~熱風の果て~

観劇の記録

ウィズ〜オズの魔法使い〜@KAAT神奈川芸術劇場

【脚本】W・F・ブラウン、【演出】宮本亜門

【出演】増田有華、ISSA、良知真次エハラマサヒロ陣内孝則森公美子小柳ゆき、ジョンテ・モーニング、瀬戸カトリーヌ、吉田メタル
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AKBメンバーによるオーディションで主役が選ばれたというこの舞台。有華にとっては、昨年の「中野ブロンディーズ」に続くミュージカル主演となったが、彼女のキャリアにとって、今回の主演はより大きな、根源的な光を当てることになるということは開演前から想像できた。
闖入者を奇貨として、ドロシー一行の願いを担保に取って、安全なところに寝そべりながら、自らの危険を顧みてはなそうとしない行動をさせる・・・。考えてみれば酷い話だが、原作を読んだことがあるわけではなく、そのあたりのディテイルは、これまでに己が親しんできた断片的な「オズ」では語られていなかったところなので、このミュージカルのオリジナルかとも思ったが、原作もそういうお話だったらしい。
誰にも馴染みのあるストーリーを、いかに芸術作品としてつくり上げるかといったときに、今作で大きな力となったのが、役者陣の実力と、映像を大胆に使った演出。中でも、アンサンブルの一糸乱れぬダンスの迫力が圧巻だった。メインキャストの面々は、ミュージカルを本職とはしない面々ではあったが、ダンスや顔芸など、それぞれの強みを生かしつつ、歌唱面でも安定感があった。「プロの舞台」というものを改めて意識させられた。
映像面では、陣内氏の顔の映像や、森さんの虫唾棄、ガーゴイルとの映像と生身の人間を融合してのアクションシーンなど、迫力が感じられた。
カーテンコールは華やかに盛り上がった。出演者が客席まで下りてきて歌い踊る姿を間近に見ると、理屈を超えたところで、脳内に何らかの物質が作用してくるような気がして、いつの間にかテンションが上がっている・・・。結果、満足度も高まるわけだから、一度幕が閉じてからも、作品は続いていると言える。これも、プロフェッショナルだからこそできる芸当だろう。
AKBの枠内ではその多才な実力は知られていた有華にとって、この舞台は外の世界に大きくはばたく千載一遇のチャンス。デビュー以来最も絞れた身体にも、意識の高さが表れている。歌を演じるという点でも、「中野」のときよりも格段の進歩が見て取れた。台詞と歌唱の微妙なバランス感覚を危うさを感じさせることなく演じていた。AKBだからという色眼鏡で見られることがあったとしても、彼女であれば緑色の眼鏡を外させ、真実を見させるだけの実力を証明することは不可能ではない。そのためにも、これがスタートラインとなるように、継続して成長の機会を持てる舞台をつかんでほしい。