~熱風の果て~

観劇の記録

ともだちインプット(アリスインプロジェクト)@シアターKASSAI

【演出】細川博司【脚本】麻草郁

【出演】新谷姫加、森川彩香、夏目愛海、竹内舞、須山朱里、仲野りおん、今井瞳、シミズアスナ、奈良平愛実、花梨、琴森もね、沖田桃果、若松愛里、池澤汐音、桜田初姫、星秀美、西田薫子、あさおか倖、川口ゆずき、漆畑美来、岩本柚、澤田樹奈、高田あおい、國井紫苑、小澤麗那、天音、朝倉奈珠希、喜屋武蓮、木村玲子
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データスフィアの海のように、自らの作品や関わった作品の要素を分解し、再構築していく麻草氏の脚本。今作も、いかにも麻草作品だなと思わせるものだった。始まりと終わりが繰り返される世界という設定はヴェッカー的でもあったが、いちばん近いと感じたのは、「まなつの銀河」。荒れ果てた地球、隔離された学園での終わりの見えない日常など、世界観の類似点が多かった。
例によって、複雑難解な全てを解こうと思って見てはいけないのが麻草作品だが、やはり何らかの解釈はしたくなるもの。しかし、ガートルードやサキ、フユの目的まで絡んでくると、それらを一つの糸に結び合わせるのは、舞台を観ただけではかなり困難な作業になる。
この世界の目下の最大の目的は人間の復活ということだろうか。おそらく実験は何度も繰り返し失敗していて、人類の滅亡からは長い時間が流れている。「まなつの銀河」的な設定であれば、ナツは母親の手によって冷凍保存されていたのかもしれないが、回想シーンではユキの子供はアキだけで、ナツが登場しないのは何故か。ヤツメとソラが抱いていた赤ん坊はナツとアキなのか失敗作なのか。フユを作ったのは誰なのか、この世界では人間の絶滅と復活という二つの勢力が対立しているということなのか。シャンドラは何故重要なのか。冒頭とラストの、ナツとアキが二人だけのシーンは、学園での出来事は遠い過去となっているのか。アキだけでなくナツも姿が変わっていないのは、彼女もまた精巧に人間として作られたアンドロイドということなのか。アンドロイドたちが学園に魅せられ、集まってくるのは単なる偶然か。アンドロイドたちの活動の停止が暗示されることと、サキの死をきっかけに植物や動物の再生が始まったこととは何らかの関係があるのか・・・
謎が謎を呼んでしまうので、終演後も頭の中がスッキリとはしないで、感想を伝えにくいという思いも抱きながら公式イベントや個人イベントに参加したが、あいみんなりの解釈を語ってもらえて、クリアになった部分もあった。もちろん、彼女自身が言うように、これが正解というものがあるわけではなく、観た人それぞれの解釈があっていい。
今年の途中からは、4年前に一度、観劇のモチベーションが急低下してしまったときの反省も踏まえて、舞台を長く楽しみ続けるために、応援している役者が出演する舞台でも、世界観などが合わないことが明らかなものは見に行かないという選択をあえてするようにしていた。そのため、あいみんの舞台を観るのは4月以来で、お話しするのは3月の写真集増刷イベント以来となってしまった。ハルはセリフの量は多くはなく、表情も大きく変えることが許されないので、表現の難しさはあったはず。そんな中でも、バーチカロイドとして、機械的でも人間的でもない、滑らかかつぎこちない動きを崩さず、終盤には核心を突く役割も担って、小さい身体ながら舞台上で存分に存在感を発揮していた。今年も9本の舞台に出演するなど、大活躍の1年。来年もさらに一段上へ、活躍の場と規模を広げていくことになるだろうが、まずは主演舞台を見たいもの。人気、経験、実力、どの面から見ても、その機は熟している。
今年の1月の天使の図書室で舞台デビューした竹内舞さんは、重要な役どころで出演。悪役というには、人間らしく可愛らしい面もふんだんに見られたガートルードだったが、こういう強めかつ華のあるキャラクターを演じられる人というのは実はあまりいないので、貴重な存在。1月の舞台で感じさせた女優としての伸びしろを確かめることができた。
11期生の森川彩香さんを見るのは6年半ぶりか・・・AKB劇場は遠い過去。あーやろいどを自称していた彼女が人間役と聞いたときにはこれ如何にと思ったが、違和感を抑えながら真実を自然に隠して、ラストシーン前の大きな転換に持っていく演技の流れは、卒業後に舞台の経験を重ねてきただけのものが感じられた。
個性的で、それぞれの過去を背負ったアンドロイドたち。印象に残るのはイシスとホタルのコンビ。死に場所を求め続けて自暴自棄にもなりかけるイシスと、助けられた後、彼女に寄り添い、見守るホタル。特に、ホタルがイシスに「死ぬな!」と感情を爆発させて本音を伝える場面は、演じた奈良平さんのセリフへの感情の乗せ方が素晴らしく、ぐっと来るものがあった。
アンドロイドの1号機であるシャンドラを演じた桜田初姫さん、人間的なアンドロイドたちの中で、壊れかけの忙しない動き、そして正常に戻ったときの滔々としたと喋り方とのギャップで存在感を発揮していたが、中学2年生ということを終演後に知って驚いた。将来、大きく羽ばたく可能性を秘めている。
アリスインでは「魔銃ドナー」などに関わってきた細川さんの演出作品を見るのは初めてだった。演劇用語的に何と言うのかは分からないが、ハル、ナツ、アキ、フユの4人の冒険シーンなど、音楽と人間の動きで流れるように表現するシーンが目を引いた。その場面もそうだが、セリフを発している人以外にも目を向けると、それぞれの背景や思惑といったものが感じられることもあって、細かいところまで作りこまれた作品だった。
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