~熱風の果て~

観劇の記録

名探偵はじめました!!2017(アリスインプロジェクト)@シアターブラッツ

【演出】舞生ゆう 【脚本】麻草郁

【出演】長谷川愛里、山川ひろみ、大塚愛菜、橘さり、夏目愛海、水月桃子、渡辺菜友、青柳伽奈、梶谷桃子、清水凛、民本しょうこ、花梨、佐藤ゆうき、栗野春香、岩崎千明、本山久恵、池澤汐音、蒼みこ、秋元なつこ、鳥井響、鈴野まみ、武田真歩、中村伶奈、梅原サエリ、手塚朱莉、山中愛莉彩、結城アイ
f:id:JoanUBARA:20170507233035j:plain
2013年に上演された演題の再演となる本舞台。初演は、「ヴェッカー1983」で自分の観劇スキルの低さに絶望するなどして、3年半ほどアリスインプロジェクトの演劇から離れていた時期だったため、今回が初見となった。とはいえ、この間に麻草作品との正しい付き合い方を身に付けることができた自信もないので、化学部員がSF要素を持ち込んでくるようだと厳しくなるかも・・・などと不安半分で幕開けを待っていた。
前半は、笑いの要素も盛り込みながら、2つの「事件」を解決する過程が描かれる。ほっこりとしつつ、それでいったん物語が収束したように見えたので、果たして残った時間でのクライマックスへの持って行き方をどうするのだろうと思っていたら、終盤は物語が一気に急展開。時空要素も絡んできてスケールも俄然大きくなった。こうなると今度は、それをどう収拾するのかと思っていたら、前半の「事件」の解決の過程を鍵にして、きちんと納まるべきところに納まった。
残された謎が2つ。なぜ、選ばれたのが生徒会長で、なぜ、あのタイミングで見えるようになって会話が可能となったのかということ。もう一つは、第3の1年生である辰野恵の正体と目的。昼夜観劇したので、夜は何かしらの手掛かりが得られないか注意して見ていたつもりだったが、はっきりとしたところは分からなかった。辰野恵は観察者としての振る舞いと、1年生としての振る舞いを割と自由に行き来していたように見え、また、こことは異なる時空の存在を知った上で、何かを守ろうとしているのは間違いはないのだが、その辺りの推理は、観客の名探偵ぶりに任されることになる。辰野恵役の二人は、おそらく設定を知った上での演技で、ヒントを残していったとは思うのだが、簡単には解決できそうにない。演じ方としては、鳥井さんが観察者寄り、秋元さんは1年生寄りだった。
見ていて面白かったのが、テストの場面や校舎の探索の場面を踊りで表現していたところ。特に、学力テストをあれほどアクティブに表現するというのは、普通では考えられないが、コミカルに頭の中の様子まで表現されていた。シアターブラッツは、客席の環境は恵まれてはいないのだが、舞台は奥行きを豊かに取れるので、こういうダイナミックな表現が可能になる。
キャスティングは、初舞台となる主演の長谷川さんの周りを、水月桃子さん、渡辺菜友さん、青柳伽奈さんなど、アリスインなどでの演技経験が豊富な女優陣が固めていて、安心して見ていられた。声も本当によく通って聞こえたし、キャラクターの個性をしっかりと確立させた上でのアドリブや遊びも見られ、アリスインがここまで積み上げてきたものの確かさが感じられる舞台だった。
山川ひろみさんは、初演ではまぁこさんが演じていたという湖春役で出演。気弱で流されがちなところもありつつ、まっすぐな心を持つ湖春は、山川さんとも重なるところがある役。長谷川さんとの10年近い年の差を感じさせない、珠理との名コンビぶりだった。持ち前の大きな目や下がり眉も、繊細な気持ちを細かく表現できる彼女の大きな武器。大声で気持ちを爆発させてしまう場面には、こんなに声が出るのかと驚かされた。終演後は、「クロパラ」で初めて演技に触れて6年にして、初めて山川さんとお話しをしてきた。舞台とアイドルイベントは違うものとして捉えたいという思いもあって、イベントには積極的には参加してこなかったが、今回は、チケットを買った段階で参加することを決めていた。来月は、ラビネストに続く新劇場のこけら落としとなる「狼魔冥遊奇譚」でまた彼女が演じる姿を見られる予定だ。
本作には、昨秋来気になっている女優さんである、夏目愛海さんもシングルキャストで出演。彼女の演技を見るのは3作品目となった。のんびりとしていて猫のような珠子は、彼女の雰囲気にぴったり。寝ているだけのように見えて寝るための労を惜しまず、要所では膠着した事態を好転へと導く切れ者でもある珠子を、高い声をいちだんと高くして、幸せオーラたっぷりに演じていた。終演後は夏目さんともお話し。今年はこの先も舞台の予定が既に目白押しという彼女の女優としてのいろいろな面が見られると思うと楽しみ。山川さんも夏目さんも、底知れない透明感、ピュアさを持ちながら、演じることに対しては強い向上心を持っていてとても貪欲ということを感じた。心洗われるとともに、いい演技ができるわけだと納得できた。
ボブジャックシアターに正式に所属となった民本さんは、10数年若返って現役高校生役。制服を着れば出オチ感もなく、自然と馴染んでしまっていた。表情や声、全身をフルに使って怖がったりうろたえたりして見せて確実に笑いがとれるだけでもすごいが、花梨さん演じる望の望みを伝える場面や、会長として締めるところなど、メリハリのついたさすがの演じっぷりだった。花梨さんは、「踊りが丘学園」と違ってセリフではなく表情だけで演技をする場面が大半という難しい役をこなしていた。独特の声も、望の謎めいた存在とよくマッチしていた。登場によって場に緊張感を運んでくる風紀委員の山吹三姉妹は、「踊りが丘学園」の科学部と近い立ち位置か。3人の個性的なキャラクターは憎いようで憎めなかった。
夜の月組公演では、辰野恵の謎を解くため、自然と鳥井さんに注目する時間が長くなった。彼女が出てきた瞬間、何かの作品で観たことがあるのは間違いないような気がしていたが、調べてみたら初見。既視感があったのは、彼女の容貌が、野呂佳代さんと似ていたからだろうか・・・。謎めいたキャラクターの謎をより一層深めた彼女の微笑は強い印象を残した。
見る前に心配していた、ストーリーの難解さは、部分的には現実になったが、ストーリーの核心までは、ぎりぎり浸食してこなかったので、何とか助かった。帰りには、劇中の小道具に触発され、コンビニでカレーうどんを買ってから帰宅。
【⇒これまでの観劇作品一覧