~熱風の果て~

観劇の記録

アルゴリズム、虎よ!(project DREAMER)@戸野廣浩司記念劇場

【作・演出】井上テテ

【出演】藤江れいな、竹林林重郎、みやなおこ、屋良学、ゆかわたかし
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20年ぶりという足元の積雪と乱れ舞う風雪に身を屈めながら、その20年前に産声をあげたれいにゃんの初主演舞台の観劇のために、西日暮里にある100席規模の小劇場へ。幸い電車が止まることはなく、どうにか転倒もせずに帰ってこれた。荒天の中、千秋楽はほぼ全席埋まり、当日立ち見も出る盛況だった。
2010年9月の初舞台「浅草あちゃらか」で末っ子の雛子役を演じた姿を見たときには、なかなかどうして堂々とした演技ぶりで、次のチャンスが来る日は遠くないだろうと思ったし、れいにゃん自身も、舞台「ロカボク」を観劇して「浅草あちゃらかぶりにやりたいな!(b^ー°)」と、舞台への思いも強くしていたが、意外にも2回目の舞台出演までに、3年5か月の時が流れてしまった。
この前れいにゃんの顔を見たのは、前回が2012年5月の、事務所の同僚である相楽さんが出演していた「ロカボク」のトークショーのゲストとして来ていたとき。その前が2011年10月の、彼女が縁切り様役で出演した映画「縁切り村」の舞台挨拶のとき。さらにその前まで遡って、ようやくK6「RESET」公演となる。
「縁切り村」では村人に虐げられた怨みで縁切り様になってしまい、今作では幼い頃に催眠術によって「人虎」になってしまったれいにゃん。彼女の容貌に、人外を演じさせてみたくなるような要素があるということだろうか。普段から表情は豊かなので、演技でも、役の感情の起伏の激しさを表情に出し、トランスモードや人喰いモードでも、時にコミカルに、時に激しく演じていた。
公演で見たのは17歳のときが最後なので、20歳になったということが実感として湧いていなかったのだが、最初にエプロン姿で登場したときは大人っぽく見えて、なるほどこれならお酒を飲んでも許せるかなと思えた。その後の妖精モードでは、衣装が「心の端のソファー」に似ているということもあってか、己の知っているれいにゃんのイメージに戻った。このあたりの微妙なバランスも、少女から大人へと変わっていく時期の繊細さを間近に見たような思いだった。
ホラーやミステリーの要素も交えたストーリーがコミカルな台詞とともに展開されていき、テンポ良く進んでいく。上演時間が1時間20分ほどなので、もう1回くらいどんでん返しがあってもよかったかもしれないが、設定を含めて完成度が高かった。ラストを完全な悲劇にしたらどうなっていただろうかとか、最後のアルゴリズムを「おわり」ではなく「とらよ」にして催眠術ではなく本当に虎として覚醒したらどうなるだろうかとか、脚本家の意図をそっちのけに、想像を膨らませることができる設定に思いを巡らせている。
安定した人気を維持しつつもAKBでは傍流にあるイメージのれいにゃんだが、これまでに経験してきた仕事や、これから先のことを考えても、AKBの栄枯盛衰の波を直接受けない独自の位置を占めていることは長い目で見ればプラス。今回の作品のように、百戦錬磨の少数の役者陣と渡り合うという経験をしたり、映画の演技の経験を重ねているのも大きい。事務所や周囲の大人たち、ファンから大事にされて、最近では頼りになる先輩としてゆいりーからの尊敬も受ける彼女のこれからが楽しみだ。
《あらすじ》両親が経営する群馬の山奥の喫茶店に、かつての同級生であるお笑い芸人の霞ヶ浦(ゆかわ)、催眠術師の諏訪(屋良)、教育実習の教師だった猪苗代(みや)の3人を同窓会という名目で呼び寄せた大地(竹林)。大地は、かつて3人に恥ずかしい動画を撮影されて公開されたことが元で引きこもりとなり、東京にもいられなくなってしまったのだった。今日はその復讐の日。大地は動画サイトに生中継を始める。そして、3人にストリキニーネの入った水を飲ませた上で、解毒剤を賭けたゲームを提案するのだった。3つの暗号をアルゴリズム表をヒントに解く。それが条件。第1の暗号は、大地がかつて辱めを受けたのと同じように「裸になれ」。しかし、大地の妹の由江(藤江)が、霞ヶ浦のギャグを見たいがために、大地の知らないうちにアルゴリズムの配列を変えてしまっていたため、第1の暗号は難なくクリアされた。第2の暗号は「おけつはなび」のはずだったが、アルゴリズム表が変わったために意味不明の言葉に。妖精に扮した由江がこれは妖精語だと誤魔化して、「ミス生け贄コンテスト」のグランプリになるための買収資金の獲得のために「500万円払え」という意味にしてしまうが、成金の諏訪が手持ちの500万円を即座に由江に支払い、第2の暗号もクリア。第3の暗号も意味不明の言葉になったが、由江が大地の真意を汲んで、妖精語で「あやまれ」という意味だと、3人に過去の苛めを大地に謝罪するように迫る。霞ヶ浦らが渋るうちに時は午後9時3分。大地が不敵な笑いとともに、真意を開陳する。満月の夜のこの時刻になると虎に変身して人を襲う由江に3人を喰い殺させて復讐すると同時に、3人の体内のストリキニーネによって、一家が東京にいられなくなった真の原因である妹の由江をも葬ろうというのだった。暗闇の中、由江の刃に弄ばれながら、ストリキニーネによる痙攣も始まった猪苗代らは絶体絶命となる。そのとき、諏訪が、かつて由江に「お前は虎だ」と催眠術をかけたことを思い出す。霞ヶ浦がギャグで由江をトランス状態にし、諏訪が催眠術をかけて由江は正気を取り戻す。過去のあやまちや自分の浅ましい考えを反省した5人は、散らかった店を片付けるのだった。