~熱風の果て~

観劇の記録

時空警察シグレイダー(MAGES.)@ラゾーナ川崎プラザソル

【作・演出】吉久直志【原作・脚本】畑澤和也

【出演】岩田華怜、高橋紗妃、カオリ、仲谷明香、ユカフィン、花原あんり、宇咲美まどか、橘莉衣、羽村英、志田良太、天月ミク、沖田幸平、辻畑利紀、カナ、モモコ、田畑寧々、渡辺菜友、桜井理衣、由楠、岡田千優季、越智かりん、春名珠妃、内田琴音、今井あき、政野谷遊太、杉浦勇一、赤松英信、浦濱里奈、山岸みか、五十嵐愛
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これまで、時空の分断や統合、特異点や時空同位体といった設定や用語の高い壁に、見るたびごとに跳ね返され、打ちのめされてきたヴェッカーの舞台シリーズ。見に行くか迷った末に行かず、後にDVDを購入して見ることになった2011年上演の「ヴェッカーサイト」から、花原あんりさん演じる時空刑事セレネなどが再登場するということへの期待や、麻草氏の脚本でなければ或いは流れを理解できる望みもあるかもしれないという思いもあって、今作のチケットを購入した。
今回は、アリスイン系ではなく、畑澤監督が社員として加入した、志倉千代丸氏率いるMAGES.が主催で、その傘下のアイドルや元アイドル、声優などが多くキャスティングされていた。オープニングの現代編での女子高生4人組の掛け合いの演技は初々しく、以前のアリスインの舞台もこんな感じだったと、妙な懐かしさも覚えた。
設定年代としては、これまでのヴェッカーシリーズの舞台よりも後らしく、用語や出来事が台詞の中で語られていた。さらに、「ノエルサンドレ」の主役である、時空刑事アリサとリンのコンビも登場。キャストは変わったが、二人の性格や言葉遣いが懐かしい。劇中ではあれから数年が経過しているらしく、リンも向こう見ずなところを残しつつも、成長をアピールしていた。
人間らしさとは何か、正しさとは何かということを問いかける、ヴェッカーシリーズを特徴づける骨の太さは今作でも遺憾なく発揮され、登場人物たち、そして観客に容赦なく揺らぎを与えてくる。悪役として設定されたドロイド軍団の「黒の騎士団」にしても、彼らの信じる正義に向かって、ただ一直線に進んでいき、人間とぶつかる。揺らぎの波が激しくぶつかるところに、バイオロイドであるクオンや、一度は自ら闇に堕ちる決断をするトワがいる。彼らに限らず、登場人物たちの葛藤や感情は、熱いほど伝わってきた。人間とAIとの関係というテーマも、ヴェッカーの世界では古くから語られてきたこと。そのテーマがホットになった今だからこそ、改めて考えさせられるものがあった。
カオリさんは、体当たりそのものの演技で、演じることの悩みも含めて、全てをキャラクターにストレートにぶつけた結果として、等身大の人間らしいトワ像が出来上がっていた。スケールの大きな才能に演技が追いついていくのはまだ先になるかもしれないが、今だからこそ見られる、気持ちのいい熱演だった。
過去、劇場公演でただ1度見ただけだった主演の岩田華怜さん。19歳ながら、座長かくあるべしといった風の、華のある堂々とした演じぶりだった。AKBからの卒業後、主演も含めて数々の舞台に立ち続けることができているのも頷ける。
戦闘シーンは、男性陣の奮闘や稽古の成果もあって、なかなかの迫力。パフォーマーの声と動きで、映像の代わりに舞台上で起こっている効果を伝える吉久さんの演出手法がふんだんに使われていた。さらに、女性キャストを人力で持ち上げて、瞬間移動やアクロバティックな攻撃を舞台で実現するという、舞台の限界に挑戦するような、斬新な演出も見られた。
苦戦の連続だけでなく、圧倒的な実力差に敵せず、女の子たちが虐殺されるようなシーンが演じられるのは、舞台上とはいえ辛いものがある。悪役も含めて、きちんと救いの要素も残してくれるのもヴェッカーらしさではあるのだけれども。ハルカとクオンの二人が、しっかりと生き切るという儚さを残すラストシーンも、単純に転生をするというよりも深みが感じられた。ジェネシス・コアが破壊され、時空警察も舞台上からはその姿を一旦は消してしまったが、歴史は繰り返すのか、違う歴史が築かれるのか。畑澤監督からは、騎士団を中心に描く作品の構想も語られたが、いずれにしてもヴェッカーシリーズが何かの形で続くことは間違いなさそうだ。
終演後は特撮舞台を語るというトークショー。吉久さんのSFと特撮の違いの解説には納得で、特撮ではみんなの思いが集まって伝説のヴェッカーが生み出されるようなことが起きてしまうという言葉に、無理に理屈で理解しようとする必要なないんだと、特撮演劇へのハードルが少し下がった気がした。
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