~熱風の果て~

観劇の記録

アフィリア・サーガ ワンマンライブ@ディファ有明

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不世出のアイドルであり、その言葉や生き方に感銘させられることも多い、アフィリア・サーガのコヒメ・リト・プッチさんの卒業ライブに参加。
第一報を聞いたときには、これで舞台出演などの活躍の機会が増えるかも、と肯定的に捉えていた彼女の卒業だったが、勧告を受けての不本意な卒業であったことや、アイドル引退と同時に芸能界を去る覚悟でいることなどを知るにつけ、遣る瀬無さが勝っていった。これまでに彼女のことを見たのは、TIFアイドル横丁祭での合計50分にも満たない時間にすぎず、当然接触をしたこともなく、さらに彼女の願いとは違いこの先のアフィリアを応援する意思を持っているわけでもない自分には大事な卒業ライブに参加する資格はないものと思っていた。
そんな中で、遠征先のホテルの部屋で、チケットの売れ行きが芳しくない卒業ライブをどうすれば満員にできるか、隠し撮りまでしながら他の2人の卒業メンバーと本音で語り合うコヒメさんのツイキャスを見て、8年半に及んだ彼女のアイドル人生の最後の場に立ち会うべきではないかと変心。椅子席があればなおよかったが、「後方エリアチケット」という、ただその場にいて記憶と感覚に焼き付けるだけでよい自分にはお誂え向きのチケットを、満員にならないのならばと購入したのだった。
開演20分前からの呼び込みに応じて入場し、「非合理的かつ訂正不能な思い込み」のコヒメ卒業盤を購入してライブエリアの片隅へ。身長140センチのコヒメさんの顔を見るのは厳しいかと思っていたが、まずまず視界が確保できた。
初期の曲から時系列的にシングル曲とアルバム曲を混ぜながらの、40曲に及ぶ卒業ライブが始まった。アフィリアの曲の中で特に好きで、グループを知るきっかけにもなったシングル曲「メリディンの祈り」はもちろん、もう1曲、特に好きな曲である「聖なるwktkの星」もワンハーフながら演じられるなど、見たいと思っていた曲は全て演じてくれた。多くのメンバーの卒業を経てきたグループなので、卒業や別れをテーマにした曲も中盤から遠慮なく演じられる。アフィリアの曲を追いかけていたのは、今日のライブで言えば折り返し手前になるシングル「未来が私を待っている」まで。今日も改めて感じたが、これ以降の楽曲はアニメ主題歌も多く、ライブ向きを意識したような盛り上がり重視の路線が続く。前期の魔法ファンタジー路線を好んだ己にしてみれば、アフィリアが歌う必然性がないように感じてしまい、興味が失われていってしまったのだ。しかし後期の曲もステージ上で演じられるのを見ると、彼女たちの渾身の頑張りに心を打たれる。アンコール前まで着替え休憩もなく、ソロやユニットで誰かが休むということもなく、10人が一度もハケずに歌い踊るさまには、ここに来たことが間違いでなかったことを教えられた。
そしてアンコール後には、卒業する3人はドレス姿に着替えて登場。「My White Ribbon」を何故やらないのかと疑問に思っていたら、最後の最後に持ってくる心憎さ。予告通り、しんみりとしすぎることなくステージ上の歌と踊りでアイドル人生の全てを出し切るという、彼女たちらしさを貫いた卒業ライブだった。
再来週には、中目黒でコヒメさんとミクさんがダブル主演を務める舞台「マクベス狂走曲」が上演される。必要とされるなら、と迷いながらも出演を決めたコヒメさん。この舞台の成功が、彼女が芸能界に居続ける決断をするための最後の一押しとなることを願いたい。昨年の「リングのマクベス」の情報をキャッチできずに見逃してしまったのは痛恨だったが、今回は既にチケットを購入済みなので、しっかりと見届けたい。

Afilia Saga East メリディンの祈り Pv

アルキミコ(u-you.company)@TACCS1179

【演出】中山浩【脚本】すぎやまゆう

【出演】水野奈月、小田島渚、杉山夕、鷹村遊、伊集院友美、林由莉恵、木庭美咲、三品璃乃、ふくち笑也、結城かえで、徳永優羽、アイドル鳥越、海老沢茜、松田美咲、花川怜奈、月乃彩花、荒井芳美、小笠原佑花、木ノ本かいり、元澤めぐみ
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己が観劇生活に復帰する契機となった「ドールズハウス」を送り出した、杉山夕さん主宰の「u-you.company」の新作を観劇。名前を知っているキャストは「ドールズハウス」に出演していた杉山さんと木庭さん、徳永さん、月乃さん、林さんだけだったが、今回もきっと良質の演劇を見させてくれるはずと期待して、発売初日にはチケットを購入していた。その期待は外れることなく、終演後はDVDを予約してきた。
戦国の史実の歴史の流れを下敷きに、翻弄されながらも力強い女性たちの生き様、死に様が描かれる重厚な作品。家名を残すために親兄弟が敵味方となる道を選んだ主君のため、自らもまた掟に従って情を捨て、敵味方に分かれ、死に方を誤ることなく散っていく歩き巫女たち。一般の人間的な感覚から言えば、従わでもと思うような不条理な掟をひたすらに守る彼女たちが健気で痛々しい。同時に、掟を受け入れつつも端々から迸り出る人間的な感情が胸を打つ。安易に現代的な感情論に流すことなく、最期まで「歩き巫女」として生かし、死なせる演出を貫くことで、彼女たちの尊厳が保たれた。
昌幸や小松姫の家族愛は美しくはあるが、その裏で主君一家の想いを遂げさせるために、いとも簡単に投げ打たれていく命。素敵な殿方にめぐり合うことを夢見て、どんなタイプが好きかと、現代の女の子と変わらないような他愛もない話をしていた子が、次の瞬間には武器を手に取り、傷つき、自決をする。傷つけ合い、死に行く今わの際に発せられる言葉が、彼女たちの儚さをより増大させる。家族愛の美しさも主題のひとつではあるのだが、戦で親を殺されたといった設定の歩き巫女たちなので、余計に「生命の格差」といったものも感じて苦しくなった。
歩き巫女たちが戦う中で、舞台の中央で舞う小田島さん演じる竹林院。その舞姿が美しいだけ、戦いの悲劇との対比が浮き彫りになる。日本舞踊でも嗜んでいるのかと思って小田島さんのプロフィールを覗いたところ、踊りは踊りでも特技はフラダンス!衣装の着こなしや上品な立ち居振る舞いと物言いなど、すべての面で戦国の時代の女性を華麗に演じていた。ラストで小松姫から紐を贈られるというエピソードが「真田紐」につながるというあたり、考証がなかなか細かい。嫁入り前から「竹林院」と尼みたいな名前というのはいかがなものかと思ったが、彼女の実名は伝わっていないとのこと。姫と和子とで誕生の喜ばれ方が違うということに、小松姫が異を唱えるシーンがあったが、身分があったとしても、誰の子で誰の妻で誰の母かということのみが伝わるのがこの時代の女性たちだ。
初日を迎える前に、チケットは全公演完売。知らない出演者が多いので、パンフレットも買おうと思っていたが、土曜日の時点で、すでに売り切れとなってしまっていた。パンフレットそのものの商機だけでなく、出演者のことをより深く知ってもらえる機会も逃すことにもなるので、もったいない。もうひとつ、改善点としては前説。出演者によるカゲアナでよかったのではないかと思う。
次回のu-you.companyは、投票で圧倒的な支持を得た「ドールズハウス」の再演が早くも決定。場所は池袋のBIG TREE THEATER。全公演満席の実績を引っさげてとはいえ、初演が下北沢の小劇場だったことを考えれば、なかなか挑戦的だ。当然、出演者の入れ替えもあるだろうが、ヒロインを演じた「ドールズハウス」以来、再び休養の時間を迎えている、いいだゆかさんの復活の舞台となれば申し分はない。
【⇒これまでの観劇作品一覧

PLAYROOM(ピウス企画)@シアターKASSAI

【作・演出】広瀬格

【出演】桜木さやか、長谷川太郎増田裕生さいとう雅子、長橋有沙、亀井英樹、水崎綾、木村若菜、伊藤武雄

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シアターKASSAIで観る演劇は10作品目だが、ここで二面舞台をなす作品を見るのは初めて。廃墟の密室を表現した殺風景な舞台というか、何もない床。先ほどまで歩いていた空間が舞台となることで、客席と舞台の境界は曖昧になる。劇の舞台となる廃墟の位置はシアターKASSAI、登場人物たちは池袋周辺を移動する設定で、実際に出てくる地名の名前も場所もすぐにイメージできるということもあり、そこにも虚構の中のリアリティが感じられた。
空間を挟んで、近い距離で観客同士が向き合うだけでも緊張感が生まれるところに、開演数分前になると、演者たちがおもむろに入場して客席へと着いていく(空席がある場合のみの演出)。開演後しばらくして客席の演者が喋り出すと、観客と演者の境界も曖昧になる。もしかしたら、登場人物として自分が選ばれていた可能性もあるのではないか、と。そして、セットとなる机と椅子を並べていく演者たちの動きに、現実と劇との境界すら曖昧になる。こうなるともう、単なる傍観者として気楽に観ることは許されなくなる。さらに、リアルタイムに近く話が進むにつれ、密室での神経質な心理戦と、人格や設定の転覆が繰り返される中で、劇世界の現実の境界が失われていく。一度もハケることなく演じている側は当然のこと、観客側にも精神力の消耗を強いる。カーテンコールを迎えても、演者も観客も俄かに作品の世界から抜け出せず、何が真実で何が虚構なのかと混乱し、笑顔になることができないのももっともだ。ただ拍手する価値があることだけは確かに思え、手が動いた。
桐野の小説が子供の遊びをテーマにしているのは、幼少の頃、何らかの事情で体験できなかったそれらの遊びへの憧憬或いは楽しかった時代の淡い記憶が投影されているのかもしれず、同じように、登場人物たちも現実世界の桐野がなりたいもの、やってみたいものが投影されているのかもしれないと思った。しかし、桐野の性別や実像、本名は終幕しても依然として闇の中だ。
二面舞台の反対側から、登場人物たちの正体を既知のものとしてと、2回見ることにして正解。感動を呼ぶようなストーリーではなく、隠された真実が大きな鍵となる舞台でありながら、それが分かっていても劇世界にまんまと引き込まれ、分かっていればこそ見えてくる部分もあった。演劇の新鮮な醍醐味を味わわせてもらった気がする。劇中で登場人物たちが操るノートパソコンや携帯の画面までしっかりと作りこまれ、演者たちは実際にボードにメモをとり、地図に書き込みをする。そして観客は終演後は取り散らかった宴の後をまざまざと眺めることができ、それによってまたも曖昧な世界に引き戻される気分になる。そこまでも計算のうちなのかとすら思ってしまった。
頭の中で作り上げた登場人物たちを動かし、彼らの運命を握り、幸福にも破滅にも導くことを専らとする劇作家と呼ばれる職業の人であれば、おそらく、万能感を抱いたり、はたまた自らが作り出した登場人物への罪悪感を抱いたりする感覚にとらわれることもあるのではないかと想像する。この作品は、作者のそんな思いが投影されたものなのかもしれないと思った。
小説の主人公を演じたまぁこさんは、この舞台への出演が決まってから、膝に大きな怪我を負ってしまった。しかし、弱音や恨み言を一言も吐くことなく稽古に参加し、本番を迎え、これまでの役柄にはないような重要な役を演じ切り。無力さに打ちのめされながらも、理不尽な運命と必死に戦う水越の悔しさ、強さを、鋭い表情と涙で表現できるのは、彼女自身の芯の強さがあってこそ。この試練も、彼女なら人間として、女優としての成長の糧にしていけると信じられる。当面は治療に専念ということになるのかもしれないが、いつか華麗なアクションも見せてほしいもの。スーツ姿も、意外と言っては失礼だが、様になっていた。
まぁこさんとはこの半年で3回目の共演となる長橋さんは、コミュ障の引きこもりという設定からの瞬間の一撃での豹変ぶり。この前の作品は、違う組の方を観劇したので見られなかったが、そこでもボサボサ頭で自然を自在に操る女子高生という個性的な役を演じたという彼女。こういう癖のある危ない役を引き寄せられるというのも実力が認められている証拠。来月は、どんな顔を見せてくれるのだろうか。
水崎綾さんは、名作「冬椿」でのアカツキ・シノノメ姉妹以来、5年半ぶり。そのときの敵役のイメージがついてしまっていたが、今回はクールな外面ながら内面の暖かみも持つインテリ役で、こんなに綺麗な人だったのかと今更ながらに気づいたのだった。
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Fairy Melody~私はピアノ~(Favorite Banana Indians)@d-倉庫

【作・演出】息吹肇

【出演】松原夏海、中澤隆範、春摘らむ、川嶋健太、成瀬麻紗美、山田貴之、大越陽、西村守正、塩田貞治、加藤美帆、堺谷展之、瀬戸沙織、佐藤詩音、さわはるか、長紀榮、月桃さちこ、memu

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昨年12月の「Singularity Crash」から続けて、松原夏海さんがFBIの本公演に主演。日暮里駅に用事があって降りること自体が初めてで、住宅街の中の細い一本路地を進み、駅から10分弱で会場のd-倉庫に到着。車庫の奥にある2階建ての倉庫を改修した小劇場ということで、外見に似合わず、中に入るとなかなかにおしゃれな併設カフェスペースになっている。そこから階段で1階に下り、劇場に入場。ほどよい傾斜が取られた、見やすい劇場だ。
本作のPR映像にあった朝鮮語の会話のシーンや、パンフレットに書かれた息吹さんの挨拶に多少の警戒感を抱き、本編に政治色が入り込んでこないことを祈りつつ幕開けを待つ。先の大戦にせよ、この国にせよ、皇室にせよ、靖国にせよ、中韓にせよ、右側からでも左側からでも政治の道具のように使われるのはとても不幸なこと。数年後にこの種の芝居が上演禁止になる可能性すらあるという息吹さんの言説には賛成しかねるが、戦争や平和を語ること自体窮屈な世の中になってきているとは確かに感じる。50年ほど前に既に西岡たかしが歌っていたように「私たちは今、戦争を忘れてはならない」のは、今も昔も変わらない。
心配された政治色の強調はなく、靖国のくだりを除けば素直に観ることができた。靖国の鳥居をくぐるには、油をかけたり火をつけるのは論外だが、どんなものであれ、そこで祀られているものに対する価値観というものを持つべきだと思う。みたままつりに集う若い人々のうち、どれだけの人がそれだけの覚悟を持っているのであろうかという疑問は日ごろ抱く。そして己はいまだに靖国の鳥居をくぐる覚悟はできていない。
大越さん演じるフリージャーナリストの父親は、登場シーンでは自衛隊員として南スーダンに赴く設定なのかと思ったが、もし自衛隊員の設定だったとしたら、この劇は成立しただろうか。
戦争を描く作品でいちばん堪えるのが、「この世界の片隅に」でもそうだったように、何気ない日常のシーン。今作では、戦時中の4人の若者たちが楽しく笑い合うシーンが当てはまる。幸福とは享受しているときには気づくことができず、失われて初めてそれが幸福というものだったのかと分かるのが人の常。善良な人々も悪行重ねた人々も、等しく残酷な無実の裁きを受け、幸福を奪われるのが戦争の惨禍だ。たまたま今、辻政信が戦後に著した「潜行三千里」を読み進めているところなので、ビルマ戦線に散ったという幸作兄の設定が余計に重たく感じた。
松原さんは、もうすぐ27歳の誕生日を迎えるのだから、事実婚をしている役でも全く不思議はないのか。演技は今作も安定していて、安心して見ていられる。千秋楽は噛みがちになってしまったと言ってはいたが、モノローグの上手さは折り紙つき。終盤の彼岸へ渡る祖母に投げかけた「おばあちゃん!」という台詞に乗せた情感は素晴らしかった(70年の時代を一気に駆け抜けたおばあちゃん役の春摘らむさんの演じぶりもよかった!)。稽古場でも歯に衣着せぬ意見を戦わせているという松原さん。女優としては着実にレベルを上げていっているので、あとは終演後の挨拶で照れ笑いとかせずにきちんと締められるようになればもっと良い。今月下旬からは、髪を黒くして臨んだNHKの連続ドラマの放映が始まるので、そちらも楽しみにしたい。
ゴブさん演劇の常連である成瀬さんは、この前見た「初体験奮闘記」でのカナイ様から、とてつもない路線転換。どんな風に妹キャラを演じるのか想像もつかなかったが、さすがは女優。無邪気で生意気で素朴な妹役が実によく似合っていた。その純情さを表現した演技が、悲しみと感動を倍加させていた。
時代をつなぐキーアイテムとなっていたピアノ。シンガーソングライターのmemuさんの歌声が響く。演劇で生演奏を聴ける機会は多くないが、やはり音源を流すのとは心への伝わり方、劇場に流れる空気の色が全く違う。優しい歌声がこの劇にマッチしていて効果的だった。
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地球防衛レストラン~緊急事態のフルコース~(劇団SPACE☆TRIP)@千本桜ホール

【脚本・演出】ゴブリン串田

【出演】永友春菜、椎名香奈江、江里奈、星優姫、坂本実紅、葵叶望、山下真実、崎野萌、水野以津美、小名木美里、神崎晴香、松樹侑奈、関口ふで、馬渡直子
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4か月ぶりとなる劇団SPACE☆TRIPの本公演。劇団名よろしくSPACE☆TRIPしてやって来た別の銀河からの侵略者が満足できる食事を提供できれば銀河系が救われる・・・というかなりぶっ飛んだ設定。侵略者であるシューやロサンは毒々しい髪色と血色だったり、角を生やしていたりと、かなりストレートな宇宙人ぶり。
しかし、本筋は地に足が着いたもので、料理店のスタッフたちがお互いの個性と違いを認め合うことで美味しいフルコースを提供するに至るまでの気づきと成長の物語。自分自身を知り、認めることができて、初めて他人の個性や自分との違いを受け入れることができる。そして、気付きと成長は、料理店のディレクトールと表裏をなす侵略者シューの側にも認められる。コメディ色は前作に比べればやや弱かったが、笑いの要素を盛り込みながら、しっかり芯の通ったストーリーで、終演まで飽きさせないつくりだった。わざわざ屋外ロケまで敢行して、映像でも攻めてきていた。
馬渡さんは、いつもの身体の中でとぐろを巻いてから出てくる重厚な声色とは全く違う、今まで聞いたことがないような頭のてっぺんから抜ける上品なマダム声。今回もまたいかにも楽しく演じられそうな役。途中で身体を乗っ取られている間はいつもの声色も聞かせてくれた。三年物語で馬渡さんと共演していた小名木さんは侵略者シュウ役で出演。彼(彼女?)の心の成長物語でもあるのだが、銀河系を除いて被征服民を皆殺しにしてきたという彼が良い統治者として目覚めても、既に治めるべき民はなし・・・。地底人の侵略を阻止したら、もう地球で生きていってもらった方が幸せなのでは?
今回は関口さんが余興担当。1公演でプリンを4個・・・全5公演で最大20個!身体張り過ぎでしょう。厨房にいるはずのシェフとパティシエまでちゃっかりと関口さんの本気を拝みに出てきていた。前作で主演した椎名さんは、カラコンを入れてミステリアスな宇宙人役。セクシーな衣装に身を包んで、落ち着いた大人の演技。前作とはまた違う魅力を見せてくれた。
坂本さんも前作から引き続いての出演で、未成年にもかかわらず日本酒マニアのソムリエ役。彼女は何といってもキリリとしたいたずらっぽい眼の力強さが舞台向きで、一癖あるような役が向いている。それでいて踊っているときはアイドルそのもの。不思議な魅力のある人だ。劇中で最も成長したと言ってもいいパティシエを演じていたのが崎野萌さん。おだんごヘアーが丸顔によく似合っている。元々は「ぱじゃるー」という北九州のアイドルグループにいた方らしい。中盤からはずっと涙ぐみながらの演技。いったんは逃げ出して、思い直して頑張ってでも信じきれなくて、という心の動きが痛々しいくらいに伝わってきた。
道場シェフ役の星さん、どこかで見た顔というのはすぐに分かったが、終演まではっきりと思い出せず、「踊りが丘学園」のズッキューンな副会長役と分かって納得。副会長役のときも感じたが、彼女の場合、セリフ回しが平板に聞こえるのが弱点。言葉がある程度出てから感情が乗ってくるような感じなので、まだまだ良くなる余地はありそう・・・ということは、パティシエを見守るシュー様のように、彼女の演技をまた見る機会があれば、成長を確かめてみたいと思った。
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