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~熱風の果て~

観劇の記録

ブラックダイス(Flying Trip)@あうるすぽっと

【演出・脚本】春間伸一

【出演】仁藤萌乃橋本楓、反橋宗一郎、武子直輝、榎木智一、藤本結衣、古橋舞悠、戸田悠太、今村裕次郎、小森敬仁、十河宏明、田中克宏、與座亘、滝口はるな、甲斐千遥、横井伸明、高原知秀
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第1作の「落下ガール」から第6作の「落下ガール」までは全ての作品を観劇してきた春間さん手掛けるFlying Tripの演劇だったが、男性キャストの比重を高め、アダルト路線になり、あうるすぽっとに場を移してからというもの、すっかり疎遠になってしまっていた。今回の第12作で、萌乃たんこと仁藤萌乃さんが主演するということで、久しぶりに渡り鳥の旅路を辿る。先に昨日の「星空ハーモニー」の千秋楽のチケットを買っていたため、萌乃さんが演じる回を見るには平日しか選択肢がなく、月曜夜の千秋楽を観劇することにした。
萌乃さんの出演舞台を見るのは、脚の骨を折った状態で装具を纏ったまま根性で主役を演じ切った「心は孤独なアトム」以来。確たる目的意識もなくスタートしたという芸能活動が10年目を迎えようという中で、演技の面でも貪欲に向上心を持ち続ける彼女の姿は、劇場公演で一切の妥協を排除して一心不乱に踊っていた頃と変わらない。演じていることを感じさせない力の抜けた熱演とでもいうべき自然体の演技は、萌乃さん独特の世界。余計なものがそぎ落とされていればこそ観客に伝わる感情というものもある。
キャバクラとか違法カジノとか詐欺師とか、シンパシーを感じる要素のない舞台設定のはずなのだが、そこで繰り広げられる謀略や勝負事に手に汗握らせるほどの男性役者陣の迫力が凄まじい。問題があったとすれば、根っからの悪者はいないはず、ハッピーエンドで終わるはずということを信じられる程度には自分が春間作品に馴染んでしまっていたことか。それにしても登場時にはどんな悪玉かと思われた社長が、金を失っても部下たちから慕われ、強い家族愛の持ち主という、ある意味非の打ちどころのないほどの格好よさとは。裸一貫からまた立ち上がるその姿は、日本のドナルド・トランプか。もっとも、勝負ごとに負け知らずならば、闇カジノではなく、海外の合法カジノで外貨を稼ぐだけ稼いで、日本経済に貢献してくれた方が・・・なんて思ってしまうが。それに胴元が賭け事に参加するのは、違法カジノの正義では違法なのでは・・・
そんな彼が萌乃ママと別れた理由が劇中でははっきり明かされなかった点は、エンディングで感動の一部を留保する要素になってしまったが、事業の成功のためにそうせざるを得ない場面に打ち当たった時に一瞬の迷いを見せた彼に対して、萌乃ママが自ら潔く身を退いて関係を断った・・・と想像するのがいちばん自然か。その後、自らの治療費を彼に出させず、結果として娘に借金を背負わせてしまったのは、彼女なりの意地でもあり、娘の強さを確信していたから・・・と思うのが綺麗か。そして、その当時の父親では、お金以外の持ち手に気付くことができなかったのだろう。それでも萌乃さんにしてみれば自殺寸前まで追い込まれてしまったのだからたまったものではないが、そんな運命を自らの力で乗り越えて、桜吹雪を美しいと思えるようになった萌乃さんの門出には、目頭が熱くなるのを感じた。
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