~熱風の果て~

観劇の記録

北欧神話の世界(カプセル兵団)@ワーサルシアター

【作・演出】吉久直志

【出演】津久井教生、冨田真、伊藤栄次小見川千明、北出浩二、長谷川てるや、長澤菜教、北原知奈、井畑絵梨香
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ベニバラ兎団「優しい電子回路」で美声を響かせていた北原知奈さんが出演、ヴェッカーシリーズなどの演出を手掛けたカプセル兵団の吉久直志さんが演出ということで、見に行くことを即決したこの朗読劇。しかし、普段アニメは全くと言っていいほど見ないので、声優として馴染みのある出演者は一人だけ。その津久井教生さんが出演する土曜日を選んで観劇することにした。津久井さんも、アニメではなくて、橋本潮さんと組んで出演していた「うたってあそぼ」や「ともだちいっぱい」のヒョロリや、菊地美香さんと組んで出演していた「ワールド放送局」のニャンちゅう役としての馴染みで、一時、菊地美香さんの歌声を追いかけていたときに「ワールド放送局」のCDを買っていて、「まんじゅうなお月様」などで歌声にも触れていた。
アクティブイマジネーション朗読劇の第一弾として演じられたという日本神話や、メジャーなギリシア神話に比べると知識としては薄く、KOEIの「爆笑北欧神話」やギリシア神話の本の付録で知っているくらいとなる北欧神話
フライヤーに書いてあるとおり、アニメやゲーム、音楽などでよく使われて、聞いたことがある言葉が多いのは、ノルド語の響きが持つ、勇壮であり、どこか神秘的な印象によるところも大きいのではないだろうか。
神話というのは、元から体系的であったものではなく、様々な事実や伝承が組み合わさって出来上がるのが普通なので、どうしても一本のストーリーというよりは、一話完結の話が多くなる。それを2時間の朗読劇にまとめるというのは、なかなか大変な作業。今作は、世界の始まりから黄昏と復活までがダイジェスト的に演じられた。登場人物も多いので、自然と一人で何役もこなすことが求められる。さらに、リンゴが奪われれば老化はするわ、人間ではあり得ない動きや苦痛を受けるわで、同じ人物とは思えないような演じ分けも必要で、そこは声優の腕の見せ所。さすがは消長が激しいとも聞く声優界で居場所を築き上げてきた皆さん。アクティブに、アドリブを入れたり無茶ぶりをしたりしながら、真剣に楽しそうに演じていた。声でガヤや効果音を入れるところなんかも声優の技術を間近に感じられた。
全編を通すと、冨田真さん演じたロキの個性が印象的。仲間なのか敵なのか曖昧な立ち位置で、欲望には忠実で、周囲に災いをもたらす場当たり的な行動を重ね・・・ねずみ男のような役回りと感じた。事実、ねずみ男トリックスター⇒ロキと、Wikiのリンクを辿ることができる。スサノオとも違うし、日本やギリシアの神話には彼に該当するような神は見当たらない。破滅を導く張本人でもあり、彼がいれば勝手にストーリーが動くという、何とも不思議な魅力に溢れた神だ。冨田さんの演技は声だけでなく表情も魅力的で、ロキが登場するのが楽しみに感じられた。長澤さんを笑わせるための渾身のネタもお見事。
主神・オーディンを演じた津久井さんは五十肩に悩まされているとはいえ、56歳にはとても見えない若々しさ。20年くらい前に買った「声優事典」の頃とほとんど顔が変わっていないように見える。演技も若々しく、周囲にまで若々しさを強制。途中には、ニャンちゅうのTシャツに着替えて声もそれらしく演じるシーンもあって満足。私物のポーチもニャンちゅう柄なのか。
フレイヤ役を演じた北原知奈さんの声は、単なる可愛らしさだけではなく、身体の奥から出てくる気品のようなものが乗っかっているので、より印象的になる。彼女の声をもってすれば、舞台を含めて、息の長い活動ができそう。津久井さんにも容赦なく楽しそうに突っ込みを入れられるあたり、彼女の気おくれのなさと共に、この座組の雰囲気の良さも感じられた。
第3弾があるとすればギリシア神話と来るのが王道だが、オリジナル脚本でもよいので、オムニバスではなく、このスタイルでひとつのストーリーをじっくりと演じるところも見てみたいと思った。また、飲食自由の演劇というのも面白いが、ワーサルシアターではあまり自由に飲食ができる雰囲気ではなかったので、会場を含めてもうひと工夫あってもよいかなと思った。
爆笑北欧神話 (歴史人物笑史)

爆笑北欧神話 (歴史人物笑史)

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