~熱風の果て~

観劇の記録

ホームスイートホーム(BOBJACK THEATER)@大塚萬劇場

【演出】扇田賢、【脚本】守山カオリ

【出演】船岡咲、丸山正吾、古野あきほ、民本しょうこ、松田実里、蜂巣和紀、蓮井佑麻、秋葉友佑、長橋有沙、小林加奈、大谷誠、渡壁りさ、寺田真珠、澤田洋栄、宮井洋治、片岡由帆、小島ことり、緒方有里沙
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ボブジャックの本公演を、昨年末に続いて観劇。今年は、大晦日の17時公演が千秋楽というなかなか凄いスケジュールが組まれていた。さすがに31日は・・・と、30日の夜公演を前売りで買って見に行くことにしたが、結果的には31日も見に行こうと思えば意外と行けたわけか。それにしても今年観た作品の数を数えてみたら56作品と、ほぼ週1作品のペースで観劇していたことに驚く。
少し不思議な要素をスパイスとして加えた人情劇を温かく仕立て上げる守山カオリさんの作品の紡ぎ方は、本作品でも本領が発揮された。その、不思議要素を背負うのが、古野あきほさん演じる、その名も「リボンちゃん」。舞台となる端毬駅にかつて存在した伝説である、願い事を書いたリボンを結べば叶うという、その願いが幾重にも折り重ねられる中で生まれた妖精のような存在。うっかりと思惑が交差して一日駅長として呼ばれることになった、船岡咲さん演じる無名アイドル・リコと中身が入れ替わるという展開は、二人の演じぶりを見ているだけでも楽しめる。船岡さんの演技はこれまでいくつもの作品で観てきているので、実体を失ったリコの心の叫びをコミカルに演じる古野さんが、リコという役にとどまらず、船岡さんの演技の特徴まで上手くつかんでいることがよく分かった。
劇団員の宮井さんが演じたアイドルヲタクの教師は、見た目だけでも強烈で、そのキャラづくりは更に激しい。「利己主義」と背中に大きく書かれた自作Tシャツを着て飛び跳ねる姿には思わず笑ってしまった。アイドルヲタクのお坊ちゃんを演じた劇団員の小島ことりさんは初見だったが、顔の大きさだけでも存在感があるところに、こちらもキャラづくりが強烈で、ボブジャックの底力を感じた。
今年に入って、民本さん、蜂巣さんという個性を確立している役者さんをさらに立て続けに補強したボブジャック。これだけの個性を劇中でまとめ切れるのかという不安もあったが、しっかりした演技力があった上での個性なので、そこは取り越し苦労。「たみっちょまる」による前説や、日替わりゲストコーナー、終演後のトークショーなどでは相変わらずの取り散らかしぶりの民本さんだったが、そういう姿を知った上でシリアスなシーンを見せられると、一層心に迫ってくるものがある。「たみっちょまる」は、船岡さんもなかなかのボケっぷりで、丸山さんの仕切りはかなり大変そうだった。
丸山さんは、良かれと思っての行動が裏目に出ることに落ち込みながらも、最後まで優しさと信念を持ち続ける駅長さん。口に出すことなく、リボンちゃんの存在をそっと受け入れたことが分かる演技が印象的だった。フライヤーのビジュアルでは、7・3分けのヘアスタイルで、誰なのか最初は分からなかったが、そのビジュアルはボツになった模様。
蜂巣さんは、当日パンフレットのビジュアルはマタギのようだったが、実際は饅頭屋の主人。実年齢を大きく上回る、人情味あふれる役を違和感なく演じられる守備範囲の広さには感服。娘役の松田さんと実年齢はほとんど変わらないというから余計にすごい。松田さんが歌う「見上げてごらん夜の星よ」が諸所で効果的に使われていて、素朴で澄んだ歌声が、この作品の温かさを引き立てていた。こういう、誰もが知っていて、誰の心にも響くような歌謡曲が世に出ることは、この先も当分はないのかな。
一方で難しさを感じたのは、若手俳優中心で現代の過疎地を舞台とした作品を作り上げることのリアリティ。路線は維持されて駅だけが廃止になるようなシチュエーションを考えるとすれば、饅頭屋も地域では若手の部類だろうし、6時間も電車が来ない駅に社員の駅長が最後まで常駐しているということも実際には考えにくい。新幹線が津々浦々に延び、リッチさを売りにしたリゾート列車が走る裏で急激に失われていく地方での鉄道の役割や、創作の世界を超えるスピードで進む地方の縮小といったことも少し考えさせられた。
絡まったリボンのように、何組かの登場人物たちのもどかしい人間模様が描かれる。劇中の12月31日にはそれらが全て解決されるということが分かっている予定調和の中なので、逆に描き方が難しいところもある。渡壁さんや船岡さんが感情を爆発させる場面はあったが、ビンタ一発で全てを収めるようなありがちな乱暴さではなくて、あくまでも気づきのきっかけとしての爆発だったので、その後の展開も自然に受け入れられた。船岡さんがこれほど「爆発」する演技は初めて見たので、その迫力に背中が震えるのを感じた。
昨年に続いての出演となった寺田さんは、アフタートークでは相変わらずのキャラクターを発揮していたが、そんな彼女がどうしてこれほど繊細な心の揺れを演じることができるのだろうかと、改めて不思議な魅力に引き込まれる。演じた櫻井結のように、彼女も哀し気に思い悩むような表情を見せる時があるのだろうか。素直さを映す純粋な瞳を見れば、その秘密の一端は窺えるが、それだけでは寺田真珠は語れない気がする。妹思いの優しいお兄さんを演じていた澤田さんは、どこかでお見かけしたことは間違いないと思いながら見ていたが、帰って調べたら「セイヤン」の街の人と分かって、そのときの姿もはっきりと思い出せた。ちなみに、タクシーで25万円というのはどのあたりの設定なのか気になって調べてみたら、東京から青森までは行けるらしい。
スーパーアイドル・リリコ役で登場して、嵐のように登場人物たちを巻き込み、ひっかき回して退場していった日替わりゲストの緒方さんが、カーテンコールでは眼を赤くして感激に浸っている。その姿に、ボブジャックの演劇の魅力が凝縮されているように感じた。
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