~熱風の果て~

観劇の記録

劇団14歳 第1限目「教室短編集」(アリー・エンターテイメント)@シアターグリーン BASE THEATER

山に登る

【脚本】坪田文、【演出】佐々木充郭

【出演】城川もね、丸山春香、今井佑希乃、今久保汐音、高橋優里花、金子海音

リボン

【脚本】坪田文、【演出】谷賢一

【出演】真嶋優、山田果琳、田中茉莉香、内山由己、吉田愛美

チェリーボンボン

【脚本】坪田文、【演出】三浦直之

【出演】花上愛美、白石光、秋元伊織、木下留里、諸江雪乃、山本麻鈴

春の日

【脚本】坪田文、【演出】中村暢明

【出演】長江香織、飯田杏実、岡田紗由巳、浅石莉奈、水谷彩咲、冨山紫苑
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シアターグリーンによるアリー・エンターテイメントが送り出す「劇団14歳」の第1回公演。コンセプト的に似ているようにも見える、SMAによる「劇団ハーベスト」がオーディションで未経験者を集めてきたのに対して、14歳は、各事務所からのピックアップ。「14歳」といっても、出演者の年齢は11歳〜16歳まで幅があった。
短編集の脚本担当は、つぼふみさん。隣のBIG TREE THEATERで上演中の演劇でも脚本を担当しているという売れっ子ぶり。BASE THEATERでは、学校の教室を舞台とした4本の短編が、2本単位で上演されていった。
「山に登る」は、遠足を前に、孤高のクラスメイトとの身体と心のぶつかり合いを通して、互いに分かり合うというストーリー。取っ組み合いの喧嘩には迫力があった一方で、繊細な心の揺れも表現されていた。主演は、オスカー所属で13歳の城川さん。喜怒哀楽を演劇的に大げさに演じると、それが逆効果になる場合もあるのだが、彼女の場合は、表現が大げさであればあるほど舞台に力を与えられるタイプ。自然と観客の目を自身に惹きつける才能が感じられる。パンフレットに書いてあった彼女のニックネーム、1つ目の「もねね」はいいとして、2つ目の「モネットジャクソン」というのは才加でもあるまいに一体何なのか、由来が気になる。14歳でベリーベリープロダクション所属の高橋さんは、写真で見るとそうでもないが、舞台に立っている姿はいちばんアイドルっぽさがあった。
「リボン」は、女子中学生の友情と女の子同士の恋愛感情を描く意欲作。ここで終わってくれれば余韻を残して理想的なんだろうけど、蛇足が描かれてしまうのだろうな、と思っていたらそこで終わった。課題が何一つ解決されることなく幕切れを迎えたが、これも青春。誰かが作った歌詞を借りるならば「青春はいつだって もどかしく 残酷」なものだ。東宝芸能所属で14歳の真嶋さんは、芸歴も豊富なようだが、ひと目で覚えられる独特の雰囲気の持ち主であり、存在感が大きかった。
「チェリーボンボン」は、登場人物のキャラクターが分かりやすく、ラストシーンで一人ひとりの役者としての挨拶があったのは他にない試みではあったが、演劇としてはいちばん面白みに欠けた。他の3本とテーマ的には大きな違いはないのだが、キャラクターを強く押し出すということは、それを使った笑いが生み出せると同時に、リアルな心の動きを踏みにじってしまうという罠への落下を避けることも難しくなる。
最後は、クラスメイトの自殺という出来事といかに向き合い、受け止めるかという思いテーマを時間の移り変わりと共に描いた「春の日」。過程を重視する脚本に沿って、十字架を背負って歩くかのような重たい時間が流れ、最後にカタルシスが訪れる。この、重い足を引きずるかのような感覚は、つぼふみさんが脚本を担当した「あなたはだぁれ」でも感じたものだ。元々、今回の公演は、「春の日」に出演した、「ちゅろす」最末期のエースであった「さゆみん」こと岡田紗由巳さんの最近の活動を調べているうちに情報に行き当たったものだった。当時8歳だった彼女も14歳の中学生に成長。幼い子特有の神々しさは薄まってはいたが、面影は残しており、細い声も可愛らしい。出番の少なさには食い足りなさと感じたが、ラストシーンでは感極まって涙が溢れ、それをお下げ髪の一方で拭う仕草がいじらしかった。どうでもいいことながら、2008年に、はじめてはるきゃんを見たときに己が抱いた印象は、「さゆみんに似ている」というものだったことを思い出す。
ダイヤ・スペードチームの前半2本が、青春に付随する荒々しさと不安定さを表現していたのに対し、クラブ・ハートチームの後半2本はやや掘り下げ不足の感が否めなかった。「春の日」は、題材や構成はよかったのだが、客席に演劇を見せるという部分をもう少し意識してほしかった。
ハーベストの千秋楽が全員大泣きで一人ずつの感動の挨拶があり、その感動を分かち合える実質的な全員握手会まであったのと比べると、「14歳」の千秋楽は個別の挨拶もなくあっさりとしたもの。「山に登る」で大量に使わていた都こんぶでも振る舞われないかと少し期待をしてしまった。千秋楽を前にした昨日の「ホームルーム」でその役割は果たしたということか。コストパフォーマンスでも「ハーベスト」に軍配が上がるが、「14歳」も、メンバーをある程度固定化して、成長を見せてくれるようであれば、今後も期待できそうだ。

時空警察ヴェッカーKAI 彷徨のエトランゼ(サラスパイクアカデミー)@六行会ホール

【脚本・演出】畑澤和也、麻草郁

【出演】フォンチー伊藤梨沙子、斎藤亜美、小見川千明畠山智妃百川晴香西条美咲蒼井ちあき高田あゆみ下垣真香志田光、遠藤瑠香、安藤玲奈、斉藤桃子重本未紗、尾島江利子松上祐子青木ゆり亜、宮森セーラ、川元捺未、北山亜莉沙、片岡ミカ、権藤葵、小泉ここ、日野ありす、小花、倉持由香山崎怜奈、荘司里穂、澤村佳奈。、河合有理、高橋里菜、川口莉奈、金田瀬奈、佐藤加奈、森田涼花高嶋香帆井之上史織
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舞台版としては3作品目、KAIシリーズとしては2作品目となるヴェッカーの舞台新作。中国に拠点を移した畑澤監督にとっては、まさに渾身の作品となった。
登場人物は前作を引き継ぐものの、キャストは、アル、トレミー、砂姫を除いて一新。再演はキャストを一新するものと、畑澤監督に言った人がいたらしいのだが、寂しい思いもある。ただし、ヴェッカーだけは別の役者は絶対に使わないという信念があるということで、焦点となったのが、前作でSUPER☆GiRLSの八坂さんが演じ、今作の主役と目されていたアリサの扱い。エイベックス側との出演交渉が行われたかどうかは定かではないが、チケット発売後も主演女優が未定の状態が長く続いた末に発表されたキャストはフォンチーさん。キャスティングとシナリオのどちらが先かということも定かではないが、時空刑事アリサではなく、麻宮亜里沙としての登場となった。
前作の謎の解明が少しは行われるかとも思ったが、前作ありきの完全な続編というわけでもないので、その点での謎解きは一切なかった。しかし、今回の作品もやはり難解。畑澤監督は、「ノエルサンドレ」のときにも難解であることを認めつつ、「ヴェッカーの舞台を選んで見にくるような人には分かるはず」とか、別の舞台を評して「観劇スキルが求められる」などという言葉を使うので、言いにくくはあるのだが、正直言って、今作は1回見ただけではほとんど何が起きたのか分からなかった・・・と、「観劇スキル」のなさを告白してみる。
時空の分岐と統合が複雑になり、そこに「特異点」という概念が持ち込まれたり、キャストの異なるアリサを如何に別にかつ同一に描くかという命題も同時に処理しなければならない中で、「時空パズル」の様相を呈してしまったことは、2時間の舞台作品ということを考えれば、必ずしも望ましかったとは思わない。背景が複雑でありすぎたために、「心」を伝える力が弱くなってしまったことは否めない。
2回目で、時間と空間の位置関係をようやく把握できた。1回目で混乱した理由は、そこがエトランゼなのかハイペリオンラインなのかが分からなかったからであり、舞台背景で時空の違いを表現することが難しいのであれば、せめて「タイムホール」を舞台上に具現化した方がよかった。
それでもやはり謎は残る。時空怪盗オラクルは、時空刑事レピスが作り出したことになっているが、その動機が判然としない。オラクルに指令を出し始めたのは、「遊び」なのか、時空消滅を阻止するという目的が見えてからなのか。オラクルに指令を出したのであれば、なぜ彼女たちをアレストする任務を遂行する必要があるのか。プロメテウスに再会するため、と考えれば心情的には綺麗だが、それでは彼女と戦う理由が見つからなくなってしまう。
もうひとつは、サンジェルマン女学院を創立した8人がエトランゼからやって来た生徒たちであるならば、同じ人物が異なる人物として、ハイペリオンラインの19世紀と20世紀の両方で生を全うするということがあり得てよいのかということ。創作なのでいくらでも自由にあり得てよいのだが、すっきりできない点だ。また、エトランゼでもハイペリオンラインでも8人の肖像画が盗まれそうになるというのは、この物語の帰結と何かしら関係はあるのだろうか。
エトランゼが時空刑事アリサの潜在的な願望により作り出された・・・という設定は、「パラダイスロスト」で斎藤亜美さん演じた小野塚シホが無節操に無数の世界を創作した姿とも重なる。最後の責任の取り方も、結末は違えど意味合いとしては近い。今回、レピス役に斎藤さんが抜擢されたのは、「パラダイスロスト」での出色の演技が監督の目に留まったこともきっかけになったようだ。
今回は、ゲストキャラも3人の別々のキャラクターが日替わりで登場した。己が見たのは、時空刑事アルシオーネと、プロメテウスの2人だが、ゲストキャラによって、舞台の主役も入れ替わる。アルシオーネ編では時空刑事プレアードが、プロメテウス編では時空刑事レピスが主役に躍り出る。
前作の手狭な劇場から飛び出して、今回は広々とした舞台でアクションも思う存分に展開された。「SOUL FLOWER」で女性らしからぬパワフルで重厚な戦闘ぶりが記憶に新しい押田さんの指導によるアクションシーンは迫力十分。運動神経のよい人たちということを考えても、アイドル舞台としては驚きに値する水準だった。
千秋楽恒例のキャスト挨拶は、涙も多く流された。中でも、初舞台で涼子役を演じたの倉持さんの号泣ぶりが客席を温かい雰囲気に包んでいた。こういう過呼吸は美しい。百川さんも本番中に体調を崩して過呼吸になって大変だったらしい。ちゃきさんや斎藤さんはアクションに相当苦労したようで、稽古中の悩みとそれを乗り越えたことを涙声で語っていた。斎藤さんは泣くまいと大きな目を更に見開いて、一生懸命眼球をあおぐ仕草が「パラダイスロスト」のときと全く一緒。今回もまた、その甲斐なく顔をくしゃくしゃにしてしまっていた。
前作と同じくサポートドロイド・アル役を演じたちあきんぐ。今回は素直なサポート役で作品中の豹変がなく、前作ほどのインパクトはなかったが、肩を肉離れするほどの激しいアクションを交えて熱演していた。アクションも長台詞も完璧にこなすワークショップの優等生。まだ中学生でありながらアドリブ担当を任されてしまうあたりには早くも風格が漂ってきている。バズーカ砲に変身という設定は、舞台としてはちょっとどうかと思ってしまったが。
そのアルのバズーカ砲一撃で撃破された敵のボスであるコルネ様は、西条さんによるとコミカル路線でもあったらしいのだが、どうせなら究極に可愛らしいメイクや衣装にしていたが残酷さも生きたような気もする。最後まで生き残り、ベビーフェイスであるオラクルの3人やレピスに慰められてしまうというヒールのボスにあるまじき情けなさが、一種の救いの要素も加えていた。
挨拶の最後には、畑澤監督が登場。ヴェッカーKAIの次回作がありそうだということと、震災の影響をもろに受けて撮影・公開が困難を極めた映画「ヴェッカーDNS」の劇場公開決定のお知らせ。主演の一翼を担った松橋ほなみさんも舞台に上がって宣伝していた。もう一人の主演で、畑澤監督から「天才」とまで賞賛された中塚ともちゃんの演技もお蔵入りを免れてよかった。

つか版・忠臣蔵スカイツリー編(劇団扉座)@すみだパークスタジオ倉

【作】つかこうへい、【脚本・演出】横内謙介

【出演】山本亨、岡森諦、高橋麻理、伴美奈子、犬飼淳治、新原武、有馬自由、上原健太、高木トモユキ、江原由夏、上土井敦、串間保彦、藤本貴行、松原海児、中原三千代、鈴木利典、川西佑佳、松本亮、野田翔太、江花実里、吉田有希、比嘉奈津子、藤田直美、塩屋愛実、砂田桃子、早川佳祐、星達也、高橋直幸、與座和樹
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一昨年のわさみん出演舞台「ドリル魂」で初めてその名を記憶に刻んだ劇団扉座。その後、「アトムへの伝言」を経て、3作品目の観劇。扉座としては、これが第50回の節目の公演ということだった。「世の中には渡辺麻友ちゃんのような子もいるんだぞ!」・・・吉良を、まゆゆにも憎まれるくらいの悪役になれと励ます台詞にドリル魂の欠片を見た。
今回の作品名にその名を冠するつかこうへいと忠臣蔵。横内氏はつかフォロワーとして演劇の世界に踏み込んだということ。個人的には、いずれもネームバリューほどには薄い馴染みしか持っていなかった。
最近まで演劇に親しむということがついぞなかった己にとっては、つかこうへい=蒲田行進曲という文字情報以外頭になかったし、漠然と昔の人というイメージだったので、一昨年、亡くなったというニュースを聞いたときには、韓国籍ということと、同じ時代に生きていた人だったのかということに驚きを抱いた記憶がある。
忠臣蔵にしても、里見版くらいしか見た記憶がないし、単純化された勧善懲悪の権化とでもいうようなマイナスイメージの先入観に固定されて、忠臣蔵を見るということ自体に拒否反応を示すようになってしまっていた。
どの程度、一般に知れている忠臣蔵に忠実なのか分からずに観劇した今日の舞台。忠臣蔵である必然性は感じられなかったが、虚実ないまぜに芝居と現実の境界を何度も踏み越え、荒唐無稽のようで、きちんと人情劇として成り立っていた。何よりも、プロフェッショナルな役者陣と制作陣が作り出す舞台上の熱気には時間を忘れるくらいに引き付けられるものがある。役者陣がカーテンコールでもほとんど笑顔を見せることもなく、劇の世界から抜けきらぬ表情を見せていたのも、それだけ全身全霊を込めて役に向かっていた証だろう。

「シアターの女神」公演@AKB48劇場

【出演】伊豆田莉奈大森美優小林香菜小林茉里奈サイード横田絵玲奈佐々木優佳里佐藤亜美菜鈴木紫帆里鈴木まりや高橋朱里田野優花近野莉菜名取稚菜平田梨奈増田有華森川彩香
今日の「シアターの女神」公演で、入場回数は上半期だけで去年1年間と同じに。去年は、優子出演公演が滅多になくなったことで、応募すること自体少なかった上に、他の現場を覗いたりもしていた。今年は、劇場でその姿を見たいと思わせるわかにゃんと「再会」したことも大きく、劇場に気持ちが回帰してきている。
ロマンスかくれんぼ」は、13期の岡田ちゃん。この間の「RESET」公演で、ももクロにいそうな顔の13期生が気になって、確かこの子だったかとサークルに入れてみたら、おちゃちゃにフランス語に童顔の17歳に落ち着いた読みやすい文章に惹かれ、モバメまで購読をはじめた。公演で気になった13期生は、そんなさっほーではなく、岡田ちゃんだったということに気がついたのは、ようやくここ数日のこと。一人での前座で心細さもあったという岡田ちゃん。その不安が曲の視点と上手く重なった。「RESET」以降、気にかかるようになってきた13期生の面々。まだ全員と遭遇すらしてもいないが、なぜか親近感を覚える「期」になりつつある。
「RESET」公演を機に、距離が急速に近づいたメンバーといえば、10期のまりんちゃん。長い研究生生活にも輝きを曇らせることなく、成長してきている。これまで耳以外ほぼノーマークだったのは不覚だ。公演全体を考える広い視野の持ち主だし、落ち着いた清楚な雰囲気とともに、周囲を照らす明るさも持っている。あひる口の上に、パカリと漫画の笑い顔のように小さく開く口も愛嬌に溢れている彼女の顔を見るのが楽しみになった。地球最後の日MCでは、宇宙飛行士を捕まえて金星に脱出、と話していたまりんちゃん。ところが、この前見たアリスインプロジェクトの劇「ワールズエンドガールズスタート」によると、地球人という生き物は、滅亡の朝に選ばれた人間としてノアの箱舟に乗れることになっても、それを拒否し、皆と同じ運命を選ぶらしいんだ。いざとなれば、まりんちゃんも親しい人やAKBのメンバーを出し抜いてまで乗るようなことはないと思う。
MCは、完全にひらりーが持っていく展開。研究生時代のみおりんが話を振られて最後に全部持っていくタイプだったのに対して、ひらりーは自分から所かまわず乱射。しほりんが「扱い方が分からない」と嘆いていたように、独特のアニメ声を大きく響かせ、他のメンバーのトークも強烈なインパクトで奪って、客席の注目を集めてしまう。いずれ壁に当たるときが来そうで怖さもあるが、この無邪気さを消すことなく、チームとしてのMCに生かしていってほしい。本来は、ひらりーが目立たなくなるくらいに全員がお題に手を挙げて発言するくらいがいい。
もっとも、ひらりーは喋りだけではなく、曲中のパフォーマンスも硬軟を使い分けた表現力で高いレベルにある。止める動きが綺麗なので、身体のこなしにもメリハリがある。「シアターの女神」でのキラキラした笑顔と、「嵐の夜には」の重たい表情。まるで別の人間が演じているみたいだった。もし、MCでの奔放さが矯められたとしても、公演での彼女の魅力は十分残るだろう。
ひらりーにいじられた上に発言機会も失い、あまつさえ納豆みたいな顔色とまで言われてしまった田野ちゃんは、MCでヘソを曲げてしまって、曲中の表情にも引きずってしまっていた。二人ともまだまだ子供だ。ひらりーとどっちがうるさいかと、口げんかのようになってしまったし、この二人の仲は大丈夫だろうかと心配してしまった。すねてマイクの上にへの字にした下唇を乗せた田野ちゃんは可愛らしかったけど。そんな小さなトラブルがあっても、アンコールでメンバーと顔を合わせているうちに、すっかり気分よさそうに、持ち前の弾むようなダンスと晴れやかな笑顔が復活していった。
田野ちゃんのほかに、チーム4からもう一人今日の公演に出演していた朱里ちゃんは、アイドル素質だけでステージに立っているような印象だった。どんな場面でも口を閉じて微笑む表情を崩さず、一定の波長を2時間保ち続けていた。個性というにはちょっと寂しい。
有華の公演を楽しみ尽くす姿勢は今日も健在。思えば、昔はチームKの公演では、遊びがあるのが当たり前だった。それが、研究生システムの導入やチーム制の崩壊に伴って、いつしかそんな余裕はAKBの舞台から消えていった。2年が経ってなお、「シアターの女神」公演が終わる気配すら見えてこずに、兼任人事というカンフル剤に頼らざるを得ないと思われている中で、有華の公演での振舞いというのは、他のメンバーにとってもヒントにならなければいけないだろう。
長いことCDを聴く気すら起きなかった「シアターの女神」公演も、ここに来てようやく馴染んできた。短調の曲を好む己としては、後半の「100メートルコンビニ」から「サヨナラのカナシバリ」にかけての流れがいちばんの気持ちの盛り上げどころだ。曲も振付けも興味深いし、流れの最後に来る「サヨナラのカナシバリ」のリードギターには痺れるような感覚になる。一見、曲と関係ないような脚を蹴り上げるような振り付けも魅力的に映る。「サヨナラのカナシバリ」のような重い曲では、香菜の苦悩の表情が目立つ。彼女の表現力は、笑顔よりも重く苦しい方向に強みを伸ばしていっている。
体調がなかなか整わない状態が続くわかにゃん。ステージに立てば、彼女はいつでも不言実行あるのみ。4つのエクボが出るのは顔が柔らかいからかどうかは分からないが、表情を注意して見ていると、一度表情を変えた後で、小さな変化を加えてくる。瞼の閉じ具合であったり、眉の上げ具合であったり、僅かなところだとは思うのだが、それがあることで表現に深みが加わるだけでなく、微妙なグラデーションを描くことにもつながっている。「夜風の仕業」も歌唱だけでなく、表情にも気を遣っている様子が見てとれ、「泣きながら微笑んで」を見ているときの、瞬きをすることすら惜しいような気持ちに近づいてきた。最前席からでも至近に見てみれば、より一層あの頃の気持ちが蘇ってきそうだが、今年に入ってから劇場で座ることすらないので、実現するのはいつになることやら。
今日も見た目に似合わず運動が得意なことをMCでアピールするわかにゃんは、Google+で二重跳びの動画を載せることを予告していた。縄跳びができるくらいであれば、脚の状態も多少は良いということだとは思うが、よりによってなっつんは料理中のくしゃみで発症したぎっくり腰で休養中ということもあるし、研究生が消耗を強いられるようなところは見たくない。

鬼切姫第一章「志を継ぐ者」(ダブルフォックス)@大和田伝承ホール

【原案】畑澤和也、【脚本・演出】まつだ壱岱

【出演】高木万平北山詩織戸島花、南羽翔平、前内孝文、森大、内田理央加藤沙耶香、笠原竜司、清野菜名、毛利まこ、西山丈也、平田弥里、杉山俊介、田所治彦、須加留、HILOMU、昼田富彦、斗澤康秋、鵜飼主水、森川和真、クシダ杏沙、中村まい、南千紗登、松尾朋法、井上喜洋、山本研二、池田美郷、舘知里、田沼ジョージ、板橋涼太、
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畑澤監督の原案を壱岱さんが演出ということで、ASSHつながりの役者が多く出演したこの舞台。そんな役者たちが主として鬼サイドを固めていた。
元チームAの戸島さんもASSHの「降臨Fight!」に出演した経歴を持つ。彼女のことを見たのは、直近では5周年記念公演、その前は2008年3月なので、面影には4年の月日が確かに感じられたが、美声は当時のままだった。元々「女優」ではなく「役者」を目標としていた彼女がこうして舞台に立つ機会を得られているというのは意味のあることだ。
今年に入ってからでも、「空色ドロップ」「月下のオーケストラ」「グリグリ学園」と、3つの主演作品でその演技を見てきた内田理央さんは、もはや戸島さんよりも馴染みの顔。7月のFlying Tripの次回作はフォンさん主演で、ついに内田さんは出演しないようだ。フォンさんは、今月の畑澤監督のヴェッカー舞台でも主演するようだし、こちらもハイペースで主演作品を積み重ねている。おっとりした内田さんに剣士が務まるのかとも思ったが、彼女の必殺技は癒し剣で、相手の善の心を呼び覚ますというもの。キャラクター的にはおっとりというよりもぶりっ子の要素も強かったが、ツインテール姿でぶりっ子キャラを演じる姿は見慣れていないので余計に可愛らしく見えた。
畑澤・まつだコンビは、善と悪を単純な二項対立にとどめるようなことはしない。ましてや、イケメンパラダイスでお茶を濁すようなこともしない。鬼と人間との関係と、一人ひとりの人間や鬼の中にある善と悪を描くことにより相対化する。同時に、戦って敵を斬ることの哀しみや空しさが、激しく繰り広げられる殺陣の中に表現されていく。単純に殺陣でスカっとするような舞台ではない。
ラストも、戦い済んでハッピーエンドでは終わらず、憎しみが憎しみを生み出し、主役が永遠の眠りにつき、新たな章の幕開けを告げる。続編を意識したようなラストになっていたが、憎しみの連鎖が断ち切られるまで、いくつの章が重ねられるのだろうか。
侑姫役の清野菜名さん、車椅子の病弱少女と思いきや、覚醒するや立ち上がり、アクロバティックなアクションで戸島さんを殺しにかかっていったので、本業は殺陣師かアクション女優なんだろうと思ったら、何と17歳のモデルさん。続編があるとすれば一方の主役を占めることになると思われる彼女のアクションはまた見てみたい。
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