~熱風の果て~

観劇の記録

勇者セイヤンの物語(真)(爆走おとな小学生)@CBGKシブゲキ!!

【脚本・演出】加藤光大

【出演】佐川大樹、大森美優、橋本真一、加藤光大、桝井賢斗、松田裕、花奈澪、片岡沙耶橘花凛、水崎綾、舞川みやこ、柳原聖、星璃、シトミ祐太朗、氏家蓮、いせひなた、柏木しいな、夏目愛海、長橋有沙、樋田優花、西澤翔、斧口智彦、豊田幸樹、福田侑哉、石原美沙紀、小阪崇生、山田裕太
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「46億年ゼミ」、「すてきな三にんぐみ」と、これまで見たおとな小学生の2つの作品には必ずしも満足できたわけではないので、気になる出演者が多い今作は見に行くかどうか、開幕後も迷ったままの状態だったが、せっかく平日に時間が取れたことだしと、当日券でシブゲキに入場。今作は、迷ったままにせずに、見てよかったと思える良作だった。
RPGの中という設定で進む物語の中で、主役となる勇者が抱える孤独と心の闇、倒される宿命を背負った「ラスボス」をはじめとしたモンスター側の想い、人間とモンスターの種別を超えた心の触れ合いなどが濃い密度で描かれ、特に後半は、心を抉られるような場面が次々と現出された。27人の登場人物全員に感情があり、生きる意味があり、守りたいものがある。RPGなので戦闘場面もあるが、基本的にはダイナミックな感情のドラマ。善悪の境界を攪乱し、克服するさまは見事だった。
水崎さんの役名が「街の人2」と聞いたときには、「メトロノウム」でヒロインまで演じた彼女に役名もないような端役をあてがうつもりかと思ってしまったが、街の人にも街の人である理由があり、感情も生きる意味も守るものもある。重要な役どころで、演技の見せ場も多く、見応えがあった。
人間もモンスターたちも個性豊か。特にスラウィムとピッカチュンの弱小モンスターコンビの純粋無垢な魂は痛々しくも美しい。声も見た目も可愛らしく、作品のマスコットキャラ的な役割も担っていた。
あいみんこと夏目愛海さんは、「ジーバニョン」というウサギ型モンスターの役。前作の病弱少女とは打って変わって、よく通るハイトーンボイスを響かせながら、舞台上をぴょんぴょん動き回って戦い、しかも強い。さらにダークサイド面に制服姿と、ひとつの作品の中でもいろいろな表情を見せてくれた。来月の「マチコ先生」ではメインキャストとして男の子役に初挑戦し、再来月には「ルド女」への出演とこの先も舞台の予定が詰まっているので、また違った顔を見せてくれるのが楽しみ。今日はチェキ会が開催されるということだったので、演劇では時々あるチェキ会というものに初めて参加して夏目さんと撮ってきたが、自分が写っているチェキはあまり見たいものではない。
みゆぽんこと大森美優さんの顔を見るのは、最後に行ったチーム4公演以来、2年と少々ぶり。舞台女優としてはまだまだ成長の余地が大きいと感じたが、舞台での立ち姿の貫禄は劇場公演を重ねてきただけのものはある。久しぶりに「ロマンスかくれんぼ」などで馴染みのある声を聞けて嬉しかった。一風変わった役名だが、それがきちんと生かされるというのは、なかなか心憎い展開だった。
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あの夏のうた(路地裏ナキムシ楽団)@キンケロ・シアター

【作・演出】路地裏ナキムシ楽団

【出演】小西良太郎、小島督弘、千年弘高、小森薫、上村剛史、原田里佳子、橋下幸坪、藍沢彩羽、小沢あきこ、押田健史、中島貴月、堀裕子
【歌・演奏】たむらかかし、ハマモトええじゃろ、暮らしべ四畳半、カト・ベック、アンドレ・マサシ、遠藤若大将
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原田里佳子さんが所属する、路地裏ナキムシ楽団の公演を初観劇。演劇と音楽は古今東西を問わず、融合しながら発展してきた歴史があるが、ストーリー性のある楽曲を演奏していたバンド側から、演劇にアプローチしていくというのは、意外と珍しい試み。「フォークと演劇」といえば、及川恒平や小室等を擁した楽団「六文銭」がよく知られている。どのような演劇の場面で使われた曲なのかは分からなくても、「ゲリラの歌」や「街と飛行船」、「私はスパイ」などの楽曲はよく聴いている。ナキムシ楽団でドラムを担当する遠藤さんは、アルバム「Niyago」のジャケットの遠藤賢司に面影が似ていて、親族ではないのかと思ってしまったが、そういうわけではないらしい。今作の楽曲では、蛍をテーマにしたものがいちばん心に残った。
「鍵」を文字通りのキーアイテムとして、戦争末期から21世紀まで、オムニバス的にエピソードが連ねられ、最後には循環する。楽曲やライブタイムを挟みながらなので、それぞれのエピソードは綺麗にまとまってはいるのだが、やや忙しなくもあった。このスタイルには、一つのエピソードを掘り下げる方が向いているのだろうか。
原田さんは戦中パートにはお下げ髪にモンペ姿で登場。素朴でいじらしく、寂しさも背負いながら精いっぱい前向きに生きる少女・・・、年上の男性中心のナキムシ楽団に身を投じた彼女にはぴったりな役柄で、とても自然に演じていた。楽団のアイドルと紹介されていたが、彼女ならどこに行っても可愛がられるだろう。ナキムシ楽団の公演は年1回ペースとのことだが、秋には次の舞台出演が決まっている。演劇人として着実に歩み続けている彼女の活躍は楽しみだ。
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源's egg(LOVE&FAT FACTORY)@下北沢・楽園

【作・演出】ゴブリン串田

【出演】椎名香奈江、斉藤有希、猪股彩佳、松樹侑奈、235、橘あるひ、清水智未、小名木美里、杉山裕紀、新岩正人、木村俊之、藤守祥子、中村ゆうすけ、ゴブリン串田
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男女逆転の「おじゃる系コメディ」と題された今作。
得意気になる様子を「おじゃる」という動詞で表したり、百人一首などから引いてきた古語を、本来の意味に限らずにセリフの中に散りばめて、なおかつそれが何となく意味が通じてしまうのがいとをかし。和歌とロックを融合したり、歌合わせバトルを展開したりと、時代の枠にとらわれない自由な雰囲気が作り上げられていた。
男女逆転は、男性陣が女性に扮する方は、「凄少納言」を筆頭に、艶めかしさと凄まじさが同居する迫力があって成功だったが、主役の椎名さん演じる輝輝は素の女性らしさをかなり残していて、アイドルに男性を演じさせるところでの遠慮が働いていた。結果として、男性陣演じる女性と女性陣演じる男性との対比が弱かった。主演の椎名さんは、歌合わせバトルの実演ではアイドルとしての恥じらいを捨てて全てをさらけ出せる人なので、もう少しビジュアルの面でも冒険があってもよかったのではないかと思った。
家と家ではなく人と人の関係に気づくことで、ディスり合い争うことに終止符を打つ、というストーリーは、現代の様々な場面に照らすことができるメッセージ性があったが、行動の動機付けとか、苦悩とかの掘り下げがもっと描かれてほしいとは思った。
今回は最前に座っていたら、橘さん演じる源頼朝にロックオンされ、扇子で叩かれるという有難い経験ができた。「君が予む物語」で最前の観客が橘さん演じる小学生にスリッパで叩かれるのを見て、哀れんでいたものだが、自分がその役回りを演じることになるとは・・・。源氏・平氏藤原氏が劇中に登場していたので、橘さんの出演で、名門四家がここに揃ったことになる。何とも可愛らしい棟梁ぶりだった。できれば歌合わせバトルの実演も引き受けてほしかったが・・・
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三國志(アフリカ座)@シアターサンモール

【脚本・演出】中山浩

【出演】石原慎一、有田一章、小木宏誌、真京孝行、玉永賢吾、望月海羽、杉山夕、篠宮穰祐、工藤竜太、福津健創、石上卓也、中村友、井上賢吏、平野建、千葉太陽、豊嶋厚佐、細井和也、牧之内宏征、神㘴慶、烏森まど、木部遥可、アベシゲオ、雨宮ひとみ、有坂奈恵、イシズカもんじゃリュウタ、稲村幸助、稲村祐介、岩田真人、梅田祥平、木房明音、白井啓二、杉窪宏哉、鈴木秀朝、仙田祥大、髙岡宏行、田口臣、武田香利、中村優月、奈良宙生、成瀨史也、新熊柾貴、新野邉直人、西岡仁、西薗貴之、ふくち笑也、本多俊太郎、牧野誠智、武蔵響、養老航、吉岡翔悟、川口空汰、宍戸准之助
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中学生の頃には横山三国志、吉川三国志、光栄三国志人形劇三国志とひと通り三国志を楽しみ尽くし、高校入試の面接で尊敬する人物を問われて諸葛亮孔明と答えたほど好きだった三国志の舞台化作品ということで、アフリカ座本公演に初参戦。シアターサンモールには4年ぶりの入場だった。
三国志を舞台化しようとすれば、どこか一つのテーマに絞るのが常道だと思われるが、今作では董卓の暴政から英雄退場までの30年間を2時間半で描くという挑戦的な試み。登場人物たちもとにかく多く、劇中で名前を呼ばれることがなかった武将たちまで、当日パンフレットを見ると細かく設定されていたことが分かる。
これだけのダイジェスト版の中で、呂伯奢殺害から幕を開けて、陳宮曹操との因縁が丁寧に描かれたあたりにはこだわりが感じられた。曹操陳宮曹操関羽・・・たとえ同じ道を歩まず、敵味方となったとしても通じ合う心がある。関羽赤壁で敗れて落ち行く曹操を見逃す場面はストーリーを知っていても胸が熱くなった。小説としてもよくできた伏線だ。関羽が首になってなお曹操を呪い殺す・・・という荒唐無稽な展開ではなくて、曹操が丁重に関羽に別れを告げて葬るシーンが丁寧に描かれたのもよかった。
最初に皇帝の冠をかぶった人物が現れたときには、こんな献帝は嫌だ、こんな劉備は嫌だ、と思ってしまったが、劉禅だったのでひと安心。譲位後の献帝の入水は少々やり過ぎな気はしたが、この舞台オリジナルか。生まれ変わっても帝室には生まれたくない、というのはどこかで聞いたようなと思ったが、劉宋の最後の皇帝で譲位後に殺害された順帝の言葉らしい。この作品では、曹丕の簒奪は父親に認められなかった悔しさからの行動のようにも見えた。
孔明劉禅に歴史を語るというスタイルで、劉備の死まで語りつくして時代が追いつき、五丈原へと出陣していくという綺麗な構成だった。蜀の滅亡まで見通して劉禅に策を授ける孔明恐るべし。石原慎一さん演じる孔明は老獪で泥臭く、創作ではあまり描かれないスタイルだが、鬼神ではなくて人間らしさに溢れていた。こういう孔明像も面白い。
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メトロノウム(ENG)@日暮里d-倉庫

【演出】福地慎太郎【総合演出】佐藤修幸【脚本】宮城陽

【出演】竹内尚文、水崎綾、図師光博、中野裕理、門野翔、内山智絵、星璃、遠藤沙季、宮森セーラ、齋藤伸明、太田達也、松木わかは、澤田圭佑、斉藤有希、CR岡本物語、井上賢嗣、鶴愛佳、谷川華子、福岡みなみ、朝比奈叶羽、結城美優、出井景梧、岡谷未来、こはる、石部雄一、夢麻呂
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荒涼としたメルヘンチックなビジュアルと不思議で複雑そうな世界観に惹かれ、水崎綾さんがヒロインを演じるENGの公演を観劇。2回目の入場となるd-倉庫はどこからでも見やすい、いい劇場だ。
前半は「おもちゃ箱をひっくり返したような」という表現がぴたりと当てはまる、音と光とセリフが高速回転一糸乱れぬ雑然さ。場の転換が暗転ではなくて、出演者が駆けながら舞台裏と総入れ替えしたりするので、スピード感と躍動感が強く感じられた。そのスピード感と明るさの中に静かに入り込んでくる違和感と黒い霧。人間とアンドロイドとフィギュア。完全に通じ合うことはできない、埋めることができない断絶と、その中でも通じ合う心のようなもの、どちらも切ない。メトロノウムの外の世界の整合性には疑問があったり、全体としては殺陣に割く時間が長すぎたような感じは受けたが、人間にとっての真の幸福とは何か、人生の意味、価値といったものまで問いかけてくる、骨太のテーマがあった。メトロノウムは物語の中のように実体化されたような姿だけではなく、現実世界でもありふれたものになってきていて、知らぬ間に取り込まれているのかもしれない・・・。設定や人間関係が観客に隠されたまま演じられる時間が長かったので、2回見るべき作品なのだが、チケットは1公演しか買っていなかったので、公演DVDを予約した。
キャラクターたちの衣装は個性的で華やか。時間を操るウサギコンビのちょこまかした動きやセリフが可愛らしい。メトロノウムの振り子の動きはコミカルではあるのだが、その意味が分かると悲しくもある。4人のハンプティダンプディを一人で演じ分けたCR岡本さんの演じっぷりは見ものだった。
ヒロインを演じた水崎さんの演技を見るのは「冬椿」、「PLAYROOM」に続き3作品目だが、過去に見た作品で演じた役柄とは全く印象が異なる、新たな姿を見ることができた。前半の世間知らずで向こう見ずなお嬢様風から、後半の覚醒の迫力。稽古期間中に夢麻呂さんからド根性ぶりを称賛されただけはある、いい女優さんだ。
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