~熱風の果て~

観劇の記録

ロッカールームに眠る僕の知らない戦争(オフィスインベーダー)@大和田伝承ホール

【脚本・演出】なるせゆうせい

【出演】畑中智行、横山ルリカ相楽樹、三上俊、谷口賢志野口かおる、大山雄史、鮎川桃果畠山智妃、森渡、杉本泰郷、服部ひろとし、関野翔太、白水萌生、辻本優人、三本美里、諸星あずな、山田英真、馬場菜摘、保氣口一騎
f:id:JoanUBARA:20170401203510j:plain
安保闘争を背景とした若手による舞台。当然生まれる前ながら、その時代に対し、無知から来る淡いノスタルジアにも似た感情を抱く己にとっては、期待の大きい作品だった。
時代は60年安保。破防法闘争世代と60年安保世代の並行する轍とその間に横たわる断絶、そして繰り返される挫折と過ちを描いた、大島渚監督の「日本の夜と霧」でいえば、津川雅彦桑野みゆきらの世代に当たる。「日本の夜と霧」でも間接的に描かれていた、60年安保を象徴する出来事といえば、国会前での衝突と東大の女子学生の死。この舞台では、鮎川さん演じる樺美智子が主要人物のひとりとして登場した。もちろん、歴史上の人物としてではなく、劇中の人物として登場するので、人間像や性格は舞台の登場人物としての側面が強かったと思われるが、その時代を生き、そして歴史のとおりに散った。彼女のことは、これまで、中川五郎の「あなたがもう笑えないから」、または西尾志真子の「前進」という曲によって印象付けられていたが、これらの詩や曲も「偶像化」の一形態には違いない。偶像化といえば、劇中歌として使われていた「友よ」やそれを歌い神と奉られた岡林信康も時代は下るが有名だ。
安保という時代を借り、「罪と罰」をモチーフとした悲劇が紡がれていく。アイドルを含む若手キャストなので、過大な期待はしないよう予防線を張っていたつもりだったが、易々とそれを突破してくる、骨太な悲劇だった。安保という時代も、ただ単に時代背景を借りてくるだけではなく、くっきりと冷静に描かれていた。
畑中さん演じる善良な主人公が、流されるように横山さん演じる一人の闘争家を愛し、罪を犯す。頭脳警察の「彼女は革命家」という曲に描かれていた、思想よりも愛と憧れで運動に加わる男の姿が重なる。「罪と罰」では、娼婦が主人公を罪から救うが、この舞台では、横山さん演じる順子は、主人公を救ってはくれず、純粋さゆえに罪とは思わぬままに主人公を罪へと落としてしまう。ソーニャのような存在がない分、この舞台では余計に悲劇性が濃くなる。畑中さん演じるタモツを軸に据えて、物語の拡散を最小限にしたのも効果的だった。悲劇性の追求は、見ている人によっては違和感を覚えるかもしれないが、それぞれの生き方に共感を覚える部分もあり、個人的には非常に深く刺さる作品だった。DVDも当然予約しなくては。
緻密で若いパワーのあふれるオープニングからラストシーンまで、瞬きの回数も自然と減るくらいに舞台に惹き付けられ、後半は瞼を熱くしながら観劇した。演じている人たちの世代にとっては歴史の中の知識としてあるかないかという時代ではあるが、若い世代に演じてほしい時代でもあるし、見てほしい舞台でもある。評価はともかくとして、こういう時代があったということも覚えておいてほしい。
主人公の妹役を演じたイトーカンパニーの相楽さん、もう少し声が張れるといいかなとは思ったが、初舞台で難しい作品、難しい役ということを考えれば十分及第。記者役で出演していた元SDNのちゃきさんは、人情味のあふれるいい女優になりそうだ。出演が決まっている来月の「彷徨のエトランゼ」の時空刑事役も楽しみ。人情味といえば、母親役の野口さん。扉座の「アトムへの伝言」のときと同様、ものすごい存在感だった。
この舞台は明日もう1回見る予定で、その回にはちょうど、イトーカンパニーつながりでチームKれいにゃんがトークショーに登場するとのこと。彼女にとっても馴染みのない時代のはずだが、この劇がどのように感じられるのか興味深い。