは全く印象が異なる、新たな姿を見ることができた。前半の世間知らずで向こう見ずなお嬢様風から、後半の覚醒の迫力。稽古期間中に夢麻呂さんからド根性ぶりを称賛されただけはある、いい女優さんだ。
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狼魔冥遊奇譚(K.B.S.Project)@コフレリオ新宿シアター

【脚本・演出】山口喬司

【出演】米山雄太、山川ひろみ、森田猛虎、奥野正明、臼井章悟、中野将樹、祖父江桂子、松崎カンナ、仲地陽和、椎山なつみ、ジョセフ運生、竹内優、蓮沼裕之、森大成、山口喬司、海老沢栄
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山口さんがプロデュースする第2の劇場として新宿は歌舞伎町にオープンした新しいシアターの杮落し公演。ラビネストの臨場感を損なうことなく、舞台と客席の近さはそのままに、観劇環境は大幅にアップ。100席に満たない小劇場としては他に類を見ないほどのゆったりフカフカの座席。そのまま眠りたくなってしまいそうだが、この作品にはそんな心配は必要なかった。
間に5分の休憩を挟んでの2時間ほどの公演は、前半が村編、後半が冥界編に分かれる。いきなり迫力のある殺陣で幕を開け、悲しい掟によって僅かに消極的な形で守られてきた村人の日常の幸福は次々とこぼれ落ちる。コメディ的な要素も織り込まれながらも、前半から重たい空気を基調に物語が進んでいった。
次々と繰り広げられるプロの技。海老沢栄さんによる糸操りで滑らかに動き舞台上に花を咲かせる桜の樹の精、息を揃えるも外すも自在の二人羽織ケンタウロス、中野さんのスローモーションムーンウォークパントマイム、逢魔時に冥界へと誘う森田さんの冥王ハデスによるグロテスクなラップショータイム・・・瞬きをする回数も自然に減るというものだ。
村に繰り返される惨劇を防ぐか、冥王の野望を打ち砕くためのいくつかの選択肢。粛々と掟に従う、用心棒に守ってもらう、陰陽師に封じてもらう、冥王を滅ぼす。特に最後の選択肢は、冥王を倒すためのキーとなる刀が舞台上に現れ、貴種流離譚の成就を思わせたが、物語は憎しみが復讐を生む刃による解決を拒否し、人の優しさ、暖かさが何よりも強く尊いという真実によって、最も困難かつ根本的な解決へと導かれた。
山川ひろみさんは、前半は村娘「小夜」、後半は変化して「サヨチャーン」と衣装をガラリと変えて登場。後半の和+ゴスロリ+けもの+悪魔のいでたちは傑作としか言いようがない。時代劇の世界観を残した衣装・・・といっても、冥王はマントを纏って洋の東西を問わない僕を従えて出てくるのだから、冥界の設定は世界観も何もあったものではないのだ。冥王ハデスが優しさに苦しむと分かっていても彼女から世話されることを拒めなかったのは、ハデス自身も優しさに飢えていたのもあるだろうが、そのキュートさにメロメロにされたというのが大きいだろう。山川さんは、可愛らしさだけでなく、か弱さの中の確とした強さを今作でもしっかりと披露していた。自らが狼魔に憑りつかれたことを知ったときに微笑みを浮かべながら自決の覚悟を話すシーンは、神々しくさえ見えた。
主演の米山さんをはじめとする若い俳優たちの熱演とプロフェッショナルさを融合した上質の舞台を見せてくれたK.B.S.Project。コフレリオという新しい劇場の準備と並行して駆け抜けた苦労と情熱が、千秋楽の舞台挨拶での山口さんの表情から見えた。K.B.S.の次回作、そして女神座ATHENAの新作がコフレリオで演じられることを楽しみにしたい。
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マクベス狂走曲@ウッディシアター中目黒

【演出】私オム

【出演】ミク・ドール・シャルロットコヒメ・リト・プッチ冨田樹梨亜海老原優花野々宮ミカ、岩崎真奈、妃野由樹子、内田菜々、林さくら、豊田真希、佐伯侑梨加、蒼みこ、吉村南美、橘亜季彩、咲良しょうこ、國井紫苑、永田紗芽
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観劇歴の中で、トラウマ作品と呼べるものがいくつかあって、その代表が2014年に下北沢で上演された「特攻(ぶっこみ)のマクベス」。以来、ゴブさん作品の観劇に復帰するまでに実に3年もの月日をかけることになってしまい、その間に、「リングのマクベス」や、コヒメさんが出演した「リングのロミジュリ」なども演じられていたのだった。
今作も、ゴブさんが脚本・演出として携わるのかと思っていたが、名前は出ず。設定や内容は「特攻のマクベス」そのものであるにもかかわらず、作品のページにも作者や脚本のクレジットはなく、どんな事情かは分からないが、不可解だった。ただ、出演者たちには何の責任もないし、真摯に作品の完成に向き合っていったことだけははっきりしていた。
ウッディシアターに5年ぶりに足を運んだのは、アイドルとしてのラストコンサートを終えたばかりのコヒメさんの演技を初めて観るため。低い声色を使ってのセリフの安定感には努力の結果と才能を感じることができる。悪になり切ることができなかった野心家の凶子役を眼差しや全身の動きを使って演じていた。今作では、舞台上では背の小ささがネタとして使われなかったのは評価できる。実際、小ささをあまり感じさせることがなかった。悪役ばかり回ってくるとボヤいてもいた彼女にはどんな役柄が向いているのだろう。本格的な舞台作品で一般的な役を演じるところなども見てみたい。一時は芸能界引退も考えていた彼女だが、溢れそうな涙を何とか飲み込みながらの、「この舞台に出演してよかった、これから「小日向茜」としてのコヒちゃん第2章が始まる」と、将来に向かっての力強いコメントを聞けてよかった。
演技の面で圧倒的なインパクトを残したのが、占い師役の永田紗芽さん。この作品での占い師というのは美味しい役ではあるのだが、役としての設定に食われないだけの個性で、怪しさを醸し出していた。演劇人として精力的に舞台出演を重ねている18歳、なかなか末恐ろしい最年少だ。きっとまたどこかで演技を見る機会もあるだろう。
今回は、「特攻」での反省を生かして、事前にシェイクスピアの原作を読んでみた。誰が原作で言うところの誰で、ここをこう翻案していて・・・というところが見えたのは楽しみの一つではあるが、血統が正統性の証明になるわけではない暴走族の世界に当てはめた上で誰も死なないハッピーエンドにするのであれば、マクベスである必然性はない気がする。また、野々宮さんや豊田さんなどは特攻服姿が完全にはまっていたが、やはりアイドル演劇である以上は、演者が持つ可愛らしさや可憐さが舞台上で輝くような作品づくりをしてほしいと思う。アイドル界とか、物理的な戦いではない世界まで飛躍させた方がむしろ潔かったのではないかと思った。
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午前0時を眺める人々(Japlin)@下北沢OFF・OFFシアター

【作・演出】桒原秀一

【出演】原田里佳子、黒川進一、松本和宣、小野田侑歌、石田政博、中島舞香、鈴木志麻、長堀純介、上杉英彰
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原田里佳子さんの主演舞台を下北沢で観劇。客演にして主演に抜擢されるというのは、彼女の実力が認められた証でもあり、嬉しい。思えば、コント作品以外で彼女の演技を見るのは3年ぶり。その間の時間をしっかりと成長のために充てられていたことが分かる、主演としての彼女の立派な演じぶりも嬉しく思えた。以前の演技は、全力を貫く余りに固く見えることもあったのだが、今日は、彼女の魅力である力強い眼力を、心の揺れを細かく映し出す繊細な表現に使っているところが見えた。ほぼ全編通して舞台に立ち続け、つむじ風に舞う塵のように移ろいやすい心情を、豊かな表情を交えつつ、対話や独白で表現していた。実年齢より10歳近く上で、既婚かつ8歳児の母親という、ハードルが高い設定だったが、その点も違和感なく演じていて、感心させられた。
登場人物たちは、少しずつどこかがずれていて、他人のことを思いやっているように見えて、本質を見ることができずに利己の罠に陥る。始まりがあれば終わりがある。午前0時の訪れは終わりと共に新たな始まりを予感させるが、一方で二度と戻らないものもある。真実の愛を語る道化の医者は重たく背負った十字架に繋がれることを喜ばれる。全てを解決に導くことができる唯一の存在として、舞台上に姿を現すタイミングを見計らっていた8歳児は誕生日の祝いの輪についに入ることなく宴が終わっても忘れ去られたまま造花を投げ捨てる。いくつかの悲しみが舞台上に残される終幕・・・最近見ていなかった気がする。それにしても貴ちゃん役の石田さんは、アドリブなのか役としての道化なのか、その境目を感じさせない、振り切れた怪演ぶりだった。
原案は、イプセンの戯曲「人形の家」とのこと。作者の名前と作品名は知っていても、読んだことはなかったので、これをきっかけに読んでみようと思った。「まだ登場人物がいたのか驚きでしょう」と終盤に現れた馬場さんは、どんな役割を持って出てきたのか、最後までよく分からなかったが、原案にはモデルとなる人物がいるのだろうか。
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